271 / 497
第九章
376 会えて嬉しいよ
しおりを挟む
テーブルの上が万全に整う頃。ジンクはダンゴと共に六人の男女を連れて現れた。
「あ、ジンクおじさんお帰りっ」
「っ、た、だだいま! さすがに疲れたあっ」
コウヤは、その場に座り込むジンクに特製レモネードを持って駆け寄る。
「お疲れ様。これ飲んで」
「ううっ……コウヤくん……っ、いいお嫁さんになるよ……っ」
「それ、たまに言われるんだけど。お婿さんじゃないのはなんでかな?」
コテンと首を傾げるコウヤに、ジンクの後ろに並んでいた六人の男女が、思わず口元を両手で押さえる。
「ふぐっ」
「んんっ」
「っ、か、かわっ」
顔が真っ赤だった。
それを見て、コウヤは首を捻るが、熱い視線を感じるので、悪いことではないかなと判断した。
今まで陽の光も浴びることなく、何百年と眠っていた人たちだ。雲が程よくあるとはいえ、いきなり昼間の陽を遮る場所もない所に来たのだから、のぼせても不思議ではないだろうと納得する。
しかし、そこでふと陽が翳ったように感じて、自然に上を向く。すると、見えない何かがあった。怪しいものではない。それが何かは、すぐに思い当たる。
「あっ、マンタだ。ってことは……ベニばあ様とルーくんっ」
ベニとルディエは、城に来ていた密偵達を連れて、神教国によって病にされた者たちを拐いに行っていた。
なるべく人知れず拐うとは言っても、治療のためだ。宮廷薬師達も連れて、マンタの中で治療を開始しながら来ているはずだ。拐いそこねるなんてことは、ベニやルディエにはありえないだろう。
パックンも何も言わなかったことからも、コウヤが頼んだ転移によって、病の者たちをマンタへ連れてくる役目は終えていると判断して良い。
「あら? なあに? ベニちゃん来たの?」
エリスリリアが歩み寄り、陽を避けるように片手を目の上で翳し、笑った。
そこに、上空からベニとルディエが降ってきた。
「うわ~。これ、キイちゃんとセイちゃんも呼ばないと、後で言われるわ~。ちょっと拉致ってくるわねっ」
「拉致……エリィ姉?」
目を向けた時には、もうエリスリリアは居なかった。確かに、ここで二人に声をかけなければ、後が怖い。
そこに、森にいた人たちを捕まえに行っていた人化したパックンとユミも戻って来た。
《戻ったよー》
「パックン。ありがとう。少し預かっておいて。パックンの中なら、それほど弱ることないだろうし」
《うん。レベル上がったから、完全に仮死状態に出来るんだ~。だから、何日でも、何年でも任せて!》
「そんなにっ?」
《ふふんっ》
鼻息荒く、腰に手を当て胸を張るパックン。とっても自信満々だ。パックンだけでなく、ダンゴやテンキも、人化のために一気にレベルを上げたことで、他の能力も付随して上がっていたようだ。
彼らも、人化することだけに目を向けていたため、ここへ来て出来ることが増えていることにようやく気付き始めた所だった。
「ふふ。頼もしいよ」
《っ、任せて!》
やはり、コウヤに褒められるのが一番のようだ。
そして、そんな中、ジンクや神子達と、ベニの対面が果たされていた。
「……え……え? べ、ベニちゃん? え? なんで? なんで若返ってるの!?」
さすがというか、ジンクが一番はじめに声を発した。他の神子達は、よく喋ると知られているユミさえも、驚き過ぎて声を出すことが出来ずにいる。
一方のベニは、ジンクの問いかけよりも、その後ろに居る面々に目を丸くしていた。
「おや、おや。これは懐かしい顔だ。ようやく起きられたのかい。まあ、ジンクは勘だけは良いから、勿体ぶってということはないか」
しっかりと『だけ』を強調するベニ。ジンクがコウヤに出会ってすぐに起こさなかったのには意味があると、わかっているのだ。『その時ではない』と思い留まったことには何かがあるのだと。
唯一、残ったコウルリーヤの神子だった者。それがジンクだ。
コウルリーヤが正気を失った時には、『コウルリーヤ神の神子』という役割は消滅していた。ジンクは『ゼストラーク神の神子』でもあったため、死を考えるほど絶望することはなかったが、他のコウルリーヤの神子達は違った。
