元邪神って本当ですか!? 万能ギルド職員の業務日誌

紫南

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第九章

379 ご飯食べる♪

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レナルカは眠ったままだ。このまま静かにしばらく寝かせてやろうと、コウヤはレナルカの周りに遮音の結界を張った。

小さな背中に当てたコウヤの手は、ゆっくりとしたテンポを刻んだままにしておく。

「コウヤさん、レナルカちゃんは大丈夫?」

イスリナがお皿にパンケーキを取り分けながら、コウヤに尋ねる。

「レナルカちゃんが泣くのなんて、生まれてすぐの頃以来、はじめて見たわね……」

よしよしとイスリナはレナルカの頭をそっと撫でた。

「そういえば、そうですね。俺もあまり泣いた所を知らないです」
「よっぽどの事があったのね」
「……ええ……」

伝わってきたのは、コウヤを失くすかもしれないという恐怖だった。神教国には、それほどの何かがある。

「邪神……か……」
「コウヤさん?」

心配そうに顔を覗き込んでくるイスリナに、コウヤはなんでもないと首を横に振る。

「いえ。なんでもありません」
「そう? あ、抱っこしながら食べられる? もう少し小さくするわね」

パンケーキとサンドイッチなどを盛ったお皿をコウヤの前に置こうとしていたイスリナは、食べやすいように更に小さく切ってくれるつもりらしい。

隙あればレナルカを抱っこしようとしていたイスリナも、今回はコウヤと離すべきではないと感じたようだ。

「え、いいですよ?」
「ふふふ。いいの。たまには、普通の母親らしいことをさせてちょうだい?」
「あ……はい。お願いします」
「任せてっ」

コウヤをジルファスの子として国内外に発表する日が近付くにつれて、イスリナも意識が変わってきたようで、何かにつけて『お母様』と呼ばせたがったり、甘やかしたりしていた。

そんなイスリナの想いを無下にすることは出来ず、コウヤは苦笑しながらも付き合っている。親子の関係というのは、意識するほどに難しいというのが、最近のコウヤの認識だ。

思えば、コウルリーヤとしての母親はいないし、前世では病院生活が当たり前で、母と子の当たり前の日常とは縁遠かった。そして、今世では、物心つく前に母が他界してしまっている。実の母子の関係を知らないため、コウヤも手探り状態なのだ。

更に難しいことに、母親になろうとしているのが貴族。それも、王太子妃だ。王族の母子の関係は想像することも出来なかった。とはいえ、イスリナも冒険者にもなるトルヴァラン王家の嫁だ。普通の貴族とも少し違う所を目指しているかもしれない。

「これで揃ったかしら?」

エリスリリアがベニ達を呼び寄せ、ようやく席が埋まる。最初の予定より、間違いなく大人数になったが、テーブルも椅子もゼストラークが作った物で揃っているようだ。

こうした物は、恐らくコウヤとパックン以上に揃えているのがゼストラークだ。だからこそ、パックンのような収集癖も生える従魔を作り出せたともいえるだろう。

ゼストラークも、実はパックンの中身に危機感を持っていないのだ。リクトルスが指摘していても、目を逸らす。あまり喋らない上に、表情にも出にくいため、伝わらないが、ゼストラークとしてはパックンの収集癖を少し自慢げにしている。さすがは自分の生み出した従魔だと。

お陰でパックンの中身は、未公開のまま来てしまっている。人化スキル修得のためのレベルアップで、更に異次元化しているというのは、コウヤも全力で目を逸らす気でいる。

「さあ、じゃあ……お父様やリクトはこういうの苦手だし……コウヤちゃんは動けないから……ベニちゃんっ。短めに挨拶よろしく♪」
「……エリィちゃんがやればいいのに……分かった」

アビリス王もいるが、これはあくまでもゼストラーク達が企画したもの。なので、文句は出ない。

「では、数百年振りの戦友の無事な目覚めと、再び地上へと降りてきてくださった神に感謝して、また、新たな時代の友人達との出会いに……乾杯!」
「「「「「乾杯!!」」」」」

神子達は、はじめ、目の前に並ぶ食べ物に、大いに戸惑っていた。生きた時代が違うのだ。食文化もかなり変わっている。現代の食べることに苦慮する状態が通常だった。

彩りもカラフルに野菜やタマゴ、ハムが挟まれたサンドイッチでさえ、仰天するもの。根菜系が主流だったため、生の新鮮な葉物野菜なんて、薬草だと思ったようだ。

タマゴは月に数回食べれれば良い方。鳥も家畜化されていないのだから、たまに手に入る野生の鳥のタマゴが普通だった。スライスハムなんて何ものかさえ分からないだろう。

パンだって彼らには完全に別物だ。地位ある立場の者でも、堅いパンが普通だったのだから。

「こ、これ、食べ物?」
「やだ、柔らかいっ。お、美味しい!!」
「え……薬草じゃないの? 野菜? 美味しいんだけどっ」
「……タマゴ……タマゴ? あれ? タマゴって……タマゴ?」

