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054 バイモン

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悪魔を召喚して聞いてみよう!
それが一番早い。

そうと決まれば何を召喚するかだが。

カードを出して見ていると、姫様が興味津々らしく近づいてきた。

「カード使うの?」
「うん。ギフトについて詳しく聞きたいと思ってね」
「今の兄様の説明以外で聞きたい事があるの?
 あっ、でも神様の使いである使徒様の使う悪魔なら詳しくて当たり前かも!」
「そういう事」

返事しながら、俺はちょっぴり恥ずかしかった。
だってその言い方だと、俺が詳しくないといけないじゃないか。
すみませんね、ただの異世界人で。

さて、呼び出す悪魔だけど。
ここはやはりバイモンかな。
王クラスの悪魔だし、何よりも能力が“鑑定”だ。
話を聞いた後に、自分を調べてもらう事も出来る。

ただし今は移動中。
バイモンはラクダに乗って現れるらしいので、今呼んだら馬車の中に出てくるかもしれない。
どこかで休憩した時に呼ぶ事にしよう。



昼になり休憩する事になった。
馬車を降り、近くの川沿いで昼飯にする事に。

飯を食った後は、お待ちかねの悪魔召喚だ。
皆の了解は得ているので、問題無い。
ただし、人に見られるとマズいので、周囲の確認だけはしている。

早速俺は、バイモンを召喚。
すると俺から3mくらい離れた所に、幅も高さも5mくらいある巨大な門扉が現れた。
これを開けてバイモンが登場するのか。凄い演出だな。
皆も興奮ぎみで待っている。
これだけ巨大で豪華な門扉だもんね。興奮するよね。


…………3分待っても門が開く事は無かった。
どうなってんの? 何かトラブル?
閂が外れないとか?
それとも、ラクダの足が遅くて、まだ到着してないとか?

王クラスは1時間しか召喚出来ないのに、登場に時間を掛けられると困るんだけど。
早くしてくれないかなぁ。


…………また3分待ったけど、やはり門は開かない。
何してんだよ、昼寝でもしてるのか?

そんな事を考えてたら、ズボンを引っ張られた。
下を見ると、幼稚園児くらいの男の子が俺のズボンを持っている。
迷子か?
って言うか、近くに人が居るの?!
マズくない?! 門扉を見られた?!

「みんな! ここに子供が居るぞ! って事は家族がこの辺に居るんじゃないか?!」
「誰も見かけなかったし、気配もありませんでしたが……」
「でも、ほら、ここに居るぞ?!」
「むっ! その髪の色と目の色、この辺りの人間では無さそうだぞ」
「本当だ! うわっ、美形! カワイイ~!!」

そう言われて、俺もその子を見てみる。
銀髪で碧眼。そして美形。将来絶対にイケメンになると確信出来る。
服装は豪華な子供服。城で王様が着てたような感じ。
貴族の子供なんだろうか?
だとすれば、この辺りに貴族の馬車があっても良いはずなんだが、それも無い。
あるのは、自分達の乗ってきた馬車と、川で水を飲んでいる馬とラクダくらい。

……ん? ラクダ?
ああっ!! ラクダ居るじゃん!!
馬と並んで水を飲んでたから気づかなかった!!

って事は、もしかして……。

「もしかして、お前……バイモンか?」
「うん、そうだよ、ますたぁ」

はい、召喚出来てましたー!

「どこから出てきたんだ?! あの門扉は?!」
「ますたぁの後ろに居たよ?」

俺の背後に出現! 門扉関係無し! 意味無し門!

「あの門はね、悪魔のぐんだんを呼ぶのに使うの。あれからいっぱい出てくるんだよ?」

そうだったのか。
知らずにずっと注目してたから、全然気づかなかった。
軍団を呼ぶんじゃないから、門扉は出なくても良かったんだが。

しかしバイモンを見ていると、呼び出す軍団ってのも可愛く思えてしまう。
ちっちゃいライオンとかがゾロゾロ出てくるようなイメージ。

「バイモン、軍団って何の軍団?」
「ぼくの場合は、むし!」
「むし? あぁ、虫か」
「うん! 10m級の大きさのむしがいっぱい!!」

……怖~ぇ! カマキリとかトンボとかが10mくらいのサイズで出てくるんだろ?
最悪、Gが10mサイズで出てきたら、見ただけで死ぬかもしれん。

「ますたぁ、この人たち、だれ?」
「ん? あぁ、こっちが王太子のグランだよ」
「グランだ、よろしく頼む」
「よろしく~」

グランとバイモンが、双方にこやかに握手してる。
一見、王太子と子供に見えるけど、片方は王クラスの悪魔なんだよなぁ。

「こっちが護衛の、近衛騎士のザック」
「アイザックです。よろしくお願いします」
「うん! ますたぁを守ってね!!」
「勿論です」

俺を守ってくれる人と認識したからか、むちゃくちゃ嬉しそうに挨拶するバイモン。
アイザックさんは、逆に困ってる。
見た目は子供だからそういう風に接しようとしてるけど、悪魔と知っているから戸惑っているみたいだ。

「で、こっちが王女のファーだよ」
「サイファよ。よろしく! ファーって呼んでね!」
「あっ! しってる! シトリんに聞いたもん! ますたぁを利用しようとしている女でしょ!」
「しししししししないわよっ! しないから!!」
「シトリんって誰?」
「シトリんはシトリだよ~、ますたぁ」

恐るべし、悪魔のネットワーク。シトリから何か聞いたのか。
どうやって会話してるのかは知らないけど。

しかし、姫様は俺を使用しようとしてたのか。
だからシトリに何かを言われて怯えていたんだね。納得。
恐れて改心したようだし、利用された覚えも無いので、聞かなかった事にしておいてあげよう。
姫様はアイザックさんと王太子からジト目で見られてるけどさ。

後、バイモンからはポカポカと叩かれている。
見た目通りの攻撃力で微笑ましい。
顔は頬を膨らまして怒ってるし。子供か!
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