少女と二千年の悪魔

みこ

文字の大きさ
上 下
15 / 87
第一章

始まりの日 3

しおりを挟む
 強い風が部屋の中へ立ち入り、思わず目をつぶった。
 次第に風が止み、周りがざわつき始める。マリィも目を開ける、と。
 そこには、見たことのない女性がいた。
 中空に立って……というよりは浮いていた。
 まさに豪奢という言葉が似合う大袈裟なドレスは、フリルの先まで黒で、ヒラヒラしているのになんだか喪服のようだった。貴婦人のように髪をアップにしている髪は、服とは逆にキラキラと生まれたばかりの光のようだ。
「な…………」
 何が、起こったのだろう。
 空気がしんと静まりかえる。周りの人間は険悪な空気を隠そうともしない。
 上から見下ろすその人が、まず口を開いた。
「あッらァ、皆様、お集まりで」
 ゆっくりとした、低い声。目を細め、ニヤリ、と嗤う。
 マリィは、声を出すことができなかった。震える足をじりじりと後ろへ滑らせる。
 アレは……何だろう。何なんだろう。
 数歩先で、エルリックがマリィを庇うように立っている。
 後ろには、少しでもマリィの近くに来ようと、母がその人を見据えながらそこに立っていた。
 ジャキン……と、剣を携え、警護にあたっていた人達が剣を抜き放つ。
 外はまだ明るいはずなのに、何故だかその人の後ろは暗く、夜を背負っているようだ。
「パーティー?かしら?とォーッても楽しそう」
 スカートを掴み、前のめりで周りをうかがう。
「でもォ……そこのドレスは……、アタクシの好みではない、みたい」
 指でピッと一人の女性を差すと、その瞬間、その女性が何かに打たれたように呻きながら倒れこんでしまった。
 空気が、ピンと張り詰めたのがわかった。激しいどよめきが巻き起こる。
 その女性の夫が抱き上げるが、気を失ってしまったのか、ぐったりとして動かない。
 マリィも女性に駆け寄ろうとするが、引き止められてしまった。
 振り向くと、母がそこにいて、蒼白な、それでいて厳しい顔をしていた。
 父が、剣を抜き放つ。
「貴女は“魔女キタカゼ”とお見受けするが?」
「あッらァ……アタクシのことをご存知なのね。こんな……隔離された土地で……」
 魔女キタカゼ。
 その名を、マリィも知っていた。ただし、お伽話に出てくる魔女として。
 時々、空を舞っては、土地を荒らしていく。その力には誰も及ばず、まるで嵐。魔女キタカゼが通る場所にたまたまいた人間は、その嵐を甘んじて受け、小さくうずくまりながら、ただ、通り過ぎるのを待つしかない。いとも簡単に人の死を運び、広大な土地を荒廃させる。それが、魔女キタカゼ。
「私は、この地を治める者、カルレンス。なんびとでも、この土地を荒らすことは許されない」
 警護をしていた剣士達が、剣を構え直した。
「あッらァ……もしかして、アタクシの敵なのォ?あなたも?あなたも?あなたも?」
 言いながら指をピッと差していき、その度に剣士一人一人が倒れ伏していく。
 マリィの頭の中が、真っ白になっていく。
 今、目の前で起こっていることは、なんなのだろう。
 何が、起こっているのだろう。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

王子妃教育に疲れたので幼馴染の王子との婚約解消をしました

さこの
恋愛
新年のパーティーで婚約破棄?の話が出る。 王子妃教育にも疲れてきていたので、婚約の解消を望むミレイユ 頑張っていても落第令嬢と呼ばれるのにも疲れた。 ゆるい設定です

仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが

ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。 定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──

お飾り王妃の死後~王の後悔~

ましゅぺちーの
恋愛
ウィルベルト王国の王レオンと王妃フランチェスカは白い結婚である。 王が愛するのは愛妾であるフレイアただ一人。 ウィルベルト王国では周知の事実だった。 しかしある日王妃フランチェスカが自ら命を絶ってしまう。 最後に王宛てに残された手紙を読み王は後悔に苛まれる。 小説家になろう様にも投稿しています。

【完結】殿下、自由にさせていただきます。

なか
恋愛
「出て行ってくれリルレット。王宮に君が住む必要はなくなった」  その言葉と同時に私の五年間に及ぶ初恋は終わりを告げた。  アルフレッド殿下の妃候補として選ばれ、心の底から喜んでいた私はもういない。  髪を綺麗だと言ってくれた口からは、私を貶める言葉しか出てこない。  見惚れてしまう程の笑みは、もう見せてもくれない。  私………貴方に嫌われた理由が分からないよ。  初夜を私一人だけにしたあの日から、貴方はどうして変わってしまったの?  恋心は砕かれた私は死さえ考えたが、過去に見知らぬ男性から渡された本をきっかけに騎士を目指す。  しかし、正騎士団は女人禁制。  故に私は男性と性別を偽って生きていく事を決めたのに……。  晴れて騎士となった私を待っていたのは、全てを見抜いて笑う副団長であった。     身分を明かせない私は、全てを知っている彼と秘密の恋をする事になる。    そして、騎士として王宮内で起きた変死事件やアルフレッドの奇行に大きく関わり、やがて王宮に蔓延る謎と対峙する。  これは、私の初恋が終わり。  僕として新たな人生を歩みだした話。  

侯爵夫人のハズですが、完全に無視されています

猫枕
恋愛
伯爵令嬢のシンディーは学園を卒業と同時にキャッシュ侯爵家に嫁がされた。 しかし婚姻から4年、旦那様に会ったのは一度きり、大きなお屋敷の端っこにある離れに住むように言われ、勝手な外出も禁じられている。 本宅にはシンディーの偽物が奥様と呼ばれて暮らしているらしい。 盛大な結婚式が行われたというがシンディーは出席していないし、今年3才になる息子がいるというが、もちろん産んだ覚えもない。

人狼さんの封印といた

ぼたにかる
恋愛
現代日本の女子高生視点 異世界の人間によって足の腱を切られて歩行不能に(すぐに移動手段2種確保)されたけど、助けてくれた人狼さんにとろとろに愛されて嫁化、思考も人外よりになっていく系のお話。 注意:冒頭に残酷描写あります。

生真面目君主と、わけあり令嬢

たつみ
恋愛
公爵令嬢のジョゼフィーネは、生まれながらに「ざっくり」前世の記憶がある。 日本という国で「引きこもり」&「ハイパーネガティブ」な生き方をしていたのだ。 そんな彼女も、今世では、幼馴染みの王太子と、密かに婚姻を誓い合っている。 が、ある日、彼が、彼女を妃ではなく愛妾にしようと考えていると知ってしまう。 ハイパーネガティブに拍車がかかる中、彼女は、政略的な婚姻をすることに。 相手は、幼い頃から恐ろしい国だと聞かされていた隣国の次期国王! ひと回り以上も年上の次期国王は、彼女を見て、こう言った。 「今日から、お前は、俺の嫁だ」     ◇◇◇◇◇ 設定はあくまでも「貴族風」なので、現実の貴族社会などとは異なります。 本物の貴族社会ではこんなこと通用しない、ということも多々あります。 それを踏まえて、お読み頂ければと思います、なにとぞ。 R-Kingdom_6 他サイトでも掲載しています。

王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!

gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ? 王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。 国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから! 12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。

処理中です...