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第十二章
494 教師を確実に確保
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お披露目まであと数日と迫った今日、衣装の最終確認や、来賓の者達のチェックなど、最後の追い込みと忙しく走り回る者は多かった。
しかし、そんな『お祭り状態』の忙しさの中に、コウヤは入れていない。
「みなさん忙しそうなので、是非とも手伝いたいんですけどね……」
忙しなく城内を走り回る人々の気配を感じながら、羨ましく思うコウヤだ。
そんなコウヤの前には、いつかのように、教師達がいる。両隣にはリルファムとシンリームがいた。
教師の代表となっているヤクスが微笑ましげにコウヤを見る。
「コウヤ様が出て行かれますと、効率良く回るでしょうが、そればかりに慣れてしまうのも良くありませんからね。こうした事の機会は少ないですし、信じて見守ってやってください」
「そう……ですね……お仕事したかったんですが……」
時間ができ、そうして周りが忙しそうにしているのを羨ましそうにするからこそ、気が紛れるようにとこのお茶会が開かれた。
「本当にコウヤ様はお仕事がお好きですね」
「それはもちろんっ」
ここ最近は、王城に居るということもあり、机仕事が出来ていない。それ以外の事をやらなくてはならないからだ。
目の前の、これぞショートケーキという苺の乗ったケーキを食べながら、リルファムが顔を上げる。
「兄さまは、おひろめのための、おべんきょうがおわったってききました。どんなおべんきょうがあったんですか?」
やる事は沢山あったのだ。
「そうですね……覚えるというのが大半です。来賓の方々の国とお名前を覚えることと、その国の文化や挨拶の違いの確認もしました」
「本来でしたら、迎える側なので、挨拶の仕方は覚える必要はないのですが、コウヤ様はすぐに覚えてしまわれますから……」
ヤクスは少し困ったような顔をしていた。これに、シンリームが口を挟む。
「コウヤくん、挨拶の違いとかも全部覚えたの?」
「え? ええ。面白いですよね。握手する前に手を二回開いて閉じてするとか、胸の前で一度お祈りするようにしてから挨拶するとか」
正式な国での挨拶に違いがあって少し面白いと思ったコウヤだ。
「由来も確認しましたから、リルにも教えてあげますね。覚えやすいはずです」
「兄さまがおしえてくれるんですか!? うれしいです!」
リルファムはとても嬉しそうに頬を染めた。
そんな様子を見て、ヤクスも微笑ましげに笑った。
「確かに、由来から知れれば覚えやすいでしょうね。これも、授業に入れられるよう考えてみましょう。何事にも理由があると気付く子達もいるでしょうから」
史学を教えるヤクスだからこそ、これが必要だと思ったのだろう。だが、他の教師もこれに賛同した。
法学や神学の教師、スクエラとヘルトローアだ。
「どうしても、これはこうと決めつけて覚えさせてしまいますからね。本当は、なぜそうなったのかというものをだどっていくのが大事でしょうに」
「いくらでも時間が使えるならば、一から全て教えたいですからね」
教えたくても教えられないという事情もあるのだ。
次に意見するのは、算学の教師ユリスだった。いつもつまらなさそうに眉根を寄せるだけの印象だった彼は、そろばんによる授業をするようになり、少し柔らかくなったようだ。
「教師の中には、覚えないのは生徒の努力が足りないからだと言う者もいますが、そういった者は逆に、なぜそうなるのかというのを教えられない可能性があります」
苦虫を噛み殺したような、納得のいかない顔をしながら紅茶をすするユリスに、ヤクスが声をかける。
「おや。そのような教師に心当たりが?」
「ええ……一時期師事した教師がそうでした。覚えたままを教えるので」
教師として来るのは、教師になろうと勉強に励んだ者ではない。専門性もなく、ただ、自分が教えられたことをそのまま生徒に流すだけ。そういうのが普通だ。
これを聞いて、語学の教師であるミリスが苦笑する。
「その方、辞めさせましたか?」
「……ええ」
「すみません。責めているわけではないですよ。私にも覚えがあります」
「……ミリス殿が?」
「おやおや」
「ほお……」
他の教師達も、気が弱そうな印象を受けるミリスを見る。
「それほど意外でしょうか……? あまりにも勝手な論法を出されまして……私にとっては、叔父が誰よりも上で、尊敬できる師でしたので、どうしても比べてしまって……」
「それはありそうですね」
ヤクス達も納得した。そして、何度か頷いて実はと告げる。