残りの寿命全てを魔力に変換し、神が見放した世界の平定に努めた。
他の神子達は、もう一度ゼストラーク達が地上に目を向ける日を信じて眠るという選択ができた。だが、コウルリーヤの神子だった者たちは、再びコウルリーヤがこの世界へと戻って来ることを信じて待つことは出来ないと思った。
何より『コウルリーヤ神の神子』という言葉が自分たちの中から消えたことが、彼らには我慢ならなかったのだ。
その気持ちが一番理解できるのは、ジンクだけだった。だから、全ての寿命を燃やし尽くす彼らを、黙って見送った。
眠りにつく他の神子達も、失意の内に命を絶った元神子達の想いは理解していた。だから、せめて彼らの代わりにコウルリーヤの愛した世界を見守ろうと決めた。それを再び乱そうとする者が出た時、目覚めたいと願ったのだ。
「合ってるよ。今この時に目覚めるのは、合ってる。おはよう、みんな。再び会えて嬉しいよ。戦友達よ」
ジンクは『その時』を見定めることが出来た。だから、今なのだ。それだけは、文句を言っていてもわかっている。
神子達は涙を溢れさせた。覚悟していたのだ。ベニとは、もしかしたら、今度目覚めた時にはもう会えないかもしれないと。
優しく、強く、ほとんど引きこもりだった神子達をまとめて、先頭に立って奔走したベニ。キイやセイも居るが、そこはやはり長女だ。ベニがいつも先頭だった。
年齢でいえば、ユミ達の方が上だったりする。けれど、彼らには年齢など関係なかった。ベニ、キイ、セイを導いてくれる姉と慕い、世界を飛び回った。
いくら神子達であっても、信じていた神が地上を見放したことはショックだった。神に近い場所にいる神子達だからこそ、本当に見放したことが分かったのだから。
動けなくなっている神子達を、ベニ達は叩き起こし、引っ張り出して喝を入れた。
『それでもあなたは、神に認められた神子ですか。神子だと言うのなら、立ち上がりなさい。愛する私達の神は、慈悲深い方です。そしてお優しい……これ以上壊してしまわれる前にと、お姿を消したことの意味を考えなさい』
そうだと思い直し、神子達は立ち上がった。
ベニ達が居たから、彼らは神子であることを捨てずにすんだのだ。
「なんだい、その顔は」
「「「ううっ」」」
「「「おねっ、おねっ……」」」
「「「お姉様ぁぁぁぁっ」」」
「……だから、お前たちの方が年上だって……」
飛び付いてくる神子達を、なんとか抱き止めながら、ベニは呆れ半分で笑っていた。
**********
読んでくださりありがとうございます◎
二日空きます。
よろしくお願いします◎
「あ、ジンクおじさんお帰りっ」
「っ、た、だだいま! さすがに疲れたあっ」
コウヤは、その場に座り込むジンクに特製レモネードを持って駆け寄る。
「お疲れ様。これ飲んで」
「ううっ……コウヤくん……っ、いいお嫁さんになるよ……っ」
「それ、たまに言われるんだけど。お婿さんじゃないのはなんでかな?」
コテンと首を傾げるコウヤに、ジンクの後ろに並んでいた六人の男女が、思わず口元を両手で押さえる。
「ふぐっ」
「んんっ」
「っ、か、かわっ」
顔が真っ赤だった。
それを見て、コウヤは首を捻るが、熱い視線を感じるので、悪いことではないかなと判断した。
今まで陽の光も浴びることなく、何百年と眠っていた人たちだ。雲が程よくあるとはいえ、いきなり昼間の陽を遮る場所もない所に来たのだから、のぼせても不思議ではないだろうと納得する。
しかし、そこでふと陽が翳ったように感じて、自然に上を向く。すると、見えない何かがあった。怪しいものではない。それが何かは、すぐに思い当たる。
「あっ、マンタだ。ってことは……ベニばあ様とルーくんっ」
ベニとルディエは、城に来ていた密偵達を連れて、神教国によって病にされた者たちを拐いに行っていた。
なるべく人知れず拐うとは言っても、治療のためだ。宮廷薬師達も連れて、マンタの中で治療を開始しながら来ているはずだ。拐いそこねるなんてことは、ベニやルディエにはありえないだろう。
