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第十章
392 伝統って
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従魔術師達や子ども達が、本格的に現地で探索を始めた頃。
コウヤはトルヴァランの王宮にタリスを伴って来ていた。騎士達に頷かれながら、王宮の門を潜り、通い慣れた廊下を歩いてまっすぐ会議室へと向かう。
因みに、今回はギルドの仕事でもあるので、コウヤは冒険者ギルドの制服を着ている。そして、腰にはパックンがくっ付いていた。
《 ( ̄^ ̄)ゞ 》
これを騎士達も目で確認し、コウヤの背中というか、パックンに向けて敬礼する。これが普通になっているほど、コウヤもパックンも通い慣れた。
ここに居ないダンゴは、ユストのいる待機所で、その場から迷宮化した場所を確認中。テンキは本来の姿で気配を消し、他の従魔達と一緒に探索しているはずだ。
タリスは敬礼した騎士とパックンをチラ見して苦笑する。
「コウヤちゃん、本当に顔パスなんだね……町中でも兵の人たち目礼してたし……王子様ってのはもう周知されてるの?」
特に護衛もなく、普通に町を歩き回る王子など本来ならば危険過ぎる。それも、ほんの半年ほど前まで、次期王位を狙って多くの者が暗躍していた。コウヤの父である第一王子のジルファスは、常に命を狙われていたと言っても過言ではないだろう。
だから、その息子であるコウヤが無防備に歩き回っているというのは、本来なら良くないことだ。しかし、それは王子と知られたらという注釈が付く。
次期王位継承者も決定し、対立する者も排除された今は危険度も低くなったが、それでも、王子であると知られれば、手を出されることはあり得るだろう。何より、ジルファスの子だと知られれば、次期王の息子だ。他国からも手を出される心配がある。
とはいえ、その他国の間者達をも既に支配下に置いているので、怪しい動きがあれば、すぐにコウヤの方に筒抜けだ。なにせ、その間者を押さえているのが、神官達なのだから。
そして、聖女の子と知って手を出そうとしていた神教国は、現在修羅場の真っ最中。こちらに気を回す余裕はない。今の方が安全だった。
「ん~、なんか、騎士の人たちは、知ってるみたいですね。公然の秘密? という感じですか。あとは上の方の、大臣の方たちだけが知ってるって感じです」
「えっ、兵の子達は知らないの? すれ違った子達、めちゃくちゃ敬礼してたよね?」
町中で出会う巡回の騎士達は目礼。だが、町の治安維持に駆け回る兵士達は、コウヤを見るときちんと立ち止まって敬礼する。
「ああ。そうですね。知らないと思いますよ。あれは、その……ギルドの職員として対応した時に、凄く感謝されたのがきっかけです。今までと違うって泣かれました。それから、なんだか、ああいった対応に」
「……どんだけ傍若無人だったの? ここの職員……」
「あ~、数で頑張ってたって言ってましたけどね。俺も、聞いた話ですけど、他の所では、『冒険者を守るには、強気で押し切れ』って教えられるみたいで。最初から喧嘩腰で入るのが普通だそうですよ?」
「……なにそれ、知らないんだけど……」
冒険者のためにあろうとする冒険者ギルドの職員達。それを思えば、強気で対峙するのは正しいのかもしれないが、歩み寄りがなければ、印象は悪くなり、関係も悪化する。だが、それでもと、対峙してきたのだろう。
「戦いとかした事のない職員の方も居ますし、それを考えると、兵の方達に正面切って対峙しようとするのは、中々できるものではありませんよ。それだけ冒険者の方達を大事に思う職員が多かったってことですよねっ」
「う、うん……まあ、そう言われると……いやいや、でもね? 最初から喧嘩腰はダメでしょ」
子を守る親の愛と同じだと言われてしまえば、納得しそうになる。だが、争って良いわけがない。
「でも、それが伝統みたいなものでしたし? 仕方ないのかな~って、それを聞いた時は俺も思いましたけど」
「ユースールではあんななのに?」
「俺、伝統知らなかったですもん」
「いや、だから、それ伝統って片付けちゃダメだって」
冒険者に問題が起きた時、起こした時に兵と喧嘩する。それが伝統というのは、どこのヤンキーのルールだろうかと、コウヤも当時は思った。思ったがそれも有りかなと納得したのも確かだ。この世界、押しが強くないと損をすることは多い。
