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146 言質

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「オホンっ。少し私の話を聞いて欲しい」
「は、はい」
「貸し借りというものは、等価であるべきだと思っている。
 例えば、100で売れる狸の毛皮と150で売れる狐の毛皮があるとしよう。
 150手にしたい場合、狸の毛皮を出すのは成立しない。狐の毛皮が必要。そう思わないかね?」
「そ、そうですね」
「逆に100手にしたい場合は狸の毛皮で良い。狐の毛皮を出す必要は無い。
 まぁ、手数料として50くらいなら許されるかもしれないがね」
「はい」

分かりやすい例え話が出た。
まぁ、借りる立場からすれば、狸の毛皮を出すよりは狐の毛皮を出した方が、売れる確率は上がるって考えるだろうね。

「この場合は低額だが、これが高額の場合は狐の毛皮では損してしまう。
 自分で売ってお金を入手した方がマシだ。ま、売れないから頼むのだろうがね」
「そうですね」
「何故等価であるべきと言ったのは、双方の関係が崩れるからだよ。
 100もらう為に狐の毛皮を出すのは、相手は得をし自分は損する行為だ。
 損得が絡むと、どんなに良好な関係だったとしても崩れる事が多い。
 親しいほど顕著になる。だから等価であるべきと思うのだよ」
「は、はぁ」

まぁ、言いたい事は判る。
俺は友人に金を貸す場合、戻ってこない前提で貸す。
だから貸す友人は選ぶし、貸す金額の上限もその友人との関係で決める。
そんなに親しくない友人なら貸さないし、親友と呼べる友達なら10万くらいなら担保無しで貸す。
だが、返してくれても、一度貸した友人の友好度は下がる。勿論「何で必要なのか」にもよるけど。
女に貢ぐためとかならかなり下がるね。

「さて、今の例えは相場の分かっている物だったが。
 相場の判らない物の場合はどうか。例えば『新しく作成した魔法の権利』ではどうだろう?
 これと等価の金額なぞ、判らないだろう?」
「そうですね。でも、高額ではないでしょうか?」
「確かに。高額になりやすいだろう。だが、広めた結果使えないと判断されたら?」
「……」
「このように、相場の無い物は判別しにくいのだよ。
 しかし、もらう側としては色々考えて等価になる物を探すしかない」

話が複雑になってきた。
簡単に言えば「借りを作る方は、等価になりえる物を出せ」って事か?

「ここまで話したら、私が何を言いたいか判っただろう?」
「リョーさんに、頼み事をするなら、対価になる物を自分で考えて提示しろ、って事ですか?」
「そういう事だ。
 君は『人数分のアイドルのサイン』をねだった。
 それは君の中でどれくらいの価値があると考える?
 それを示さないと、願いを叶える立場の者は等価が解らず困るのだよ」

そういう事ですか。
それが言いたい為に、ここまで長々と話してたんですね。

確かに『人数分のアイドルのサイン』は、俺にとっては簡単な事。金額で言えば低額と言える。無料かも。
低額や無料と考えた物に対して、こちらが何かを頼む場合、やはり簡単な事じゃないとダメと考えてしまう。
これが等価の意味か。

だが、勇者にとって『人数分のアイドルのサイン』は高額かもしれない。
等価の考え方で言えば、俺はかなりの無茶をやってくれと言える事になる。

つまり、俺が軽く考えて低額を請求するのを止めてくれたんだね。

「お、俺は、高額だと思います」
「ふむ。しかし、お金で解決するのかね?
 というのは『お金を出しさえすれば叶う内容なのか?』という事なのだよ」
「た、確かに無理です……」
「となれば、お金以外で等価な物を提示する必要があるね」

そっちに持って行きたかったんですね。
勇者よ、気さくな王様に見えたろうけど、かなり狡猾だぞ?
俺も聞いてて、納得してるもん!
政治家って皆こんななのかな?

しかしお金以外で、か~。
そうなると行動しか無いだろうなぁ。
願いには願いで、欲しい物には欲しい物で。これが等価だ。

そう言えば「目には目を歯には歯を」って言葉。
あれって同じ場所をやり返せって事じゃなく、同等の罰で終わらせろって意味らしいね。

おっと話が逸れた。
等価で考えれば、例えば「俺が欲しがってる魔物の部位を取ってくる」とかになるのか?

………………それか! それを言わそうとしてるのか?!
勇者、罠だぞーっ!

「わ、わかりました。
 じゃ、じゃあ俺は、リョーさんが欲しがっている物を入手して持ってきます!」

あ~あ~、言っちゃった。
俺的には都合が良いんだけど、同情してしまうわ。
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