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第十章
393 慣例通り
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コウヤがタリスを連れて来たのは、丁度、いつもの朝議をそろそろ終える頃。だが、大臣達に疲れはなく、寧ろ興奮状態に近い。ここ数ヶ月の朝議や会議では、ダラける空気が一切なかった。
「では、コウヤ様のお披露目は王子お披露目の慣例通り、建国祭に合わせるということでよろしいですね」
「はい! 五日の行程への変更も、問題ありません! 周知されたとの報告の確認も取れております!」
王子のお披露目は、建国祭に合わせるのが慣例だ。本来は三日間だが、この時だけは五日となる。
コウヤは聖女の子として、大いに他国から興味を引いており、できれば一日でも早く王子であると周知させ、王家で守ろうと考えていた。そのため、その慣例から外れて前倒しで計画された。
唐突に見つけられた庶子ということもあり、慣例から外しても問題ないとしたのだ。だが、ここへ来て、最も警戒していた神教国が身動きを封じられた。
参加する他国の要人達も、現在の情勢の中、訪問する事を不安に思っているだろうとのことで、慣例通りのお披露目に変更したのだ。
「これで……もっと盛大にできます!」
「ふた月ほど延びましたから、余裕がありますな!」
「厨房が少し落ち着きました……よかった……っ」
「他国の出席者を改めて見直す時間が取れます! 万全の体制で迎えられるかと」
もうあとひと月もないと慌てていた面々が、一気に重圧から解放されていた。
この変更は、当初より、ユースールから派遣された文官達の提案でもあった。
『これ、俺らが全部仕切るんなら、何とか出来るけど、無理じゃね?』
『下の方のが杜撰過ぎてヤバいんだけど~。警備体制も見直し必要だぜ?』
『あ~、兵も全部ユースールの人員でやるなら余裕だけどさあ、ぱっと見た限り、調整すんのだけで半月かかるわ』
『俺らが手え離した途端、崩壊してもいいの? こいつらだけの自爆で良ければやりたいんだけどな~。コウヤのお披露目だしな~』
というのが、派遣された翌日に上がってきた報告だ。だからと言って、最初から変更しろとは言わなかった。それでも何とか出来るのがユースール印の文官達だ。
『一応、このままの計画で行きますね! 大丈夫です! ここ、そんなに真面目なのが残ってないですし、働きすぎて死ぬ人はいないですから!』
真面目な人ほど働き過ぎて倒れる。だが、ここに残っている文官は、そこまで仕事にのめり込める者も居らず、圧力に抗いながらも屈する者もいない。ならば、問題ないというのがユースール組の下した判断だった。
確かに、寧ろ今までサボり過ぎてやり方が分からない人が大半。王宮を出て地方へ行った平民出の叩き上げに任せっきりになっていた人ばかりだという。
そして、権力にはあっさり屈する。抵抗しないため、ストレスフリー。何も考えず従うものと最初から思っているので、屈するというのとも違う。とりあえず右へ倣えという具合。
ある意味、これほど扱いやすいものもない。この対象をユースールの文官達に適応させれば、あっさり調教も完了だ。
『とりあえず扱い易くしました! あとは仕事を叩き込めば問題解決です!』
さすがは体育会系文官だと、コウヤは称賛の拍手を贈った。
ギリギリでも期限までに間に合うように仕上げたのだが、ユースールの文官達は、裏で一応はと手を回していた。
お披露目を急いだのは、他国がコウヤに手を出させないようにするため。このまま行ったとすれば、ギラギラとした目でコウヤを見て、お披露目当日にも接触しようとするだろう。
それは許せないというのが、ユースール組の答えだった。
『だって、お披露目だよ? コウヤくんには楽しんで欲しいじゃん』
