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キホーテ
しおりを挟む俺の名はキホーテ。
王家直轄の諜報組織、第十三騎士団の団長をやっている。
第十三騎士団は、存在その物を秘密とする王の影だ。
普段は貧民街の主『アロンソ』を名乗っている。
ある日、アポもなしにモールド伯爵家の令嬢が、騎士団の詰所である貧民街の館へやって来た。
「俺がここの主だ。モールド伯爵家のお嬢さんってのはあんたかい?」
見れば治安の悪い貧民街の下層へ来たというのに、剣を持ってる護衛はチビッコいのが一人しかいない。
他には、モールド伯爵令嬢と執事のおっさん、背の高い侍女の計4人という一行だ。
平和ボケしちゃって、こいつら死にに来たのかねと俺は思った。
「ごきげんよう。名も知らぬ貧民街の主さん? 本日はお願いがあって、ここに来ましたの」
そして用事のあるモールド伯爵令嬢と言えば、ここじゃ名の知れた俺の偽名さえ知らなかった。
準備不足にも程がある。
観察しながら名乗りを終えると、この一見頭のおかしな集団は、荒事に相当自信があるんだなと気づかされた。
人の一度に対処出来る手数は決まっている。
それを超えると手が足らなくなるのだ。
このモールド伯爵令嬢の一行で、荒事に自信のある奴は誰だ?
直接立ち会ってる俺達は、アルドンサと偽名を名乗っている女性団員ドルネシアを入れて8人。
俺が来いと大声を出せば人数はもっと増える。
護衛のチビッコと執事、そして侍女は、モールド伯爵令嬢を守りながら、この人数に対処出来るつもりなのだ。
そして、モールド伯爵令嬢の態度は、この人数差で荒事になっても絶対に大丈夫だという自信に充ちあふれていた。
「物怖じしねぇ嬢ちゃんだな。それで用事ってのはなんだ?」
俺は目を細めてモールド伯爵令嬢を威圧する。
流石に舐めすぎだろう?
俺達は秘密とはいえ正規の王立騎士団なんだぜ?
「私、闇ギルドへの繋ぎを取れる人物とコネが欲しいのです。それともここが闇ギルドだったりします?」
ああ?
闇ギルドの繋ぎ?
闇ギルドとは、暗殺、人拐い、襲撃、度を越えた嫌がらせ、偽造など非合法な事を生業としている奴らの集まりの事だ。
潰しても潰しても、闇夜は何処からか復活する。
それは俺達が今最も欲しがってる情報だった。
何でモールド伯爵令嬢は、闇ギルドなんかと繋ぎを持ちたいのか。
如何にも不穏な気配のする用事だ。
「それで? ここが闇ギルドだとしたらどうする? 闇ギルドと取引するその意味を、嬢ちゃんは理解してるのかね」
その用事は場合によっては、騎士団として秩序を執行すべき、王国への反逆になりうる物だろう。
俺の部下たちは一気に殺気立った。
だが、モールド伯爵令嬢の一行を見れば、護衛のチビッコは天を仰ぎ、侍女の嬢ちゃんの笑みは固まり、執事のおっさんからは言い知れぬ怒りを感じた。
こりゃ闇ギルドの実態も知らない世間知らずの令嬢の暴走かねぇと俺は察する。
「ここがどこかの貴族と深く繋がっているなら、他に信頼の出来る情報屋を紹介してくださるかしら? 何しろ私、出てきたばかりで、王都コネがないんですもの。相応の謝礼はいたしますわ」
ああ、こりゃ令嬢の勘違いだわ。
貴族は令嬢の知りたがる情報程度では、闇ギルドとは絶対に関わらない。
大方、どこかの小説に影響されて勘違いしてるんだろう。
しかし、参ったね。
殺気だった俺の部下に反応して、執事と侍女の嬢ちゃんはやる気マンマンみたいだ。
「…お前ら、待て。…モールド伯爵令嬢は本気のようだ。」
いい加減に察しろお前ら。
闇ギルドの名前を出した時点で、世間知らずの令嬢の勘違いだ。
この令嬢は本気で闇ギルドをそこらの情報屋だと思ってるぞ。
こいつらが万が一間違ってその闇ギルドと繋ぎを持ってる情報屋とやらを見つけたとして、こいつらから情報を得れば俺達も闇ギルドを見つけられるんだから、それでラッキーじゃねえか?
どうにもウチの団は脳筋でいかんね。
「一番強いのは…、誰だ? 侍女ちゃんもただもんじゃねえな」
何たって、さっきから一番やる気なのが侍女の嬢ちゃんだからな…。
「お頭…ッ! 貴族だろうと、ひ弱な爺さんと子供だけだぜ? 貧民街の奥に来たらどうなるか、思い知らせるべきだ!」
頭の痛い事に、殺気立つ中真っ先に我慢の効かなくなった奴は、ペレスと偽名を名乗っているウチの副団長のペロだった。
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