元邪神って本当ですか!? 万能ギルド職員の業務日誌

紫南

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第十一章

423 取れたんか

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先ずは外側の全てのフィールドで戦闘が開始された。

フィールドの数はエルフの里の側のものが全部で五十。獣人族の里の側が四十五だ。

「フィールドの数聞いた時には、ちょい無理だと思ったが……考えてみれば、五十階層の迷宮と同じか」

途方もない数だが、迷宮の階層数だと考えれば、冒険者達には大したことではなかった。寧ろ、全てを踏破しなくてはならない迷宮よりも楽だろう。

「次の階層への階段探さんでも良いしなあ」
「だな。迷宮だとなんか、先に行かないとって焦るけど、こういうのもアリだわ」
「階層全部攻略って? こんなの普段は出来ないもんな~。あれだろ。階層貸し切りにしてるようなもんだろ」
「それだ! そうやって考えると……贅沢だな」
「「「それなっ」」」

戦闘に余裕のあるトルヴァラン組が、楽しそうに笑いながらも迷宮の生み出した魔獣を倒していく。彼らとしては、特別訓練兼ピクニックだ。もちろん、ドロップもあるため、その回収や踏み付けないように横に除けるのも忘れていない。

予想より多い魔獣の数に戸惑うのは、他の国を拠点としていた冒険者達だ。

「……なんでこの状況で笑ってられるんだ……」
「トルヴァランは王族まで冒険者をやる国だ……ちょい変わってるとは聞いたが……」
「ってか、なんで魔獣の見分けが付くんだ? 印は描いてあるけど……そんなすぐわかるものか?」

躊躇いなく魔獣の群れにも切り込んでいくトルヴァラン組。それも味方の魔獣達とだ。乱戦となっていても、今のところは味方の魔獣や従魔を攻撃している者はいない。それが彼らには不思議だったのだ。

それを聞いていた後衛担当のトルヴァランの冒険者が答える。

「あんたら、南の島の集団暴走スタンピードの時に来てなかったか?」
「行ったけど……」
「そん時に『気配感知』のスキル取れてねえの?」
「……気配感知?」
「おう。まあ、なんだ。あれだ。手もまだ足りてるし、ちょうど良い。集中して、生きてる魔獣と迷宮の魔獣の気配をそれぞれ別々で感じてみろ。最初は目で見て、確実だって思いながらな。フォローしてやるから、戦いながらだ。五分もすりゃ、感覚が分かる」
「は? なんでそんなことを……」
「え、やってみる」

話を聞いて、当然だがその通り実践する者とそのまま無視する者がいた。

そして、五分もすると、素直に実践していた者たちが驚きの声を上げる。

「えっ、あ、なんかいきなり分かるようになった!」
「俺もっ。ちょっ、確認する……スキルにある! 『気配感知』取れた!」
「わっ、私もっ。なにこれ……っ、なんか……戦いやすくなった?」
「それ、俺も今思った! 斬りやすい? ってか……なんだろこの感覚……強くなれるスキルなのか?」

唐突に、彼らの中で何かが変わった。カチリと何かがあるべきところに収まったような感覚。具体的には、二、三回斬りつけて、ようやく倒せていた魔獣が、一撃で倒せるようになった。

いきなり追いついてきて、楽しそうに奮闘し始めた者たちに、トルヴァランの冒険者達は笑った。何が起きたのか察したのだ。

「あ~、なんだお前ら。『気配感知』取れたんか」
「目が覚めたような感じしたろ」
「アレいいよな~。視界がいきなり拓けるみたいでさ~」
「「「それです!」」」

その感覚だと、興奮しながら同意する。

「気配感知はさ、感覚の調整がかかるんだってよ。俺らは、無意識に迷宮の魔獣と外の野生の魔獣を区別してるらしい」
「えっと……?」

どういうことだろうかと首を傾げる。そんな彼らの動きを感じながらも、魔獣を斬り伏せる。

「迷宮のは、本物じゃねえって意識が、どうしても出ちまうんだよ。だから、相手を倒す時も、外より必死さが足りなかったりする」
「逆に変な力が入ってたりな。殺し切れる力の加減が、生き物とは違って感じるんだよ」
「気配感知で区別がはっきり付くと、その感覚が調整されるから、なんかいきなり強くなったみたいに錯覚すんだよな~」
「「「……っ」」」

理解したようだ。

「頭がしっかり認識して切り替わるから、集中できるんだよ」
「後、アレだ。やっぱ迷宮のって気配がはっきりしない時があるじゃんか。それがなくなる」
「とっ散らかってた思考が整理できるようになるってえの? 乱戦でも冷静に対応できるようになるよな」

とにかく良い事ばかりなのだ。

「このスキル、普通に取ろうとするなら、迷宮で一日、外で一日って交互に半月くらい野宿して暮らさねえとダメらしいぜ」
集団暴走スタンピードを望んじゃいけねえけど、そん時が一番取りやすいんだってよ。まあ、普通に取った場合は、他にもスキルが色々と取れるから損はないけどな」
「「「っ……」」」

なんでそんな事知ってるんだと言おうと、口を開こうとして勝手に答えを出す。即ち、『ああ、神に聞いたのか』と。

トルヴァランだけが神の恩恵を受けているようだというのは、召集がかかる頃には噂されていた。『聖魔教』があるから当然だと返され、誰も反論出来なかった。

この大陸で唯一、神教国ではなく神が認めたのが『聖魔教』なのだから。そんなことはもう、大陸中に広がる噂だった。

しかし、もちろんそれだけではない。

「うちのギルドは昔、最悪でさあ。土地も北の端っこだから、ロクな奴らも集まらんかったんだが、一人のギルド職員が俺らに生きるってことを教えてくれたんだよ。その過程で、ゲームみたいに『コレやってみて』とかってたまに課題をだしてくれんの」
「楽しかったよな~。達成する喜びってえの? 俺ら知らんかったから」
「ああ。やってみると面白くて、知らん間に色々とスキルが取れてて……めっちゃ驚いたよな」
「……それ……もしかして……」

懐かしそうに、嬉しそうに話すのはユースールの冒険者達だ。そして、聞いていた者たちは自然と察した。

可愛らしい顔立ちの成人前の子どものギルド職員。そんな子どもがなぜギルド職員になっているのか。なぜ今回の説明をしていたのか。ここで分かった。

「……トルヴァランに行ったら会えるかな……」
「会ってみたいな……」

楽しく喋りながら、羨ましく思いながらも、討伐は進んでいく。そして、バルーンの色が一度目の変化を見せたのだ。

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読んでくださりありがとうございます◎
二日空きます。
よろしくお願いします◎
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