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第十三章
535 もはや毒だよな……
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料理長が作り上げたのは、野営中でも食べられる紙で包まれた、たっぷりのチキンや魚とサラダのサンドとチキンコンソメの入ったトマトのスープだった。
「どうぞ」
「「「「「っ、!」」」」」
ただでさえ、聖女達の酷い料理とも言えない料理を見た後だ。審査する司教達の目には、その料理が一層輝いて見えた。
いつの間にか、城壁に用意されていたスクリーンには、それらの料理が大きく映し出されており、住民達は感想を言い合った。
「ちょっ……え……本気なの? あんなの……囚人の罰のための食事だと言われた方が納得できるわ……」
「まあ、その通りなんじゃねえ?」
「あんなん、食べたくない……」
「一口で腹壊しそうだな……」
「あれ、あの人たち食べるの……」
「流石に可哀想……」
最初に映った聖女の料理を見て誰もが顔を顰めた。子どもでさえ食べたいとは思えないようだ。
そして、次に映された料理に目を輝かせ、思わず歓声を上げる。
「っ、すごいっ、美味しそうっ!」
「宮廷の難しそうなやつじゃないんだ~。いいな~」
「絶対に美味しいやつ!!」
「食べたいっ! お母さんっ。アレ! あれ食べたい!」
「本当に美味しそうね……それにきれい……」
二種類あるサンドは、野菜の緑や赤、その中に食欲を誘う茶色のプリプリしているのが分かるチキンかふっくらした白身魚のムニエルが入っている。配色は完璧だ。
それが手で持って食べられるよう紙で包まれている。宮廷料理ではないが、だからこそ、住民達には羨ましく見えた。
そして、野菜が均一の大きさで揃えられて入っている赤く美しいトマトのスープ。真ん中に小さなルッコラのような葉が、双葉を作っているのが可愛らしい。
それもお皿ではなくマグカップのような少し大きなコップに入っているのが更に可愛らしく見せていた。
「夜営の時に食べられたら感動するやつ……っ」
「あれ……教会の食堂で作ってくれないかなあ」
「それだったら絶対食べるっ」
「お願いしようよっ。神官様にっ」
「うんっ。私も一緒に頼むっ」
「俺もっ」
神官達ならば、きっと希望に応えてくれるだろうと王都の住民達は確信していた。
「ねえ、おかあさん……あの人たち……ほんとうにあれをたべるの?」
「……そ、そうね……」
「お嬢ちゃん。あの人達は、悪いことしてた人達なんだよ?」
「そうなの? なら……う~ん……」
「嫌な奴らだけど……アレはなあ……」
さすがに酷すぎると誰もが少しは思っていた。
「あっ、けど、自分たちで治療できるんじゃない?」
「あっ」
「そうだよっ」
「だって、司教だったんだもんなっ。神教会のっ」
じゃあいいかと納得し始める住民達。しかし、考えていて気付いた。
「ねえ……神官様達ほどは無理だとは思うけど……どれくらいの力なのかしら……」
「……やべえ……無理そう……」
「「「「「……あ~……」」」」」
満足に治療できる力がないのではないかと気付いたのだ。散々、神教会では思ったほどの治療を受けられずに不満を持っていたことを思い出した。
「神官様達を基準にしちゃダメだよな……」
「治癒魔法の凄さ、今は知ってるけど……あの人達に出来るとは思えないよね……」
「ってことは……死ぬな」
「あそこまで不味そうだと、もはや毒だよな……」
間違いなく体に悪そうなのだから、毒と言っても過言ではないだろう。
『ちょっと。私たちの方が早く出来たんだから、先に食べなさいよねっ』
『って言うか、食べなくても私たちの作った方が良いでしょう?』
『こっちの方がって言うだけじゃない。まったく……これだから……グズが』
「「「「「……」」」」」
「あのお姉さんたち……せいかくわるいね」
「聞こえてるって知らないんだな……」
「……バカだな……」
声を拾う感度もバッチリだった。お陰でどんどん好感度は下がっていく。初めからないに等しい好感度だ。下がった所でどうということはないが、住民達の目には、もう完全に理解できない生き物として映っていた。
そこでジルファスが提案する。
『先に作った者も食べるべきだろう。特別に、味の確認をしようではないか。ついでにどこに拘ったかなども教えてくれ』
『承知しました!』
『『『え……』』』
聖女達は改めて自分たちの料理を見て、そして、宮廷料理人の作ったものと見比べる。
『え……食べるならあっちの方が……』
『なによっ。ステーキの方が良いに決まってるじゃないっ。あんなの、どうやって食べるのよ』
『そのまま齧るんじゃない? 野蛮よね』
料理長は、さっさと自分の作った料理に齧り付いた。
『んっ。理想通りの味です。ソースは肉の方が甘辛に、魚の方はサッパリとした果汁の入ったソースを使っています。野菜も薄くスライスしたものや葉物を使っていますのでシャキシャキと瑞々しい食感を楽しんでいただけます』
そして、スープも一口。野菜がそれ程大きくないため、そのまま口にコロコロと入ってくるようだ。食べ応えもありそうだった。
『っ、こちらは少しピリ辛にしてあります。野菜はきちんと形と食感が残るよう煮詰める時間を計算しました。小さめに揃えたので、それほど煮詰めなくても中まで味が染みています』
「「「「「っ、いいな~」」」」」
住民達はゴクリと唾を飲み込んでいた。
『ちなみに、こちらはコウヤ様のレシピを参考にさせていただきました!』
「絶対に美味しいやつじゃんっ!」
「間違いない!!」
「さすがコウヤ!」
「やっぱ最高!」
コウヤのレシピだと知れただけで喝采が上がる。これに、聖女達は動揺していた。
『え? なに?』
『なんで盛り上がっているのかしら……』