「私にも覚えがあります。自分が理解できないのは、教師のせいだと。母が少し教育については口煩い人だったので、何人も教師が変わりましたよ。だからこそ、覚えやすい方法というのは見えていたのかもしれません。それなのにこうして教師の立場になっても活かせなかった」
それを自覚することなく、今まで来てしまった気がすると反省しているようだ。
「コウヤ様とお話しすると、いつも目の前が拓ける気がします。凝り固まっているというのも、理解いたしました」
「ふふふ。最初に言ったこと、少し気にしてますか?」
初めて顔を合わせた時に、そう言ってダメ出ししたのだ。それが、彼らの中にまだ残っている。
「そうですね。ですから、教訓としました。忘れてはならない教訓として、我々が正しく教師であれるように、きちんと思い出せるようにしています」
五人の教師達は、誇らし気な晴れやかな笑みで、コウヤを見ていた。
「では、学園には、みなさんのように考えられる教師を確実に確保していかないといけませんね」
「はい。候補は着々と挙がっています。お披露目が終わりましたら面接をお願いしますね」
「分かりました」
学園の準備も仕上がってきている。お披露目式の数日後には、全ての工事が終わるだろう。
お披露目の時に、国中に学園のことを発表することにもなっている。一気に忙しくなりそうで今からコウヤもワクワクしていた。
シンリームも手伝うことになっているし、リルファムは数年後には通うことになる。王族としての役目がなかったシンリームにとっては、カメラマンの他にもやる事が出来てやる気満々だ。
「そういえば、今日も近衛師団の人たち居ないけど、どうしたの? 一応、任命式は終わったよね?」
もう護衛としてついているはず。だが、コウヤの側には、ニールと今日は本来の姿で傍らで休んでいるパックンしか居なかった。
「ああ。あまりにも一気にレベルが上がったものだから、体を慣らすためにも、迷宮に遠征に行ってるんですよ。お披露目までに慣れないといけなくて、リクト兄やテンキがスパルタ気味に指導してると思います」
「……大変だね……」
「ですよね。なのに、なんか兵舎に帰って来ると元気になるらしくて。祭壇がどうとか、写真の配置がとか言ってるのは聞いたんですけど」
「なるほど。彼らは大丈夫だよ。どれだけキツくても問題ないっ。私も頑張るよ!」
「はあ、そうですか?」
今日のコウヤのベストショットを近衛師団の兵舎ヘ届けると密かに決意したシンリームだ。
こうして、近衛師団は強くなっていくことになる。
************
読んでくださりありがとうございます◎
次回、5日です。
しかし、そんな『お祭り状態』の忙しさの中に、コウヤは入れていない。
「みなさん忙しそうなので、是非とも手伝いたいんですけどね……」
忙しなく城内を走り回る人々の気配を感じながら、羨ましく思うコウヤだ。
そんなコウヤの前には、いつかのように、教師達がいる。両隣にはリルファムとシンリームがいた。
教師の代表となっているヤクスが微笑ましげにコウヤを見る。
「コウヤ様が出て行かれますと、効率良く回るでしょうが、そればかりに慣れてしまうのも良くありませんからね。こうした事の機会は少ないですし、信じて見守ってやってください」
「そう……ですね……お仕事したかったんですが……」
時間ができ、そうして周りが忙しそうにしているのを羨ましそうにするからこそ、気が紛れるようにとこのお茶会が開かれた。
「本当にコウヤ様はお仕事がお好きですね」
「それはもちろんっ」
ここ最近は、王城に居るということもあり、机仕事が出来ていない。それ以外の事をやらなくてはならないからだ。
目の前の、これぞショートケーキという苺の乗ったケーキを食べながら、リルファムが顔を上げる。
「兄さまは、おひろめのための、おべんきょうがおわったってききました。どんなおべんきょうがあったんですか?」
やる事は沢山あったのだ。
「そうですね……覚えるというのが大半です。来賓の方々の国とお名前を覚えることと、その国の文化や挨拶の違いの確認もしました」
「本来でしたら、迎える側なので、挨拶の仕方は覚える必要はないのですが、コウヤ様はすぐに覚えてしまわれますから……」
ヤクスは少し困ったような顔をしていた。これに、シンリームが口を挟む。
「コウヤくん、挨拶の違いとかも全部覚えたの?」
「え? ええ。面白いですよね。握手する前に手を二回開いて閉じてするとか、胸の前で一度お祈りするようにしてから挨拶するとか」
正式な国での挨拶に違いがあって少し面白いと思ったコウヤだ。
「由来も確認しましたから、リルにも教えてあげますね。覚えやすいはずです」
「兄さまがおしえてくれるんですか!? うれしいです!」
リルファムはとても嬉しそうに頬を染めた。
そんな様子を見て、ヤクスも微笑ましげに笑った。
