十魔王

nionea

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荒野の王

7.

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 刺激が止み、割とすぐ正気に戻った孝太は、毛布をかき寄せてその中に必死に丸くなる。
(あああああああああああぁ…もう、これ、ちっくしょう、どうすれば良いんだよもう…)
 気味の悪い状況から逃れるために知らなかったとはいえ、自分から頼んで抱いてもらった、という状況に泣きたくなった。
「どうした?」
 ミノムシのようになった孝太に王は心配そうに手を伸ばす。
 その手に頭に被っていた毛布を退けられ、ついじとりと睨みつけてしまった。頭では、事前説明が不足していたという非が有るとは思うが、自分が何でもと前置きした以上、怒るべきではないと思っている。思っては、いた。
「強姦魔…」
 ぼそりと呟いて、すぐに枕に顔を押し付けたので、言葉が届いたかどうかは解らない。が、確認するのは無理だった。事後の状況も恥ずかしい上に、逆ギレした事も恥ずかしい。自ら進んで恥を上塗りしたのである。出来る事ならもう顔を合わせる前に出て行ってほしかった。
 そんな思いが通じたのか、王は孝太の頭を撫でてベッドを下りる。
 伝わった軋みでその事が解って、孝太はちらと顔を上げてその行動を目で探った。
(ん?)
 王は、水差しとコップをベッドサイドまで運んで、置いた。中の水をコップに注ぐと、差し出してくる。
(いや、そういう事では…確かに、喉は乾いてるけども)
 親切にして欲しいのではなく、出ていって欲しいのだ、とは、親切にされると言い辛いものだ。
 いつまでも引かない手に、仕方なく体を起こす。
(何か………違和感がひどい)
 今自分の中には本当に何も入っていないのだろうか、と不安を感じるほど未知の違和感が尻を襲っている。
 水を受け取って、飲み、溜息を吐いた。
 王の手が伸びてきて、孝太はコップを受け取ってくれるのかと思い手を伸ばした。だが、王の手は孝太の頬に伸び、撫でるように添えられる。
「もう大丈夫だろう?」
「え? あ、あぁ…」
 昨日のようにムラムラはしないし、中から何かが垂れ流れてもいない。だが、大丈夫と言い切るのは嫌だった。
「うん。まぁ、大丈夫っちゃ大丈夫だけど」
 視線を泳がしつつ断言しない事で抵抗を示すが、伝わりはしなかったのだろう。手は頬から耳に移動して撫で続けている。
「ペットじゃないから」
 撫でられていると、性的な意味ではないが気持ちが良くなってきたので、孝太は慌ててその手から逃れた。
「あ、あのさぁ…俺戻れないって聞いたんだけど。何とかなんないのかな、その魔王の力で、さ」
「今のままでは難しいな」
「今のまま…? 何かすれば何とかなんの?」
「元々蟲が作った罠は、穴に落ちたモノを引っ張って来るものだ。お前が俺の領内に落ちたのは、蟲が俺の領内で何かしてるのに気付いて邪魔をしたからで、穴そのものは誰が作ったのでもない。つまり、お前が何処から来たのか、俺でも知りようがない」
「………ごめん。よくわかんない」
 本当は漫画みたいだなとは思うが何となくは解っていた。ただ認めたくないだけだ。
「お前が通った穴を見つけるか。お前自身が力を持てば、戻れる、という事だ」
「俺が通った穴って…探すの大変なの?」
「いや。まだあるならすぐ見つかるだろうが。大概一瞬空いて塞がるものだからな…」
「もう…ないって事?」
「昨日のうちに確認に行ったが、お前が落ちていた周囲に穴は無かった」
 確認に行ってくれたのか、という感謝と、なかったのか、という絶望がせめぎ合って、言葉にならない。少しの間沈黙して、考える事を放棄した。もう一つの選択肢の確認に移る。
「………もう、いっこ…なんだっけ、俺が力を持つとかってのは…?」
「お前自身は生まれた世界に繋がりを持っている。だからお前が力を持てば、自身で世界を探せるという話だ」
 今更そんな冒険テンプレみたいな展開もってこられてもテンション上がらない、と頭を抱えたくなった。
(何か、もう、ひたすらエロい方向にだけ経験値を取得したけど。俺にもマジの冒険展開が残されてたんだ…てか、力ってなんだろうか。まじで巨人マスターにでもなれば良いんだろうか…)
 そもそも、巨人マスターにはどうやったらなれるんだろうかと現実から逃げかけるが、頭を振って耐える。
「どんくらいかかんの?」
「さぁ?」
 孝太なりに真剣に問いかけたつもりだったのに、しれっと首を傾げられて、大人しくしていた気持ちがグラつく。
「………さぁって何だよ?!」
 自分でも魔王相手にキレてばっかだな、と思うが、もう怒鳴ってしまったものはどうしようもない。
「こっちは真剣なんだぞ! おと…家族だって、友達だってみんな、いきなり会えなくなって、しかも帰れないとか意味解んないって、思って…意味、解んないんだよ…何だよ魔王って! エロい事ばっかだし! でも俺に美味しい事なんかないし! 別に、俺だって好きで階段落ちたんじゃねぇよ。歩きスマホだって、誰でもやってんじゃん…俺だけが悪いのかよ! こんな、理不尽な目に遭うために生きてきたんじゃねぇし…何だよこれ、何なんだよあんた!」
 驚いた顔と目が合って、孝太は自分が悪いのだとは思ったが、止められない。
「もう、嫌だ…全部、ヤダ」
 膝を抱えて泣き出せば、温かな手が抱いて背を撫でてくれる。
「………ごめん」
 嗚咽交じりの謝罪が、届いたかは解らない。ただ、孝太が泣き疲れて眠るまで、その温かな手は背を撫でてくれた。
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