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第一章
夜市デートで二度目の約束 4
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クィンスタムに来て七日目の朝を迎えた。
石壁の小窓から見える砂漠は眩しく、照り返す力強い光は不安や焦燥をいくらか晴らしてくれる。
「おはよう、王子さん。今日はファナシュド秘蔵の豆を拝借してきた」
訪れた謁見の間は、今朝も香ばしい香りで満ちている。
「勝手にですか? 叱られないかなぁ」
眉をひそめながらスユイは渡された真鍮杯を受け取った。
「まずは飲んでみてくれ」
ラムダレイドの淹れてくれるこの珈琲という褐色の飲み物を気に入っていたので、それ以上は突っぱねず素直に口を付けた。
「あ、本当に美味しい」
「だろ? 王子さんにうまい珈琲を飲ませるためなら、ファナシュドの誹りも俺は甘んじて受ける」
卓の向かいに腰を下ろしたラムダレイドは組んだ手の甲に顎を乗せ、ぐいと顔を近づけてきた。
「はぁ、そうなんですね」
ラムダさんがまたよく分からない事を言っている。
スユイは間に合わせの相槌だけを打ち、あとは珈琲の杯に両手を添え異文化を舌の上で大事に味わった。
「ラムダレイド総統。そろそろ本題に入らせてもらっていいか?」
カゲツが大きな咳払いを打つ。
楽しそうにスユイを眺めていたラムダレイドの視線は卓上の地図へと引っ張られていった。
「何をするにしても拠点が必要だよね」
「クィンスタム宮殿を使ってくれと言いたいところだが、俺もここの民を守らないといけないんでな。その代わり支援なら惜しまない」
「身を置かせてもらうだけでも助かるのに、ありがとうございます」
これ以上クィンスタムを危険に晒すわけにはいかない。スユイは支援への謝意だけを告げた。
「スユイ王子!」
作戦が進展を見せず顔を突き合わせているところへ廊下から人が飛び込んできた。
「戸も叩かずに珍しいな。さては、お前の珈琲豆を勝手に使ったのがバレたか?」
血相を変え入ってきたファナシュドへ向け、ラムダレイドは珈琲杯をのんびりと掲げた。
――本当に、そんな穏やかな出来事なら良かったのだけれど。
スユイは手元できらめく異国の飲み物に眼差しをくゆらせ、深呼吸する。
ファナシュドから聞く報告をしっかりと受け止める心構えをした。
「イレス王都軍の王子捜索部隊がクィンスタムへ向かっているとの情報が」
駆け込んできたファナシュドの顔色から察しはついていた。
珈琲を飲めるのは、きっと今日で最後になる。
石壁の小窓から見える砂漠は眩しく、照り返す力強い光は不安や焦燥をいくらか晴らしてくれる。
「おはよう、王子さん。今日はファナシュド秘蔵の豆を拝借してきた」
訪れた謁見の間は、今朝も香ばしい香りで満ちている。
「勝手にですか? 叱られないかなぁ」
眉をひそめながらスユイは渡された真鍮杯を受け取った。
「まずは飲んでみてくれ」
ラムダレイドの淹れてくれるこの珈琲という褐色の飲み物を気に入っていたので、それ以上は突っぱねず素直に口を付けた。
「あ、本当に美味しい」
「だろ? 王子さんにうまい珈琲を飲ませるためなら、ファナシュドの誹りも俺は甘んじて受ける」
卓の向かいに腰を下ろしたラムダレイドは組んだ手の甲に顎を乗せ、ぐいと顔を近づけてきた。
「はぁ、そうなんですね」
ラムダさんがまたよく分からない事を言っている。
スユイは間に合わせの相槌だけを打ち、あとは珈琲の杯に両手を添え異文化を舌の上で大事に味わった。
「ラムダレイド総統。そろそろ本題に入らせてもらっていいか?」
カゲツが大きな咳払いを打つ。
楽しそうにスユイを眺めていたラムダレイドの視線は卓上の地図へと引っ張られていった。
「何をするにしても拠点が必要だよね」
「クィンスタム宮殿を使ってくれと言いたいところだが、俺もここの民を守らないといけないんでな。その代わり支援なら惜しまない」
「身を置かせてもらうだけでも助かるのに、ありがとうございます」
これ以上クィンスタムを危険に晒すわけにはいかない。スユイは支援への謝意だけを告げた。
「スユイ王子!」
作戦が進展を見せず顔を突き合わせているところへ廊下から人が飛び込んできた。
「戸も叩かずに珍しいな。さては、お前の珈琲豆を勝手に使ったのがバレたか?」
血相を変え入ってきたファナシュドへ向け、ラムダレイドは珈琲杯をのんびりと掲げた。
――本当に、そんな穏やかな出来事なら良かったのだけれど。
スユイは手元できらめく異国の飲み物に眼差しをくゆらせ、深呼吸する。
ファナシュドから聞く報告をしっかりと受け止める心構えをした。
「イレス王都軍の王子捜索部隊がクィンスタムへ向かっているとの情報が」
駆け込んできたファナシュドの顔色から察しはついていた。
珈琲を飲めるのは、きっと今日で最後になる。
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