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第十三章
542 ぶっ飛ばしますわよ?
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ベニが聖女達の前に立つ。
すると、最後の足掻きだろう。聖女達は自分たちの所に来た花から勇気をもらったのか、口を開いた。
「私たちを選んだ人たちもいるのは確かだわっ」
「そうよっ。完全に負けているわけではないわ」
「好みなんて、人それぞれだものっ。私たちの誰かが王妃に選ばれる事もあり得ないことではないはずよっ」
ここで言い負けたら後はないと思ってか、大人しくなっていた一番年少の聖女も元気に応戦していた。
ベニ達は、そんな彼女達を見て、彼女達の後ろにある花を見て、とある住民達が居る方を見てから、気の毒な子を見るような目を聖女達へと向ける。
「そうだねえ。好みは人それぞれさね……」
「そ、そうでしょう?」
同意してもらえたと、年少の聖女がほっとした表情をする。
次にキイが答える。
「その花を贈ってくれたのは、確かにあんた達みたいなのを求めているんだろうよ」
「っ、当然よ! 求められる人って貴重だと思うわっ」
これはモノを知らない方の聖女の言葉だ。得意げな顔を見せていた。調子が出て来たようだ。
そして、セイが神妙に頷いた。
「そうだねえ。ある意味、あの人達にはあんた達が必要で、あんた達にはあの人達がきっと必要なんだよ」
「ふふんっ。それこそ、妻と夫の理想的な関係じゃない。神は必要な人を、必要な人の下に配置するものなのよ!」
年長の聖女は満足げに胸を張った。
ならばと、ベニが確認する。
「あんた達は、求められたならばそこに行くかい?」
「もちろんよ! 聖女としてもそうあるべきだもの」
「そうよ! 私たちは聖女としてあったのよ! 求めに応えるのは当然で、求められたなら、尽くすわ!」
「求められるって、大変だけど、とても崇高で素晴らしい存在だからこそのものだものっ」
得意げに胸を張る。王妃として求められたなら、自分たちはその求めにしっかりと応じると言いたいのだろう。
だから、自分たちを選ぶべきだと。
「あんた達……コウヤの母親になりたくて来たんじゃないのかい……本音は、王妃になりたくて来たってことだね」
「「「っ……」」」
図星のようだ。
「はあ……王妃になれば、聖女だった頃のような生活が出来ると考えたか。安易な考えだねえ……」
「「「……っ」」」
それを聞いて、笑いながらコウヤはそこに降り立つ。これでおしまいだろうと判断したのだ。
「ふふっ。どのみち、この国の王妃にはその人達は無理ですよ。この国は、冒険者から成った国ですからね。ミラお祖母様を知れば分かると思いますけど」
「そうだねえ。イスリナもこの前、ゴブリンキングを一人で撲殺していたからねえ。目つきが嫌だって」
「ああ。機嫌悪かったのそれでしたか」
「「「……?」」」
聖女達は何の話か分からない様子だ。そして、コウヤをマジマジと見つめている。それに気付いたイスリナがコウヤの前に立ってその視線を遮った。
「コウヤさんに変な視線を向けないでくださいね? ぶっ飛ばしますよ?」
「「「……………へ?」」」
およそ、穏やかな表情、雰囲気からは出てこないような言葉が出て思考が急停止したようだ。
実は、イスリナも元からそれなりに戦える人だ。この国の貴族の中には、そうは見えないが密かに王族に倣って冒険者としての地位を築いている者がいる。
そうした者に限って、見た目からは戦えないように思えるものだ。外からは見せないというのが基本にあるらしい。
イスリナは、そうして上手く隠していたのだ。要らぬ争いを避けるためにも、そうしたことはミラルファが盾になっていた。
しかし、リルファムも王子としての自覚を持ち、コウヤと言う兄を得たこともあり、そろそろ本領発揮しても良いだろうと思い始めた。
