元邪神って本当ですか!? 万能ギルド職員の業務日誌

紫南

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第十章

394 大陸の危機

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コウヤは会議室に着くと、一礼した後、すぐにホワイトボードをパックンに出してもらうようお願いする。

「パックン、ホワイトボードを三つお願い」
《はーい (^o^)/ 》

パックンは、コウヤの腰から外れて、床をトントンと跳ねながら移動し、蓋をパカリと開けると、そこから大きなホワイトボードを吐き出した。

明らかにパックンより大きな物が出てきたことで、見慣れていない大臣達がビクリとして目を見開く。

悲鳴が上がらないのは、コウヤならこんなこともあると認識されているからだ。

大臣達にとっては、王子は継承問題などを起こす面倒な存在。親しくなり過ぎてもいけないし、疎遠になってもいけない。だが、現在そんな思考を持つ者はこの場にはいなかった。

問題のあった貴族達も処分されたことで、大臣達も貴族として一から改めて関係を作っていた。その中でコウヤと関わりを持ち、常に相手の裏を読み、情報を少しでも多く求めなくてはならなかった王宮での居心地の悪さは、自分達が作り出したのだと理解した。

それが分かれば、あとは話し合いだ。


『共通の認識を持てば、全員を味方にもできますよね』


笑顔でコウヤにこう言われれば、確かにと頷いて、話し合いの場が持たれるようになった。


『派閥で分かれるのは、悪いことじゃないです。それだけで一ずつの意見も、派閥ごとでまとまりますからね。けど、気に入らないからとか、私情を挟むなら要らないです。あくまで、論議するために必要なだけで、誰かを貶めようとか、自分達が優位に立とうとか考えるなら、別でやってもらわないと』


先の派閥争いは愚かな争いでしたと愚痴った時、コウヤは笑ってそう告げた。ただ争わないようにしましょうという、甘い考えの子どもではないのだと、大臣達は考えを改める。


『時間は有限ですしね。最後に議事録を見て『え、これだけ?』ってならないようにするのが、皆さんの腕の見せ所ですね。いかにそれまでに意見をまとめて、穴を潰せるかです。で、終わって『何とか決まったな』って全てを出し切って満足できたら、その会議は、とっても意味のある良い会議だったってことじゃないかなって思うんです』


そんな話を聞いてから、大臣達は揃って今までの議事録を見返した。そして、一様に頭を抱えたのだ。恥ずかしさで。

だからこそ、ここ最近の会議は熱がこもる。会議が終わると、大きく息を吐く。そして、自然と次の目標が見えてくるようになった。

大臣達は、これから何がと、気を引き締め直す。

コウヤが準備している間、タリスが挨拶をする。

「急な訪問で申し訳ない。冒険者ギルド、ユースール支部のギルドマスターをしておりますタリス・ヴィットです。本日は、他国に先んじて、国の……この大陸の危機について、ご報告に上がりました」
「大陸の危機……ですか……」
「そうです」

外交を担当する大臣が、戸惑いながらも確認するように口にした。なんだか大きな議題が来たなと、大臣達はゴクリと唾を呑む。

タリスの後ろでは、三つ目の大きなホワイトボードが飛び出してくるのが見えている。それを気にしながらだが、何とかタリスの言葉は拾えているようだ。

真ん中のホワイトボードには、一面に大きな大陸の地図が貼り付けられた。これに大臣達は驚き、アビリス王とジルファス、ベルナディオ宰相は呆れた。

「これが……大陸地図……」

自国の地図さえ、少し曖昧な所があるのが当然と思われている所に、コウヤが作成した正確な大陸地図だ。驚くに決まっている。

国の中枢として、他国の場所を示した大陸地図は保管されているが、本当に大まかなのだ。国境線も、自国のことしかはっきりとしていないのが現状だった。

そんな大陸地図の五カ所に、コウヤは丸い色付きの磁石をくっ付ける。赤二つ、黄色二つ、青一つだ。これを見て、タリスが説明する。

「この赤の二カ所がエルフの里、黄色が獣人族の里、青がドワーフの里のある場所です」

それを聞いて、ジルファスが思わず声を上げる。

「ッ、隠れ里の場所が分かったのですか!?」

今まで、それぞれの里を探そうとした者は多い。ドワーフの里など特に、質の良い武器を手に入れたい冒険者としては、職人の町だと聞く里へ行きたいと思うものだ。

それでも、誰もその里の場所を知り得なかった。里を出てきた者たちは、もう帰らないと思って出てくる上、ドワーフ以外は、里の者に見つかれば、ただでは済まされないのだ。二度と関わらないようにと、大まかに避けるべき場所として伝えはしても、確実な場所は誰にも話さなかった。

