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第十三章
543 見た目でもう落ちるよ
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ベニは聖女を、セイとキイは、とある数人の住民達の姿を確認していた。
「ほぼ一文無しなんだろう? なら丁度良い働き口ももらえるよ。大丈夫さね。ここのは合法。治安もそう酷くない」
「「「……はあ……?」」」
何の話かと不思議そうにする聖女達。そこで、コウヤも振り返り、セイとキイが気にしている方を見た。
「ああ……あの方達が……」
なるほどとコウヤは納得した。聖女達はベニもそちらに目を向けたことで、釣られて見る。
嬉しそうに手を振る艶やかに着飾った女性達と、ちょっとカタギではなさそうな屈強な男、細い目が鋭い光を宿す嫌味な顔をした男女など、少しばかり癖の強そうな人たちだった。
セイとキイは苦笑していた。
「こんな昼間っから出てくるような奴らじゃないんだけどねえ」
「起きて来てるのは驚いたねえ。いつもなら寝ている時間だよ」
ベニはそれを耳に入れながらも、構わず聖女達へ告げる。
「彼らは各地区にある歓楽街の店の店主でねえ」
この王都には、三つほど歓楽街が点在していた。その代表となる店主達をはじめとした店の関係者が、どうやら聖女達に投票した者達のようだ。
聖女達は、歓楽街と聞いて、顔を赤くする。
「まさかっ! 私たちを情婦にする気!?」
「私たちを何だと思っているのよ!!」
「そんないかがわしい所に行くわけないじゃない!!」
歓楽街と聞けば、真っ先にそれが頭に浮かぶだろう。だが、そればかりではないし、この王都ではしっかりと管理されている。
「何を思ったかは聞かないが、この国では、娼館に入るのには、女も男も、自身の意思がないと許されないよ? それなりの教養も必要だし、何よりも人当たりが良くないといけない。あんたらは、見た目でもう落ちるよ」
「「「……え?」」」
「見てみな」
ベニが店主達から少しズレた所から顔を見せた男女の集団を指差した。
派手な服を着ていなくても、彼らは視線を集めている。それほどまでに華やかで美しい集団だった。
『ミリカさんだっ!』
『アルトーラ姐さんっ。今日もお美しいっ』
『ブラン様っ、ああっ、素敵っ』
『『『キーラく~ぅんっ』』』
ベニ達とはまた違った人気がある。高潔で近寄りがたく感じるベニ達に対して、彼らは人当たりもよく店に行けば気軽に出会えるアイドルだ。
お酒を飲みながら、相談に乗ってくれる。望むように誘惑してくれるし、望む答えをくれる相手だ。
ベニ達は深い所に落ち込んでしまった人を自身の力で這い上がれるように導くのに対し、彼らは既にある答えを出しやすいようにし、気持ちを解放してくれる。そういった話術や教養がそこで働くには必須だった。
そして、間違っても彼らが国の転覆を図るとか、悪意を持って客の人間関係を壊すなどしないよう、管理するのが、癖の強い店主達だ。
「あの人らに鍛えられれば、ある程度は教養も身に付くだろう。彼女達は最高ランクの接客嬢だが、その補佐の補佐くらいにはなれるかもねえ」
「心配しなくても、掃除も出来るようにしてくれるよ。雑巾の絞り方から、拭き方、場所の順番まできっちりとね」
「料理までは頼み込まないと無理だが、洗濯の仕方は教えてもらえる。なんとか一人暮らしが出来るようになるんじゃないかい?」
「「「……」」」
見た目での負けを認めたらしく、聖女達は茫然と座り込んでいた。
「まあ、良かったんではないかい? お前達も行き先がないから王妃になるなんて無謀な事を考えたんだろう? 就職先が決まって良かったねえ」
「「「……」」」
もう声も出ないようだ。
そんな中、ミラルファが口を挟む。
「ああ、あの人達なのね? でも、本当によろしいのかしら?」
「おや。ミラも知っていたかい」
「ええ。前に、教育不足でワガママな令嬢を預けようとしたことがありましたの。数日預かれば、大人しく聞き分けの良い子になると評判でしたから」
「そうだねえ。あれらに任せれば、あばずれと言われた子や、女を馬鹿にするクズ男も、半年で別人さね」
住民達もこれを聞いて、それはすごいと彼らに目を向ける。
「わたくしも、それを聞いて、何人か頼もうとしたのですけれど、数日で返されてしまって……まあ、大人しくはなりましたけれど」
「ああ。あの人らの躾たい子の好みは、打たれ強く、図太い奴なのさ。折れてもすぐに立ち上がると言えば聞こえは良いが……めげないおバカさんが好きでねえ」
「「ああ……なるほど……」」
ミラルファとイスリナが聖女を見下ろしながら納得する。まさに、これらのことかと。
「だから、ミラ達も、遠慮なく折りに行って良いからね。ほら、もう立ち直っているみたいだ」
「「……本当ですね……」」
「「「なによ!」」」
聖女達は、不遜げな顔をしていた。反論する気満々だ。
「ふ~ん。これを城に入れるのは嫌ですわね」
「嫌ですわねえ」
ミラルファとイスリナはコウヤに目を向けた。その意図をコウヤは正確に読み取る。
「ふふっ。良いですよ。テントを張りますね」
「「「っ……」」」
コウヤの笑みに聖女達が顔を赤らめて見惚れる。それを見て、ミラルファとイスリナが舌打ちした。
