元邪神って本当ですか!? 万能ギルド職員の業務日誌

紫南

文字の大きさ
上 下
269 / 476
第九章

374 あと六人

しおりを挟む
コウヤは目の前で尻もちをつき、悲鳴を上げたジンクを見て首を傾げ、それから困ったように苦笑した。

「悲鳴上げられたのは初めてかも」
「わっ、ご、ごめん! いやあ、ビックリしてさ~」
「ふふふっ。ばばさま達にも話そ~。ふふふっ」

きっと、ベニ達が聞いたら、それをネタに色々言うだろう。ジンクを追い詰めて、弄り倒すのが目に見えるようだ。ジンクはベニに結婚相手としての好意を持っている。それも利用して、からかうのだ。

「えっ、待ってっ、それ、めちゃくちゃ弄られるパターンじゃん? あれ? でも弄られ……久し振りに良い気も……良いかも?」

おかしい。喜びはじめた。

「おじさん……またベニばあさまに変態って蹴られるよ?」
「それも良いんだよ!」
「……」
「あ……いや、その目っ、コウヤくん、その可哀想なものを見るような目……ゾクゾクするからやめよう?」
「うん……やめとく。ジンクおじさん……ちゃんとした人に戻ろう?」
「ごめんなさい」

ここで土下座だ。仕事している時とか、とってもクールで頼りになる大人な感じなのだが、たまに残念な人になる。どうやら、以前まではベニの前限定だったらしい。だが、コウヤに一度見られてから、コウヤの前でもやらかすようになってきた。それだけ信頼されたということかもしれない。

周りにいる三人の男女も、この残念なジンクを見て、かなり動揺しているようだ。

「ジンクあんた……」
「ジンクさん……」
「……」

とっても残念なものを見る目になった。しかし、しばらくして、何かを唐突に思い出したというように、三人がビクリと動きを止める。その視線はジンクに向いていたのだが、ゆっくりとぎこちなく顔がコウヤの方へと向いた。

今更ながらに、コウヤの存在を思い出したのだ。

「あ、あ、あのっ、ま、まさかっ、いや、え……っ」
「こ、こ、コウっ……」
「っ…………コウル……リーヤ……さま?」
「ん? あっ、えっと、この姿では、はじめまして! コウヤです! ユミさん、ミナさん、ソラさんでしたよねっ」
「「「っ、はい!!」」」

三人は体の向きも変え、ビシっと直立で返事をされた。

「ふふふ。そんな緊張しないで。この後、一緒にお昼をどうですか? ゼストパパ達とピクニックの予定なんです」
「「「え……」」」

これにしっかりと反応できたのはジンクだけだ。三人は先程コウヤの口から出た言葉が理解出来ずにフリーズしていた。

「えっ、ちょっと待って! コウヤくんっ。ゼスト様達?」
「うん。エリィ姉とリクト兄もいるよ? お弁当いっぱい作ったから、できれば、他の眠ってる? 神子の人たちも起こして、連れていきたいんだけど……」
「えええっ! わ、分かった! す、すぐに全員起こすよ! で、でも待って! ちょっと遠いのも……」

眠りについた神子は、全員で九人のはずだとエリスリリアに聞いた。しかし、この中でコウルリーヤの神子だった者はいない。コウルリーヤが討たれた時、その神子としての資格を失った者たちは、世界がなんとか安定したのを見届けてから、命を絶ったようだ。

やるべきことを終えた後、一時的に無理に押し込めていた負の感情に呑まれないように。この世界を恨んでしまわないように、せめて神子としての矜持を持ったまま終わりたいと願ったのだ。

そういう真っ直ぐで少し生き過ぎなくらい真面目な人たちがコウルリーヤの神子だったのだ。彼らはその後きちんと輪廻の輪に入り、世界を巡っている。そして、恐らく今のコウヤの側に来ているだろう。

「あと六人でしたっけ」
「そう。それがかなり遠くて……」

眠っているのは残り六人。眠りにつく場所は、迷宮の役目を終えた場所らしい。よって、近くに固まっているわけではなかった。

「それなら問題ないよ。ダンゴ」
《はいでしゅ! 転移で連れて行くでしゅよ!》

本来の姿で空中に現れたダンゴが、ジンクの肩に乗る。

《さあ、急いで行くでしゅよ!》
「わ、わかった!」

その次の瞬間には、ジンクとダンゴの姿はなかった。

取り残された神子三人は、未だ緊張しているようだ。表情も強張っていた。

「そんな固くならないで。今の俺は人で、ただの冒険者ギルド職員です」
「は、はい……」

まだ混乱しているようだが、仕方ないなと笑う。それから、コウヤは眼下に広がる情景に目を向けた。

「やっぱり、膠着状態ですか……この分だと、切り札はもう使えなくなってますかねえ」
「切り札……ですか?」

ミナが思わず尋ねた。

「うん。剣士とか武闘家に弟子入りしてた人達がいてね。その人たち、師匠のスキルを譲渡させて、ここに向かったみたいなんだ」
「スキルを譲渡なんて……そんなこと、出来るのですか?」

