16 / 87
第一章
始まりの日 4
しおりを挟む
「あなた、も……?」
ピッと魔女キタカゼが父の方に指を向けた。
「お父さ……」
声を上げるのも、時すでに遅く、父が倒れていくのが目の端で見えた。
腕をぐっと掴まれる。泣きそうな顔で母の方を向いたが、腕を離してはくれなかった。
人だかりができる。
お父様は無事なんだろうか。誰かお父様を助けてくれている人はいるだろうか。
「こっちだ!」
ダン……!っと廊下へ続く大扉が開き、何人もの人が扉に走る。
「あッらァ……?ど・こ・に・い・く・の?」
バタバタと、人間が倒れていく。
震える身体を止めようとして自分を抑えるけれど、震えが止まらない。
「フフッ。あのお邪魔さんほどめんどゥくさい子は、ここにはいないみたい、ねェ」
魔女キタカゼが何かを言いながら人々に指を差し、その度に誰かが倒れていった。
床を……凝視するように見つめる。その間にも、遠く、近くで誰かが呻き、倒れる音がした。
ドン、と衝撃が起こり、隣で誰かが倒れる気配がする。
「お母様……!」
母が倒れた。周りを見渡すと、たくさんの人々が、倒れ伏し、折り重なっている。
「お母様!お母様!?」
……息はあるようだけれど、目を開ける気配がない。
トーマス……エミル……。倒れている人達に、親しい人の顔がある。
この現実味のない部屋で……それでも、自分の身体が、動けなくなっていくのがわかる。
近くで、静かに、金属の音がした。
エルリックが、携えた剣を、抜き放つ音だった。
「エルリッ……」
魔女キタカゼを見据えたまま、何か合図をするように少しだけ、動いた。
「あッらァ……?その剣……。見たことあるわァ」
魔女キタカゼが、ゆっくりとエルリックの方を見る。
「聖剣……。あなた、王子様なのねェ……」
それは確かに聖剣だった。どんな剣よりも銀色に輝き、魔を切るという伝説の剣。王家に伝わる、唯一の剣。
掛け声をあげ、エルリックが魔女キタカゼに飛びかかる。
空中に浮いているにも関わらず、エルリックが飛び上がり、剣は魔女キタカゼの胸の上へ。
「で、もォ。いくら剣が強くても、本人が弱かったら、どうなるでしょうねェ……?」
スッとエルリックの剣を避け、エルリックを追いかけるように地上へ降りると、魔女キタカゼはエルリックの額に、指を置く。
「や……!やめ……て!」
思わず声を上げると、魔女キタカゼはマリィの方を向いた。
「小さなお嬢さん……まずはあ・な・た?」
空いている方の手を上げ、その指が、マリィの方を向いた。
「マリィ……!」
耳と目を塞ぎ、うずくまる。
すると、ガン……ッと、マリィの目の前で、大きな音がした。それはまるで何かが金属に当たるような音で、とても耳に響く。
え……?
マリィは、無事だった。
何かが……透明の何かが、マリィを守ったように、見えた。
魔女キタカゼですら、面食らったような顔をしている。
ふふん、という顔でマリィとエルリックの顔を交互に見た。
「あッらァ……。そういうこと、なの?あのねんねちゃんったら、こんなお嬢さんにご執心なのねェ。で、も。ふふッ」
魔女キタカゼは、とても面白そうな顔をした。こんな面白いことはないと、そう言っているように瞳が黒く光った。
ピッと魔女キタカゼが父の方に指を向けた。
「お父さ……」
声を上げるのも、時すでに遅く、父が倒れていくのが目の端で見えた。
腕をぐっと掴まれる。泣きそうな顔で母の方を向いたが、腕を離してはくれなかった。
人だかりができる。
お父様は無事なんだろうか。誰かお父様を助けてくれている人はいるだろうか。
「こっちだ!」
ダン……!っと廊下へ続く大扉が開き、何人もの人が扉に走る。
「あッらァ……?ど・こ・に・い・く・の?」
バタバタと、人間が倒れていく。
震える身体を止めようとして自分を抑えるけれど、震えが止まらない。
「フフッ。あのお邪魔さんほどめんどゥくさい子は、ここにはいないみたい、ねェ」
魔女キタカゼが何かを言いながら人々に指を差し、その度に誰かが倒れていった。
床を……凝視するように見つめる。その間にも、遠く、近くで誰かが呻き、倒れる音がした。
ドン、と衝撃が起こり、隣で誰かが倒れる気配がする。
「お母様……!」
母が倒れた。周りを見渡すと、たくさんの人々が、倒れ伏し、折り重なっている。
「お母様!お母様!?」
……息はあるようだけれど、目を開ける気配がない。
トーマス……エミル……。倒れている人達に、親しい人の顔がある。
この現実味のない部屋で……それでも、自分の身体が、動けなくなっていくのがわかる。
近くで、静かに、金属の音がした。
エルリックが、携えた剣を、抜き放つ音だった。
「エルリッ……」
魔女キタカゼを見据えたまま、何か合図をするように少しだけ、動いた。
「あッらァ……?その剣……。見たことあるわァ」
魔女キタカゼが、ゆっくりとエルリックの方を見る。
「聖剣……。あなた、王子様なのねェ……」
それは確かに聖剣だった。どんな剣よりも銀色に輝き、魔を切るという伝説の剣。王家に伝わる、唯一の剣。
掛け声をあげ、エルリックが魔女キタカゼに飛びかかる。
空中に浮いているにも関わらず、エルリックが飛び上がり、剣は魔女キタカゼの胸の上へ。
