元邪神って本当ですか!? 万能ギルド職員の業務日誌

紫南

文字の大きさ
上 下
73 / 475
第四章 騎士と薬師の指導編

3巻連動SS ②続

しおりを挟む
街灯代わりの淡い石の光が、周りに溢れる頃の商店街。ふとジルファスはこの時間になっても多く並べられている品物を見て気になった。

「……新鮮だ……」

店の中はとても明るく、野菜の鮮度ま良く分かった。この呟きに、店主のおばちゃんが答える。

「ああ。他所から来たのかい? あれだろ? 普通なら、こんな時間にこの量があるなんて、売れ残ったものだって思ったんだろう?」

豪快に笑い飛ばすおばちゃんに、ジルファスは周りを見回してから確認する。

「え、ええ。失礼ですが、閉まっているお店も多いですし……」
「ははっ。うちともう二軒で持ち回りで夕方から開けてるのさ。他の店で売れ残ったものも集めてね。ほら、ギルドの職員とか、兵の子とか冒険者の子らもだけど、この時間からしか買い物出来ないのもいるだろう?」
「あ……」

コウヤを見る。この時間から買い物をと考えたら、ほとんどの店は閉まっているし、品物だってろくなものが残っていない。

王都や他の町ならば、路地裏の露天商さえも、そろそろ店仕舞いだと、売れ残りを見て肩を落としている頃だ。

「今日はまだ屋台部隊が出てるから、そっちで冒険者達は済ませるだろうけどね。あとは、ほら、ああした客も来る」

そこに、近くの家から出てきた女性が駆け込んできた。

「塩、お塩っ。買うの忘れてたぁぁぁ。お義母さんにまた怒られるぅぅぅ」
「ははっ。ほれ、この一瓶でいいね」
「それ! うん! いつものやつ! これでお願いします!」
「はいよ。お釣りだ。間違えて入れ過ぎんじゃないよ?」
「うぅっ……この前やったからなくなったの……っ」
「落ち着いてからやりな」
「はい……」

気を付けなきゃと、呪文のように呟きながら、女性は家に入って行った。それをジルファスは少し気の毒そうに見送った。義理の母親との関係が悪いというのは、ジルファスも他人事ではない。嫌われたら、挽回するのは至難の業だ。

こちらがいくら歩み寄ろうとしてもダメなのだ。

少し落ち込むジルファスの様子を不思議そうに見るコウヤの目には、気付かなかった。

「おやおや。コウヤちゃんに気付きもしないで行ったね。あの子」
「仕方ないですよ。でも、カーナさんは、まだ家事が苦手みたいですね」
「仕事の時との差があり過ぎると言われてるよ。あれで商業ギルドの受付嬢としては上位に入る子だったとはね……知ってても信じられなくなりそうだ。やっぱあの子は、仕事に生きるべきだったんじゃないかね?」

与えられた仕事は完璧にこなせる。だが、家庭的な生活力が足りなかったらしい。料理も掃除もお裁縫も、彼女はやったことがなかったのだ。出来るのは、普段からやっていた洗濯だけだったらしい。

「家庭に入るって、きっぱり仕事を辞めたみたいだけどねえ。若い子は、家事が出来ない子が多いよ。夜、店に来る子達も、たいていパンとか肉とか、焼けば良いものかそのまま食べられるものしか買って行かないからね」

たまに料理をしようと考えている者たちは、店主に料理の仕方を聞いてくるらしい。

「あの子もねえ……多分、花嫁修行とか、練習する時間があれば大丈夫だと思うんだよ。そうすれば、義理の母親との関係も、もっと穏やかになるさね」

このユースールに異動となって一人暮らしする者は多い。それは冒険者ギルド職員だけの話ではないのだ。当然、独り身の冒険者も多い。

ジルファスは、はじめてこの町の問題というのが出てきて、少し驚いた。ユースールに来てから、見るもの全てが新しく、画期的で、何の問題もない素晴らしい町だと思っていたのだから。

辺境だからこその問題かと思ったのだが、本当にそうだろうかと考え直す。王都でも、他の町でもあり得る話だ。

そうしてジルファスが考えている間にも、店主とコウヤの話は進んでいた。

「そうですねえ。あっ、なら今度、レシピと料理の材料をまとめてセット売りとかしてみます? きちんと分量も計ってだと面倒ではありますけど」
「っ、それはいいねえっ。面倒だけどっ。でも、それなら料理も練習しながら出来るようになりそうだよっ。コウヤちゃん! 早速、明日にでも商業ギルドに話を通しておくれっ」
「わかりました」
「……」