「「チッ」」
「どうしようもないねえ」
ベニは不憫な子を見る目で聖女達を見ていた。
**********
読んでくださりありがとうございます◎
「ほぼ一文無しなんだろう? なら丁度良い働き口ももらえるよ。大丈夫さね。ここのは合法。治安もそう酷くない」
「「「……はあ……?」」」
何の話かと不思議そうにする聖女達。そこで、コウヤも振り返り、セイとキイが気にしている方を見た。
「ああ……あの方達が……」
なるほどとコウヤは納得した。聖女達はベニもそちらに目を向けたことで、釣られて見る。
嬉しそうに手を振る艶やかに着飾った女性達と、ちょっとカタギではなさそうな屈強な男、細い目が鋭い光を宿す嫌味な顔をした男女など、少しばかり癖の強そうな人たちだった。
セイとキイは苦笑していた。
「こんな昼間っから出てくるような奴らじゃないんだけどねえ」
「起きて来てるのは驚いたねえ。いつもなら寝ている時間だよ」
ベニはそれを耳に入れながらも、構わず聖女達へ告げる。
「彼らは各地区にある歓楽街の店の店主でねえ」
この王都には、三つほど歓楽街が点在していた。その代表となる店主達をはじめとした店の関係者が、どうやら聖女達に投票した者達のようだ。
聖女達は、歓楽街と聞いて、顔を赤くする。
「まさかっ! 私たちを情婦にする気!?」
「私たちを何だと思っているのよ!!」
「そんないかがわしい所に行くわけないじゃない!!」
歓楽街と聞けば、真っ先にそれが頭に浮かぶだろう。だが、そればかりではないし、この王都ではしっかりと管理されている。
「何を思ったかは聞かないが、この国では、娼館に入るのには、女も男も、自身の意思がないと許されないよ? それなりの教養も必要だし、何よりも人当たりが良くないといけない。あんたらは、見た目でもう落ちるよ」
「「「……え?」」」
「見てみな」
ベニが店主達から少しズレた所から顔を見せた男女の集団を指差した。
派手な服を着ていなくても、彼らは視線を集めている。それほどまでに華やかで美しい集団だった。
『ミリカさんだっ!』
『アルトーラ姐さんっ。今日もお美しいっ』
『ブラン様っ、ああっ、素敵っ』
『『『キーラく~ぅんっ』』』
ベニ達とはまた違った人気がある。高潔で近寄りがたく感じるベニ達に対して、彼らは人当たりもよく店に行けば気軽に出会えるアイドルだ。
お酒を飲みながら、相談に乗ってくれる。望むように誘惑してくれるし、望む答えをくれる相手だ。
ベニ達は深い所に落ち込んでしまった人を自身の力で這い上がれるように導くのに対し、彼らは既にある答えを出しやすいようにし、気持ちを解放してくれる。そういった話術や教養がそこで働くには必須だった。
そして、間違っても彼らが国の転覆を図るとか、悪意を持って客の人間関係を壊すなどしないよう、管理するのが、癖の強い店主達だ。
「あの人らに鍛えられれば、ある程度は教養も身に付くだろう。彼女達は最高ランクの接客嬢だが、その補佐の補佐くらいにはなれるかもねえ」
「心配しなくても、掃除も出来るようにしてくれるよ。雑巾の絞り方から、拭き方、場所の順番まできっちりとね」
「料理までは頼み込まないと無理だが、洗濯の仕方は教えてもらえる。なんとか一人暮らしが出来るようになるんじゃないかい?」
「「「……」」」
見た目での負けを認めたらしく、聖女達は茫然と座り込んでいた。
「まあ、良かったんではないかい? お前達も行き先がないから王妃になるなんて無謀な事を考えたんだろう? 就職先が決まって良かったねえ」
「「「……」」」
もう声も出ないようだ。
そんな中、ミラルファが口を挟む。
「ああ、あの人達なのね? でも、本当によろしいのかしら?」
「おや。ミラも知っていたかい」
「ええ。前に、教育不足でワガママな令嬢を預けようとしたことがありましたの。数日預かれば、大人しく聞き分けの良い子になると評判でしたから」
「そうだねえ。あれらに任せれば、あばずれと言われた子や、女を馬鹿にするクズ男も、半年で別人さね」
住民達もこれを聞いて、それはすごいと彼らに目を向ける。
「わたくしも、それを聞いて、何人か頼もうとしたのですけれど、数日で返されてしまって……まあ、大人しくはなりましたけれど」
「ああ。あの人らの躾たい子の好みは、打たれ強く、図太い奴なのさ。折れてもすぐに立ち上がると言えば聞こえは良いが……めげないおバカさんが好きでねえ」
「「ああ……なるほど……」」
ミラルファとイスリナが聖女を見下ろしながら納得する。まさに、これらのことかと。
「だから、ミラ達も、遠慮なく折りに行って良いからね。ほら、もう立ち直っているみたいだ」
「「……本当ですね……」」
「「「なによ!」」」
聖女達は、不遜げな顔をしていた。反論する気満々だ。
「ふ~ん。これを城に入れるのは嫌ですわね」
「嫌ですわねえ」
ミラルファとイスリナはコウヤに目を向けた。その意図をコウヤは正確に読み取る。
「ふふっ。良いですよ。テントを張りますね」
「「「っ……」」」
コウヤの笑みに聖女達が顔を赤らめて見惚れる。それを見て、ミラルファとイスリナが舌打ちした。
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