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第十二章
495 集まっちゃうんですよね〜
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いよいよお披露目が三日後となり、多くの国からの王族がやって来た。更には、近隣の町からも一般の人が大勢この王都に集まって来ている。
王子のお披露目式があることは、この国全てに通達済み。コウヤだとは知られていないが、第二王妃が仕掛けた継承争いのゴタゴタに巻き込まれた末に、次期国王である第一王子、ジルファスと恋仲になった聖女が神教国からも逃げながら産み育てた王子が見つかったということで、かなりの話題になっている。
吟遊詩人はこぞってこれを美しい恋物語として語り、次期国王となるジルファスの人気も、今やかなりのものだ。
「王都全域、異常なし! 引き続き、警備体制を強化して参ります!」
「よろしい。これを各団長に渡してくれ」
「はっ!」
人が集まるのだ。犯罪や問題も発生しやすくなる。そのため、城だけでなく、町にも警備が必要だった。
ここ数日は、騎士団の全てが一つとなって警備に当たっている。
王の執務室には、次期国王となるジルファスだけでなく、宰相のベルナディオや、軍部の長もこの部屋に詰めて仕事をしている。
そこにコウヤも居た。お披露目式のための準備は整っており、ようやく机仕事が出来る落ち着きが出て来たのだ。
また一人、伝令の騎士が入って来る。先ほどは軍部の長への報告だったが、今度はコウヤの所へと真っ直ぐやって来た。
「報告致します! 冒険者ギルド職員より、こちらをお預かり致しました」
「ありがとうございます」
コウヤは十数枚はありそうな紙の束を手渡される。
「お返事もいただきたいと申しておりました。いただけるまで待つとのことです。使者の方は、控え室にご案内しております」
「分かりました。そのまま少し待っていてもらってください」
「はっ! 失礼致します!」
後で返事を持って行くと言っても、待つと言うだろう。これまでもそうだったのだ。城に滞在するようになった初めの頃は、待たせる事が心苦しくもあったコウヤだが、最近はようやく負担に思うこともなくなってきた。
上の立場ならば慣れろと周りに言われたのだ。それに、待っている方も、そこで束の間の休息が得られる。とはいえ、急ぐことはする。
コウヤは報告書を開いて確認していく。
そこに、ニールが甘めの香りがする紅茶を淹れて持って来た。
「何か問題でもありましたか?」
「う~ん。ほら、人が増えてるでしょ? そうすると、冒険者って動きにくくなるんだよ」
これに、ベルナディオが首を傾げて見せる。
「そうなのですか? 逆に活気付きそうなものですが……」
「私もそう思います……」
ニールも同意見。そして、聞いていたジルファスやアビリス王も頷いていてコウヤに答えを求めて視線を向ける。
「こういう時って、当然、一般の人だけじゃなく、冒険者も増えるんです。何やるのかも分からなくても何でか集まっちゃうんですよね~」
集まりたくて集まっているわけではない場合もある。そうした時、何があるのだろうと、人が移動する方に自然に向かってしまうのだ。
「冒険者が多くなれば、狩場がかぶりやすくなったり、受けられる依頼がなくなったりして、どうしてもあぶれるようになります」
依頼の数も無限ではない。受けやすい依頼は当然すぐになくなるし、難しい依頼は遠出したり、日にちが掛かったりする。ゆっくり腰を据えてその場所で生活すると決めない限り、そういった面倒な依頼は受けないものだ。
「そうすると、人の流れが止まってしまうんですよ。動くと目立つ冒険者達の活動が停まると、一般の人の動きも停まりがちになってしまって。集団心理って、怖いんですよね……」
人が増えると、他の人と同じように動くようになり、動かなくなる。
ジルファスの近衛騎士の一人が少し考えるように宙に視線を投げながら口を開く。
「人が集まると言うと……ドラム組が出て来る時みたいな感じですよね? その時は、問題なさそうでしたが? コウヤ様……まさか……」
「何かコウヤ様がやってるんですか?」
他の近衛騎士も察して尋ねる。
「みんなで見ものに回ってもらっては困りますからね。だから、屋台部隊を出してもらっていたんです。少しでもお金を動かしてもらいたくて」
一人でも屋台で買い物すれば、周りもそれに倣う。
「そのお金を稼いでもらうために、依頼の一つを分けて二つにしたり、三つにしたりするんです。報酬が安くなっても、その安い値段で屋台のものが買えるので、達成感も充分にあります」
普段よりも報酬が少なくても、それで充分なものが買えれば満足してくれる。
「あと……普段は人気のない依頼を、ゲーム感覚で、冒険者になりたい子ども達に教えながらやってもらうんです」
そう説明しながら、それらを指示できるよう書き付けていく。
「これが、とっても大人気でっ。子ども達の人気ものになれますからねっ」
いつもは強面なせいで子ども達が近付かない冒険者も、『おじちゃん、おじちゃん』と子ども達が目を輝かせて手を引いてくるのだ。それがとっても嬉しいらしい。
「よしっ。フレスタ、これを控え室で待っている冒険者ギルドの職員に渡してください。それから、こっちを商業ギルドに。ディスタはこれを、教会のベニ大司教にお願いします。もちろん、護衛はつけてくださいね」
「「承知しました!」」
二人は、体力を付けることを当面の目標としているため、こうして常にどこかに走っていく仕事をしている。
「急がなくて良いですからね~」
「「はいっ」」
まだまだ切迫した問題にはなっていない。よって、この対応も今からでも充分に間に合う。
何より、近衛師団の冒険者達が問題を起こす原因になる他所から来た冒険者達の相手もしてくれるので、目立った混乱もなかったのだ。
***********
読んでくださりありがとうございます◎
◆お知らせ◆
3月9日頃
文庫版『元邪神って本当ですか!?』①
が発売になります!
