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第一章

夜市デートで二度目の約束 5

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「密告者がいたのかもしれません」

 十分な注意を払っていたつもりだったのですが、とファナシュドは唇を噛みしめている。

「どんなに清潔にしてたって、鼠ってのは居るんだよなぁ」

 目先の利益に釣られた者の仕業だろう、とラムダレイドの目元には蔑みの色が仄かに灯った。

「王子。申し訳ありません」

 ファナシュドが頭を下げてきたので、

「そんなこと! 僕たちを受け入れてくれただけでも十分です」

 スユイは慌てて立ち上がり、手の平を振って否定した。ファナシュドは更に言葉を続ける。

「ただ、寄こしたのが小隊ひとつだけということから察すると」

「あちこち分散させて探している最中ということですね」

「ええ。相手もまだ確証は得ていないようなので、賭けにはなりますが……」

 このままクィンスタムに身を隠す選択をファナシュドは暗に勧めてくれている。でも――

「どのみち、いつかはここをたたなければいけないから。おいしい珈琲が飲めて良かったです」
 
 スユイは笑顔を作ってみせた。

 逆賊を匿ったとして彼らが理不尽な処遇を受けることは避けたい。
 クィンスタムを離れるなら、王都軍に足取りを掴まれていない今のうちだ。

「あるいは、北の帝国に助力を求めるのが最善だったんだが」

 絶えず飄々としているラムダレイドも苦々しく眉根を寄せた。

 イレスやクィンスタムとは大陸を別にする北の帝国がイレス国の動きを注視しているというのは聞き知っている。

「でも僕は向こうの中枢と直接の繋がりがないから、すぐには難しいですね。落ち着いたら考えてみます」

 スユイは形式的な調子で相槌を打った。

「落ち着いたらって、落ち着ける場所の当てはあるのですか?」

 ファナシュドの問いにはカゲツが答えた。
 
「セイランへ向かう。俺の顔がきく街だ」

 不安げなファナシュドを励ますようにカゲツは自信たっぷりに言った。スユイも首を縦に振り話を継ぐ。

「ここへ軍を向けているならセイランまでの中つ峠は手薄かもしれない。好都合です」


 城門の方から言い争う声が聞こえてくる。イレス王都軍といえどもラムダレイドの許可無くクィンスタム宮殿に入ることはできない。門兵と揉めているようだ。

「ファナ、馬を。――いや、黒獅馬を貸してくれねえか」

「準備はできています。これほど早くとは思いませんでしたが」

「さすが。仕事が早いな」

 ラムダレイドは口笛を吹き、はやしたてた。

「クィンスタムにはまだ黒獅が居るのか?」

 珍しくカゲツが目を丸くしている。

「ねえ、コクシって何?」

 会話から置いてきぼりにされたスユイはこっそりとカゲツの耳元に尋ねた。
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