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第十三章
521 すぐに踏破を!!
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迷宮の光る魔獣の秘密を知るという驚きはあったが、その後も順調に迷宮を回っていく。
そんな中、どうしても気になることがあると、次の階層への階段での休憩中、コウヤは首を傾げていた。
「う~ん。この階層……セーフティーゾーンがあるはずなんですよね……」
コウヤの世界管理者権限によって、今の階層の地図はわかっている。だから、どこにそのセーフティーゾーンがあるのかはわかっているのだが、それを冒険者が探し当てられなかった事を不思議に思っていた。
階層の広さは、それぞれだ。だが、ある一定の大きさを超えれば、必ずセーフティーゾーンがあるというのが決まり事だった。だが、どうやらその階層の広さを冒険者達は取り違えている可能性がある。
何度もこの迷宮を訪れたことがあるロインがヒリタと顔を見合わせた。
「え? でも、この階層、すごく狭いぞ? なあ」
「うん。それに、魔獣も二種類しか……」
どうやら、コウヤの予想は当たっていたらしい。この階層、半分以上が未踏破になっていたのだ。
これを聞いて、マイルズが資料を確認する。
「っ、二種類……? 五種類確認されていましたよね? 確かに、目撃情報は少なく、上下の階層と同じような種類の魔獣がいるから、氾濫の予兆かもと調査が入って……まさかっ」
階層を跨いでくる魔獣はいない。これは絶対のルールだ。それがあるのは、氾濫の時だけであり、明確に氾濫の予兆だと分かるようにしている。
「上下の階層に出る同種の魔獣であっても、必ずその階層独自の個体種であるはずです。稀に見る一体ずつのため、変異種だと判断されているようですが……」
「それが、本来のこの階層に存在する魔獣……確かに、群れで存在しそうな種類です。それが一体だけ漏れてくる? なら、この階層……大きく未踏破の部分がある可能性が?」
マイルズは、その可能性に気付いた。
「そうですね。これは少し困ります……午後からの研修の前に、大規模討伐の依頼を出しましょう。早い方が良いです。途中の階層での未踏破部分が多いと、氾濫の危険が増しますから」
精霊達の不満にも繋がる。どうしてここをそのまま素通りするのかという不満だ。隠し部屋や隠し通路などが残っているのは良い。どうだ、見つからないだろうという楽しみ方をするからだ。
だが、完全に半分以上が未踏破では違う。なんで気付かないのかと不満が溜まり、結果、その場所だけで氾濫の危険度を増していく。
そこで、グラムがコウヤへと質問する。
「なあ、コウヤはどうやってここが……この階層にセーフティーゾーンがあると思ったんだ?」
コウヤとしては、階層地図で丸分かりなのだが、それを口にする必要はない。
しっかりとこれは分かりやすいように精霊からのメッセージがあるのだ。どうやら、それは知られていないらしい。
ユースールでは、コウヤがギルド職員になった時には、未踏破の迷宮の管理はなかった。だから、この見分け方法は教える機会がなかったのだ。
それを冒険者達が知らないということさえ、コウヤは知らなかったというのが正しい。
そして、これもこの迷宮の棚卸しで確認すべきことだったなと思い出す。コウヤとしては当たり前過ぎる情報だったのだ。
「あれ? ああ、実は、この階段の所で分かるんですよ。ほら、この一番下の階段の側面を見てください」
「ん?」
みんなで身を屈めて、一番下の階段の側面を見る。
「そこに、丸い石が埋まっているでしょう?」
「ああ……光石だよな? 灯り取りのだろ?」
「ええ。橙色のは、これが次の階層へ向かう為の階段であるという証で、その横に白い石があるでしょう?」
「ああ」
「それがこの階層にあるセーフティーゾーンの数です。この階段の一番上にも同じ石があるのが見えますよね」
次の階層の入り口である階段の一番上の側面にも、同じく橙色の石と白い石が三つ、並んでいた。
「次の階層にあるセーフティーゾーンは三つということです。そして、この階層には、二つあります」
最下段には、白い石が二つ並んでいた。
