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第九章
377 三人がそうなんだ
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今のベニの見た目は、他の神子達よりもほんの少し年上に見える。三十代の頼りになるお姉さんだ。だから、本当に彼らの姉のようだった。妹や弟達に慕われ、再会を心から喜ぶ姉の姿がそこにはあった。
「あれは、落ち着くまで少し時間がかかるんじゃない?」
そう声をかけてきたのは、ルディエだ。
「ルー君、お疲れ様」
「ん……それで、兄さんはここで何しようとしてるの?」
「うん? ああ……」
なんだか凄く『兄さん』に力がこもっていたことに首を傾げる。だが、ちらりとコウヤの傍らに居るリルファムとシンリームへと、ルディエの視線が向いたのが見えた。
少し前から、たまに張り合うなと思っていたので、そういうことかなと納得し、笑いながらルディエの頭を撫でる。
「っ、に、兄さん……っ」
「ふふ。今日はエリィ姉達との顔合わせも兼ねて、目が覚めた神子達を招いたピクニックをと思ったんだけど……」
ほんの少しの苦笑。それを混ぜながら、ミラルファ達王家の面々を見る。
「良い場所がなくて、それで、この場所を提供してもらったみたいなんだ」
「だ、だからって……」
目一杯の不満顔を見せるルディエ。この顔は、コウヤにしか向けられない。それを知っているから、コウヤも対応の仕方を考える。
「ルー君とは、また別の機会を用意しようとしてたよ?」
「う、うん……っ」
別に除け者にはしてないよと伝えておく。
「そういえば今度、王都管理の迷宮の棚卸しをすることになってるんだけど、また手伝ってくれない? それで、『湖畔の迷宮』でピクニックはどうかな?」
十階層ごとに、この別荘地のような美しい湖畔がある迷宮で、それぞれ趣きも違うことでも人気だ。安全地帯が多く、低ランクの者たちでも行けるため、冒険者たちのデートスポットにもなっていた。それだけ人気がある迷宮ということで、出現してから百年以上経つが、未だ集団暴走も起こしていない。
「っ、い、行く!」
即決のルディエに笑みを深くし、頷く。
「よかった。ルー君が手伝ってくれると助かるよ」
「ん……っ」
ちょっと頬を染めながら、恥ずかしそうに目を逸らすルディエ。可愛らしいことだ。
「さあ、お腹も空いたし、行こうか」
歩き出すと、ルディエはちゃっかりシンリームとコウヤの間に割り込んできた。スルリと自然に入り込んだため、シンリームも咄嗟に声を上げることさえ出来なかったらしい。そのままミラルファ達と合流する。
そこに、テンキが転移してきた。
「あれ? テンキ、今までどこに……」
いつの間に居なくなっていたのだろうと声をかける。そのテンキは、元聖騎士のブランナとビジェ、それと、レナルカを連れてきたようだ。
「レナルカ?」
気になったのはビジェに抱かれていたレナルカだ。ふえふえと泣いていた。
「ふっ、ふえっ、ま、ままぁぁぁ」
「どうしたの? レナルカ?」
レナルカは、コウヤが休みの日以外は、ゲンの所で療養する患者達の癒しとなるべく、薬屋で生活していた。
病人達には、夜が心細いらしく、パタパタと小さな翼で飛び回る幼女は、その姿や声によって、彼らを慰める存在となっていたのだ。
レナルカとしては、半分くらいは、『大好きなじぃじのお手伝い』が目的だったりする。甘やかしてくれる祖父の家に泊まりに行く孫でしかなかった。
見た目の成長は、二歳児頃で最近は止まっているが、内面では早くも自立しようとしていた。『小さな看護師さん』になったなと感心していたのだ。そんなレナルカが泣いて、コウヤの方へ飛んできた。
リルファムよりも小さな体を受け止め、抱き抱える。
「どうしたの? レナルカ」
「うえっ、ふえっ、やだぁ、あそこ、いっちゃやだぁぁぁ」
「ん? ん~? どこだろ」
よしよしと今日は三つ編みしてもらったらしい小さな頭を撫でながら、レナルカが落ち着くのを待つ。