パックンも何も言わなかったことからも、コウヤが頼んだ転移によって、病の者たちをマンタへ連れてくる役目は終えていると判断して良い。
「あら? なあに? ベニちゃん来たの?」
エリスリリアが歩み寄り、陽を避けるように片手を目の上で翳し、笑った。
そこに、上空からベニとルディエが降ってきた。
「うわ~。これ、キイちゃんとセイちゃんも呼ばないと、後で言われるわ~。ちょっと拉致ってくるわねっ」
「拉致……エリィ姉?」
目を向けた時には、もうエリスリリアは居なかった。確かに、ここで二人に声をかけなければ、後が怖い。
そこに、森にいた人たちを捕まえに行っていた人化したパックンとユミも戻って来た。
《戻ったよー》
「パックン。ありがとう。少し預かっておいて。パックンの中なら、それほど弱ることないだろうし」
《うん。レベル上がったから、完全に仮死状態に出来るんだ~。だから、何日でも、何年でも任せて!》
「そんなにっ?」
《ふふんっ》
鼻息荒く、腰に手を当て胸を張るパックン。とっても自信満々だ。パックンだけでなく、ダンゴやテンキも、人化のために一気にレベルを上げたことで、他の能力も付随して上がっていたようだ。
彼らも、人化することだけに目を向けていたため、ここへ来て出来ることが増えていることにようやく気付き始めた所だった。
「ふふ。頼もしいよ」
《っ、任せて!》
やはり、コウヤに褒められるのが一番のようだ。
そして、そんな中、ジンクや神子達と、ベニの対面が果たされていた。
「……え……え? べ、ベニちゃん? え? なんで? なんで若返ってるの!?」
さすがというか、ジンクが一番はじめに声を発した。他の神子達は、よく喋ると知られているユミさえも、驚き過ぎて声を出すことが出来ずにいる。
一方のベニは、ジンクの問いかけよりも、その後ろに居る面々に目を丸くしていた。
「おや、おや。これは懐かしい顔だ。ようやく起きられたのかい。まあ、ジンクは勘だけは良いから、勿体ぶってということはないか」
しっかりと『だけ』を強調するベニ。ジンクがコウヤに出会ってすぐに起こさなかったのには意味があると、わかっているのだ。『その時ではない』と思い留まったことには何かがあるのだと。
唯一、残ったコウルリーヤの神子だった者。それがジンクだ。
コウルリーヤが正気を失った時には、『コウルリーヤ神の神子』という役割は消滅していた。ジンクは『ゼストラーク神の神子』でもあったため、死を考えるほど絶望することはなかったが、他のコウルリーヤの神子達は違った。
残りの寿命全てを魔力に変換し、神が見放した世界の平定に努めた。
他の神子達は、もう一度ゼストラーク達が地上に目を向ける日を信じて眠るという選択ができた。だが、コウルリーヤの神子だった者たちは、再びコウルリーヤがこの世界へと戻って来ることを信じて待つことは出来ないと思った。
何より『コウルリーヤ神の神子』という言葉が自分たちの中から消えたことが、彼らには我慢ならなかったのだ。
その気持ちが一番理解できるのは、ジンクだけだった。だから、全ての寿命を燃やし尽くす彼らを、黙って見送った。
眠りにつく他の神子達も、失意の内に命を絶った元神子達の想いは理解していた。だから、せめて彼らの代わりにコウルリーヤの愛した世界を見守ろうと決めた。それを再び乱そうとする者が出た時、目覚めたいと願ったのだ。
「合ってるよ。今この時に目覚めるのは、合ってる。おはよう、みんな。再び会えて嬉しいよ。戦友達よ」
ジンクは『その時』を見定めることが出来た。だから、今なのだ。それだけは、文句を言っていてもわかっている。
神子達は涙を溢れさせた。覚悟していたのだ。ベニとは、もしかしたら、今度目覚めた時にはもう会えないかもしれないと。
優しく、強く、ほとんど引きこもりだった神子達をまとめて、先頭に立って奔走したベニ。キイやセイも居るが、そこはやはり長女だ。ベニがいつも先頭だった。
年齢でいえば、ユミ達の方が上だったりする。けれど、彼らには年齢など関係なかった。ベニ、キイ、セイを導いてくれる姉と慕い、世界を飛び回った。
