十魔王

nionea

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荒野の王

8.

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 逆ギレして喚き散らした日からはや十日。
 日々エロい方向にだけ経験値を稼ぎながら、孝太は思い悩んでいた。
(俺はホントにこれでいいのだろうか?)
 さっきまで、魔王に抱かれてた。というか、近頃ほぼ毎日抱かれている。
(エロい事で経験値が稼げるってテンプレが嬉しいのは、あくまで女の子が相手であっての話な訳だよ。俺は、ホントにこれでいいのか? 家に帰れる頃にはもう尻に突っ込まれないとイけない体になるんじゃないのか? ていうか、俺ホントに力が付いてんの? 尻がヤバイって事以外に変化を感じられないんだけど)
 要するに、解毒の時と同じ要領だった。
 体内に王の精子を取り込む事で、力が効率良く蓄えられるというのだ。
 他にも方法はあり、この世界の食物を食べる事でも得られるらしいが。あまりに微々たるもので、蓄積される事もなく体から出て行くらしい。
(俺、騙されてないよね? あのイケメンに都合の良い穴に調教されてるんじゃないよね? いや、俺が同じ立場なら俺みたいなのわざわざ調教しないけど。でも変態って考えが及ぶ事をしないから変な訳で…俺大丈夫なの?)
 何一つ自分の考えで解る事はないので、流されている。そういう自覚はあった。だが、それ以外に何かができるとも思えないのが現状だ。
(何が大丈夫って、回数が増えれば増えるほど俺の抵抗感が無くなっていく事だよ。ちくしょう、怖ぇよぉ…)
 魔王は、拠り所の無い世界で、衣食住を保証してくれている相手である。更には、彼に希望を教えてくれた相手である。もっというなら逆ギレして怒鳴り散らしたのに、慰めてくれた相手である。日々、文句とわがままを垂れ流しても、穏やかに微笑んでくれている相手である。
 昨日くらいから、魔王の顔を思い浮かべるともれなく心臓が高鳴る気がして、一瞬熱くなった頬から、ぞっと血の気が引く、という状態になっていた。
 一から十まで、相手が言っている事が真実ならば、感謝しかない。ただ、有難いと思うなら何でも受け入れられるかといえばそれは違う。
 孝太は、元の世界に戻って、可愛い女の子と付き合いたいのだ。
(俺は女の子が好き俺は女の子が好き俺は女の子が好き俺は女の子が好きなんだってば!)
「どうしたんですか?」
 しかめっ面で黙り込んでいたので、アリェが心配するように覗き込んでくる。
(いや、女の子は好きだけど、ロリコンではない)
 自分が可愛い顔のアリェに心配されてもときめかないのは、あくまでロリコンでは無いからで、女の子への興味が消えたのではない。そうではない。何度も自分に言い聞かせつつ、アリェには首を振って何でもないと伝えた。
(いや、何でもなくはないか)
 もう一度アリェを見つめる。
 小首を傾げるさまが大層可愛らしい。どこからどう見ても美少女だ。
「アリェって、お姉さんいる?」
「?」
 不思議そうに反対側に首を傾げられた。
「あれ? 聞こえなかった? お姉さん、いるかなって訊いたんだけど」
「うーん…多分いないです」
「多分?」
 兄弟の有無はそんなに曖昧になるものだろうか。
(はっ…まさか、家庭の事情が複雑なのか? どこか知らないところで着々と兄弟が増えてるとかそんな?)
 こんな稚い少女に申し訳ない事を尋ねてしまったのかと口を覆った。
「何かをいるかって聞かれてるのは解るんです。でも、コータの名前の時みたいに、むにぇむみぇして聞こえます」
「お姉さんが、そんな独特な擬音に…? 何でだろう…お姉さんって、別に固有名詞じゃないよな」
 今のところ会話で通じなかったものは、固有名詞、あるいは相手の中に無い概念だ。
 アリェが孝太の世界の話を聞きたがったので、色々話したが、地名が尽く通じないだけでなく、電車、スマホ、学校、なども通じなかった。ただ、それがどういう物かを説明してから言うと、彼女の中にその概念ができるのか、通じるようになったのだが。
(あ、もしかして、お姉さんがいないから、お姉さんは解らないのか)
 今までの会話に倣って、お姉さん、についてできる限り説明しようとした。
 が、その結果、
「アリェには、両親兄弟っていうか、肉親がいなかったなんて………」
と、いう衝撃の事実が判明した。
「コータは同じ種類のウォヤというのが細胞を分け合って形になったんですね…そんな風に生命が生まれるなんて、驚きです」
「うん。俺としては、ある日突然この世界に生まれるっていうのが驚きだったけどね」
 乾いた笑い声を出しながら、ちらりと窓の外を見た。
 見渡す限り、緑の楽園ともいうような森が広がっている。
(何で、こんな場所で、荒野の王? って思ってはいたけど…元荒野だとは誰も気付かねぇよ)
 森も、生命も、全て荒野の王がこの土地に来てから、その溢れる膨大な力の余波によって生まれたらしい。
(ホントに…力強いんだ)
 巨人も、コウモリも、ちょっと見かけた蝶の羽が生えた十センチくらいの妖精みたいなのも、猫かと思ったら額に角が生えていたのも、兎に見えたけど全体に鋭い肉食獣的な歯が生えてたのも、全部、突然生まれたというのだ。
「はぁ………」
 異世界って本当に何もかも違うんだ、と思わず溜息を吐いた。そして、ふと思いつく。
(あれ? って事は、アリェは、女の子ではないのでは?)
 楽しそうに鼻歌を歌いながら、コータが教えた折り紙で遊んでいるアリェを見て、恐る恐る口を開く。
「あのさ、アリェは女の子だよね?」
「?」
 その首の傾げ具合で理解した。性別の概念がない。つまり、アリェは女の子ではない。
(………いや、待て、そもそも俺は何でアリェを女の子と思ったんだ? ついてるのに………あ、胸が膨らんでたからか)
「え?」
 思わず声が漏れた。
(待って、待て待て、俺にとって女の子って胸が有るか無いかなの?)
 自分が女性というものに求めているのは、そこだけなのかと思わず自己嫌悪が頭をもたげる。
(いや、そんなはずは、でもそうじゃないなら何? 俺が男だから、俺と反対は女? えっとだから、俺とセックスして子供ができるなら女? いや、じゃあ子供ができなかったら女じゃないって言うのか? んな訳ないだろ。俺が好きなのは女の子で、だからアリェも女の子で、いやアリェへの好きは決してそんな下の話じゃなくて…え? じゃあ俺下で女の子を判断してんの? え、もう解んない。俺が好きな女の子ってナニ?)
 孝太の中の女の子が崩壊した。
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