『獲物みたいに見られるのは嫌だよね~。ってか、そんな目向けたら、今のここの騎士とか斬りかかりそう。魔法師もだけど』
『いやいや、神官様達の方が早いって。あっ、お疲れ様です! いえ、呼んでません! すんません!』
『ほらほら。この素早さ。お披露目が、すごく血生臭くなるっ……すんません! そんな雑なやり方しないっすよね~。はい! 分かってます!』
『間違いなく人は減るよな。行方不明者続出。それはまずいよ~』
ちょいちょい、神官が姿を現して微笑まれる中、文官達は意見を出し合った。
『ってことで、お披露目に来る前に、牽制しときました!』
『冒険者ギルドと、商業ギルドからチクリとやってもらいました』
『グサリの間違いかもしれんけどな~』
『コウヤは冒険者ギルド職員として、重要視されてるし、商業ギルドはコウヤに頭上がらんしな』
『これでお披露目は平和になるぜ!』
『もうさあ、慣例通り、建国祭にやっても問題ないんじゃない?』
どう牽制したのか心配になったが、悪い笑い方ではなかったので、悪どいことはしていないはずだ。
そんな感じで、ユースール組は、王宮の文官を鍛えながらも、そもそものお披露目を焦る必要性を無くしていったのだ。見事な発想の転換。忙し過ぎて、情緒不安定になっていた大臣達やベルナディオ宰相は、これを聞いて何秒か息を止めていた。補佐官達が焦って息をさせる騒動があったが、それはもう笑い話だ。
そんな少しほっとしている所に、コウヤとタリスがやって来たのだ。
「コウヤ様が参りました。冒険者ギルドユースール支部のギルドマスター、タリス様をお連れです」
ニールに耳打ちされたベルナディオ宰相が頷き、その様子を確認して察したアビリス王が頷く。そして、宰相は大臣達へ声をかけた。
「本日の朝議はここまで。ですが、この後少しばかりお時間をいただきます。冒険者ギルドより、一つ問題が上がっておりますので、その報告を聞いていただきたい」
「「「冒険者ギルド……?」」」
一体なんだと恐々と開いていく扉へ大臣達は目を向けた。
**********
読んでくださりありがとうございます◎
三日空きます。
よろしくお願いします◎
「では、コウヤ様のお披露目は王子お披露目の慣例通り、建国祭に合わせるということでよろしいですね」
「はい! 五日の行程への変更も、問題ありません! 周知されたとの報告の確認も取れております!」
王子のお披露目は、建国祭に合わせるのが慣例だ。本来は三日間だが、この時だけは五日となる。
コウヤは聖女の子として、大いに他国から興味を引いており、できれば一日でも早く王子であると周知させ、王家で守ろうと考えていた。そのため、その慣例から外れて前倒しで計画された。
唐突に見つけられた庶子ということもあり、慣例から外しても問題ないとしたのだ。だが、ここへ来て、最も警戒していた神教国が身動きを封じられた。
参加する他国の要人達も、現在の情勢の中、訪問する事を不安に思っているだろうとのことで、慣例通りのお披露目に変更したのだ。
「これで……もっと盛大にできます!」
「ふた月ほど延びましたから、余裕がありますな!」
「厨房が少し落ち着きました……よかった……っ」
「他国の出席者を改めて見直す時間が取れます! 万全の体制で迎えられるかと」
もうあとひと月もないと慌てていた面々が、一気に重圧から解放されていた。
この変更は、当初より、ユースールから派遣された文官達の提案でもあった。
『これ、俺らが全部仕切るんなら、何とか出来るけど、無理じゃね?』
『下の方のが杜撰過ぎてヤバいんだけど~。警備体制も見直し必要だぜ?』
『あ~、兵も全部ユースールの人員でやるなら余裕だけどさあ、ぱっと見た限り、調整すんのだけで半月かかるわ』
『俺らが手え離した途端、崩壊してもいいの? こいつらだけの自爆で良ければやりたいんだけどな~。コウヤのお披露目だしな~』
というのが、派遣された翌日に上がってきた報告だ。だからと言って、最初から変更しろとは言わなかった。それでも何とか出来るのがユースール印の文官達だ。