サニールのことがあって、コウヤは他にもこうした人がいないか、白夜部隊の方で調べてもらった。そこで、数人同じように、弟子に裏切られたと悲嘆する者たちを見つけたらしい。

聖魔教会で保護したので、今はなんとかなっているが、見つけた当初は、今にも死にそうで、酷かったようだ。

当然だろう。何十年と己を磨き、手に入れた力を、可愛がっていた唯一の弟子の裏切りと共に失くしたのだから。もちろん、盗られたなんて思ってもみない。けれど、自ら命を断とうと思い詰めるほど、彼らは絶望していたのだ。ギリギリだった。

「うん……でも、それは命を賭けることになるいわゆる禁術だ。多分、一時いっときの力になるだけ……」
「そんな……そんなことをしてでも……」
「許せなかったのね……あの辺、今は騎士達が居るけど……あの辺まで多分、攻めてたんだと思う……残滓が残ってる……」
「ええ……あそこと……あの辺も……」

今の膠着状態の場所は、立て直されたもの。それが分かった。

そして、コウヤはその残滓の繋がる場所を、人を探した。

「……あの森の辺ですね」
「あっ、生きてる! 間違いない!」

魔力や力の残滓さえ視ることができるスキルを持つユミが指を差して示す。それならばとコウヤは頷いた。

「パックン」

ここで、パックンを喚び寄せる。パックンは人化して現れた。

《は~い。パックン参上! ご飯?》
「ううん。その前に一働きお願い。あっちの森に、禁術を使った人たちが居る。捕まえてきて」
《分かったー》

そこで、ユミが手を上げる。

「あっ、あの! 私も行ってもいいですか? 誰が関係者かも分かります!」
「あ~、うん。お願いしてもいいですか?」
「っ、もちろんです!!」
「なら、パックン、ユミさんと行ってきて」
《はーい。行っくよー♪》
「わわっ、はっ、はい!」
《とうっ!》

掛け声と同時に片手を上げて、もう片方の手でユミと手を繋いで転移していった。

「さてと、じゃあ、俺たちは先にゼストパパ達と合流しましょう」
「「はい!」」

顔はまだ強張っているが、その目には、嬉しそうな色が宿っていた。

**********
読んでくださりありがとうございます◎
二日空きます。
よろしくお願いします◎
しおりを挟む
感想 2,781

あなたにおすすめの小説

【完結】平凡な容姿の召喚聖女はそろそろ貴方達を捨てさせてもらいます

ユユ
ファンタジー
“美少女だね” “可愛いね” “天使みたい” 知ってる。そう言われ続けてきたから。 だけど… “なんだコレは。 こんなモノを私は妻にしなければならないのか” 召喚(誘拐)された世界では平凡だった。 私は言われた言葉を忘れたりはしない。 * さらっとファンタジー系程度 * 完結保証付き * 暇つぶしにどうぞ

【完結】父が再婚。義母には連れ子がいて一つ下の妹になるそうですが……ちょうだい癖のある義妹に寮生活は無理なのでは?

つくも茄子
ファンタジー
父が再婚をしました。お相手は男爵夫人。 平民の我が家でいいのですか? 疑問に思うものの、よくよく聞けば、相手も再婚で、娘が一人いるとのこと。 義妹はそれは美しい少女でした。義母に似たのでしょう。父も実娘をそっちのけで義妹にメロメロです。ですが、この新しい義妹には悪癖があるようで、人の物を欲しがるのです。「お義姉様、ちょうだい!」が口癖。あまりに煩いので快く渡しています。何故かって?もうすぐ、学園での寮生活に入るからです。少しの間だけ我慢すれば済むこと。 学園では煩い家族がいない分、のびのびと過ごせていたのですが、義妹が入学してきました。 必ずしも入学しなければならない、というわけではありません。 勉強嫌いの義妹。 この学園は成績順だということを知らないのでは?思った通り、最下位クラスにいってしまった義妹。 両親に駄々をこねているようです。 私のところにも手紙を送ってくるのですから、相当です。 しかも、寮やクラスで揉め事を起こしては顰蹙を買っています。入学早々に学園中の女子を敵にまわしたのです!やりたい放題の義妹に、とうとう、ある処置を施され・・・。 なろう、カクヨム、にも公開中。