いくら神子達であっても、信じていた神が地上を見放したことはショックだった。神に近い場所にいる神子達だからこそ、本当に見放したことが分かったのだから。
動けなくなっている神子達を、ベニ達は叩き起こし、引っ張り出して喝を入れた。
『それでもあなたは、神に認められた神子ですか。神子だと言うのなら、立ち上がりなさい。愛する私達の神は、慈悲深い方です。そしてお優しい……これ以上壊してしまわれる前にと、お姿を消したことの意味を考えなさい』
そうだと思い直し、神子達は立ち上がった。
ベニ達が居たから、彼らは神子であることを捨てずにすんだのだ。
「なんだい、その顔は」
「「「ううっ」」」
「「「おねっ、おねっ……」」」
「「「お姉様ぁぁぁぁっ」」」
「……だから、お前たちの方が年上だって……」
飛び付いてくる神子達を、なんとか抱き止めながら、ベニは呆れ半分で笑っていた。
**********
読んでくださりありがとうございます◎
二日空きます。
よろしくお願いします◎
349
あなたにおすすめの小説
【短編】花婿殿に姻族でサプライズしようと隠れていたら「愛することはない」って聞いたんだが。可愛い妹はあげません!
月野槐樹
ファンタジー
妹の結婚式前にサプライズをしようと姻族みんなで隠れていたら、
花婿殿が、「君を愛することはない!」と宣言してしまった。
姻族全員大騒ぎとなった
魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。
カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。
だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、
ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。
国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。
そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。
冷遇王妃はときめかない
あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。
だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。
ねえ、今どんな気持ち?
かぜかおる
ファンタジー
アンナという1人の少女によって、私は第三王子の婚約者という地位も聖女の称号も奪われた
彼女はこの世界がゲームの世界と知っていて、裏ルートの攻略のために第三王子とその側近達を落としたみたい。
でも、あなたは真実を知らないみたいね
ふんわり設定、口調迷子は許してください・・・
婚約破棄? あ、ハイ。了解です【短編】
キョウキョウ
恋愛
突然、婚約破棄を突きつけられたマーガレットだったが平然と受け入れる。
それに納得いかなかったのは、王子のフィリップ。
もっと、取り乱したような姿を見れると思っていたのに。
そして彼は逆ギレする。なぜ、そんなに落ち着いていられるのか、と。
普通の可愛らしい女ならば、泣いて許しを請うはずじゃないのかと。
マーガレットが平然と受け入れたのは、他に興味があったから。婚約していたのは、親が決めたから。
彼女の興味は、婚約相手よりも魔法技術に向いていた。
骸骨と呼ばれ、生贄になった王妃のカタの付け方
ウサギテイマーTK
恋愛
骸骨娘と揶揄され、家で酷い扱いを受けていたマリーヌは、国王の正妃として嫁いだ。だが結婚後、国王に愛されることなく、ここでも幽閉に近い扱いを受ける。側妃はマリーヌの義姉で、公式行事も側妃が請け負っている。マリーヌに与えられた最後の役割は、海の神への生贄だった。
注意:地震や津波の描写があります。ご注意を。やや残酷な描写もあります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。