「そんな見分け方が……いや、二つ? 二つもあるセーフティーゾーンが見つかってない? それって……」
グラムが青い顔になり、続いてその事実の危険性に気付くセクタ。
「おいおいっ……セーフティーゾーンが二つもあるほどの広さが未踏破ってことか? やべえだろ……っ」
「ヤバいですよ? それも次の階層以降も踏破できてますし、それに……ほら、この階層で確認できた魔獣の総数を見てください」
コウヤが記録紙を掲げて指を差す。
全員がそれを確認すると、揃って顔を青くした。
「え? ちょっ、た、確かに、その前からの階層ごとの総数と比べて……え? 一割? 二割? 狭い階層だからこれくらいだと……っ」
「狭くないなら……これは異常ですよね? 少なすぎますよね? そ、その八割が……未踏破部分に……っ」
「群れだと増えるのは当たり前ですからね~。はぐれものがいるのも当たり前ですよね~」
コウヤがうんうんと頷いて当たり前の事と告げれば、もう誰も平静ではいられなかった。
「ちょっ! ヤバいっ!」
「ヤバいですよね!? こ、こんなのんびりっ」
「無理無理無理っ。すぐにっ、すぐに踏破を!!」
大爆発目前の爆弾の横に居るようなものなのだ。それは慌てるだろう。
だか、コウヤは冷静だ。
「大丈夫ですよ? 今までも、保っているのは、きちんと定期的にボスを狩っているからです。爆発寸前の不満も、それなりにボスを倒しているなら、落ち着きますから。まあ……溜まってはいるでしょうけど」
未踏破の場所であっても、一度出現させた魔獣や魔物は、消さないというのが、精霊達のルール。よって、不満のために出しまくっている分は溜まりまくっていた。
「なので、今日もボスまできっちりいきましょう。もちろん調査もきちんとするんですよ? あっ、このセーフティーゾーンの数の照会もしていってください。まさか知られていないとは思わなかったのですみません。さあ、残り十階と少し。頑張りましょう!」
「「「「「っ……はい……」」」」」
爆弾をそのままにする怖さから、全員が涙目だが、コウヤがやると言ったらやる事を先ずやるしかない。
それ以降は、それまでよりも真剣に、神経を研ぎ澄ませ、高い集中力でもって進んだ。
全員気持ちは同じ。時間はかけていられないと意気込んでいたのだ。
**********
読んでくださりありがとうございます◎
そんな中、どうしても気になることがあると、次の階層への階段での休憩中、コウヤは首を傾げていた。
「う~ん。この階層……セーフティーゾーンがあるはずなんですよね……」
コウヤの世界管理者権限によって、今の階層の地図はわかっている。だから、どこにそのセーフティーゾーンがあるのかはわかっているのだが、それを冒険者が探し当てられなかった事を不思議に思っていた。
階層の広さは、それぞれだ。だが、ある一定の大きさを超えれば、必ずセーフティーゾーンがあるというのが決まり事だった。だが、どうやらその階層の広さを冒険者達は取り違えている可能性がある。
何度もこの迷宮を訪れたことがあるロインがヒリタと顔を見合わせた。
「え? でも、この階層、すごく狭いぞ? なあ」
「うん。それに、魔獣も二種類しか……」
どうやら、コウヤの予想は当たっていたらしい。この階層、半分以上が未踏破になっていたのだ。
これを聞いて、マイルズが資料を確認する。
「っ、二種類……? 五種類確認されていましたよね? 確かに、目撃情報は少なく、上下の階層と同じような種類の魔獣がいるから、氾濫の予兆かもと調査が入って……まさかっ」
階層を跨いでくる魔獣はいない。これは絶対のルールだ。それがあるのは、氾濫の時だけであり、明確に氾濫の予兆だと分かるようにしている。
「上下の階層に出る同種の魔獣であっても、必ずその階層独自の個体種であるはずです。稀に見る一体ずつのため、変異種だと判断されているようですが……」
「それが、本来のこの階層に存在する魔獣……確かに、群れで存在しそうな種類です。それが一体だけ漏れてくる? なら、この階層……大きく未踏破の部分がある可能性が?」
マイルズは、その可能性に気付いた。
「そうですね。これは少し困ります……午後からの研修の前に、大規模討伐の依頼を出しましょう。早い方が良いです。途中の階層での未踏破部分が多いと、氾濫の危険が増しますから」