「で、もォ。いくら剣が強くても、本人が弱かったら、どうなるでしょうねェ……?」
スッとエルリックの剣を避け、エルリックを追いかけるように地上へ降りると、魔女キタカゼはエルリックの額に、指を置く。
「や……!やめ……て!」
思わず声を上げると、魔女キタカゼはマリィの方を向いた。
「小さなお嬢さん……まずはあ・な・た?」
空いている方の手を上げ、その指が、マリィの方を向いた。
「マリィ……!」
耳と目を塞ぎ、うずくまる。
すると、ガン……ッと、マリィの目の前で、大きな音がした。それはまるで何かが金属に当たるような音で、とても耳に響く。
え……?
マリィは、無事だった。
何かが……透明の何かが、マリィを守ったように、見えた。
魔女キタカゼですら、面食らったような顔をしている。
ふふん、という顔でマリィとエルリックの顔を交互に見た。
「あッらァ……。そういうこと、なの?あのねんねちゃんったら、こんなお嬢さんにご執心なのねェ。で、も。ふふッ」
魔女キタカゼは、とても面白そうな顔をした。こんな面白いことはないと、そう言っているように瞳が黒く光った。
0
お気に入りに追加
11
あなたにおすすめの小説
娼館で元夫と再会しました
無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。
しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。
連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。
「シーク様…」
どうして貴方がここに?
元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!
【完結】仰る通り、貴方の子ではありません
ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは
私に似た待望の男児だった。
なのに認められず、
不貞の濡れ衣を着せられ、
追い出されてしまった。
実家からも勘当され
息子と2人で生きていくことにした。
* 作り話です
* 暇つぶしにどうぞ
* 4万文字未満
* 完結保証付き
* 少し大人表現あり
仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが
ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。
定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない
そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──
裏切りの先にあるもの
マツユキ
恋愛
侯爵令嬢のセシルには幼い頃に王家が決めた婚約者がいた。
結婚式の日取りも決まり数か月後の挙式を楽しみにしていたセシル。ある日姉の部屋を訪ねると婚約者であるはずの人が姉と口づけをかわしている所に遭遇する。傷つくセシルだったが新たな出会いがセシルを幸せへと導いていく。
【完結】婚約破棄される前に私は毒を呷って死にます!当然でしょう?私は王太子妃になるはずだったんですから。どの道、只ではすみません。
つくも茄子
恋愛
フリッツ王太子の婚約者が毒を呷った。
彼女は筆頭公爵家のアレクサンドラ・ウジェーヌ・ヘッセン。
なぜ、彼女は毒を自ら飲み干したのか?
それは婚約者のフリッツ王太子からの婚約破棄が原因であった。
恋人の男爵令嬢を正妃にするためにアレクサンドラを罠に嵌めようとしたのだ。
その中の一人は、アレクサンドラの実弟もいた。
更に宰相の息子と近衛騎士団長の嫡男も、王太子と男爵令嬢の味方であった。
婚約者として王家の全てを知るアレクサンドラは、このまま婚約破棄が成立されればどうなるのかを知っていた。そして自分がどういう立場なのかも痛いほど理解していたのだ。
生死の境から生還したアレクサンドラが目を覚ました時には、全てが様変わりしていた。国の将来のため、必要な処置であった。
婚約破棄を宣言した王太子達のその後は、彼らが思い描いていたバラ色の人生ではなかった。
後悔、悲しみ、憎悪、果てしない負の連鎖の果てに、彼らが手にしたものとは。
「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルバ」にも投稿しています。
旦那様、そんなに彼女が大切なら私は邸を出ていきます
おてんば松尾
恋愛
彼女は二十歳という若さで、領主の妻として領地と領民を守ってきた。二年後戦地から夫が戻ると、そこには見知らぬ女性の姿があった。連れ帰った親友の恋人とその子供の面倒を見続ける旦那様に、妻のソフィアはとうとう離婚届を突き付ける。
if 主人公の性格が変わります(元サヤ編になります)
※こちらの作品カクヨムにも掲載します
アルバートの屈辱
プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。
『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる