438 / 475
第十三章
543 見た目でもう落ちるよ
しおりを挟む
ベニは聖女を、セイとキイは、とある数人の住民達の姿を確認していた。
「ほぼ一文無しなんだろう? なら丁度良い働き口ももらえるよ。大丈夫さね。ここのは合法。治安もそう酷くない」
「「「……はあ……?」」」
何の話かと不思議そうにする聖女達。そこで、コウヤも振り返り、セイとキイが気にしている方を見た。
「ああ……あの方達が……」
なるほどとコウヤは納得した。聖女達はベニもそちらに目を向けたことで、釣られて見る。
嬉しそうに手を振る艶やかに着飾った女性達と、ちょっとカタギではなさそうな屈強な男、細い目が鋭い光を宿す嫌味な顔をした男女など、少しばかり癖の強そうな人たちだった。
セイとキイは苦笑していた。
「こんな昼間っから出てくるような奴らじゃないんだけどねえ」
「起きて来てるのは驚いたねえ。いつもなら寝ている時間だよ」
ベニはそれを耳に入れながらも、構わず聖女達へ告げる。
「彼らは各地区にある歓楽街の店の店主でねえ」
この王都には、三つほど歓楽街が点在していた。その代表となる店主達をはじめとした店の関係者が、どうやら聖女達に投票した者達のようだ。
聖女達は、歓楽街と聞いて、顔を赤くする。
「まさかっ! 私たちを情婦にする気!?」
「私たちを何だと思っているのよ!!」
「そんないかがわしい所に行くわけないじゃない!!」
歓楽街と聞けば、真っ先にそれが頭に浮かぶだろう。だが、そればかりではないし、この王都ではしっかりと管理されている。
「何を思ったかは聞かないが、この国では、娼館に入るのには、女も男も、自身の意思がないと許されないよ? それなりの教養も必要だし、何よりも人当たりが良くないといけない。あんたらは、見た目でもう落ちるよ」
「「「……え?」」」
「見てみな」
ベニが店主達から少しズレた所から顔を見せた男女の集団を指差した。
派手な服を着ていなくても、彼らは視線を集めている。それほどまでに華やかで美しい集団だった。
『ミリカさんだっ!』
『アルトーラ姐さんっ。今日もお美しいっ』
『ブラン様っ、ああっ、素敵っ』
『『『キーラく~ぅんっ』』』
ベニ達とはまた違った人気がある。高潔で近寄りがたく感じるベニ達に対して、彼らは人当たりもよく店に行けば気軽に出会えるアイドルだ。
お酒を飲みながら、相談に乗ってくれる。望むように誘惑してくれるし、望む答えをくれる相手だ。
ベニ達は深い所に落ち込んでしまった人を自身の力で這い上がれるように導くのに対し、彼らは既にある答えを出しやすいようにし、気持ちを解放してくれる。そういった話術や教養がそこで働くには必須だった。
そして、間違っても彼らが国の転覆を図るとか、悪意を持って客の人間関係を壊すなどしないよう、管理するのが、癖の強い店主達だ。
「あの人らに鍛えられれば、ある程度は教養も身に付くだろう。彼女達は最高ランクの接客嬢だが、その補佐の補佐くらいにはなれるかもねえ」
「心配しなくても、掃除も出来るようにしてくれるよ。雑巾の絞り方から、拭き方、場所の順番まできっちりとね」
「料理までは頼み込まないと無理だが、洗濯の仕方は教えてもらえる。なんとか一人暮らしが出来るようになるんじゃないかい?」
「「「……」」」
見た目での負けを認めたらしく、聖女達は茫然と座り込んでいた。
「まあ、良かったんではないかい? お前達も行き先がないから王妃になるなんて無謀な事を考えたんだろう? 就職先が決まって良かったねえ」
「「「……」」」
もう声も出ないようだ。
そんな中、ミラルファが口を挟む。
「ああ、あの人達なのね? でも、本当によろしいのかしら?」
「おや。ミラも知っていたかい」
「ええ。前に、教育不足でワガママな令嬢を預けようとしたことがありましたの。数日預かれば、大人しく聞き分けの良い子になると評判でしたから」
「そうだねえ。あれらに任せれば、あばずれと言われた子や、女を馬鹿にするクズ男も、半年で別人さね」
住民達もこれを聞いて、それはすごいと彼らに目を向ける。
「わたくしも、それを聞いて、何人か頼もうとしたのですけれど、数日で返されてしまって……まあ、大人しくはなりましたけれど」
「ああ。あの人らの躾たい子の好みは、打たれ強く、図太い奴なのさ。折れてもすぐに立ち上がると言えば聞こえは良いが……めげないおバカさんが好きでねえ」
「「ああ……なるほど……」」
ミラルファとイスリナが聖女を見下ろしながら納得する。まさに、これらのことかと。
「だから、ミラ達も、遠慮なく折りに行って良いからね。ほら、もう立ち直っているみたいだ」
「「……本当ですね……」」
「「「なによ!」」」
聖女達は、不遜げな顔をしていた。反論する気満々だ。
「ふ~ん。これを城に入れるのは嫌ですわね」
「嫌ですわねえ」
ミラルファとイスリナはコウヤに目を向けた。その意図をコウヤは正確に読み取る。
「ふふっ。良いですよ。テントを張りますね」
「「「っ……」」」
コウヤの笑みに聖女達が顔を赤らめて見惚れる。それを見て、ミラルファとイスリナが舌打ちした。
「「チッ」」
「どうしようもないねえ」
ベニは不憫な子を見る目で聖女達を見ていた。
**********
読んでくださりありがとうございます◎
「ほぼ一文無しなんだろう? なら丁度良い働き口ももらえるよ。大丈夫さね。ここのは合法。治安もそう酷くない」
「「「……はあ……?」」」
何の話かと不思議そうにする聖女達。そこで、コウヤも振り返り、セイとキイが気にしている方を見た。
「ああ……あの方達が……」
なるほどとコウヤは納得した。聖女達はベニもそちらに目を向けたことで、釣られて見る。
嬉しそうに手を振る艶やかに着飾った女性達と、ちょっとカタギではなさそうな屈強な男、細い目が鋭い光を宿す嫌味な顔をした男女など、少しばかり癖の強そうな人たちだった。
セイとキイは苦笑していた。
「こんな昼間っから出てくるような奴らじゃないんだけどねえ」
「起きて来てるのは驚いたねえ。いつもなら寝ている時間だよ」
ベニはそれを耳に入れながらも、構わず聖女達へ告げる。
「彼らは各地区にある歓楽街の店の店主でねえ」
この王都には、三つほど歓楽街が点在していた。その代表となる店主達をはじめとした店の関係者が、どうやら聖女達に投票した者達のようだ。
聖女達は、歓楽街と聞いて、顔を赤くする。
「まさかっ! 私たちを情婦にする気!?」
「私たちを何だと思っているのよ!!」
「そんないかがわしい所に行くわけないじゃない!!」
歓楽街と聞けば、真っ先にそれが頭に浮かぶだろう。だが、そればかりではないし、この王都ではしっかりと管理されている。
「何を思ったかは聞かないが、この国では、娼館に入るのには、女も男も、自身の意思がないと許されないよ? それなりの教養も必要だし、何よりも人当たりが良くないといけない。あんたらは、見た目でもう落ちるよ」
「「「……え?」」」
「見てみな」
ベニが店主達から少しズレた所から顔を見せた男女の集団を指差した。
派手な服を着ていなくても、彼らは視線を集めている。それほどまでに華やかで美しい集団だった。
『ミリカさんだっ!』
『アルトーラ姐さんっ。今日もお美しいっ』
『ブラン様っ、ああっ、素敵っ』
『『『キーラく~ぅんっ』』』
ベニ達とはまた違った人気がある。高潔で近寄りがたく感じるベニ達に対して、彼らは人当たりもよく店に行けば気軽に出会えるアイドルだ。
お酒を飲みながら、相談に乗ってくれる。望むように誘惑してくれるし、望む答えをくれる相手だ。
ベニ達は深い所に落ち込んでしまった人を自身の力で這い上がれるように導くのに対し、彼らは既にある答えを出しやすいようにし、気持ちを解放してくれる。そういった話術や教養がそこで働くには必須だった。
そして、間違っても彼らが国の転覆を図るとか、悪意を持って客の人間関係を壊すなどしないよう、管理するのが、癖の強い店主達だ。
「あの人らに鍛えられれば、ある程度は教養も身に付くだろう。彼女達は最高ランクの接客嬢だが、その補佐の補佐くらいにはなれるかもねえ」
「心配しなくても、掃除も出来るようにしてくれるよ。雑巾の絞り方から、拭き方、場所の順番まできっちりとね」
「料理までは頼み込まないと無理だが、洗濯の仕方は教えてもらえる。なんとか一人暮らしが出来るようになるんじゃないかい?」
「「「……」」」
見た目での負けを認めたらしく、聖女達は茫然と座り込んでいた。
「まあ、良かったんではないかい? お前達も行き先がないから王妃になるなんて無謀な事を考えたんだろう? 就職先が決まって良かったねえ」
「「「……」」」
もう声も出ないようだ。
そんな中、ミラルファが口を挟む。
「ああ、あの人達なのね? でも、本当によろしいのかしら?」
「おや。ミラも知っていたかい」
「ええ。前に、教育不足でワガママな令嬢を預けようとしたことがありましたの。数日預かれば、大人しく聞き分けの良い子になると評判でしたから」
「そうだねえ。あれらに任せれば、あばずれと言われた子や、女を馬鹿にするクズ男も、半年で別人さね」
住民達もこれを聞いて、それはすごいと彼らに目を向ける。
「わたくしも、それを聞いて、何人か頼もうとしたのですけれど、数日で返されてしまって……まあ、大人しくはなりましたけれど」
「ああ。あの人らの躾たい子の好みは、打たれ強く、図太い奴なのさ。折れてもすぐに立ち上がると言えば聞こえは良いが……めげないおバカさんが好きでねえ」
「「ああ……なるほど……」」
ミラルファとイスリナが聖女を見下ろしながら納得する。まさに、これらのことかと。
「だから、ミラ達も、遠慮なく折りに行って良いからね。ほら、もう立ち直っているみたいだ」
