元邪神って本当ですか!? 万能ギルド職員の業務日誌

紫南

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第十二章

493 凄かったです

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貴族と近衛師団、国所属の騎士や魔法師達も含む懇親会で最も戸惑ったのは、近衛師団に入った冒険者達だろう。

「うちの領には迷宮が多いのだ。だが、中々冒険者が居つかなくてなあ」
「私の所もですよ。王都のギルドの視察もさせてもらいましたが、活気が違いすぎていて参考にできません」
「そうですなあ。迷宮の数から理想となる冒険者の数を試算してもらえると聞いてお願いしたのですが、今の三倍は必要と言われましたよ」

迷宮化の騒動を受けて、コウヤは今一度、迷宮の攻略状況などの確認をすべきだと提案した。

危機感を持ってもらうためにも、各国や領地毎で迷宮に向かうべき冒険者の人数などの試算が出来るよう、各国のギルド本部で指導している。

「そこで聞きたかったのですよ。現役の冒険者として、どうしたら居着いてもらえるのか。何が必要か」
「おおっ。それは私も聞きたい」
「我々の視点からは思いつかないですからね」

そうして、貴族達から冒険者達は意見を求められていた。

このような機会でもなければ、冒険者達との交流など簡単に持てるものではない。貴族達も今が好機と理解していた。

「率直な意見を聞きたい。無礼講なので、気にせずに」

貴族相手の言葉遣いが分からないからと警戒していた冒険者達も、それならばと頷き合って答える。とはいえ、答えるのは高ランクの冒険者が中心だ。貴族との付き合い方もそれなりに知っている者達だった。

「先ずは滞在する安価な宿でしょうか。王都にも今、多くの宿屋が建っていますが、滞在しやすい宿は必要です。後は、パーティ毎で借りられる借家ですね」

寝に帰ってくる場所があるというのは、安心感が違う。だが、領主達や商業ギルドは、行商人や旅人のために宿を建てることは意識するが、冒険者のための宿というのは、後回しにされがちだった。

彼らは宿があっても安価な所にしか泊まらない。どうしても客の優先度は下がる。

「冒険者になるのは、ほとんどが食うに困ってという者達です。孤児からというのも多い。そうして冒険者になった者達は、ある程度力を付けると、外へ意識を向けます」
「うむ……余裕が出て来たならば、王都を目指すということもあるだろうな」
「ええ。その過程で、他の町も見ます。滞在のしやすさは印象に残るでしょう。そうして、あらかた見て周り最終的に滞在しやすい町を選ぶのは当然のことです」

暮らしやすい町を探して、そこに居着くというのが自然な流れだろう。

「それでは、今の宿屋や借家が多い王都は冒険者にとって理想的だということですかな?」

冒険者達用の宿屋や借家もかなり多い。お陰で、本来王都に居るべき冒険者の理想的な数が集まりつつあった。

「王都は食事処もしっかりありますし、宿屋も多い。なので、冒険者の中でも人気があります。ただ、人が多いですから、人付き合いや騒々しいのが嫌いな者は散って行きます」
「それでは、宿屋をやたらと建てるというのも良い訳ではないか……」
「その土地によって、理想とされるものは違うでしょう」
「なるほど。これもギルドに相談してみるかな」
「ええ。それが良いかと」

きちんと貴族達が耳を傾け、考えていることを知れた冒険者達は驚きながらも、これもコウヤ効果かなと納得していた。

「迷宮など関係ないと思っていましたが、考え直さねばなりませんね」
「町づくりも、こうして話を聞かねば良いこと、悪いことが分かりませんからねえ」
「いやあ、こうした場を設けてくれるコウヤ様には、本当に頭が下がる」
「そうですなあ。ああ、コウヤ様をどうぞよろしくお願いします。あの方が害されるのは、我々も許せるものではありませんから」
「もちろんですっ」

皆、思いは同じだと、冒険者達も理解した。

そうして、難しい話はこれまでというように、会話はコウヤことに移っていく。

「それにしても、今日のコウヤ様はまた一段と輝いて見えますなあ」
「ただただ可愛らしいと思っていましたが、あの迷宮化の時の戦いはとても勇ましく、本当に素敵な方です」