今、何が起きたのだろうと、ジルファスは目を丸くする。こうしてユースールは改造されていったのかと、納得できてしまった。

「あ、それで夕飯は何が良かったですか?」

突然話を振られ、ジルファスは目を瞬かせるしかなかった。

結局、肉も食べたいということで、肉野菜炒めとコンソメスープになった。

買った野菜や肉などは、全部パックンが収納している。なので、コウヤとジルファスは、手ぶらでゆったりと夜の町を歩いていた。

そして、コウヤの家の前に辿り着いたのだ。

「……こ、これは……すごいね……あっ、まさか、この門も一人で?」

ジルファスは、コウヤが家を一人で建てたと聞いていたことを思い出して確認した。

「はい。カッコいいでしょう?」
「そうだね。これ……城にあったら……うん……謁見の間の扉にあったらいいな……」

きっと、入る前に少し貴族達へ威圧ができそうだと思った。

「迷宮の門みたいだ」
「でしょう? あれ、カッコいいですよね」
「うん。『玉座の迷宮』は、見事な城と森の湖畔の景色の風景だったね」
「ええ。あそこは精霊達にとっても休憩所でしたから」
「へえ……ん? どうして、そんなこと……ああ、ダンゴくんがいるものね」

そう納得しているうちに、コウヤは門を開けて、ジルファスを招いた。

「さあ、どうぞ」
「お、お邪魔するよ」

少し緊張しながらジルファスはコウヤの家に入った。はじめに感じたのは匂い。

「木の匂いだ……」
「匂いの良い木を使ってますからね。パックン、ダンゴ、中を案内してきて。俺は夕食の用意をするから」
《は~い (๑>◡<๑) 》
《お風呂も入れておくでしゅ》
「お願いね」

パックンとダンゴに連れられて、ジルファスは家を案内される。

「部屋数が意外と多いね……そういえば、ギルドの寮も部屋に入る前に想定したものより、かなり広かった……」
《空間拡張ができてるでしゅ》
《主が教えたんだろうね~》
「コウヤが? そういうこと多いのかい?」
《まあね (*´꒳`*) 》

そんな主自慢をするパックンやダンゴを微笑ましく思っていれば、コウヤがどうしてそんなことを知っているのかとか、不思議に思っていたことも忘れてしまった。

一通り案内を受けてから、キッチンに連れてこられた。そこでは、コウヤが慣れた様子で料理していた。

「あ、手伝うよ」
「もうすぐできますけど、なら、スープの味見お願いします」
「う、うん」

コウヤと一緒にキッチンに立つ。それにジルファスは少し感動していた。

出来上がった料理を並べ、小ぶりな四人がけのテーブルに向かい合って座る。

「っ、ん! 美味しいっ。少しピリっとするっ」
「ふふっ。ツマミも用意してますけど、ワインもどうですか?」
「えっ。これ……良いやつだよ? どうした……っ、あ、迷宮産か」
「はい。一緒にアルコールの入ってないのもあるので、お付き合いできますよ」
「っ……なら、少し……」

こうした付き合いにも慣れてるんだなと思いながらも、息子と一緒に飲めるということに、また新たな感動を覚えた。

そんな良い気分のまま、ジルファスは考えていたお願いをする。

「コウヤ。その危機察知の訓練を、やってくれないか? できたら【極】というのに挑戦したい。スキルが生えるなら、成長も出来るよね」
「え? ええ。そうですね。いいですけど……」