「「……本当ですね……」」
「「「なによ!」」」
聖女達は、不遜げな顔をしていた。反論する気満々だ。
「ふ~ん。これを城に入れるのは嫌ですわね」
「嫌ですわねえ」
ミラルファとイスリナはコウヤに目を向けた。その意図をコウヤは正確に読み取る。
「ふふっ。良いですよ。テントを張りますね」
「「「っ……」」」
コウヤの笑みに聖女達が顔を赤らめて見惚れる。それを見て、ミラルファとイスリナが舌打ちした。
「「チッ」」
「どうしようもないねえ」
ベニは不憫な子を見る目で聖女達を見ていた。
**********
読んでくださりありがとうございます◎
277
お気に入りに追加
11,119
あなたにおすすめの小説


【完結】魔王を倒してスキルを失ったら「用済み」と国を追放された勇者、数年後に里帰りしてみると既に祖国が滅んでいた
きなこもちこ
ファンタジー
🌟某小説投稿サイトにて月間3位(異ファン)獲得しました!
「勇者カナタよ、お前はもう用済みだ。この国から追放する」
魔王討伐後一年振りに目を覚ますと、突然王にそう告げられた。
魔王を倒したことで、俺は「勇者」のスキルを失っていた。
信頼していたパーティメンバーには蔑まれ、二度と国の土を踏まないように察知魔法までかけられた。
悔しさをバネに隣国で再起すること十数年……俺は結婚して妻子を持ち、大臣にまで昇り詰めた。
かつてのパーティメンバー達に「スキルが無くても幸せになった姿」を見せるため、里帰りした俺は……祖国の惨状を目にすることになる。
※ハピエン・善人しか書いたことのない作者が、「追放」をテーマにして実験的に書いてみた作品です。普段の作風とは異なります。
※小説家になろう、カクヨムさんで同一名義にて掲載予定です
覚悟は良いですか、お父様? ―虐げられた娘はお家乗っ取りを企んだ婿の父とその愛人の娘である異母妹をまとめて追い出す―
Erin
恋愛
【完結済・全3話】伯爵令嬢のカメリアは母が死んだ直後に、父が屋敷に連れ込んだ愛人とその子に虐げられていた。その挙句、カメリアが十六歳の成人後に継ぐ予定の伯爵家から追い出し、伯爵家の血を一滴も引かない異母妹に継がせると言い出す。後を継がないカメリアには嗜虐趣味のある男に嫁がられることになった。絶対に父たちの言いなりになりたくないカメリアは家を出て復讐することにした。7/6に最終話投稿予定。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
【完結】お花畑ヒロインの義母でした〜連座はご勘弁!可愛い息子を連れて逃亡します〜+おまけSS
himahima
恋愛
夫が少女を連れ帰ってきた日、ここは前世で読んだweb小説の世界で、私はざまぁされるお花畑ヒロインの義母に転生したと気付く。
えっ?!遅くない!!せめてくそ旦那と結婚する10年前に思い出したかった…。
ざまぁされて取り潰される男爵家の泥舟に一緒に乗る気はありませんわ!
アルファポリス恋愛ランキング入りしました!
読んでくれた皆様ありがとうございます。
連載希望のコメントをいただきましたので、
連載に向け準備中です。
*他サイトでも公開中
なろう日間総合ランキング2位に入りました!

婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ!
タヌキ汁
ファンタジー
国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。
これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。

聖女の私が追放されたらお父さんも一緒についてきちゃいました。
重田いの
ファンタジー
聖女である私が追放されたらお父さんも一緒についてきちゃいました。
あのお、私はともかくお父さんがいなくなるのは国としてマズイと思うのですが……。
よくある聖女追放ものです。

「魔道具の燃料でしかない」と言われた聖女が追い出されたので、結界は消えます
七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女ミュゼの仕事は魔道具に力を注ぐだけだ。そうして国を覆う大結界が発動している。
「ルーチェは魔道具に力を注げる上、癒やしの力まで持っている、まさに聖女だ。燃料でしかない平民のおまえとは比べようもない」
そう言われて、ミュゼは城を追い出された。
しかし城から出たことのなかったミュゼが外の世界に恐怖した結果、自力で結界を張れるようになっていた。
そしてミュゼが力を注がなくなった大結界は力を失い……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。