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第一章
夜市デートで二度目の約束 6
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「そうか、スユイは見たことがないのか。黒獅馬。翼馬に獅子の血が混じったといわれる馬だ」
興奮を隠せていないカゲツの解説によれば、武人なら誰もが憧れる幻の名馬だという。
「イレスの荒廃が進み、森林に暮らしていた黒獅も姿を消した。俺はそう見ている」
「だけど、ここにはまだいたんだ」
失われたものと出会えた。それは苦難の旅に与えられた希望のようにも思えた。
「うちのは箱入りなのさ。ミアン妃に見つかれば召し上げになっちまうからな。さあ、行くぞ」
敷地の奥にひっそりと佇む黒獅馬の厩舎。その中で一頭がいなないた。
「これが黒獅馬」
すると隣へ来たカゲツが再び驚きの声を上げた。
「これは、銀黒獅か」
「銀?」
「ごく希に、銀のたてがみを持つ黒獅が生まれる。俺も実際に見るのは初めてだ」
「そう。王子さんのと、お揃いだ」
ラムダレイドは自分の頭をとんと叩いてスユイへ示した。
「僕の髪と同じ」
スユイは髪と馬のたてがみとを見比べた。同じ色をしている。
「ええ、まるでスユイ王子を待っていたようですね」
旅の荷を馬に結び付けながらファナシュドが言った。
「大切な馬を、本当にいいのですか?」
「ああ。王子さんを乗せて走るのがコイツの使命ってやつなんだろう。ただし、ここでまた駆け引きだ」
「駆け引き……」
今回は何を要求されるのだろう。スユイは喉をごくりと上下させた。
「条件はひとつ。元気なままのこいつらを二人で返しに来い。絶対にだ」
――無事に生き延びろ。
ラムダレイドの想いを受け止めたスユイはしっかりと頷く。
「必ず僕たち二人で返しに来ます。だから、その時はそちらもお二人で出迎えてください。絶対にです」
この後クィンスタムは僕たちを匿ったことについて問われるだろう。
どうか、ミアン王妃の爪牙に負けずにいてほしい。
駆け引きをやまびこで返されたラムダレイドは、にやりと口の端を上げた。
「他人を心配する余裕があるなら大丈夫だな」
クィンスタム宮殿がざわめき始める。王都軍が足を踏み入れたらしい。
「次に会う時もラムダさんの珈琲を楽しみにしています」
スユイは黒獅馬の背中へ飛び乗りながら、さよならとありがとうを砂漠の主従へ口早に告げた。
興奮を隠せていないカゲツの解説によれば、武人なら誰もが憧れる幻の名馬だという。
「イレスの荒廃が進み、森林に暮らしていた黒獅も姿を消した。俺はそう見ている」
「だけど、ここにはまだいたんだ」
失われたものと出会えた。それは苦難の旅に与えられた希望のようにも思えた。
「うちのは箱入りなのさ。ミアン妃に見つかれば召し上げになっちまうからな。さあ、行くぞ」
敷地の奥にひっそりと佇む黒獅馬の厩舎。その中で一頭がいなないた。
「これが黒獅馬」
すると隣へ来たカゲツが再び驚きの声を上げた。
「これは、銀黒獅か」
「銀?」
「ごく希に、銀のたてがみを持つ黒獅が生まれる。俺も実際に見るのは初めてだ」
「そう。王子さんのと、お揃いだ」
ラムダレイドは自分の頭をとんと叩いてスユイへ示した。
「僕の髪と同じ」
スユイは髪と馬のたてがみとを見比べた。同じ色をしている。
「ええ、まるでスユイ王子を待っていたようですね」
旅の荷を馬に結び付けながらファナシュドが言った。
「大切な馬を、本当にいいのですか?」
「ああ。王子さんを乗せて走るのがコイツの使命ってやつなんだろう。ただし、ここでまた駆け引きだ」
「駆け引き……」
今回は何を要求されるのだろう。スユイは喉をごくりと上下させた。
「条件はひとつ。元気なままのこいつらを二人で返しに来い。絶対にだ」
――無事に生き延びろ。
ラムダレイドの想いを受け止めたスユイはしっかりと頷く。
「必ず僕たち二人で返しに来ます。だから、その時はそちらもお二人で出迎えてください。絶対にです」
この後クィンスタムは僕たちを匿ったことについて問われるだろう。
どうか、ミアン王妃の爪牙に負けずにいてほしい。
駆け引きをやまびこで返されたラムダレイドは、にやりと口の端を上げた。
「他人を心配する余裕があるなら大丈夫だな」
クィンスタム宮殿がざわめき始める。王都軍が足を踏み入れたらしい。
「次に会う時もラムダさんの珈琲を楽しみにしています」
スユイは黒獅馬の背中へ飛び乗りながら、さよならとありがとうを砂漠の主従へ口早に告げた。
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