すごく困惑しながらも、賑やかに食べはじめていた。

他にもプチハンバーグや、だし巻き卵といった、お弁当の定番ものもある。作り置きしてある揚げ物も出した。

「お肉がこんなに柔らかいなんて……っ」
「これもタマゴ……どうしよう……こんなに食べて良いのかな……美味しい……っ」
「魚っ……これ、魚だっ。何これっ。外がサクサクしてる!」

子どものようにはしゃぎ、感動し、贅沢だと少しの罪悪感を感じる。それでも、手は止まらないらしい。

「起きたばかりで、あまり食べすぎるのは……いえ、よく噛んでくださいね」

あまりの食べっぷりに、ちょっと注意しようとしたのだが、揃って『え……』と絶望した表情を見せられ、ルート変更を余儀なくされた。

夢中になっているのは、神子達だけではない。王家組も負けていない。

「コウヤ、これ大皿で欲しい。全部食いそう」

アルキスは、小さなオムライスを指差して、正直に申告した。

「リルが泣きそうなのでやめてください。はい。一人前のオムライスです」

現役の冒険者でもあるアルキスとしては、ちょっとずつというのが嫌だったようだ。もちろん、それもコウヤは想定済みだ。

同じように、気に入ったものは一人前食べたいと思う者がいることもわかっていた。

「ジル父さん、きのこのパスタありますよ」
「くださいっ」

先ほどから何かを挟んでパスタの一口サイズを何度も取っていたジルファスへ、お気に入りの和風パスタを進呈した。

「ビジェ。炊き込みご飯、釜ごと出しますから、あっちのテーブルに置いてください。茶碗もどうぞ」
「っ、すみませっ……ありがとうございます……」
「うん。あ、ルー君。茶碗蒸しあるよ」
「た、食べる……っ」

ルディエに一人分としては少し大きいサイズのそれを渡すと、王家組とベニ達の視線が集まってきた。

「ん? あ~……小さめの茶碗蒸しなら……十人限定」
「「「「「ほしい!!」」」」」

取り合いは王家に教えたジャンケンにて解決だ。

「エリィ姉。それ、デザート。デザートバイキングはダメ。ご飯食べてから」
「ええぇっ。あ、合間に入れてる……よ?」
「……食べ合わせおかしいよ……おにぎり食べながらケーキはやめよう?」

味覚は大丈夫かと心配になった。

「ううっ……コウヤちゃんの一口ケーキ……っ」
「うん。だから、それは食後のデザート」
「だって……だって、美味しい……あっ、アップルパイ、もう一つ出して~」
「一つって、ホールだよね? あれ? ちょっ、まさか、一人で四分の三食べたの!?」
「えへ☆」
「……今日はもうエリィ姉はアップルパイなし!」
「えええっ! やだぁぁっ。コウヤちゃぁぁんっ」

嘆くエリスリリアに、コウヤは首を横に振る。

「うぇぇぇんっ」
「紅茶のシフォンケーキ用意してるのに、食べ過ぎだよ」
「っ、え……し、シフォンケーキ!? 紅茶の!? あるの!?」
「あるの。だから、デザートの食べ過ぎはダメ」
「分かったっ。ご飯食べる♪」
「そうして」
「うん♪」

全員で分けてちょうどよい具合になるように調整して、デザートは出していた。テーブルの上の彩りのためでもある。なので、デザートバイキングをされては困るというのが、コウヤの言い分だ。

ちなみに、エリスリリアはものすごく食べる。際限なく食べれるので、注意しないといけない。ニコニコ、優雅に小さな口に次から次へと入れていく様子だけでは、そんなに食べているとは見られないので、見た目で得をしている。

実際、この二十数人分の食事も、エリスリリア一人で食べ尽くせるだろう。神だからということもあるが、一応は神でも人の一人前くらいを食べる程度で自然に止めるのが普通だ。よって、エリスリリアはおかしい部類に入る。

コウヤとしては、食べるの大好き女子の認識なので、軽い注意で終わるのが常だ。

「……コウヤくん……エリスに甘いですよ……」
「リクト兄には、甘みを抑えたコーヒーのシフォンケーキを用意したよ?」
「……嬉しいです」

ちょっと拗ねた様子だったリクトルスだが、コロリと機嫌を直し、先程からと変わらない様子で、コウヤの取り皿にバランスよく取り分けてくれていた。

「ゼストパパにもね」
「それは楽しみだ」

こうして、昼食会は賑やかに進んでいった。

**********
読んでくださりありがとうございます◎
次回、三日空きます。
よろしくお願いします◎
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