元邪神って本当ですか!? 万能ギルド職員の業務日誌

紫南

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第九章

380 人が解決すべきこと

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食事が一息付き、紅茶などの飲み物を傾けながら、デザートをゆっくり堪能する頃。

ようやくコウヤは、今回の大本命である『土地の迷宮化』についての話を切り出した。

「恐らく、エルフ族や獣人族の里の周辺が迷宮化しているのではないかと。そのために、彼らも焦って、今回行動を起こした可能性が高いです」

ジンクがダンゴを連れて起こしに行った六人の神子達は、ここへ来る前に、神教会の方が気になり、ジンクやミナ達と再会した場所に寄ってから来たようだ。現在の神教国が攻められようとしている状況は確認している。

「『土地の迷宮化』に対応したのは、ユリさんやヒナさんだと聞きました。具体的にどんな事が起きるのか、教えていただけますか?」

ユリはリクトルスの神子の一人で、ヒナはエリスリリアの神子だ。彼らの故郷の国が、かつて迷宮化したという。

コウヤに指名されたユリとヒナは、同時に立ち上がって、敬礼する。因みに、二人は女性だ。ユリはキリリと表情を引き締め、ヒナは少し興奮気味に頬を染める。

「はっ! 報告いたします!」
「っ、なんでもお答えしましてよ!」

頼もしいなと微笑むと、二人共が顔を真っ赤にして何度か咳払いをしていたが、すぐにまたビシっと姿勢を正して答えてくれた。

「迷宮化は、その呼び名の通り、精霊が周辺の土地全てを支配下に置き、その土地自体を迷宮にすることで起こります。精霊自体も進化というか……変異し、自らがボスとなるのです」
「え……精霊達がボス……?」
「はい。あれは、魔獣と同じように、その土地での縄張りをまとめるボスと同じだと思います」
「そんなことが……」

たいてい、その土地ごとで、一帯を取り締まる個体がいる。元々、迷宮のボスも、そうした個体のかつての土地の記憶を呼び出し、精霊が設定しているものだ。

それに精霊達は成り代わった。あのコロコロとした小さく可愛らしい精霊がだ。コウヤには想像できなかった。

「大きさももちろんですが、姿も変わりますの。わたくし達にはスキル『真実の眼』がありますから、精霊のお姿とダブって見えましたわ」
「迷宮化した二箇所では、それぞれ精霊の姿も違いました。どんなという説明はし辛いですが、今思えば、迷宮ボスと一体化していたように思います」

それも醜悪な変化であったという。口にはしなかったが、言いにくそうな様子から、コウルリーヤの邪神としての姿と似ていたようだ。元の姿が想像出来ないほど、醜悪な変化を見せたのだろう。

次に、土地の変化についてだ。

「土地が迷宮化しますと、先ず、周りの植物が変化しますわ。多くが毒性を持ちますの。薬草類は数を減らし、効能も一気に下がります。これは、迷宮とは逆ですわ……」

本来の迷宮では、薬草が一定量確保でき、更に外にある天然のものよりも、効能が高くなる。しかし、迷宮化は逆らしい。

「その土地で育つ作物には微量の毒が含まれるようにもなります」
「っ……」

そこまでの変化があるとは、コウヤも予想していなかったため、言葉に詰まる。

アルキスがここに口を挟んだ。

「エルフの里も、獣人の里も、輸入とか全くだって聞いたぞ? それで、どうやって生きてんだ?」

神子達やベニ達を除けば、アルキスが一番冒険者として世界を回っている。二つの里の情報も、それなりに耳に入ってきていたのだろう。

「エルフなんて、特に里から一歩でも出たら戻れねえって聞く。里抜けした奴らを追ってるのも、里には帰らないって誓約をして出てくるらしいしよ」

不快だと顔をしかめるアルキスに、ミラルファが確認する。

「何よそれ……それじゃあ、本当に里の外に出ることが許されないってこと? 輸入どころか、ちょっと人里で買い付けなんてこともなし?」
「みたいだな。けど、里の中の生活で完結してるんだ。小さな村の生き方と変わらん。だが……その迷宮化ってやつになってんだったら、外に出んとどうにもならんだろ……」

土地を丸ごと迷宮化されているのなら、里の中も外もない。それまでは自給自足ができていても、採れる作物がダメになればどうにもならない。

これに、ルディエが補足した。

「あいつら、その迷宮化が、神教国のせいだって、思ってるみたい。そもそも、神教国のせいで神の加護がなくなったり、弱まったりしたって思ってた所にコレだから。今回の流れは自然なことだよ」

至るべきと思い込んでいた結論にまっすぐ辿り着いてしまったということだろう。しっかり間違っている。迷宮化には、神教国は関係がない。

「……今の里の様子が知りたいね……けど……」

チラリとゼストラークへ視線を向けるコウヤ。返ってくる答えは知っている。

「管理者権限は使ってはいけない。今回のそれは、人が解決すべきことだ」
「うん……」

場所の特定も、コウヤがすべきことではない。いくら精霊が関わっていたとしても、コウヤやゼストラーク達が神として手を出すことはしてはならない。これはいわば、正当な精霊と人との戦争なのだから。

だが、神としてダメなら、冒険者ギルド職員として、一国の王子としてなら別だ。

「なら、冒険者の人たちに頑張ってもらわないとね。その迷宮化って、放っておいて大丈夫なものじゃないよね?」

ユリとヒナに目を向けると、二人は大きく頷いた。

「次第に支配範囲を広げていくようですので、現在の規模が分かりませんが、里だけの問題ではなくなります」
「わたくしの所も、最終的には、三つの町を呑み込みましたわ……その支配下に入ると、正常な迷宮は停止しますの。お陰で氾濫を食い止められた所もありましたが、問題はもっと深刻になりますわ……」

周りの作物がダメになるのだから、迷宮なんて言ってられない。

「それなら……ダンゴ。分かるよね」
《でしゅ! なんでか休眠状態になってるところがあるのは感じましゅ!》
「その場所から、里の位置を特定しよう」

コウヤは段取りを考えていく。

「そうだ。その土地に元々いた魔獣達に変化は出ますか?」
「いいえ。不思議なことに、そのままでしたわね……あれは……迷宮産の魔獣や魔物達と共存していましたわ。ただ、もちろん長くその土地に居れば、毒を持った植物などを食べますから、弱ってはいましたが……」

魔獣達にとっては、縄張りのボスが変わっただけ。新入りが入っただけに過ぎなかったのだろう。

「なら……従魔術師の研修も兼ねて、偵察とかできるかな」
「ふふふ。コウヤちゃん、楽しそうね」

エリスリリアに指摘され、コウヤは思わず笑った。

「そうかも。でも冒険者を動かすとなると……」

目を向けた先にはアビリス王。彼は、分かっているよと頷いた。

「他国にも迷宮化する土地のことを話し、資金を募ろう」
「お願いします」

そう。これが今のコウヤの解決方法。冒険者ギルド職員として、王子としての戦い方だった。

「さあ、やりますか」

本領発揮だ。

**********
読んでくださりありがとうございます◎
二日空きます。
よろしくお願いします◎
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