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第五章 王家と守護者と誓約

特別番外編①ユースール発展中

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書籍化範囲の編集のため
第五章と第六章が少々乱雑になっています。
後々、書籍化から続くよう編集いたします。

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北の端にある辺境の町ユースール。

そこは、数年前までは行商人たちの足も遠のいており、はぐれ者たちが集うパッとしない町だと思われていた。

「おい。聞いたか? 馬車の車輪に取り付ける『タイヤ』の話」
「ああっ、ユースールのだろ? あれはすごい! 馬の負担も間違いなく減ってるしなっ」

つい数ヶ月前から、馬車にはタイヤが付きはじめ、驚くほど乗っている時の衝撃が減った。何より、地面の凹凸による衝撃が減ったことで、馬車のスピードも上がっている。

「俺、今度ユースールに行ってみようと思うんだ」
「え、マジか……けど、あの辺は魔獣被害も多いし、行くのは大変だぞ……」

軽く行ってくると言って、行き着ける所でもないというのが、辺境という土地だ。

だが、この問題も解決しつつあった。

「知らねえの? ベルセンとユースールの間にある野営地まで行ければ、そこに定期的にはユースールと行き来する冒険者が居るから、一緒に連れて行ってもらえるんだよ」
「は? いや、それ報酬ぼったくられるやつだろ……」

冒険者ギルドを通さず、冒険者とやり取りするのは良くない。高額な報酬を吹っかけられる。しかし、ユースールのその野営地でのやり取りは別だ。

「領と冒険者ギルドと商業ギルドで管理されてる特別な野営地らしいんだよ。確か『女神の野営地』って言って、『黒の彫工師』の彫った守りで近くに魔獣も来ないんだって」
「それ本当なのかよ……」
「いや、マジだって。それも、数時間滞在すると、疲れどころか、病や大きな怪我も治るらしい」
「それが本当ならすごい場所だけど……」

病も治るとまで言われるようになっており、最後の頼みの綱というように、弱った者たちもその野営地を目指している。

「その野営地までを行き来して、街道に出てくる魔獣を倒すのが冒険者の通常依頼であるってのは聞いたなあ」
「そうそうっ。そこで俺らみたいなのを護衛しながら行き来したら、そこでまたギルドから報酬が出るから、俺らに負担なしって聞いたけど、本当らしい」
「……それ、怪しくねえの?」
「領兵が駐在してるから、騙されることもないし、マジだってさ」

冒険者とは仲が悪いはずの領兵も介入しているならと、少し安心する。

「……なら、俺も行ってみるかな……なんか飯がめちゃくちゃ美味いって聞いたんだよ」
「それはマジだって! なんか、安くて美味い店が冒険者ギルドの隣にあるんだってよ!」
「王都の飯は不味いとかって、言ってる冒険者見たわ」
「うわ~。気になる……俺も行ってみよ」

新たな商品を求めて、ユースールに行くのも良いと、商人たちはこれまで見向きもしなかった土地へと興味を示していた。同時に、冒険者達も腕試しも兼ねて向かう者が増えていった。

それらの環境整備をし、数々の商品を登録したのがユースールの冒険者ギルド職員の一人だとは思わないだろう。

◆   ◆   ◆

今日はユースールの月に一度の定例会議という名の食事会の日。集まる場所は、冒険者ギルドの隣にある『満腹一服亭』の一室だ。

それは、商業ギルド、冒険者ギルド、領主が協力し合って『この領の問題を解決していこう。住み良い町にしていこう』との考えから、数ヶ月前より始まったものだった。

「『女神の野営地』の噂は、もう王都まで届いてるみたいだねえ」

冒険者ギルドの代表として出席しているタリスが、玉子焼きを口に運びながら笑った。

「やって来る病人や怪我人も増えた……神官様方には、本当に頭が下がる」

領主であるレンスフィートが苦笑しながら、エビフライにタルタルソースをつけ、口に運ぶ。

そして、商業ギルドの代表であるゼットが、頷きながらハンバーグにナイフを入れる。

「『女神の野営地』まで来れば治ると思っているようですが、実際は、神官様方に保護されて、教会かゲンさんの所で治療を受けていますがね」

本当になんでも治ってしまうから、噂が真実味を帯びてしまったのだ。決して『女神の野営地』に来たから治るわけではない。

「それにしても……コウヤには毎回驚かされる……」

レンスフィートは、眉間の皺を伸ばすように揉みながら溜め息を吐き、温かいお茶の入ったカップに手を伸ばす。

「それね~。あのジンクって彫工師の彫刻の効き目もすごいけど、それを利用するのがほんと、さすがだよね~」
「結果的に、街道の治安も良くなりましたし、冒険者たちの仕事にもなります。その上、商人たちが安全に行き来できるようにしてしまうんですから……まったく、これでどれだけの問題を解決し、利益を得たことか……」

ユースールに来たくても来れない人たちが居るというのを、コウヤが外からやって来た冒険者達から聞いたのが始まりだ。

丁度その時、ジンクによって野営地の安全が確保された。ならばと、コウヤが提案したのがこれだった。

「商業ギルドとしても、治安費として計上のし甲斐がありますよ。金を払うのがこんなに嬉しいとは」
「それあるね~。冒険者の子たちも、あそこと行き来するのが訓練になって、成り立ての子たちは野営地の研修も出来る。ついでに護衛報酬も受け取れるんだから、喜んでるよ。護衛の依頼って、中々ないからねえ」

ユースールの冒険者ギルドでは、護衛依頼がそれほど出ない。

ここまで来るなら、専属の護衛を雇っているし、このユースールから護衛を連れて出て行く者は稀だ。それも、かなりの遠距離になるような、何日もかかる仕事になってしまう。よって、他の町よりも、護衛依頼を受けられる機会が少なかったのだ。

これでは、昇級の資格も取りにくくなる。もちろん、遠方への護衛依頼は、良い経験になるし、近場よりも断然報酬も違う。だから、無理をしてでも、昇級の時にはそれを取っていた。

中には、ギルドからわざわざ商隊にお願いして、護衛枠を作ってもらうことさえあったのだ。

「コウヤちゃんはさあ、護衛依頼の仕事が増えるようにとか、常々考えてたんだってさ。領主様の移動の時とかにも、お願いしてたんだってねえ」
「ええ。騎士だけでなく、冒険者も混ざればこちらとしても安心できて、助かっていました」
「商隊も、少なくともベルセンまでは、厚めにしたいって意見があったから、そこで頼んでいたが、まさかこんな解決方法になるとは……」

短距離だが、そこまでの間が一番危険な場所だ。その間だけ護衛がつくのは、とても安心できる。それも、報酬は商隊からではなくて治安維持の領費から。

これにより、一気にユースールに来る商隊が増えていた。

「住民も増えているようで……ドラム組ともそろそろ話し合わねば……」
「少し土地も広げますか? 宿屋も足りなくなりそうですので」
「それだよっ。開拓もするなら、ちょっと整理する必要があるからさあ」

議題は尽きない。

そして、デザートに手を伸ばす頃、タリスが思い出した。

「そういえば、コウヤちゃんが、人が増えたなら観光ガイドも必要じゃないかとか言ってた♪」
「「観光ガイド?」」

それは、新たな町の発展のための施策案だった。

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読んでくださりありがとうございます◎
続きます。
三日空きます。
書籍の方も是非よろしくお願いします◎
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