「里の入り口には、特殊な術がかけてあるものだと聞いたことがあるのですが……」

ベルナディオが困惑しながらそう口にした。同じ話を聞いたことがある者は多いらしく、大臣の中にも頷くものがいた。

これにタリスは少し得意げに答えた。

「こっちには、術に詳しい方も、特殊な魔導具に詳しい方もいるのでね。問題なく入れるようになりましたよ」

それぞれの里の入り口には、人を迷わせる術がかけてあり、その術の媒介がどこにあるのかが確実に分かっている人しか、それを避けることができないのだ。

同じ理由で、上空ルートも使えなかったのだが、それを理解すれば、穴を見つけて入りこむことはそう難しくなかった。先発隊として向かったジェットイーグルに、その穴の入り込み方を教えたのだが、拍子抜けするくらい簡単だったらしい。

「……あの……ドワーフの里が……すごい所にあるようなのですが……」

大臣の一人が気付いたようだ。地図からも、とんでもない所にあると分かるほど、間違いなくすごい場所だ。

「そこはもう、あれですわ。天然の要塞仕様ということで納得してください。僕も、ちょっとコレはって思うんで……」
「……そ、そうですね……」

タリスがドワーフの血を引いていることは、見た目からも察せられることだ。同族がそんな所に居ると知って、何を思うかも察することができるだろうと、それ以上の追及は諦めてもらった。

「まあ、心配なさらず。今回の件で、ドワーフの里は関係ないので」
「分かりました……」

一応、ここでしたよと伝えられればこれは良い。

「さて、では、本題に入らせていただきましょう。コウヤちゃん、よろしく」

そうタリスが切り出す前に、コウヤは両側のホワイトボードに、二枚ずつエルフと獣人族の里の拡大地図を並べて貼っており、すぐに引き継いだ。

「はい。まず、右がエルフの里、左が獣人族の里の現在の拡大地図です。それから……」

コウヤは中央の地図の上に、赤い斜線が書き込まれた透明のフィルムを重ねる。それを見て、ベルナディオは首を傾げた。

「国境……ではないですよね……?  その区切りは一体……かなり広範囲のようですが……」

その斜線部分は、このトルヴァランの上にも引かれていた。少しだけ国の端にかかっている。

「はい。この部分は現在、迷宮化している場所を示しています」
「迷宮……化……」

アビリス王とジルファス、ニールは神を交えたお茶会で聞いて知っている。だが、詳しくは知らないかった。現状などあの場でもわかっていなかった。

「迷宮は本来、この世界に付属した小さな異界です。門という入り口によって、そこに繋げています。ですが、今回の迷宮化は外。明確な入り口や門はなく、状態で言えば侵食です。迷宮が、外に出来上がっているんです」
「……集団暴走スタンピードとは違うのですね?」
「外に迷宮の魔獣達が出ているというのは同じですが、人の居場所を攻撃するような状態ではありません。ただ、地上に出るのが魔獣だけではなくて、フィールドもなのです」
「……」

もう思考が追いつかない様子。だが、どこかで追いついてくれると信じて話してしまう。

「こちらをご覧ください。現在わかっている土地のフィールドを書き込んであります」

示すのは、エルフの里の拡大地図。そこには、現在までで分かっているフィールド線を書き込んである。現在進行形で、現場に居るダンゴからパックンが思念で受け取り、人化して書き込んでいた。

理解が追いついたのは、迷宮へも行ったことがあるジルファスだ。

「……もしや、階層ごとで分かれるフィールドが、平面に配置されてるってことかい?」
「そうです。結界のような区切りがあり、そこでフィールドが切り替わります。そのフィールドを覆っている結界が、外からは変化がないように見せているようで……」

そう、この国も他人事では済まされなくなっていた。迷宮化は、静かに、確実に広がっていたのだ。人知れず、それを狙ったように。

トルヴァランの端にある、そのあまり旨味のない森。そこは既に、迷宮によって取り込まれていたのだ。

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読んでくださりありがとうございます◎ 
二日空きます。
よろしくお願いします◎

第三巻については、この後近況報告にて!
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