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第1章 追放トランスポーター、心機一転

第1-6話 対決! 海中の怪物

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 ザアアアアアッッ

 発令所の床が傾き、急速に海に潜っているのか、海水が艦体に当たる音が響く……それも艦体が海中に沈むと聞こえなくなった。

 すごい! 本当に潜ったぞ!

 僕が潜水艦の凄さに感激していると、視界の端でイオニがわたわたしてるのが見える……どうしたんだろう?

「深度20……40……うそ!? 潜航速度が速すぎる!?」

「おかしいな……ああっ! そっかぁ!」
「乗組員のみんなと糧食が無いから、全備重量むっちゃ軽いんだったぁ!」

「やべえわたし、トリム計算ミスったぞ!!」

 ……専門家が慌てているのを見るのはイヤなモノである。

 ”ほとんど海に出たことない”と言う話は本当のようだ。

「こら! イオニ、前方タンクをブロー (排水)してバランスとる! 急いで!」

「あわわわ! ネガチブ・ブロー!」


 ブシュッ!


 圧縮空気が噴き出す音がし、床の傾斜が緩やかになるが……。

「って、ええ!? ソナーに感あり! まさか海底!? ぶつかる!」

 ソナー……音波の反射で周囲を探る機械らしい……に反応があったのか、声を上げるセーラ。

 いや、この辺りに島や浅瀬はないはず……この魔力反応は、まさか!

「まずい、イオニ! 下にもモンスターがいる、”シーサーペント”だっ!」

「はえっ?」

 僕の警告に、イオニが思わずぽかんとした表情を浮かべた瞬間……。


 ズゴオンンッ!


「きゃああああっ!?」

 鈍い音が響き、艦体が激しく揺れる。
 どうやら、シーサーペントの身体にぶつかったようだ。


 ダダダダダダンッ!


 奴が暴れたのか、そのまま艦体が激しく持ち上げられる!

 シーサーペント。

 ”魔の海”の海中に潜むモンスターの中でも最大最強と言われる種で、その全長は50メートルを超える。
 寸胴なヘビのような姿をしており、小型の船ならその大きな口で丸のみにする。


 ガンッ
 ガキインッ


 奴が何度か嚙みついたのか、鈍い金属音が艦内に響く。
 と、噛みつきではダメージを与えられないと思ったのか、奴の魔力反応が遠ざかるのを感じる。

「マズい! 奴は”メールシュトロム”を使う気だっ!」

 ”メールシュトロム”とは、シーサーペントが使ってくる固有魔法で、水中に大渦を生み出し、敵をバラバラにちぎってしまう技だ。

 コイツを食らうと、鉄製の外輪船でもひとたまりもない……この潜水艦が頑丈な鋼鉄で出来ているって言っても、無事に済む保証はない。

「くっ、イオニ! この潜水艦に水中で使える武器は無いの!?」

「ええっ……一番、二番発射管に、九五式魚雷が装填済みだけど……」

 魚雷……”上の世界”の書物で見たことがある。
 水中を自走し、目標にぶつかることで爆発する武器……大型船でも一撃らしい。

 シーサーペントを倒すには十分だと思えるけど……。

「待ってフェド! 伊号潜水艦の魚雷は、浮上するか、浅く潜って、潜望鏡で目標を確認しながら撃つものなの!」
「海中で、さらに動く目標なんて、想定してないわよ!」


 なるほど……ならそうなるのか……でも、この世界には魔法があるんだよね!

「大丈夫、僕に任せて!」
「潜望鏡を出すよ……!」

 僕は”耐圧”と”暗視”の魔法をかけ、潜望鏡をわずかに上げる。

 水深80メートル……通常なら真っ暗な世界、潜望鏡も水圧に耐えられないだろう……でも、この魔法は人間が海中のモンスターに少しでも対抗するために編み出したモノ……。

 コイツと、”ギフト”である潜水艦の力を合わせれば……!

 僕の視界に見える海中は鮮やかに晴れ、前方600メートルほどに”メールシュトロム”を発動させようと海中でとぐろを巻いているシーサーペントが見える。

「イオニ、セーラ! 目標、前方右600メートル!」
「”魚雷”が直進すると仮定して、右に10度、上に7度……!」

「凄い! フェドくん、見えるのっ!?」
「わかった、セーラちゃん! わたしは艦体を操作するから、火器管制をお願い!」

「う、うん! 一番、二番発射管に注水……発射雷数、フタ (二本)……」

「仰角7度……右に10度……」

 イオニが艦体を操作し、シーサーペントの身体がターゲットの十字に重なる。

 奴はこちらが何をするつもりか分からないんだろう。
 動く様子はない。

「よ~し、体勢そのまま……ドンピシャだ! セーラ、魚雷を!」

「わかったわ! 一番、二番発射管……てーっ!」

 シュッ……シュッ……

 セーラが僕の指示に対して声を上げると、艦内に充満した魔力が反応し、空気が抜ける鋭い音と共に二本の魚雷が艦首左右の穴から発射される。

 最初空気の泡を引いていた魚雷は、やがて一気に加速するとシーサーペントに向けて突き進む!
 速い! 時速90キロは出てるんじゃないか!?

 一直線に青白い航跡を引きながら進んだ魚雷は狙いたがわずシーサーペントの身体に突き刺さり……!


 ズドドドドドドオオオンンッ!


 巨大な水中爆発が起こり、シーサーペントの巨体を粉々に吹き飛ばしたのだった。

「す、凄い……」

 爆発の余波で艦体が揺れる……僕たちの世界で使われる爆弾の数十倍の威力がありそうだ……火薬も特殊な構造なのだろうか?

 まさか一撃で倒せるなんて……。

「ふわあああっ!? 凄いのはフェドくんだよっ!」

 だきっ!

「うわっ!?」

 感動したのか、イオニが背後から抱きついてくる。
 わわわっ、彼女の豊かな胸の感触がっ!?

 背中に伝わる二つの柔らかな感触にドキドキしながら振り返ると、彼女は満面の笑みを浮かべている。

「水中で魚雷を当てちゃうなんて、海軍始まって以来の快挙だよ! 大戦果だよ!」

 ……どうやら、イオニにとっては凄い事だったらしい。
 無邪気にはしゃぐ彼女の頭を思わず撫でてしまう。


「……まったく、伊402号潜水艦の初めての戦果が怪物とか、ありえないでしょ……」


 セーラはそういうと苦笑を浮かべる。


 こうして、僕たちの初めての戦闘は、大勝利のうちに終わったのだった。
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