そうすると、レナルカからぼんやりとしたイメージが伝わってくる。コウヤの魔力で育て、生まれた子どもであるレナルカとは、親子以上の繋がりができていた。
同じように、コウヤのために存在するテンキ達眷属も、レナルカとの繋がりができており、今回はおそらく、テンキはレナルカがこうして不安そうに泣いていることを察知したのだろう。
生まれた時から見ても、あまりグズらないレナルカだ。ここまで取り乱しているのは珍しい。意外にもレナルカ限定ではあるようだが、世話好きで子煩悩な所が現れるようになったテンキだからこそ、いち早く察知できたのかもしれない。
「ん~、このイメージは……神教国かな。あそこに……俺が近付くのが嫌? あ、怖い?」
「ふえっ、えっ、えっ、ううっ」
これは中々止まらないやつだなと、コウヤはレナルカ用に作った少し冷えた麦茶を取り出して飲ませる。ちゃんと幼児用の柔らかいストロー付きの水筒に入れてある。
「ほら、レナルカ。俺はここに居るでしょ? お茶飲んで落ち着こうね」
「っ、んっ、ふっ、う、ん……っ」
コクコクとお茶を勢いよく飲み始めるレナルカ。ぷはっと口を離したレナルカは、ふうふうと息をして落ち着きだす。顔は抱かれているコウヤの肩口に伏せられていた。完全に体から力が抜けるまで、それほど時間はかからなかった。
「ねちゃった……」
下から見上げたリルファムが、レナルカの顔を確認してくれた。
「そっか。しばらくこのままかな」
「おもくない?」
「辛くなるほど重くないから、平気だよ。それなりに鍛えてるしね。ご飯食べよう。ビジェ、ブランナ、昼食は?」
「あ、いや、まだです」
「昼食はまだですが……」
彼らも突然連れて来られたのだろう。周りを見て、明らかにこれから食事会が始まりますという様子に少し動揺している。
「なら、一緒に食べよう。いっぱいあるしね。それに……」
テンキが彼らを連れてきた意味をコウヤはここへ来て理解した。そうだと思えた。
視線は一度、ニールへと向かう。そして、困惑しているビジェとブランナへ。
ふっと笑みが溢れた。それと同時に呟く。
「そっか……三人がそうなんだ……」
これをきちんと拾ったのはテンキだけ。彼は嬉しそうに頷く。
かつての神子達は、間違いなくここに全員揃ったのだ。
**********
読んでくださりありがとうございます◎
三日空きます。
よろしくお願いします◎
「あれは、落ち着くまで少し時間がかかるんじゃない?」
そう声をかけてきたのは、ルディエだ。
「ルー君、お疲れ様」
「ん……それで、兄さんはここで何しようとしてるの?」
「うん? ああ……」
なんだか凄く『兄さん』に力がこもっていたことに首を傾げる。だが、ちらりとコウヤの傍らに居るリルファムとシンリームへと、ルディエの視線が向いたのが見えた。
少し前から、たまに張り合うなと思っていたので、そういうことかなと納得し、笑いながらルディエの頭を撫でる。
「っ、に、兄さん……っ」
「ふふ。今日はエリィ姉達との顔合わせも兼ねて、目が覚めた神子達を招いたピクニックをと思ったんだけど……」
ほんの少しの苦笑。それを混ぜながら、ミラルファ達王家の面々を見る。
「良い場所がなくて、それで、この場所を提供してもらったみたいなんだ」
「だ、だからって……」
目一杯の不満顔を見せるルディエ。この顔は、コウヤにしか向けられない。それを知っているから、コウヤも対応の仕方を考える。
「ルー君とは、また別の機会を用意しようとしてたよ?」
「う、うん……っ」
別に除け者にはしてないよと伝えておく。
「そういえば今度、王都管理の迷宮の棚卸しをすることになってるんだけど、また手伝ってくれない? それで、『湖畔の迷宮』でピクニックはどうかな?」
十階層ごとに、この別荘地のような美しい湖畔がある迷宮で、それぞれ趣きも違うことでも人気だ。安全地帯が多く、低ランクの者たちでも行けるため、冒険者たちのデートスポットにもなっていた。それだけ人気がある迷宮ということで、出現してから百年以上経つが、未だ集団暴走も起こしていない。
「っ、い、行く!」
即決のルディエに笑みを深くし、頷く。
「よかった。ルー君が手伝ってくれると助かるよ」
「ん……っ」
