元邪神って本当ですか!? 万能ギルド職員の業務日誌

紫南

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第十章

381 お待たせしましたー♪

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神子達との顔合わせも兼ねた食事会から半月が経った。

ジンクを含めたユミ達、神子は、ユースールの教会で暮らしている。九人の神子達は、三人のグループを作り、日によって違う活動をして楽しんでいるようだ。

「はいはーい。A定食お待たせしましたー♪ ごゆっくり~」
「B定食お待たせ。よく噛んで食べてくださいね」
「C定食です。お待たせしました。お薬を忘れずに」
「「「っ、はい!!」」」

今日の教会の施設内にある食堂では、ユミ、ミナ、ソラの三人の神子達が元気に生き生きと働いている。

一方、ユリを中心にしているグループは、病人や怪我人を診る『療薬院』にいた。

「これでいい。だが、治ったからと言って、無茶をしないように。何事も、油断するなよ」
「っ、は、はい! ありがとうございました!」

ユリは女性だが、カッコいい女性。騎士に居そうだというのが、ユースールのお姉様方の意見。サーナ達とはまた違った人気が出ている。

「こちらがお薬となります。朝と夕の食後にお飲みください。大変飲みやすくなっておりますので、ご安心を。飲む日付けも書いてございます。ご確認ください」
「お気遣いありがとうございます!  きちんと忘れずに飲みます!」

穏やかで、一見してどこかのお姫様かと思える見た目のハナ。それも黒髪に黒い瞳。髪型も直線的に揃えるため、コウヤには十二単衣の似合うお姫様に見える。だが、見た目に騙されると痛い目に合う。得意なのは投擲術。石でも野菜でも何かの種でも武器にする。これを知って、コウヤはお姫様からくノ一に印象を切り替えた。

「ほれ、じいさん。こっちの車椅子に乗り換えるぞ。抱えていいか? まったく、また転んだのか? 場所は? は? 同じ所? はあ……帰り一緒に家まで行くわ。段差あんなら、何とかせんといかんだろ。ついでに買い物も付き合ってやる」
「すまんのお。うちのバカ息子とは大違いじゃわい」

彼はギン。見た目は大柄で、少々厳つい。荒くれ者の冒険者としても通る。だが、とても世話好きで優しい人だ。子ども好きでもあるが、初対面時はまず泣かれるか逃げられる。それに落ち込む様子を隠すことが出来ない不器用な男だ。お陰で子ども達も二度目は恐る恐る近寄り、三度目にはその人柄にすっかり懐柔される。

そして、料理はもちろん、大きな指で器用に裁縫までこなせる人だ。コウヤがあみぐるみを教えたら、次の日には兎やらクマやらのぬいぐるみが孤児院に溢れていた。やたらファンシーだった。

そして、最後の三人は孤児院にいた。

「この絵は素晴らしいですわね。才能がありましてよ。よろしければ、食堂のメニュー表の絵を描いてみませんこと?」
「え、ぼくがかいてもいいの?」
「もちろんですわ」

ヒナは小柄なお嬢様にしかみえない。少々やんちゃな悪ガキも、彼女の前では頬を赤らめてもじもじする。少女達に突っかかることもあった彼らは、ヒナが孤児院を担当した初日に大人しくなり、今では立派な紳士になるべく日々努力していた。

「女のお前達の方が筋が良いな。その感覚を忘れるな。護身術とて、戦える術だ。今は先ず、己の身を守ることを覚えろ」
「「「はい! おししょうさま!!」」」
「お前達も負けるなよ」
「「「はい! ししょう!!」」」

年長の者達を集めて、護身術を教えているのはカイという青年だ。あまり喋る方ではないが、こうした指導の時には力が入るらしい。彼は声が良いとお姉様方から密かに人気がある。

「うわあ、美味しそうに焼き上がったねえ。こっちの野菜のマドレーヌも上手だよ。さあ、今度は可愛く包まないとね」
「「「は~い」」」
「上手に出来たのは、前みたいに一つずつ、好きな人にプレゼントしよう」
「「「っ、はい!!」」」

お菓子教室を開いているのが、くりくりとした大きな瞳でふわふわなヒヨコのような黄色の髪をした可愛らしい少年にしか見えない男の子。名をユズという。彼はお料理、特にお菓子やパン作りが好きだ。そこで、食堂や療薬院の受け付けで、子ども達と作ったオヤツを売ることになった。ちょっとしたご褒美オヤツとして、ここ数日で既に多くの人に認知されつつあった。

ユズは『好き』という感情に特別な思いがあるらしく、恋をする者たちを応援するのが大好きだ。さり気ない恋愛アドバイスが上手いため、男女問わず、恋の悩み相談に引っ張りだこになっている。

マリーファルニェやエリスリリアとはまた違うアプローチの仕方を教えてくれるというのだ。何より、ユズは男だ。エリスリリア達には言いづらいことも相談できると、男たちが日々頭を下げに来ている。

そんなユズの人気があり、コウヤは急遽、孤児院と食堂の間に相談室を増設した。ギルドの仕事の合間での作業だったので、少し時間がかかってしまった。

「ユズくん。相談室出来たから、後で見ておいてね。予約制って看板は、もうすぐジンクおじさんが持ってくるから」
「わっ、ありがとうございます! すみません、コウヤ様。お仕事があるのに」
「いいよ。俺も楽しかったし、マリーちゃん達への恋愛相談がちょっと多くなってきてたから、ギルドとしても助かるんだ。じゃあ、頑張ってね」
「はい!」

コウヤと入れ替わりに、ジンクが看板を担いでやって来た。

「おい、ユズ。もう並んでる奴らがいるんだが?」
「うわ~。でも仕方ないですよね。恋愛に待ったはナシですし!」
「……お前……その見た目詐欺、いつか訴えられそうで怖いわ……」
「やだなあ、ジンクさん。ボクは何も偽ってませんよ~」
「そうだな……誰もお前に年齢聞かないもんな……」
「えへへ☆」

ユズは、神薬を飲む前から、見た目がほとんど変わらなかった。飲んだ当初の年齢は三十。なのに見た目は十代半ば。神薬を飲んで成長が更にゆっくりになったことで、ますます年齢不詳になっていったらしい。

「ジンクさん、予約受け付け手伝っていきません?」
「いやだ……俺は、ゼスト様のいる王都に行く! ようやく、ドラム組と彫りもの師として契約出来たんだからなっ!」
「あ、やっとですか。なら、仕方ないですね~」
「おうよ! 行ってくる!」
「はいは~い。お気をつけて~」

ジンクを見送ると、お菓子を包んでいた子ども達がユズに申し出る。

「ユズ兄。その予約って、私達でもできる?」
「え? もしかして、手伝ってくれるの?」
「うん。私達、接客のお仕事とかも覚えたいし……ダメかな?」
「ううん。いいよ! 寧ろお願い!」
「「「はい!」」」

そうして、新たな孤児院での勉強の場が増えていく。彼ら神子達によって、町の人々だけでなく、子ども達にも多くの変化が起きていたのだった。

**********
読んでくださりありがとうございます◎
三日空きます。
よろしくお願いします◎
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