「まあ、仲間を守るのは当然ですからね」
「非は認めなきゃダメでしょ? うわ~、そんなの常識にしてたら、歩み寄るのは難しいよね……まあ、僕も仲悪くて当然って、一年くらい前までは思ってたけどぉ。はあ……そりゃあそうか。兵の子達だけが悪い訳じゃないよね……」
何でユースールのように仲良く出来ないのかと、タリスは不満に思っていたが、こちらの問題もあったのだと、今更ながらに反省したようだ。
今までの思い上がりに頭を抱えるタリスを見て、コウヤは少し笑う。これにタリスはバツが悪そうにして顔を上げた。
「もしかして、コウヤちゃん全部分かってて、今の教えた?」
「ふふふ。すみません。だってやっぱり、俺から見たら、ギルドも兵の人たちも、両方が歩み寄らないといけない問題だったんで。マスターなら分かってくれるかな~って」
「……うん……僕も凝り固まってたんだなって……気付けたよ」
「良かったです」
「もうっ。コウヤちゃんってば、たまに厳しいよね」
「ふふっ。そうですか?」
拗ねたようにむくれて見せるタリスに、コウヤは楽しげに笑った。
「でもそうだねえ。こういうのが、今回の問題の根底にもありそうだね。歩み寄り……大事だね」
「はい。なので、あちらが歩み寄りやすいようにしましょうね」
「そこまで面倒見てあげないとダメ?」
「拗らせに拗らせまくった子どもだと思うことにしませんか?」
「……それがいいね。そうしよう。年齢、僕に近いかもしれないけど、そうだね。子どもから成長できてない大人とするよ」
「そうしましょう」
寛容に。でも時に強引に。道を正してやるのが大人の役目だと割り切れば腹も立たない。
会議室の扉が見える位置まで来ると、その扉の両脇に控えていた騎士達が背筋を伸ばす。
「こんにちは。冒険者ギルド、ユースール支部のギルドマスターをお連れしました。入れていただけますか?」
「っ、はい! 伺っております。お入りくださいっ」
そして、王族や大臣達の待つ会議室へと入ったのだ。
**********
読んでくださりありがとうございます◎
二日空きます。
よろしくお願いします◎
来週には刊行予定日をお伝え出来ると思います。
もう少々お待ちください!
コウヤはトルヴァランの王宮にタリスを伴って来ていた。騎士達に頷かれながら、王宮の門を潜り、通い慣れた廊下を歩いてまっすぐ会議室へと向かう。
因みに、今回はギルドの仕事でもあるので、コウヤは冒険者ギルドの制服を着ている。そして、腰にはパックンがくっ付いていた。
《 ( ̄^ ̄)ゞ 》
これを騎士達も目で確認し、コウヤの背中というか、パックンに向けて敬礼する。これが普通になっているほど、コウヤもパックンも通い慣れた。
ここに居ないダンゴは、ユストのいる待機所で、その場から迷宮化した場所を確認中。テンキは本来の姿で気配を消し、他の従魔達と一緒に探索しているはずだ。
タリスは敬礼した騎士とパックンをチラ見して苦笑する。
「コウヤちゃん、本当に顔パスなんだね……町中でも兵の人たち目礼してたし……王子様ってのはもう周知されてるの?」
特に護衛もなく、普通に町を歩き回る王子など本来ならば危険過ぎる。それも、ほんの半年ほど前まで、次期王位を狙って多くの者が暗躍していた。コウヤの父である第一王子のジルファスは、常に命を狙われていたと言っても過言ではないだろう。
だから、その息子であるコウヤが無防備に歩き回っているというのは、本来なら良くないことだ。しかし、それは王子と知られたらという注釈が付く。
次期王位継承者も決定し、対立する者も排除された今は危険度も低くなったが、それでも、王子であると知られれば、手を出されることはあり得るだろう。何より、ジルファスの子だと知られれば、次期王の息子だ。他国からも手を出される心配がある。
とはいえ、その他国の間者達をも既に支配下に置いているので、怪しい動きがあれば、すぐにコウヤの方に筒抜けだ。なにせ、その間者を押さえているのが、神官達なのだから。
そして、聖女の子と知って手を出そうとしていた神教国は、現在修羅場の真っ最中。こちらに気を回す余裕はない。今の方が安全だった。
「ん~、なんか、騎士の人たちは、知ってるみたいですね。公然の秘密? という感じですか。あとは上の方の、大臣の方たちだけが知ってるって感じです」