「確かに、由来から知れれば覚えやすいでしょうね。これも、授業に入れられるよう考えてみましょう。何事にも理由があると気付く子達もいるでしょうから」
史学を教えるヤクスだからこそ、これが必要だと思ったのだろう。だが、他の教師もこれに賛同した。
法学や神学の教師、スクエラとヘルトローアだ。
「どうしても、これはこうと決めつけて覚えさせてしまいますからね。本当は、なぜそうなったのかというものをだどっていくのが大事でしょうに」
「いくらでも時間が使えるならば、一から全て教えたいですからね」
教えたくても教えられないという事情もあるのだ。
次に意見するのは、算学の教師ユリスだった。いつもつまらなさそうに眉根を寄せるだけの印象だった彼は、そろばんによる授業をするようになり、少し柔らかくなったようだ。
「教師の中には、覚えないのは生徒の努力が足りないからだと言う者もいますが、そういった者は逆に、なぜそうなるのかというのを教えられない可能性があります」
苦虫を噛み殺したような、納得のいかない顔をしながら紅茶をすするユリスに、ヤクスが声をかける。
「おや。そのような教師に心当たりが?」
「ええ……一時期師事した教師がそうでした。覚えたままを教えるので」
教師として来るのは、教師になろうと勉強に励んだ者ではない。専門性もなく、ただ、自分が教えられたことをそのまま生徒に流すだけ。そういうのが普通だ。
これを聞いて、語学の教師であるミリスが苦笑する。
「その方、辞めさせましたか?」
「……ええ」
「すみません。責めているわけではないですよ。私にも覚えがあります」
「……ミリス殿が?」
「おやおや」
「ほお……」
他の教師達も、気が弱そうな印象を受けるミリスを見る。
「それほど意外でしょうか……? あまりにも勝手な論法を出されまして……私にとっては、叔父が誰よりも上で、尊敬できる師でしたので、どうしても比べてしまって……」
「それはありそうですね」
ヤクス達も納得した。そして、何度か頷いて実はと告げる。
「私にも覚えがあります。自分が理解できないのは、教師のせいだと。母が少し教育については口煩い人だったので、何人も教師が変わりましたよ。だからこそ、覚えやすい方法というのは見えていたのかもしれません。それなのにこうして教師の立場になっても活かせなかった」
それを自覚することなく、今まで来てしまった気がすると反省しているようだ。
「コウヤ様とお話しすると、いつも目の前が拓ける気がします。凝り固まっているというのも、理解いたしました」
「ふふふ。最初に言ったこと、少し気にしてますか?」
初めて顔を合わせた時に、そう言ってダメ出ししたのだ。それが、彼らの中にまだ残っている。
「そうですね。ですから、教訓としました。忘れてはならない教訓として、我々が正しく教師であれるように、きちんと思い出せるようにしています」
五人の教師達は、誇らし気な晴れやかな笑みで、コウヤを見ていた。
「では、学園には、みなさんのように考えられる教師を確実に確保していかないといけませんね」
「はい。候補は着々と挙がっています。お披露目が終わりましたら面接をお願いしますね」
「分かりました」
学園の準備も仕上がってきている。お披露目式の数日後には、全ての工事が終わるだろう。
お披露目の時に、国中に学園のことを発表することにもなっている。一気に忙しくなりそうで今からコウヤもワクワクしていた。
シンリームも手伝うことになっているし、リルファムは数年後には通うことになる。王族としての役目がなかったシンリームにとっては、カメラマンの他にもやる事が出来てやる気満々だ。
「そういえば、今日も近衛師団の人たち居ないけど、どうしたの? 一応、任命式は終わったよね?」
もう護衛としてついているはず。だが、コウヤの側には、ニールと今日は本来の姿で傍らで休んでいるパックンしか居なかった。
「ああ。あまりにも一気にレベルが上がったものだから、体を慣らすためにも、迷宮に遠征に行ってるんですよ。お披露目までに慣れないといけなくて、リクト兄やテンキがスパルタ気味に指導してると思います」
「……大変だね……」
「ですよね。なのに、なんか兵舎に帰って来ると元気になるらしくて。祭壇がどうとか、写真の配置がとか言ってるのは聞いたんですけど」
「なるほど。彼らは大丈夫だよ。どれだけキツくても問題ないっ。私も頑張るよ!」
「はあ、そうですか?」
今日のコウヤのベストショットを近衛師団の兵舎ヘ届けると密かに決意したシンリームだ。
こうして、近衛師団は強くなっていくことになる。
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次回、5日です。
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