『一応、このままの計画で行きますね! 大丈夫です! ここ、そんなに真面目なのが残ってないですし、働きすぎて死ぬ人はいないですから!』
真面目な人ほど働き過ぎて倒れる。だが、ここに残っている文官は、そこまで仕事にのめり込める者も居らず、圧力に抗いながらも屈する者もいない。ならば、問題ないというのがユースール組の下した判断だった。
確かに、寧ろ今までサボり過ぎてやり方が分からない人が大半。王宮を出て地方へ行った平民出の叩き上げに任せっきりになっていた人ばかりだという。
そして、権力にはあっさり屈する。抵抗しないため、ストレスフリー。何も考えず従うものと最初から思っているので、屈するというのとも違う。とりあえず右へ倣えという具合。
ある意味、これほど扱いやすいものもない。この対象をユースールの文官達に適応させれば、あっさり調教も完了だ。
『とりあえず扱い易くしました! あとは仕事を叩き込めば問題解決です!』
さすがは体育会系文官だと、コウヤは称賛の拍手を贈った。
ギリギリでも期限までに間に合うように仕上げたのだが、ユースールの文官達は、裏で一応はと手を回していた。
お披露目を急いだのは、他国がコウヤに手を出させないようにするため。このまま行ったとすれば、ギラギラとした目でコウヤを見て、お披露目当日にも接触しようとするだろう。
それは許せないというのが、ユースール組の答えだった。
『だって、お披露目だよ? コウヤくんには楽しんで欲しいじゃん』
『獲物みたいに見られるのは嫌だよね~。ってか、そんな目向けたら、今のここの騎士とか斬りかかりそう。魔法師もだけど』
『いやいや、神官様達の方が早いって。あっ、お疲れ様です! いえ、呼んでません! すんません!』
『ほらほら。この素早さ。お披露目が、すごく血生臭くなるっ……すんません! そんな雑なやり方しないっすよね~。はい! 分かってます!』
『間違いなく人は減るよな。行方不明者続出。それはまずいよ~』
ちょいちょい、神官が姿を現して微笑まれる中、文官達は意見を出し合った。
『ってことで、お披露目に来る前に、牽制しときました!』
『冒険者ギルドと、商業ギルドからチクリとやってもらいました』
『グサリの間違いかもしれんけどな~』
『コウヤは冒険者ギルド職員として、重要視されてるし、商業ギルドはコウヤに頭上がらんしな』
『これでお披露目は平和になるぜ!』
『もうさあ、慣例通り、建国祭にやっても問題ないんじゃない?』
どう牽制したのか心配になったが、悪い笑い方ではなかったので、悪どいことはしていないはずだ。
そんな感じで、ユースール組は、王宮の文官を鍛えながらも、そもそものお披露目を焦る必要性を無くしていったのだ。見事な発想の転換。忙し過ぎて、情緒不安定になっていた大臣達やベルナディオ宰相は、これを聞いて何秒か息を止めていた。補佐官達が焦って息をさせる騒動があったが、それはもう笑い話だ。
そんな少しほっとしている所に、コウヤとタリスがやって来たのだ。
「コウヤ様が参りました。冒険者ギルドユースール支部のギルドマスター、タリス様をお連れです」
ニールに耳打ちされたベルナディオ宰相が頷き、その様子を確認して察したアビリス王が頷く。そして、宰相は大臣達へ声をかけた。
「本日の朝議はここまで。ですが、この後少しばかりお時間をいただきます。冒険者ギルドより、一つ問題が上がっておりますので、その報告を聞いていただきたい」
「「「冒険者ギルド……?」」」
一体なんだと恐々と開いていく扉へ大臣達は目を向けた。
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三日空きます。
よろしくお願いします◎
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