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105 裏目

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枢機卿は複雑な顔で帰っていった。
心中は穏やかでは無い様子。
まぁ、治療は無理・信じてる神は居ない、なんて聞かされたからなぁ。




翌日。俺たちは街を出た。
カードを入手するという目的は達成したので問題無し。
と言うか、このまま残ってるとまた宗教が来る可能性もあるし。
なので領主さんにも次の目的地を告げずに出発する事にしたんだ。
まぁ、俺はどっちにしろ知らないんだけど。

「次はどこに向かうんだ?」
「南下して、ヒポスという街を目指す」
「へ~。理由は?」
「お前が言うなよ。ほら、ヒントがあっただろ?」
「ヒント? あぁ、あの『北に亀が~』ってやつ」
「ちゃんと覚えてろ。
 『北に亀 南にカバ 西にヘビ 東にハリネズミ
  三歩進んで二歩下がる』だ。
 ヒポスの街は名前の語源がカバという意味だから、関係しているかと思ってな」

そうなのか。
確かに英語でカバは…………何だったっけ?
ヒポポ…………なんちゃらだったな。
英語とは関係無いかもしれないが、確かに似ている気がする。

「でもそれだと、北に亀とか西にヘビってのは?」
「分からないが、俺達が知らないだけでそういう物があるかもしれない。
 例えば亀石と呼ばれている物がある、とかな」

なるほど。
確かにそういうのはありそうだ。
地元では有名だけど、地図に載せる程の物じゃないパターン?
少しは望みがありそうだね。



1週間程で、ヒポスの街に到着した。
道中は特筆する事が無かったので、割愛。
モンスターや魔物、動物すら出てこなかった。平和過ぎる。

いつも通り街に入り、俺と王太子は宿へ行き、アイザックさんは冒険者ギルドに。
姫様は領主の館へ報告へ行った。

全員が宿に揃ったのは1時間後。
アイザックさんが渋い顔をしている。

「どうしたの?」
「……依頼を出されました」
「依頼? 冒険者の?」
「はい、そうです」

おっと、楽しそうじゃないか。
ラノベっぽい展開になってきたね!

変な事を考えてたら、アイザックさんが王太子に怒られてた。

「何で依頼を受けたんだ!」
「受けたというよりも断りきれなかったんだ……」
「だからなぜ?!」
「いつものように城からの依頼という体で、旅費を受け取りに行ったんだ。
 そうしたら偶然その場にギルドマスターが居た。
 その依頼達成のやり取りを横から見られて、呼び止められたんだ」
「聞こえなかったフリをして逃げられなかったのか?」
「受け取る金をギルドマスターが持ってきたんだ!」

そりゃ無理だ。
受け取ろうとしたら、引っ込められて「ちょっと話を聞いてくれ」とか言われたら断れないよなぁ。
金を置いて出る訳にもいかないし。

「そこで『聞くだけなら』って言ったさ!
 そしたらギルドマスター室に連れて行かれたんだ……」
「……それは逃げられないな」
「そうだろ?」
「それで、どんな依頼だったんだ?」
「これだ」

なにやら書かれている紙を王太子が受け取る。
どうやらそれに依頼が書いてあるっぽい。

「何だって?」
「『最近この辺りに現れたゴブルトというモンスター討伐』これが依頼の内容だな」
「討伐依頼か~。あれ? 俺達ってそんなに強い事になってるの?」
「王家からの依頼という体の内容だがな。
 これ、ギメックというモンスターの牙を取ってくるという物なんだ」
「ほうほう」
「このギメックというモンスターは、すばやい上に凶暴で、なおかつ爪には毒がある。
 討伐が難しいとされているモンスターなんだ」
「へ~。で、何でそれの牙にしたの?」
「勿論高額というのもあるが、牙は小さくて持ち運びが容易いというのが一番のメリットだ」

なるほど。
実際に討伐する訳じゃないから、最初から持ち運んでいると。
それを出すだけの簡単なミッションなのね。

「今回はそれが裏目に出たって感じだな。
 ギメックを倒せる能力があるなら、ゴブルトくらい楽勝だろと思われた。
 しかも見てみろ」
「えっ? 何を?」

王太子が指差した先にはアイザックさん。
ん~~~、何も問題無いと思うけど?

「傷一つ無いどころか、汚れの一つも無い。
 つまり楽勝だったって思われただろうな」
「あ~…………」

めっちゃ納得した。
こりゃ逃れられないわ。
マッチポンプが裏目に出たねぇ。
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