そちらもどうぞ、よろしくお願いします◎
王子のお披露目式があることは、この国全てに通達済み。コウヤだとは知られていないが、第二王妃が仕掛けた継承争いのゴタゴタに巻き込まれた末に、次期国王である第一王子、ジルファスと恋仲になった聖女が神教国からも逃げながら産み育てた王子が見つかったということで、かなりの話題になっている。
吟遊詩人はこぞってこれを美しい恋物語として語り、次期国王となるジルファスの人気も、今やかなりのものだ。
「王都全域、異常なし! 引き続き、警備体制を強化して参ります!」
「よろしい。これを各団長に渡してくれ」
「はっ!」
人が集まるのだ。犯罪や問題も発生しやすくなる。そのため、城だけでなく、町にも警備が必要だった。
ここ数日は、騎士団の全てが一つとなって警備に当たっている。
王の執務室には、次期国王となるジルファスだけでなく、宰相のベルナディオや、軍部の長もこの部屋に詰めて仕事をしている。
そこにコウヤも居た。お披露目式のための準備は整っており、ようやく机仕事が出来る落ち着きが出て来たのだ。
また一人、伝令の騎士が入って来る。先ほどは軍部の長への報告だったが、今度はコウヤの所へと真っ直ぐやって来た。
「報告致します! 冒険者ギルド職員より、こちらをお預かり致しました」
「ありがとうございます」
コウヤは十数枚はありそうな紙の束を手渡される。
「お返事もいただきたいと申しておりました。いただけるまで待つとのことです。使者の方は、控え室にご案内しております」
「分かりました。そのまま少し待っていてもらってください」
「はっ! 失礼致します!」
後で返事を持って行くと言っても、待つと言うだろう。これまでもそうだったのだ。城に滞在するようになった初めの頃は、待たせる事が心苦しくもあったコウヤだが、最近はようやく負担に思うこともなくなってきた。
上の立場ならば慣れろと周りに言われたのだ。それに、待っている方も、そこで束の間の休息が得られる。とはいえ、急ぐことはする。
コウヤは報告書を開いて確認していく。
そこに、ニールが甘めの香りがする紅茶を淹れて持って来た。
「何か問題でもありましたか?」
「う~ん。ほら、人が増えてるでしょ? そうすると、冒険者って動きにくくなるんだよ」
これに、ベルナディオが首を傾げて見せる。
「そうなのですか? 逆に活気付きそうなものですが……」
「私もそう思います……」
ニールも同意見。そして、聞いていたジルファスやアビリス王も頷いていてコウヤに答えを求めて視線を向ける。
「こういう時って、当然、一般の人だけじゃなく、冒険者も増えるんです。何やるのかも分からなくても何でか集まっちゃうんですよね~」
集まりたくて集まっているわけではない場合もある。そうした時、何があるのだろうと、人が移動する方に自然に向かってしまうのだ。
「冒険者が多くなれば、狩場がかぶりやすくなったり、受けられる依頼がなくなったりして、どうしてもあぶれるようになります」
依頼の数も無限ではない。受けやすい依頼は当然すぐになくなるし、難しい依頼は遠出したり、日にちが掛かったりする。ゆっくり腰を据えてその場所で生活すると決めない限り、そういった面倒な依頼は受けないものだ。
「そうすると、人の流れが止まってしまうんですよ。動くと目立つ冒険者達の活動が停まると、一般の人の動きも停まりがちになってしまって。集団心理って、怖いんですよね……」
人が増えると、他の人と同じように動くようになり、動かなくなる。
ジルファスの近衛騎士の一人が少し考えるように宙に視線を投げながら口を開く。
「人が集まると言うと……ドラム組が出て来る時みたいな感じですよね? その時は、問題なさそうでしたが? コウヤ様……まさか……」
「何かコウヤ様がやってるんですか?」
他の近衛騎士も察して尋ねる。
「みんなで見ものに回ってもらっては困りますからね。だから、屋台部隊を出してもらっていたんです。少しでもお金を動かしてもらいたくて」
一人でも屋台で買い物すれば、周りもそれに倣う。
「そのお金を稼いでもらうために、依頼の一つを分けて二つにしたり、三つにしたりするんです。報酬が安くなっても、その安い値段で屋台のものが買えるので、達成感も充分にあります」
普段よりも報酬が少なくても、それで充分なものが買えれば満足してくれる。
「あと……普段は人気のない依頼を、ゲーム感覚で、冒険者になりたい子ども達に教えながらやってもらうんです」
そう説明しながら、それらを指示できるよう書き付けていく。
「これが、とっても大人気でっ。子ども達の人気ものになれますからねっ」
いつもは強面なせいで子ども達が近付かない冒険者も、『おじちゃん、おじちゃん』と子ども達が目を輝かせて手を引いてくるのだ。それがとっても嬉しいらしい。
「よしっ。フレスタ、これを控え室で待っている冒険者ギルドの職員に渡してください。それから、こっちを商業ギルドに。ディスタはこれを、教会のベニ大司教にお願いします。もちろん、護衛はつけてくださいね」
「「承知しました!」」
二人は、体力を付けることを当面の目標としているため、こうして常にどこかに走っていく仕事をしている。
「急がなくて良いですからね~」
「「はいっ」」
まだまだ切迫した問題にはなっていない。よって、この対応も今からでも充分に間に合う。
何より、近衛師団の冒険者達が問題を起こす原因になる他所から来た冒険者達の相手もしてくれるので、目立った混乱もなかったのだ。
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