元邪神って本当ですか!? 万能ギルド職員の業務日誌

紫南

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第十一章

422 見せ付ける

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トルヴァランの者たちだけは分かっていた。

誰も大きな声で伝えたりはしない。噂にもならず、真実として伝えられていく言葉があった。


『コウヤはコウルリーヤの生まれ変わり』


この戦いは、本当に神が手を貸し、見守ってくれるのだと彼らは知っていた。

「やるぞ」
「おう」
「当たり前だ」
「あいつらも見てるんだろ?」
「ああ。エルフの里と獣人の里にも、同じ映像を流すって聞いた」

周りを見回せば、冒険者として里から出てきたエルフや獣人族の者たち、その血を引く者もいる。

この迷宮化は、里の側から発生したものだ。必然的に里に近付くことになる。本来ならば、彼らは姿を隠し、見つからないように息を潜めるが、今回は違った。


『神が俺らの存在を認めてくれてるんだ。何を怯えることがある』


里の者に認められないのだと卑屈に思う必要はない。隠れる必要なんてない。一方的にやられるのだと怯える必要はないのだ。

そう思えたのは、コウヤやリクトルス達の言葉があったから。この戦いに赴くに当たり、集められ、話を聞いた。


『あなた達は、未知のものに対する勇気が在る。里を出て行くとはそういうことでしょう? 死ぬかも知れないという恐怖を振り切って出てきた。それは、既に想いの強さで、里の方たちを上回っていますよね?」


そうだと納得した。里を出る時に、覚悟を決めていた。多くの者たちが決めきれないで留まるのに、自分たちはそれを成し得た。それは誇るべきことだ。


『同胞に守られて生きる者より、外で生き抜いてきたあなた達が劣るはずがない。里の者たちより、あなた達は本当に弱いのですか? 背を向けて、逃げることばかり考えていては、どんな相手にも勝てません』 


リクトルスにそう言われて、そこでようやく目が覚める思いだった。魔獣には果敢に立ち向かっていける自分達が、なぜ里の者には背を向けて逃げるのか。殺しに来たのだと知っているから、逃げていた。けれど、戦えないものだっただろうか。


『里に閉じこもっていた者たち……迷宮を放置するような者たちです。ほとんど外に狩にも出ていない。そんな者たちに、あなた達が負けるのですか?』


あり得ない。負けるはずがない。


『里を出ることが……そんなに悪いことなのでしょうか。掟は大事です。けれど、それが本当に必要なのかどうか、その時代や環境の変化によって疑問を持ち意見することの方が大事ですよね?』


コウヤにこう言われて自覚した。戦うことを放棄していたのは、心の奥底に、里の掟を破って外に出たという負い目があったからだと。この時ようやく気付いたのだ。掟が絶対だなんてことはない。変えていくべきものもあるはずだ。


『人族の国では、コロコロ変わりますよ? 必ずしも良いことではありませんが、それでも、変えていいこともあるんです。それを見せてやってください。外に出て変われたあなた達を見せ付けてやってください。まだ何も知らない……知ろうとしない里の人たちに』


そうだと奮い立った。

「見せ付ける」
「俺たちは里の奴らとは違う」
「せいぜい、怯えさせてやろうぜっ」
「俺たちの実力を見て腰抜かせばいいんだ」
「逆に閉じ込めてやったら面白くね?」
「「「それっ、ある!」」」

騒ぎながらも、それぞれが決意を固めていく冒険者達の一方で、参加している宮廷魔法師や騎士達もまた頷き合っていた。

「これを治めて、落ち着かないと、コウヤ様のお披露目が出来ないもんな」
「ああ。今回ので、コウヤ様の存在がこうやって知られる。おかしな手出しされる前に、公表しないとな」
「トルヴァランの宝を守るためにな」
「それだっ」
「それだな」
「それだろ」

負ける気など、この場の誰にもないのだ。

再びタリスの姿が映像に映し出される。

『それじゃあ、説明も終わったことだし、ぼちぼち始めようか。各自、これより担当フィールドへ移動を開始する!!』
「「「「「おぉぉぉぉっっ!!」」」」」

冒険者達の大移動が始まった。

空からバイクに乗った神官達によって、各フィールドに案内されていく。魔獣達も、従魔達が先頭に立ち、移動して行った。

「おっ、俺らんとこの担当の魔獣達だな。今回はよろしく」
《ブルル》

それぞれのメンバーが揃うと、バルーンから下がる白い布をスクリーンに、開始の合図が表示されたのだ。

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