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第九章
373 家族っぽいね
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エリスリリア達と薬屋で話をしている内に日が暮れたため、その日の行動は禁止された。
「コウヤちゃんは、こういう時に放っておくと、寝ないで走り回るでしょう? ダメよ。ちゃんと人としての身体も気遣わなくちゃ。なんなら、添い寝してあげるわよ♪ あ、その前にお夕食も一緒にね♪」
そう言われては、張り切って続行というわけにもいかず、明日の予定を組み立てながら、数日振りに自宅へ帰った。当然のように付いてきたエリスリリアと一緒にだ。
そのまま、一緒に夕食を作って食べ、お風呂も一緒にと言われて、ダンゴにエリスリリアを押し付けたり、本気で添い寝したいらしいエリスリリアのために、客間にキングサイズのベットを用意してそこで寝たりと、慌ただしくも楽しく一日を終えた。
翌朝。
朝食の準備をしようと動き出した頃。訪問のベルが鳴り、玄関の外にある自慢の門の通用口を開けると、そこにリクトルスが居た。
「はいは~い。あれ? リクト兄? おはよう」
「おはよう、コウヤくん。エリスが抜けがけっ……いえ、朝食一緒に良いですか?」
どうやら、エリスリリアがお泊まりしたのが原因らしい。いつもならば、エリスリリアもリクトルスも、夜には天界へ戻っていた。昨晩のようにコウヤの家に泊まることなど、実は初めてだったのだ。
二人はコウヤのプライベート空間として、自宅に入ることを少し遠慮していたようにも思う。
「うん。もちろん、ゼストパパもね」
「え!? 父上!?」
コウヤは笑顔でリクトルスの後ろに居たゼストラークにも声をかける。
「うむ」
振り返って驚くリクトルスに、ゼストラークは重々しく頷いた。だが、少し目を逸らしたので、多分これは照れているなと、コウヤは思わず微笑む。珍しく取り乱したリクトルスが面白かったというのもあるかもしれない。
リクトルスは、コウヤの家に上がるということに、少し緊張もしていたのだろう。後ろに、ゼストラークが来ていると気付かなかったようだ。リクトルスの後ろを取るのは、ゼストラークでも難しいので、動揺具合がよく分かる。
しかし、それには触れず、コウヤは快く家に招き入れた。
「ふふふ。ほら、二人とも入って。すぐに朝食作るね」
「あ、手伝います……」
「えっ、いいの、リクト兄っ。うんっ、一緒に作ろっ」
「っ、はい……っ」
そうして、楽しく二人で朝食を作り終える頃、エリスリリアが起きてきた。
「ふわぁぁ……おはよ……」
「おはよう、エリィ姉」
神は、寝る必要がない。寧ろ、うっかりうたた寝して、目が覚めたら十年経っていたということもあり得る。なので気を付けなくてはならないが、それでもエリスリリアは、眠るということを試してみたかったらしい。
「エリス……寝ていたのですか?」
「あれ? リクトが居る~。あ、お父様も?」
「エリス、これは立派な抜けがけだな」
はっきりとゼストラークが告げる。
「わわっ。ご、ごめんなさいっ。だって、コウヤちゃん、放っておくと寝ないんだもの……私が一緒になら、きちんと休んでくれると思って……」
「本音は」
ゼストラークに誤魔化しは効かない。もちろん、それで騙されておいてやるとゼストラークが許すこともあるが、今回はダメらしい。エリスリリアは肩を落とした。
「……コウヤちゃんと普通の家族ごっこしたかった……」
これに真っ先に反応したのは、ゼストラークではなく、コウヤだった。
「え? そうだったの? なら、リクト兄とゼストパパも最初から呼ばなきゃダメじゃん。もう、エリィ姉。それならそう言ってくれればいいのに」
「え……あ……そ、そうね。そうだったわ……ごめんね。コウヤちゃん……っ」
ゼストラークに叱られると思い、気まずそうにしていたエリスリリアは、そのまま恥ずかしそうに頬を染めた。