「えっ、兵の子達は知らないの? すれ違った子達、めちゃくちゃ敬礼してたよね?」
町中で出会う巡回の騎士達は目礼。だが、町の治安維持に駆け回る兵士達は、コウヤを見るときちんと立ち止まって敬礼する。
「ああ。そうですね。知らないと思いますよ。あれは、その……ギルドの職員として対応した時に、凄く感謝されたのがきっかけです。今までと違うって泣かれました。それから、なんだか、ああいった対応に」
「……どんだけ傍若無人だったの? ここの職員……」
「あ~、数で頑張ってたって言ってましたけどね。俺も、聞いた話ですけど、他の所では、『冒険者を守るには、強気で押し切れ』って教えられるみたいで。最初から喧嘩腰で入るのが普通だそうですよ?」
「……なにそれ、知らないんだけど……」
冒険者のためにあろうとする冒険者ギルドの職員達。それを思えば、強気で対峙するのは正しいのかもしれないが、歩み寄りがなければ、印象は悪くなり、関係も悪化する。だが、それでもと、対峙してきたのだろう。
「戦いとかした事のない職員の方も居ますし、それを考えると、兵の方達に正面切って対峙しようとするのは、中々できるものではありませんよ。それだけ冒険者の方達を大事に思う職員が多かったってことですよねっ」
「う、うん……まあ、そう言われると……いやいや、でもね? 最初から喧嘩腰はダメでしょ」
子を守る親の愛と同じだと言われてしまえば、納得しそうになる。だが、争って良いわけがない。
「でも、それが伝統みたいなものでしたし? 仕方ないのかな~って、それを聞いた時は俺も思いましたけど」
「ユースールではあんななのに?」
「俺、伝統知らなかったですもん」
「いや、だから、それ伝統って片付けちゃダメだって」
冒険者に問題が起きた時、起こした時に兵と喧嘩する。それが伝統というのは、どこのヤンキーのルールだろうかと、コウヤも当時は思った。思ったがそれも有りかなと納得したのも確かだ。この世界、押しが強くないと損をすることは多い。
「まあ、仲間を守るのは当然ですからね」
「非は認めなきゃダメでしょ? うわ~、そんなの常識にしてたら、歩み寄るのは難しいよね……まあ、僕も仲悪くて当然って、一年くらい前までは思ってたけどぉ。はあ……そりゃあそうか。兵の子達だけが悪い訳じゃないよね……」
何でユースールのように仲良く出来ないのかと、タリスは不満に思っていたが、こちらの問題もあったのだと、今更ながらに反省したようだ。
今までの思い上がりに頭を抱えるタリスを見て、コウヤは少し笑う。これにタリスはバツが悪そうにして顔を上げた。
「もしかして、コウヤちゃん全部分かってて、今の教えた?」
「ふふふ。すみません。だってやっぱり、俺から見たら、ギルドも兵の人たちも、両方が歩み寄らないといけない問題だったんで。マスターなら分かってくれるかな~って」
「……うん……僕も凝り固まってたんだなって……気付けたよ」
「良かったです」
「もうっ。コウヤちゃんってば、たまに厳しいよね」
「ふふっ。そうですか?」
拗ねたようにむくれて見せるタリスに、コウヤは楽しげに笑った。
「でもそうだねえ。こういうのが、今回の問題の根底にもありそうだね。歩み寄り……大事だね」
「はい。なので、あちらが歩み寄りやすいようにしましょうね」
「そこまで面倒見てあげないとダメ?」
「拗らせに拗らせまくった子どもだと思うことにしませんか?」
「……それがいいね。そうしよう。年齢、僕に近いかもしれないけど、そうだね。子どもから成長できてない大人とするよ」
「そうしましょう」
寛容に。でも時に強引に。道を正してやるのが大人の役目だと割り切れば腹も立たない。
会議室の扉が見える位置まで来ると、その扉の両脇に控えていた騎士達が背筋を伸ばす。
「こんにちは。冒険者ギルド、ユースール支部のギルドマスターをお連れしました。入れていただけますか?」
「っ、はい! 伺っております。お入りくださいっ」
そして、王族や大臣達の待つ会議室へと入ったのだ。
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読んでくださりありがとうございます◎
二日空きます。
よろしくお願いします◎
来週には刊行予定日をお伝え出来ると思います。
もう少々お待ちください!
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