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第1章 追放トランスポーター、心機一転

第1-5話 初めての潜航

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「ソナー、対空レーダーの感度良好……進路上に岩礁無し」

 出港を宣言するイオニの声に、両耳に耳当てをして、ガラス板をのぞき込むセーラの声が重なる。
 あの機械、魔法通信装置みたいなものなのかな……?

 その瞬間、グイっと後ろから押される感覚……艦が出発したようだ。

 外の様子は何も見えないけど……。

「フェド、見張りお願いね! 潜望鏡上げ! それを覗いて!」

「わわっ!?」

 セーラが声を上げた瞬間、わずかな作動音と共にメガネが付いた筒のような物が目の前に降りてくる。
 これに目をつければいいの?

「おおっ! 外が見える!」

 潜望鏡?のメガネのような部分に目をつけると、空と海の鮮やかな蒼が目に入る。

 伊402の艦体は、すでに砂浜を遠く離れ、沖へと向かっていた……速い! 時速30キロは出てるんじゃ!?

「本当は司令塔の上で見張るんだけど……3人しかいないから、よろしくねっ」
「もし、島とか、ぶつかりそうなものが見えたら言ってね、フェドくんかんちょ~!」

 あくまでイオニはのんびりと楽しげな口調だ。

 これ、外が見えてるのは僕だけなのか……責任重大だな……。
 思わずごくりと喉を鳴らしてしまう。

「ねえイオニ! どれくらい水上航行する?」

「う~ん、蓄電池にはある程度充電されてるみたいだけど、1時間くらいは欲しいかな?」

「了解! そのあと”潜航”してみましょう!」

 艦の操作はふたりにお任せ……でも時速30キロで1時間か……”魔の海”と呼ばれる領域に入っちゃうかもな。

 凶悪なモンスターの気配を逃さないようにしないと……魔力を放出しながら、僕はひそかに気合を入れるのだった。

 ***  ***


「蓄電池充電率95パーセント……そろそろいいんじゃない?」

「おっけーセーラちゃん、そろそろ潜航訓練を……」

 出港してから1時間、すでに艦は陸地を遠く離れ、潜望鏡から見えるのは360度水平線のみ……それでも僕は、生れて初めて目の当たりにした外洋の光景を、飽きもせずに見つめていたのだけれど。

「ん? あれは……?」

 視界の端、はるか上空にポツンと一つの点が見えたかと思うと、徐々に大きくなってくる。
 その点は、徐々に赤いドラゴンの形を取り……ってまずい、モンスターだ!

 ”魔の海”は、20~30キロほど沖合に出ると、水中や空中に巨大なモンスターが出現するようになる。

 自在に動き回るそれらモンスターに人間の武器や魔法を当てることは至難の業で……特に空中を飛び回るドラゴン種には沢山の運び屋……トランスポーターたちが犠牲になってきたのだ。

 アレはレッドドラゴン……!
 全長30メートル以上の体躯と強力な炎のブレスを吐く、人間の力ではとても敵わないモンスター……!

「イオニ、セーラ! 上空……えーと、距離5000メートル、レッドドラゴンが襲って来るよ!」

 僕は、慌ててふたりに警告を発する。
 潜望鏡の視界に、距離を測るメモリが付いてるのがありがたい。

「はぁ!? ”ドラゴン”ですって!? 活動漫画か!!」
「イオニ! 対空戦闘!」


 ジリリリリリ!!

 ガコン!


 僕の警告に即座に反応するセーラ。
 彼女は勇ましく腕を振り上げ、それに呼応しアラームが鳴り、頭上から何かの作動音が響く。

 そう言えば、艦橋の横にでっかい3連装の鉄砲が付いてたよな……アイツでレッドドラゴンを撃つのか……!

 ギルドで普段使っている口径7.7㎜の小銃弾では、傷つけるのも一苦労らしいけど……あのサイズの銃なら!
 僕は頼もしいセーラの様子に安心していたんだけど……。


「……ごめん、セーラちゃん」
「さっき積んだ弾、全部弾薬庫に仕舞ってあって……即応弾として準備するの忘れちゃった……えへへ」

 肝心のイオニが、かわいく笑いながら頭を掻いている。

「はぁ!? イオニ、アンタ! 即応弾を準備してないとか、いくら戦争が無いとはいえ、ここは異世界よ! たるんでんじゃないの!?」

 えーと、イオニがセーラに怒られているけど……もしかして、すぐには撃てないという事?

「いやぁ……戦争が終わったと思ったら気が緩んじゃって……それに、佐世保じゃあまり撃っちゃダメって言われてたでしょ?」

「それはそうだけど…………くっ、いまから弾薬庫に走っても間に合わない……フェド、そのドラゴンって海に潜るの?」

「う~ん、レッドドラゴンが海に潜るとか聞いたことは無いし、大丈夫じゃないかな」

 襲われたトランスポーターが生還する確率は低いんだけど、わずかな記録の中にそういう事実はなかったはずだ。

「イオニ、水中に逃げるわよ!」

「うん、おっけー!」
「ベント開け! 急速潜航準備!!」


 シュウウウウウウッッ
 ごぼごぼごぼごぼ


 イオニの手先が僕の魔力に反応し、艦体の各所から空気が抜けるような音と水が流れるような音が響く。


「開口部閉鎖……潜望鏡下げ!」

「わわっ!?」

 わずかな作動音と共に、潜望鏡が動き、外が見えなくなる。

 そうか、水中では外が見えないのか……。

「ダウントリム、20度……急速潜航開始……!」

 イオニの声が響く……いよいよ海中に潜っていくようだ。
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