「ううん。あ、ほら、エリィ姉は着替えて来て。もうご飯できるよ。ほら、家族で朝ごはんでしょ?」
「う、うん! すぐに着替えてくる!」
エリスリリアは、パタパタと走って客室に戻っていった。そんな様子が、ますます家族との一幕っぽくて、コウヤは嬉しくなる。
「これ、すごく家族っぽいねっ」
「っ、う、うむ……っ」
「ははっ。コウヤくんには敵いませんね。父上」
「そうだな……」
ゼストラークの眉間のシワも消えたようだ。そこに、またパタパタと足音を立ててエリスリリアが戻ってきた。
「お待たせ~」
「エリス。もう少し静かに歩きなさい」
「え~、自宅で足音殺しながらとか、ないわ~」
「自宅って……」
「自宅でしょ? ねえ、コウヤちゃん」
嬉しそうに、楽しそうに首を少し傾げたエリスリリア。これでお願いと言われたら、誰もがいいよと言いそうだ。もちろん、コウヤに異論はない。
「うん。合鍵渡しておくね。それで、部屋もまだあるし、好きな部屋選んでいいよ。いつでも使って」
「やったあっ! 後で、部屋決めてもいい!?」
「いいよ。リクト兄もゼストパパもね」
「っ、はい」
「ありがとう、コウヤ」
二人とも喜んでいた。
そして、朝食だ。
ギルドやこの町のことなどを楽しく話しながら食べ、一息ついたところで、コウヤはゼストラークに確認した。
「ねえ、ゼストパパ。ジンクおじさんが今どこにいるか分かる?」
神は、自身の神子の居場所や状況を知ることができる。ジンクは、全ての神の神子になったが、元はコウルリーヤとゼストラークの神子だ。後天的にその後追加されたためか、エリスリリアとリクトルスには、感知し辛いらしい。場所の特定がされれば、分かるという程度だ。
コウルリーヤこ神子としては、一度繋がりが途切れたためか、今も繋がりが弱くなっており、感知することができなかったのだ。
「うむ……神教国の辺りだな。他にも……っ、ソラが居るようだ」
数百年前に深い眠りについたゼストラークの神子の一人。それがソラという青年だ。
これに、エリスリリアとリクトルスが反応する。
「あっ、やっぱりジンクちゃん、起こして回ってるんだ。あっ、これ、ユミっちが寝てる場所に向かってるかもっ」
「ソラを起こしたなら、ミナも……」
ソラの姉であるミナは、リクトルスの神子。ソラと同じように、眠りについたのをリクトルスは知っている。
「眠ってる神子達を……なら、迷宮化についての話も聞けそうだね。なんでか、ダンゴでもよく分からないって言ってたから、気になるんだよね……」
全ての精霊をまとめるダンゴだが、迷宮化については何も知らないらしい。そもそも、迷宮化したのはコウルリーヤが居なくなってから。その時、ダンゴも眠りについていた。
その上で確認したのだが、干渉しようとすると、気分が悪くなるらしい。迷宮化は精霊にも良くない影響を与えているのだろうという推察が出た。
「今日の仕事は昼までだから、お弁当でも持って、会いに行ってくるよ」
「ズルいっ。コウヤちゃんのお弁当!」
「えっ、う~ん……」
エリスリリアは最近、お姉さんというよりは、妹ポジションを狙っているのではないかと思える。とはいえ、恐らくゼストラークとリクトルスの思いも代弁しようとしているのだろう。二人もジッとコウヤを見つめているのだから。
「あ~、なら、ピクニックに良い場所をジンクおじさん達の居る近くで探しておいてよ。そこでみんなで食べよう」
「わかったわっ」
「わかったよ」
「わかった」
満足げに頷く三人を見て、コウヤはすぐに昼食を作るための時間を捻出する。難しくはない。最近は、ギルドでの仕事を制限されているため、朝の受け付け業務が終われば、長い中休みに入る。夕方の受け付け業務まで今日はフリーだ。ならば、朝の業務が終わり次第、速攻でお弁当作りにかかればいい。
「あ~、でも……人数は多めにしとくべきかな」
予定より増えそうな予感がするのだ。この勘は、ほとんど外れたことがない。
「うん……残っても良いし、多めに作ろう」
そして結局、数十人分を作り、出かけることになった。