精霊達の不満にも繋がる。どうしてここをそのまま素通りするのかという不満だ。隠し部屋や隠し通路などが残っているのは良い。どうだ、見つからないだろうという楽しみ方をするからだ。
だが、完全に半分以上が未踏破では違う。なんで気付かないのかと不満が溜まり、結果、その場所だけで氾濫の危険度を増していく。
そこで、グラムがコウヤへと質問する。
「なあ、コウヤはどうやってここが……この階層にセーフティーゾーンがあると思ったんだ?」
コウヤとしては、階層地図で丸分かりなのだが、それを口にする必要はない。
しっかりとこれは分かりやすいように精霊からのメッセージがあるのだ。どうやら、それは知られていないらしい。
ユースールでは、コウヤがギルド職員になった時には、未踏破の迷宮の管理はなかった。だから、この見分け方法は教える機会がなかったのだ。
それを冒険者達が知らないということさえ、コウヤは知らなかったというのが正しい。
そして、これもこの迷宮の棚卸しで確認すべきことだったなと思い出す。コウヤとしては当たり前過ぎる情報だったのだ。
「あれ? ああ、実は、この階段の所で分かるんですよ。ほら、この一番下の階段の側面を見てください」
「ん?」
みんなで身を屈めて、一番下の階段の側面を見る。
「そこに、丸い石が埋まっているでしょう?」
「ああ……光石だよな? 灯り取りのだろ?」
「ええ。橙色のは、これが次の階層へ向かう為の階段であるという証で、その横に白い石があるでしょう?」
「ああ」
「それがこの階層にあるセーフティーゾーンの数です。この階段の一番上にも同じ石があるのが見えますよね」
次の階層の入り口である階段の一番上の側面にも、同じく橙色の石と白い石が三つ、並んでいた。
「次の階層にあるセーフティーゾーンは三つということです。そして、この階層には、二つあります」
最下段には、白い石が二つ並んでいた。
「そんな見分け方が……いや、二つ? 二つもあるセーフティーゾーンが見つかってない? それって……」
グラムが青い顔になり、続いてその事実の危険性に気付くセクタ。
「おいおいっ……セーフティーゾーンが二つもあるほどの広さが未踏破ってことか? やべえだろ……っ」
「ヤバいですよ? それも次の階層以降も踏破できてますし、それに……ほら、この階層で確認できた魔獣の総数を見てください」
コウヤが記録紙を掲げて指を差す。
全員がそれを確認すると、揃って顔を青くした。
「え? ちょっ、た、確かに、その前からの階層ごとの総数と比べて……え? 一割? 二割? 狭い階層だからこれくらいだと……っ」
「狭くないなら……これは異常ですよね? 少なすぎますよね? そ、その八割が……未踏破部分に……っ」
「群れだと増えるのは当たり前ですからね~。はぐれものがいるのも当たり前ですよね~」
コウヤがうんうんと頷いて当たり前の事と告げれば、もう誰も平静ではいられなかった。
「ちょっ! ヤバいっ!」
「ヤバいですよね!? こ、こんなのんびりっ」
「無理無理無理っ。すぐにっ、すぐに踏破を!!」
大爆発目前の爆弾の横に居るようなものなのだ。それは慌てるだろう。
だか、コウヤは冷静だ。
「大丈夫ですよ? 今までも、保っているのは、きちんと定期的にボスを狩っているからです。爆発寸前の不満も、それなりにボスを倒しているなら、落ち着きますから。まあ……溜まってはいるでしょうけど」
未踏破の場所であっても、一度出現させた魔獣や魔物は、消さないというのが、精霊達のルール。よって、不満のために出しまくっている分は溜まりまくっていた。
「なので、今日もボスまできっちりいきましょう。もちろん調査もきちんとするんですよ? あっ、このセーフティーゾーンの数の照会もしていってください。まさか知られていないとは思わなかったのですみません。さあ、残り十階と少し。頑張りましょう!」
「「「「「っ……はい……」」」」」
爆弾をそのままにする怖さから、全員が涙目だが、コウヤがやると言ったらやる事を先ずやるしかない。
それ以降は、それまでよりも真剣に、神経を研ぎ澄ませ、高い集中力でもって進んだ。
全員気持ちは同じ。時間はかけていられないと意気込んでいたのだ。
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