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145 作法

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「ふむ……とにかく、その勇者をここに呼ぼう」
「王様が会うんですか?」
「その方が話が早いだろう?
 お前はサインをもらうなんて簡単だろうが、一応一緒に運営しているのだからな」
「まぁそうですね」

出来ればこの件も丸投げしたい。

少しすると俺達と王様は、連れ立って謁見の間に移動する事になった。
王様と会うには、そこじゃないとダメらしい。

謁見の間に到着すると、王様は一段高い所にある椅子に座る。
俺達は、その横に並ぶ格好で立つ。

少しすると、正面の扉が開き近衛騎士と共に勇者が入ってきた。

「ほほほ、本日は、お、お、お、お日柄も良く……」
「固くなるな。用があるのはそちらかもしれないが、呼んだのはこちらなのだから」

王様の言ってる意味が解らず、隣に居る王太子にコッソリと聞く。

「どういう意味?」
「平民には城での作法なんか知らなくて当然だろ?
 だから呼び出されたからって、作法を覚える必要はないんだ。
 無礼になるような言動さえしなければ問題無しって意味さ」

なるほどね。
よくラノベで城に呼ばれるなんてイベントがあるけど、そういう時は決まって作法を覚える所があったりするね。
作法を知らない平民を呼んでおいて、貴族が無礼な!って怒ったりするシーンがあったりもする。

「服装だって登城するようなのは平民じゃ買えないだろう?
 そういうのは呼んだ方が用意するのが礼儀だ。
 でも今回のように急に呼んだ場合は、普段着でも良いんだ。汚れてても良い」
「無礼にあたる行為は?」
「顔を隠すようなモノを装備してて脱がない事かな?
 後は暗器所有とか。何も隠すものが無いって言って全裸で登場するのもダメだな」
「全裸……それは城じゃなくてもダメだろ」
「他には……タメ口とかバカにするような言動くらいかな?」
「その程度なのか?」
「ああ。習ってない事をさせるなんて意味の無い事だ。
 焼け付き場で覚えてきてもボロは出る。
 そんな事をさせてたら聞きたい事も聞けなくなるだろう。
 相手が王族や国を敬っていたらそれで良いだけの話だ」

うわ、かっこいい。
姿や行動じゃなくて、心ですか。

って事は、頑張って敬語を話そうとしている勇者はセーフって事だね。

「あれ? それで行くと、俺はアウトでは?」
「何を今更。当時もこちらが呼んでいるのだから問題無いぞ」
「これからは?」
「これから先に敬われても気持ち悪い」

ヒドイ!

「冗談はさておいて。
 お前が俺達をバカにしていない事など分かっている。
 対等に友人のように扱っている事もな。それを不敬なんて言うヤツはいないし、居たらその言葉こそ不敬だ」

ヤダ、男前な発言!
照れるじゃないか……。


おっと、コソコソと話をしている間に、勇者と王様の話は進んでるようだ。

「さて、本日は君の思わず言ってしまった言葉が元でここに居る訳だが」
「……は、はい。すみません…………」
「いや、責めているのではない。男は見栄を張りたがる生き物だからな。
 だが、友人に迷惑をかけてはいかんぞ?」
「そうですよね……すみませんでした」
「との事だが、リョーよ、どうする?」

いきなり振られた!
え~と、どう答えたら良いのだろう?

「そ、そんなに迷惑だった訳じゃないので……」
「ふむ……許すと?」
「はい」
「よし。
 君は許された。これからどうするつもりかね?」
「はい。……仲間に謝りに行こうと思います」
「その心意気や良し。その心を忘れぬようにな」
「はい!」
「よしよし。
 ところでな、実は自分もあのアイドルにハマっていてな?」
「……はい?」
「君の気持ちも理解出来る。
 その事をリョーと話したところ、今回に限ってサインを貰ってやろうという事になったのだよ」
「え? え?」

俺も混乱している。
何、その話の展開は? 180度くらい変わっているんですけど?!
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