貴族達は、側近達と和やかに会話しているコウヤを見て目元を和ませる。

「あなた方は大変ですねえ。側に居ても、見惚れているわけにはいかないでしょう?」
「今日の授与式は羨ましいと思っていたが、それを考えると拷問に近いのではないかと思ったよ」
「分かりますっ。お側で見たいですが、護衛としては仕事になりませんものねえ」
「見慣れれば良いのだろうが……装いが変わる毎に新鮮に映りますからね……大丈夫か?」

貴族達は、今度は近衛師団の者達を気の毒に思い始めていた。

近くで見たいし、声を掛けられたいけれど、それをされると護衛にならなくなりそうだと、コウヤに近付くことに慣れない貴族達は心配していたのだ。

その懸念は正しい。

「そうなのです……我々も、それが一番問題だと思っています。実力は認められましたが、実際に、コウヤ様の側で仕事をとなると……少し不安でして……」
「「「ですねえ」」」

今、ここでは貴族も冒険者もない。思いは一つだ。

「そういえば、この懇親会の前に、個別に面談があったようですなあ」
「ええ……ギルド職員としてのコウヤ様との付き合いのある者も、あの装いのコウヤ様の前では、かなり緊張したと言っていました……」
「ギルドの制服とは、雰囲気が違いすぎて戸惑うんだよな……」
「キラキラして見えるもん……目が潰れる……」
「笑顔の破壊力がすごいよな……ニールさんを本気で尊敬した」

うんうんと冒険者達だけでなく、他の近衛師団の者達も頷く。

「それある……俺らも見慣れればなんとかなる……のか? そりゃあ、護衛対象の気配だけきちんと感じながら護衛は出来るけど……つい見ちゃいそうなんだよな……」
「それそれ……ニールさん達から、早急に見慣れるようにって言われたけど、見慣れる日が来るとは思えん……」
「ここから見る分でも新鮮だもんな……」
「「「だなあ……」」」

護衛任務についての実力に問題はない。だが、護衛対象が気になって仕方がない状態になりそうなのだ。

「俺らはまだ良いよ。護衛の場所はギルドや町の外だから、ギルド職員の制服だろ? けど、騎士達はな……」
「免疫ないの多いしな……」
「魔法師や神官達は、神聖視してるからある意味問題ないけど……すげえやる気満々になるのはちょっとな……」

テンションが違うのだ。護衛中、とっても目立ちそうだった。

貴族達はこれらを聞いていて、改めて不安になる。

「だ、大丈夫なのか?」
「ええ……まあ、そのためにいただいた秘密兵器がありますから……」
「秘密兵器?」
「はい……その……」

冒険者は声を落とす。耳を寄せてくる貴族へそれを伝えた。

「コウヤ様のプロマイドです」
「「「っ、なんとっ」」」

大袈裟なリアクションだが、その気持ちは分かると冒険者達が頷く。

「早急に見慣れてくれとのことで、かなりの数のコウヤ様の写真が……近衛師団専用の宿舎の中はに沢山……っ、凄かったです」
「「「ごくり……っ」」」

冒険者や神官用の宿舎は城の外に。騎士や魔法師、文官達の宿舎は城の一画に用意されており、その宿舎の中の廊下や談話室には、コウヤの写真が沢山飾られていた。

「見慣れるというのには良いのですが……入り浸りそうで……」
「あっ、それだよ。ほら、冒険者達に居着いてもらうために、宿屋にその町だけのコウヤ様のプロマイドを置いたら……」
「「「提案しようっ」」」

冒険者が居付きそうだ。

これが採用され、その宿の中にプロマイドを飾る小さな祭壇が作られるようになるのだが、それはたった数ヶ月後の話だ。

そうして、懇親会も和やかな雰囲気で終わり、いよいよお披露目の時が近付いてきていた。






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読んでくださりありがとうございます◎
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