ちょっと頬を染めながら、恥ずかしそうに目を逸らすルディエ。可愛らしいことだ。
「さあ、お腹も空いたし、行こうか」
歩き出すと、ルディエはちゃっかりシンリームとコウヤの間に割り込んできた。スルリと自然に入り込んだため、シンリームも咄嗟に声を上げることさえ出来なかったらしい。そのままミラルファ達と合流する。
そこに、テンキが転移してきた。
「あれ? テンキ、今までどこに……」
いつの間に居なくなっていたのだろうと声をかける。そのテンキは、元聖騎士のブランナとビジェ、それと、レナルカを連れてきたようだ。
「レナルカ?」
気になったのはビジェに抱かれていたレナルカだ。ふえふえと泣いていた。
「ふっ、ふえっ、ま、ままぁぁぁ」
「どうしたの? レナルカ?」
レナルカは、コウヤが休みの日以外は、ゲンの所で療養する患者達の癒しとなるべく、薬屋で生活していた。
病人達には、夜が心細いらしく、パタパタと小さな翼で飛び回る幼女は、その姿や声によって、彼らを慰める存在となっていたのだ。
レナルカとしては、半分くらいは、『大好きなじぃじのお手伝い』が目的だったりする。甘やかしてくれる祖父の家に泊まりに行く孫でしかなかった。
見た目の成長は、二歳児頃で最近は止まっているが、内面では早くも自立しようとしていた。『小さな看護師さん』になったなと感心していたのだ。そんなレナルカが泣いて、コウヤの方へ飛んできた。
リルファムよりも小さな体を受け止め、抱き抱える。
「どうしたの? レナルカ」
「うえっ、ふえっ、やだぁ、あそこ、いっちゃやだぁぁぁ」
「ん? ん~? どこだろ」
よしよしと今日は三つ編みしてもらったらしい小さな頭を撫でながら、レナルカが落ち着くのを待つ。
そうすると、レナルカからぼんやりとしたイメージが伝わってくる。コウヤの魔力で育て、生まれた子どもであるレナルカとは、親子以上の繋がりができていた。
同じように、コウヤのために存在するテンキ達眷属も、レナルカとの繋がりができており、今回はおそらく、テンキはレナルカがこうして不安そうに泣いていることを察知したのだろう。
生まれた時から見ても、あまりグズらないレナルカだ。ここまで取り乱しているのは珍しい。意外にもレナルカ限定ではあるようだが、世話好きで子煩悩な所が現れるようになったテンキだからこそ、いち早く察知できたのかもしれない。
「ん~、このイメージは……神教国かな。あそこに……俺が近付くのが嫌? あ、怖い?」
「ふえっ、えっ、えっ、ううっ」
これは中々止まらないやつだなと、コウヤはレナルカ用に作った少し冷えた麦茶を取り出して飲ませる。ちゃんと幼児用の柔らかいストロー付きの水筒に入れてある。
「ほら、レナルカ。俺はここに居るでしょ? お茶飲んで落ち着こうね」
「っ、んっ、ふっ、う、ん……っ」
コクコクとお茶を勢いよく飲み始めるレナルカ。ぷはっと口を離したレナルカは、ふうふうと息をして落ち着きだす。顔は抱かれているコウヤの肩口に伏せられていた。完全に体から力が抜けるまで、それほど時間はかからなかった。
「ねちゃった……」
下から見上げたリルファムが、レナルカの顔を確認してくれた。
「そっか。しばらくこのままかな」
「おもくない?」
「辛くなるほど重くないから、平気だよ。それなりに鍛えてるしね。ご飯食べよう。ビジェ、ブランナ、昼食は?」
「あ、いや、まだです」
「昼食はまだですが……」
彼らも突然連れて来られたのだろう。周りを見て、明らかにこれから食事会が始まりますという様子に少し動揺している。
「なら、一緒に食べよう。いっぱいあるしね。それに……」
テンキが彼らを連れてきた意味をコウヤはここへ来て理解した。そうだと思えた。
視線は一度、ニールへと向かう。そして、困惑しているビジェとブランナへ。
ふっと笑みが溢れた。それと同時に呟く。
「そっか……三人がそうなんだ……」
これをきちんと拾ったのはテンキだけ。彼は嬉しそうに頷く。
かつての神子達は、間違いなくここに全員揃ったのだ。
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