これにより、度々ミラルファやベニ達と外に狩りに行くということもしていたのだ。
王妃となる準備に入ったということもある。何よりも、コウヤに頼られる母親になりたかった。
「わたくし、コウヤさんをいやらしい目で見られると思うと……力が湧いてきますのよ」
「え? 俺?」
自分を嫌らしい目で見るのではなく、コウヤをと言ったのに引っかかり、コウヤはイスリナへ目を向ける。
イスリナは振り返ってコウヤの手を取ると、涙を滲ませて懇願するように告げた。
「こんなっ、こんな可愛らしくも頼もしいコウヤさんを、獲物だとか、利用価値がありそうだとか、欲しいとか……そんな目で見る人や魔獣なんて、存在すべきではないでしょう?」
「……え~っと……」
コウヤが横目で確認するのは、ジルファスの姿。唖然としていた。ジルファスも知らなかったようだ。
何気に『人』も含まれたことが怖い。
ぐんと握られた手を振られて、イスリナへと視線を戻す。
「大丈夫です! わたくし、前よりももっと強くなっていますからっ。母親として、守ってみせますわっ!」
「……はい……けど、程々に……」
「ええ、もちろん! 無理をするとコウヤさん怒るでしょう? そのうち、リルも鍛えますわ!」
「……程々に……」
「はい!」
許可も貰えて嬉しいという様子で、イスリナは改めて聖女の方を向く。
「さて、コウヤさんの母親……いえ、この国の王族になるということの意味も知らないお馬鹿さん達……少し、お話ししましょうか?」
「もちろん私もね」
「そうだね。先にミラとイスリナに揉まれておいで」
「「「っ!!」」」
ミラルファとイスリナに威圧を受け、小さくなる聖女達。
そんな彼女達からベニは離れ、コウヤの横に立つ。そこで、思い出したというようにそれを告げた。
「ああ、あの花をくれた人たちは呼んでおいてあげるよ」
「「「っ……」」」
希望を見出したという目を見せる聖女達だが、現実は、彼女達が思う程甘くはないと、未だに気付いてはいないようだ。
**********
読んでくださりありがとうございます◎
すると、最後の足掻きだろう。聖女達は自分たちの所に来た花から勇気をもらったのか、口を開いた。
「私たちを選んだ人たちもいるのは確かだわっ」
「そうよっ。完全に負けているわけではないわ」
「好みなんて、人それぞれだものっ。私たちの誰かが王妃に選ばれる事もあり得ないことではないはずよっ」
ここで言い負けたら後はないと思ってか、大人しくなっていた一番年少の聖女も元気に応戦していた。
ベニ達は、そんな彼女達を見て、彼女達の後ろにある花を見て、とある住民達が居る方を見てから、気の毒な子を見るような目を聖女達へと向ける。
「そうだねえ。好みは人それぞれさね……」
「そ、そうでしょう?」
同意してもらえたと、年少の聖女がほっとした表情をする。
次にキイが答える。
「その花を贈ってくれたのは、確かにあんた達みたいなのを求めているんだろうよ」
「っ、当然よ! 求められる人って貴重だと思うわっ」
これはモノを知らない方の聖女の言葉だ。得意げな顔を見せていた。調子が出て来たようだ。
そして、セイが神妙に頷いた。
「そうだねえ。ある意味、あの人達にはあんた達が必要で、あんた達にはあの人達がきっと必要なんだよ」
「ふふんっ。それこそ、妻と夫の理想的な関係じゃない。神は必要な人を、必要な人の下に配置するものなのよ!」
年長の聖女は満足げに胸を張った。
ならばと、ベニが確認する。
「あんた達は、求められたならばそこに行くかい?」
「もちろんよ! 聖女としてもそうあるべきだもの」
「そうよ! 私たちは聖女としてあったのよ! 求めに応えるのは当然で、求められたなら、尽くすわ!」
「求められるって、大変だけど、とても崇高で素晴らしい存在だからこそのものだものっ」
得意げに胸を張る。王妃として求められたなら、自分たちはその求めにしっかりと応じると言いたいのだろう。