「不細工なお前とは婚約破棄したい」と言ってみたら、秒で破棄されました。

桜乃
ファンタジー
ロイ王子の婚約者は、不細工と言われているテレーゼ・ハイウォール公爵令嬢。彼女からの愛を確かめたくて、思ってもいない事を言ってしまう。 「不細工なお前とは婚約破棄したい」 この一言が重要な言葉だなんて思いもよらずに。 ※約4000文字のショートショートです。11/21に完結いたします。 ※1回の投稿文字数は少な目です。 ※前半と後半はストーリーの雰囲気が変わります。 表紙は「かんたん表紙メーカー2」にて作成いたしました。 ❇❇❇❇❇❇❇❇❇ 2024年10月追記 お読みいただき、ありがとうございます。 こちらの作品は完結しておりますが、10月20日より「番外編 バストリー・アルマンの事情」を追加投稿致しますので、一旦、表記が連載中になります。ご了承ください。 1ページの文字数は少な目です。 約4500文字程度の番外編です。 バストリー・アルマンって誰やねん……という読者様のお声が聞こえてきそう……(;´∀`) ロイ王子の側近です。(←言っちゃう作者 笑) ※番外編投稿後は完結表記に致します。再び、番外編等を投稿する際には連載表記となりますこと、ご容赦いただけますと幸いです。

原産地が同じでも結果が違ったお話

よもぎ
ファンタジー
とある国の貴族が通うための学園で、女生徒一人と男子生徒十数人がとある罪により捕縛されることとなった。女生徒は何の罪かも分からず牢で悶々と過ごしていたが、そこにさる貴族家の夫人が訪ねてきて……。 視点が途中で切り替わります。基本的に一人称視点で話が進みます。

婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ! 

タヌキ汁
ファンタジー
 国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。  これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。

【完結】精霊に選ばれなかった私は…

まりぃべる
ファンタジー
ここダロックフェイ国では、5歳になると精霊の森へ行く。精霊に選んでもらえれば、将来有望だ。 しかし、キャロル=マフェソン辺境伯爵令嬢は、精霊に選んでもらえなかった。 選ばれた者は、王立学院で将来国の為になるべく通う。 選ばれなかった者は、教会の学校で一般教養を学ぶ。 貴族なら、より高い地位を狙うのがステータスであるが…? ☆世界観は、緩いですのでそこのところご理解のうえ、お読み下さるとありがたいです。

〈完結〉この女を家に入れたことが父にとっての致命傷でした。

江戸川ばた散歩
ファンタジー
「私」アリサは父の後妻の言葉により、家を追い出されることとなる。 だがそれは待ち望んでいた日がやってきたでもあった。横領の罪で連座蟄居されられていた祖父の復活する日だった。 十年前、八歳の時からアリサは父と後妻により使用人として扱われてきた。 ところが自分の代わりに可愛がられてきたはずの異母妹ミュゼットまでもが、義母によって使用人に落とされてしまった。義母は自分の周囲に年頃の女が居ること自体が気に食わなかったのだ。 元々それぞれ自体は仲が悪い訳ではなかった二人は、お互い使用人の立場で二年間共に過ごすが、ミュゼットへの義母の仕打ちの酷さに、アリサは彼女を乳母のもとへ逃がす。 そして更に二年、とうとうその日が来た…… 

「宮廷魔術師の娘の癖に無能すぎる」と婚約破棄され親には出来損ないと言われたが、厄介払いと嫁に出された家はいいところだった

今川幸乃
ファンタジー
魔術の名門オールストン公爵家に生まれたレイラは、武門の名門と呼ばれたオーガスト公爵家の跡取りブランドと婚約させられた。 しかしレイラは魔法をうまく使うことも出来ず、ブランドに一方的に婚約破棄されてしまう。 それを聞いた宮廷魔術師の父はブランドではなくレイラに「出来損ないめ」と激怒し、まるで厄介払いのようにレイノルズ侯爵家という微妙な家に嫁に出されてしまう。夫のロルスは魔術には何の興味もなく、最初は仲も微妙だった。 一方ブランドはベラという魔法がうまい令嬢と婚約し、やはり婚約破棄して良かったと思うのだった。 しかしレイラが魔法を全然使えないのはオールストン家で毎日飲まされていた魔力増加薬が体質に合わず、魔力が暴走してしまうせいだった。 加えて毎日毎晩ずっと勉強や訓練をさせられて常に体調が悪かったことも原因だった。 レイノルズ家でのんびり過ごしていたレイラはやがて自分の真の力に気づいていく。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。