泣くかもしれないけどいいのかと、コウヤは首を傾げる。

「情けない姿を晒すかもしれないが……頼む。もっと……もっと強くなりたいんだ」

ジルファスは、これから背負うものがもっと増えていく。それを自覚し始めたからこその覚悟だった。

「分かりました。明日は、俺も休みですし、一日、迷宮で特訓しましょう!」
「ああ。頼むっ」

一日中、コウヤと一緒に居られる。それがジルファスには何よりも嬉しかった。

それでも実際に体験して、本気で怖かったというのは、コウヤには言わない感想だった。

後にその時のことを思い出し、あの感覚を思い出すだけでスキルが伸びていく気がすると気付く。それが気のせいではないと知るのは、もっと後のことだ。

なにはともあれ、ジルファスは息子との普通の父子の生活(?)もこのユースールで体験でき、心から満足して王都へと帰って行ったのだった。

**********
読んでくださりありがとうございます◎
年内最後の投稿でした!
では、また来年お会いしましょう!
可能ならば次回とし始めに♪
来年もよろしくお願いします!
しおりを挟む
感想 2,775

あなたにおすすめの小説

〈完結〉遅効性の毒

ごろごろみかん。
ファンタジー
「結婚されても、私は傍にいます。彼が、望むなら」 悲恋に酔う彼女に私は笑った。 そんなに私の立場が欲しいなら譲ってあげる。

【完結】魔王を倒してスキルを失ったら「用済み」と国を追放された勇者、数年後に里帰りしてみると既に祖国が滅んでいた

きなこもちこ
ファンタジー
🌟某小説投稿サイトにて月間3位(異ファン)獲得しました! 「勇者カナタよ、お前はもう用済みだ。この国から追放する」 魔王討伐後一年振りに目を覚ますと、突然王にそう告げられた。 魔王を倒したことで、俺は「勇者」のスキルを失っていた。 信頼していたパーティメンバーには蔑まれ、二度と国の土を踏まないように察知魔法までかけられた。 悔しさをバネに隣国で再起すること十数年……俺は結婚して妻子を持ち、大臣にまで昇り詰めた。 かつてのパーティメンバー達に「スキルが無くても幸せになった姿」を見せるため、里帰りした俺は……祖国の惨状を目にすることになる。 ※ハピエン・善人しか書いたことのない作者が、「追放」をテーマにして実験的に書いてみた作品です。普段の作風とは異なります。 ※小説家になろう、カクヨムさんで同一名義にて掲載予定です

覚悟は良いですか、お父様? ―虐げられた娘はお家乗っ取りを企んだ婿の父とその愛人の娘である異母妹をまとめて追い出す―

Erin
恋愛
【完結済・全3話】伯爵令嬢のカメリアは母が死んだ直後に、父が屋敷に連れ込んだ愛人とその子に虐げられていた。その挙句、カメリアが十六歳の成人後に継ぐ予定の伯爵家から追い出し、伯爵家の血を一滴も引かない異母妹に継がせると言い出す。後を継がないカメリアには嗜虐趣味のある男に嫁がられることになった。絶対に父たちの言いなりになりたくないカメリアは家を出て復讐することにした。7/6に最終話投稿予定。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

【完結】お花畑ヒロインの義母でした〜連座はご勘弁!可愛い息子を連れて逃亡します〜+おまけSS

himahima
恋愛
夫が少女を連れ帰ってきた日、ここは前世で読んだweb小説の世界で、私はざまぁされるお花畑ヒロインの義母に転生したと気付く。 えっ?!遅くない!!せめてくそ旦那と結婚する10年前に思い出したかった…。 ざまぁされて取り潰される男爵家の泥舟に一緒に乗る気はありませんわ! アルファポリス恋愛ランキング入りしました! 読んでくれた皆様ありがとうございます。 連載希望のコメントをいただきましたので、 連載に向け準備中です。 *他サイトでも公開中 なろう日間総合ランキング2位に入りました!

婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ! 

タヌキ汁
ファンタジー
 国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。  これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。

聖女の私が追放されたらお父さんも一緒についてきちゃいました。

重田いの
ファンタジー
聖女である私が追放されたらお父さんも一緒についてきちゃいました。 あのお、私はともかくお父さんがいなくなるのは国としてマズイと思うのですが……。 よくある聖女追放ものです。

「魔道具の燃料でしかない」と言われた聖女が追い出されたので、結界は消えます

七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女ミュゼの仕事は魔道具に力を注ぐだけだ。そうして国を覆う大結界が発動している。 「ルーチェは魔道具に力を注げる上、癒やしの力まで持っている、まさに聖女だ。燃料でしかない平民のおまえとは比べようもない」 そう言われて、ミュゼは城を追い出された。 しかし城から出たことのなかったミュゼが外の世界に恐怖した結果、自力で結界を張れるようになっていた。 そしてミュゼが力を注がなくなった大結界は力を失い……

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。