だから、自分たちを選ぶべきだと。
「あんた達……コウヤの母親になりたくて来たんじゃないのかい……本音は、王妃になりたくて来たってことだね」
「「「っ……」」」
図星のようだ。
「はあ……王妃になれば、聖女だった頃のような生活が出来ると考えたか。安易な考えだねえ……」
「「「……っ」」」
それを聞いて、笑いながらコウヤはそこに降り立つ。これでおしまいだろうと判断したのだ。
「ふふっ。どのみち、この国の王妃にはその人達は無理ですよ。この国は、冒険者から成った国ですからね。ミラお祖母様を知れば分かると思いますけど」
「そうだねえ。イスリナもこの前、ゴブリンキングを一人で撲殺していたからねえ。目つきが嫌だって」
「ああ。機嫌悪かったのそれでしたか」
「「「……?」」」
聖女達は何の話か分からない様子だ。そして、コウヤをマジマジと見つめている。それに気付いたイスリナがコウヤの前に立ってその視線を遮った。
「コウヤさんに変な視線を向けないでくださいね? ぶっ飛ばしますよ?」
「「「……………へ?」」」
およそ、穏やかな表情、雰囲気からは出てこないような言葉が出て思考が急停止したようだ。
実は、イスリナも元からそれなりに戦える人だ。この国の貴族の中には、そうは見えないが密かに王族に倣って冒険者としての地位を築いている者がいる。
そうした者に限って、見た目からは戦えないように思えるものだ。外からは見せないというのが基本にあるらしい。
イスリナは、そうして上手く隠していたのだ。要らぬ争いを避けるためにも、そうしたことはミラルファが盾になっていた。
しかし、リルファムも王子としての自覚を持ち、コウヤと言う兄を得たこともあり、そろそろ本領発揮しても良いだろうと思い始めた。
これにより、度々ミラルファやベニ達と外に狩りに行くということもしていたのだ。
王妃となる準備に入ったということもある。何よりも、コウヤに頼られる母親になりたかった。
「わたくし、コウヤさんをいやらしい目で見られると思うと……力が湧いてきますのよ」
「え? 俺?」
自分を嫌らしい目で見るのではなく、コウヤをと言ったのに引っかかり、コウヤはイスリナへ目を向ける。
イスリナは振り返ってコウヤの手を取ると、涙を滲ませて懇願するように告げた。
「こんなっ、こんな可愛らしくも頼もしいコウヤさんを、獲物だとか、利用価値がありそうだとか、欲しいとか……そんな目で見る人や魔獣なんて、存在すべきではないでしょう?」
「……え~っと……」
コウヤが横目で確認するのは、ジルファスの姿。唖然としていた。ジルファスも知らなかったようだ。
何気に『人』も含まれたことが怖い。
ぐんと握られた手を振られて、イスリナへと視線を戻す。
「大丈夫です! わたくし、前よりももっと強くなっていますからっ。母親として、守ってみせますわっ!」
「……はい……けど、程々に……」
「ええ、もちろん! 無理をするとコウヤさん怒るでしょう? そのうち、リルも鍛えますわ!」
「……程々に……」
「はい!」
許可も貰えて嬉しいという様子で、イスリナは改めて聖女の方を向く。
「さて、コウヤさんの母親……いえ、この国の王族になるということの意味も知らないお馬鹿さん達……少し、お話ししましょうか?」
「もちろん私もね」
「そうだね。先にミラとイスリナに揉まれておいで」
「「「っ!!」」」
ミラルファとイスリナに威圧を受け、小さくなる聖女達。
そんな彼女達からベニは離れ、コウヤの横に立つ。そこで、思い出したというようにそれを告げた。
「ああ、あの花をくれた人たちは呼んでおいてあげるよ」
「「「っ……」」」
希望を見出したという目を見せる聖女達だが、現実は、彼女達が思う程甘くはないと、未だに気付いてはいないようだ。
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