『わけわかんない……っていうか……誰が食べるの?』
『『『……』』』
食べないわけにはいかない雰囲気だ。聖女達はまた改めて自分達の料理を見つめた。
***********
読んでくださりありがとうございます◎
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「「「「「っ、!」」」」」
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いつの間にか、城壁に用意されていたスクリーンには、それらの料理が大きく映し出されており、住民達は感想を言い合った。
「ちょっ……え……本気なの? あんなの……囚人の罰のための食事だと言われた方が納得できるわ……」
「まあ、その通りなんじゃねえ?」
「あんなん、食べたくない……」
「一口で腹壊しそうだな……」
「あれ、あの人たち食べるの……」
「流石に可哀想……」
最初に映った聖女の料理を見て誰もが顔を顰めた。子どもでさえ食べたいとは思えないようだ。
そして、次に映された料理に目を輝かせ、思わず歓声を上げる。
「っ、すごいっ、美味しそうっ!」
「宮廷の難しそうなやつじゃないんだ~。いいな~」
「絶対に美味しいやつ!!」
「食べたいっ! お母さんっ。アレ! あれ食べたい!」
「本当に美味しそうね……それにきれい……」
二種類あるサンドは、野菜の緑や赤、その中に食欲を誘う茶色のプリプリしているのが分かるチキンかふっくらした白身魚のムニエルが入っている。配色は完璧だ。
それが手で持って食べられるよう紙で包まれている。宮廷料理ではないが、だからこそ、住民達には羨ましく見えた。
そして、野菜が均一の大きさで揃えられて入っている赤く美しいトマトのスープ。真ん中に小さなルッコラのような葉が、双葉を作っているのが可愛らしい。
それもお皿ではなくマグカップのような少し大きなコップに入っているのが更に可愛らしく見せていた。
「夜営の時に食べられたら感動するやつ……っ」
「あれ……教会の食堂で作ってくれないかなあ」
「それだったら絶対食べるっ」
「お願いしようよっ。神官様にっ」
「うんっ。私も一緒に頼むっ」
「俺もっ」
神官達ならば、きっと希望に応えてくれるだろうと王都の住民達は確信していた。
「ねえ、おかあさん……あの人たち……ほんとうにあれをたべるの?」
「……そ、そうね……」
「お嬢ちゃん。あの人達は、悪いことしてた人達なんだよ?」
「そうなの? なら……う~ん……」
「嫌な奴らだけど……アレはなあ……」
さすがに酷すぎると誰もが少しは思っていた。
「あっ、けど、自分たちで治療できるんじゃない?」
「あっ」
「そうだよっ」
「だって、司教だったんだもんなっ。神教会のっ」
じゃあいいかと納得し始める住民達。しかし、考えていて気付いた。
「ねえ……神官様達ほどは無理だとは思うけど……どれくらいの力なのかしら……」
「……やべえ……無理そう……」
「「「「「……あ~……」」」」」
満足に治療できる力がないのではないかと気付いたのだ。散々、神教会では思ったほどの治療を受けられずに不満を持っていたことを思い出した。
「神官様達を基準にしちゃダメだよな……」
「治癒魔法の凄さ、今は知ってるけど……あの人達に出来るとは思えないよね……」
「ってことは……死ぬな」
「あそこまで不味そうだと、もはや毒だよな……」
間違いなく体に悪そうなのだから、毒と言っても過言ではないだろう。
『ちょっと。私たちの方が早く出来たんだから、先に食べなさいよねっ』
『って言うか、食べなくても私たちの作った方が良いでしょう?』
『こっちの方がって言うだけじゃない。まったく……これだから……グズが』
「「「「「……」」」」」
「あのお姉さんたち……せいかくわるいね」
「聞こえてるって知らないんだな……」
「……バカだな……」
声を拾う感度もバッチリだった。お陰でどんどん好感度は下がっていく。初めからないに等しい好感度だ。下がった所でどうということはないが、住民達の目には、もう完全に理解できない生き物として映っていた。
そこでジルファスが提案する。
『先に作った者も食べるべきだろう。特別に、味の確認をしようではないか。ついでにどこに拘ったかなども教えてくれ』
『承知しました!』
『『『え……』』』
聖女達は改めて自分たちの料理を見て、そして、宮廷料理人の作ったものと見比べる。
『え……食べるならあっちの方が……』
『なによっ。ステーキの方が良いに決まってるじゃないっ。あんなの、どうやって食べるのよ』
『そのまま齧るんじゃない? 野蛮よね』
料理長は、さっさと自分の作った料理に齧り付いた。
『んっ。理想通りの味です。ソースは肉の方が甘辛に、魚の方はサッパリとした果汁の入ったソースを使っています。野菜も薄くスライスしたものや葉物を使っていますのでシャキシャキと瑞々しい食感を楽しんでいただけます』
そして、スープも一口。野菜がそれ程大きくないため、そのまま口にコロコロと入ってくるようだ。食べ応えもありそうだった。
『っ、こちらは少しピリ辛にしてあります。野菜はきちんと形と食感が残るよう煮詰める時間を計算しました。小さめに揃えたので、それほど煮詰めなくても中まで味が染みています』
「「「「「っ、いいな~」」」」」
住民達はゴクリと唾を飲み込んでいた。
『ちなみに、こちらはコウヤ様のレシピを参考にさせていただきました!』
「絶対に美味しいやつじゃんっ!」
「間違いない!!」
「さすがコウヤ!」
「やっぱ最高!」
コウヤのレシピだと知れただけで喝采が上がる。これに、聖女達は動揺していた。
『え? なに?』
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