三人には場所取りをお願いし、コウヤだけ天翼に変化したテンキに乗って、ジンク達の上空へやってきた。躊躇いなく何やら盛り上がっていたジンク達の後ろに降りたったのだが、まさか悲鳴を上げられるとは思わなかった。
**********
読んでくださりありがとうございます◎
三日空きます。
よろしくお願いします◎
「コウヤちゃんは、こういう時に放っておくと、寝ないで走り回るでしょう? ダメよ。ちゃんと人としての身体も気遣わなくちゃ。なんなら、添い寝してあげるわよ♪ あ、その前にお夕食も一緒にね♪」
そう言われては、張り切って続行というわけにもいかず、明日の予定を組み立てながら、数日振りに自宅へ帰った。当然のように付いてきたエリスリリアと一緒にだ。
そのまま、一緒に夕食を作って食べ、お風呂も一緒にと言われて、ダンゴにエリスリリアを押し付けたり、本気で添い寝したいらしいエリスリリアのために、客間にキングサイズのベットを用意してそこで寝たりと、慌ただしくも楽しく一日を終えた。
翌朝。
朝食の準備をしようと動き出した頃。訪問のベルが鳴り、玄関の外にある自慢の門の通用口を開けると、そこにリクトルスが居た。
「はいは~い。あれ? リクト兄? おはよう」
「おはよう、コウヤくん。エリスが抜けがけっ……いえ、朝食一緒に良いですか?」
どうやら、エリスリリアがお泊まりしたのが原因らしい。いつもならば、エリスリリアもリクトルスも、夜には天界へ戻っていた。昨晩のようにコウヤの家に泊まることなど、実は初めてだったのだ。
二人はコウヤのプライベート空間として、自宅に入ることを少し遠慮していたようにも思う。
「うん。もちろん、ゼストパパもね」
「え!? 父上!?」
コウヤは笑顔でリクトルスの後ろに居たゼストラークにも声をかける。
「うむ」
振り返って驚くリクトルスに、ゼストラークは重々しく頷いた。だが、少し目を逸らしたので、多分これは照れているなと、コウヤは思わず微笑む。珍しく取り乱したリクトルスが面白かったというのもあるかもしれない。
リクトルスは、コウヤの家に上がるということに、少し緊張もしていたのだろう。後ろに、ゼストラークが来ていると気付かなかったようだ。リクトルスの後ろを取るのは、ゼストラークでも難しいので、動揺具合がよく分かる。
しかし、それには触れず、コウヤは快く家に招き入れた。
「ふふふ。ほら、二人とも入って。すぐに朝食作るね」
「あ、手伝います……」
「えっ、いいの、リクト兄っ。うんっ、一緒に作ろっ」
「っ、はい……っ」
そうして、楽しく二人で朝食を作り終える頃、エリスリリアが起きてきた。
「ふわぁぁ……おはよ……」
「おはよう、エリィ姉」
神は、寝る必要がない。寧ろ、うっかりうたた寝して、目が覚めたら十年経っていたということもあり得る。なので気を付けなくてはならないが、それでもエリスリリアは、眠るということを試してみたかったらしい。
「エリス……寝ていたのですか?」
「あれ? リクトが居る~。あ、お父様も?」
「エリス、これは立派な抜けがけだな」
はっきりとゼストラークが告げる。
「わわっ。ご、ごめんなさいっ。だって、コウヤちゃん、放っておくと寝ないんだもの……私が一緒になら、きちんと休んでくれると思って……」
「本音は」
ゼストラークに誤魔化しは効かない。もちろん、それで騙されておいてやるとゼストラークが許すこともあるが、今回はダメらしい。エリスリリアは肩を落とした。
「……コウヤちゃんと普通の家族ごっこしたかった……」
これに真っ先に反応したのは、ゼストラークではなく、コウヤだった。
「え? そうだったの? なら、リクト兄とゼストパパも最初から呼ばなきゃダメじゃん。もう、エリィ姉。それならそう言ってくれればいいのに」
「え……あ……そ、そうね。そうだったわ……ごめんね。コウヤちゃん……っ」
ゼストラークに叱られると思い、気まずそうにしていたエリスリリアは、そのまま恥ずかしそうに頬を染めた。
「ううん。あ、ほら、エリィ姉は着替えて来て。もうご飯できるよ。ほら、家族で朝ごはんでしょ?」
