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第十三章

536 薬を

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コウヤとアビリス王の二人でついているテーブルの端には、テレビ画面があった。

そこには、住民達にも見えるように壁に映し出されているものと同じ映像が映っている。大きさはインチで言えば32だろうか。

アビリス王は聖女達の料理を見て、片頬を痙攣けいれんさせていた。

「あれは……食べたくないなあ……」

見た目がとにかく悪すぎる。

コウヤは目を細めて冷静に分析する。食べた時の影響についてを主にだ。

「そうですねえ……ステーキの方……アレは生ではダメなやつです。かなりの腹痛になりますね。それとスープ? の方は……煮込むとエグ味が出る葉物野菜が二種類……それに、下処理をしないと酸味が滲み出る根菜まで……どんな味なんでしょう……」
「……食べない方がいい……」

アビリス王は、興味深げにコウヤが見ている事に気付き、一応は忠告しておく。

これにコウヤは少し笑いながら答えた。

「ええ。大丈夫ですよ。さすがに味見もしたくないです。味はともかく、どうなるかは予想できました。あそこまでアクが出ているのは、恐らく食べると味覚が二、三日おかしくなります」
「……もはや毒だな……」
「そういう毒ありますよね~」
「……作れてしまうのはすごいな。というか、危険だな……」
「毒を作っているという自覚がないのは危ないですね」

もちろん、自覚していたらしていたで良くないが、自覚がないのは困ることになる。

「仮にも聖女と名乗っている人が作った物がコレというのは、敬虔な信者さん達が可哀想なことになりますか」
「……良かったな……あの教会が炊き出しなどする所ではなくて……」
「あははっ。その時は呪いだっ、とか言って誤魔化したでしょうね。それと、治療費の回収が酷くなりそうです」
「……本当にロクな奴らではないな……」
「まったくです」

自分たちの起こしたことで治療が必要になっても、彼らなら問答無用でそれはそれ、これはこれと治療費をふっかけただろうと容易に予想できた。

「で? アレをあれらが食べるのか……」
「でも、食べないとヤバさが伝わらないですからね。犠牲はやむを得ないかと」
「……コウヤは時々、容赦ないな……」
「死なないようにフォローはしますよ? パックン、ダンゴ、テンキ」

そうして、コウヤは少し離れた所で本来の姿のまま待機していたパックン達を呼んだ。パックンにこの後必要になる物を教え、ニールへの伝言を頼む。ニールは、ジルファスの側で警戒に当たっている。聖女達に対して、隙あらば斬る構えではあるが、今の所は静かに控えていた。

テンキにはジルファスへの伝言を頼み、ダンゴに薬を持たせた。

「頼んだよ」


表には見えない場所から三匹は飛び降り、人化してジルファスの下へ向かう。

先ずはパックンが一抱えできる箱を二つ審査員として座る司教達の前のテーブルに置いた。その上部には片手を入れられる丸い穴がある。くじ引き用のボックスだ。

パックンは司教達と聖女達に片手で掴める大きさのボールを一つずつ手渡す。

《自分の名を告げながら魔力を込めてくれる?》
「「「「「……?」」」」」
「「「っ……え」」」

興味が勝り、言われた通りにした彼らは、手の中にあったボールに名が刻まれたのを確認した。

《はい。じゃあ、おじさん達のはこっちの箱に。お姉さん達のはこっちの箱に入れて》

パックンがちゃっちゃと回収してそれぞれの箱にボールを入れてしまう。

それを確認したジルファスが説明のために口を開いた。

「では、これよりこちらから一名、審査員の方から二名、試食する者を選出する」
「「「「「えっ!?」」」」」
「「「は?」」」

戸惑う者達など気にせず、ジルファスはボールを引いた。

「この三人で試食を」
「「「っ!!」」」

聖女の一名は、一番年下の女だった。因みに、一番年上の者は三人の中では多少は物を知っている。野菜に種があるとか肉は何の肉なのかと口にしていたのが一番上だ。

真ん中は大雑把に肉は肉とか、焼けば良いとか口にしていた。一番下はそんな二人の言葉に流されやすい優柔不断な所のある女だった。

そんな女は、実は一番まともな感性を持っていた。

「ちょっ、こ、こんなの食べられないわよっ。というか、審査はどうするのよ! この二人だけしか食べないって、おかしいじゃないっ」

そんな彼女の意見はもっともだが、ジルファスは取り合わない。この後の事態は既に予想できているのだ。審査員はもうほぼ関係なくなる。

「気にしなくていい。早く食べて見せなさい。それとも、負けを認めるか?」
「っ!! そ、そんなの……」

プライドが許さないだろう。ここまで注目されているのに、負けを認めるなんてことは、彼女達にはできない。

「では、食べなさい」
「っ、わ、わかったわよ! 絶対に私たちの方が良いんだからっ。わかったわね、あなた達も!」
「「っ……っ!」」

涙目になっている二人の選ばれた審査員。顔は既に真っ白だ。

「肉からでもスープからでも、好きにしろ」

それは、ジルファスのほんの少しの優しさだった。メインのステーキ(?)から食べなくても良いという優しさだ。

審査員の二人は、それに気付いた。だから、迷わずスープを選ぶ。そして、若干震える手でスプーンを持ち、一口飲み込んだ。

「「っ、ぐひっ!?」」
「ぐひ?」

料理を食べて、出るような声ではないものが二人の口から出た。ジルファスは顔を顰めながら同情するように二人の顔を覗き込む。

しかし、最初から白すぎて、状態の変化が分からなかった。なので、確認した。

「……味はどうだ……?」
「っ、すっ、すっぱ……にがっ……ぐふっ」
「っ、へんっ、舌がっ、変にっ……うげっ」
「……肉はどうする……」

ジルファスはこんな状態の二人に、更に肉の方も食べろとはとても言えなかった。

「むひれす~っ」
「ひびれっ、ひびれれっ……ひうっ」
「……この二人に薬を」
《はいは~い。三十分以内には、落ち着くからね》

ダンゴがコウヤから預かった薬を二人に飲ませた。しばらくすれば回復するが、衝撃が強すぎて意識が朦朧もうろうとしているようだ。

この二人はもう使えない。

そして、聖女はといえば、勇んでステーキを口にして気持ち悪さと、徐々にやってきた強烈な腹痛で倒れそうになっていた。

「ううっ……まずいっ……水っ、うっ、痛いっ、お腹が痛いっ」
「……すごい即効性だな……ああ、そうだ。聖女だったか? ならば、治療してやってはどうだ?」
「「っ、む、むりです……」」
「自分では?」
「っ、こんなの治せるわけないじゃぁぁぁんっ」
「……」

無能を自白した。

「「「「「……」」」」」

住民達の白い目が彼女達に突き刺さるが、気付いていない。

「……はあ……こちらも薬を」
《は~い。コレ飲んで、三十分くらいおトイレに篭ってたら治るから、頑張って》
「っ、え? お、おトイレ? っ、ううっ、痛いっ、あっ、と、トイレっ、トイレどこっ!?」
《公衆用のが近いよ。あそこ。ほら、ついて行ってあげるからね》
「ううっ、うわぁぁぁんっ、痛いよぉぉぉっ」

泣きながらダンゴに抱えられてトイレに駆け込んで行った。

それを呆然と見送った二人の聖女達に、ジルファスは尋ねる。

「食べるかい?」
「「っ、っ、っ! いいえっ」」

必死の形相で首を横に振り、小さくなっていた。










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読んでくださりありがとうございます◎

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