「う、うん! すぐに着替えてくる!」
エリスリリアは、パタパタと走って客室に戻っていった。そんな様子が、ますます家族との一幕っぽくて、コウヤは嬉しくなる。
「これ、すごく家族っぽいねっ」
「っ、う、うむ……っ」
「ははっ。コウヤくんには敵いませんね。父上」
「そうだな……」
ゼストラークの眉間のシワも消えたようだ。そこに、またパタパタと足音を立ててエリスリリアが戻ってきた。
「お待たせ~」
「エリス。もう少し静かに歩きなさい」
「え~、自宅で足音殺しながらとか、ないわ~」
「自宅って……」
「自宅でしょ? ねえ、コウヤちゃん」
嬉しそうに、楽しそうに首を少し傾げたエリスリリア。これでお願いと言われたら、誰もがいいよと言いそうだ。もちろん、コウヤに異論はない。
「うん。合鍵渡しておくね。それで、部屋もまだあるし、好きな部屋選んでいいよ。いつでも使って」
「やったあっ! 後で、部屋決めてもいい!?」
「いいよ。リクト兄もゼストパパもね」
「っ、はい」
「ありがとう、コウヤ」
二人とも喜んでいた。
そして、朝食だ。
ギルドやこの町のことなどを楽しく話しながら食べ、一息ついたところで、コウヤはゼストラークに確認した。
「ねえ、ゼストパパ。ジンクおじさんが今どこにいるか分かる?」
神は、自身の神子の居場所や状況を知ることができる。ジンクは、全ての神の神子になったが、元はコウルリーヤとゼストラークの神子だ。後天的にその後追加されたためか、エリスリリアとリクトルスには、感知し辛いらしい。場所の特定がされれば、分かるという程度だ。
コウルリーヤこ神子としては、一度繋がりが途切れたためか、今も繋がりが弱くなっており、感知することができなかったのだ。
「うむ……神教国の辺りだな。他にも……っ、ソラが居るようだ」
数百年前に深い眠りについたゼストラークの神子の一人。それがソラという青年だ。
これに、エリスリリアとリクトルスが反応する。
「あっ、やっぱりジンクちゃん、起こして回ってるんだ。あっ、これ、ユミっちが寝てる場所に向かってるかもっ」
「ソラを起こしたなら、ミナも……」
ソラの姉であるミナは、リクトルスの神子。ソラと同じように、眠りについたのをリクトルスは知っている。
「眠ってる神子達を……なら、迷宮化についての話も聞けそうだね。なんでか、ダンゴでもよく分からないって言ってたから、気になるんだよね……」
全ての精霊をまとめるダンゴだが、迷宮化については何も知らないらしい。そもそも、迷宮化したのはコウルリーヤが居なくなってから。その時、ダンゴも眠りについていた。
その上で確認したのだが、干渉しようとすると、気分が悪くなるらしい。迷宮化は精霊にも良くない影響を与えているのだろうという推察が出た。
「今日の仕事は昼までだから、お弁当でも持って、会いに行ってくるよ」
「ズルいっ。コウヤちゃんのお弁当!」
「えっ、う~ん……」
エリスリリアは最近、お姉さんというよりは、妹ポジションを狙っているのではないかと思える。とはいえ、恐らくゼストラークとリクトルスの思いも代弁しようとしているのだろう。二人もジッとコウヤを見つめているのだから。
「あ~、なら、ピクニックに良い場所をジンクおじさん達の居る近くで探しておいてよ。そこでみんなで食べよう」
「わかったわっ」
「わかったよ」
「わかった」
満足げに頷く三人を見て、コウヤはすぐに昼食を作るための時間を捻出する。難しくはない。最近は、ギルドでの仕事を制限されているため、朝の受け付け業務が終われば、長い中休みに入る。夕方の受け付け業務まで今日はフリーだ。ならば、朝の業務が終わり次第、速攻でお弁当作りにかかればいい。
「あ~、でも……人数は多めにしとくべきかな」
予定より増えそうな予感がするのだ。この勘は、ほとんど外れたことがない。
「うん……残っても良いし、多めに作ろう」
そして結局、数十人分を作り、出かけることになった。
三人には場所取りをお願いし、コウヤだけ天翼に変化したテンキに乗って、ジンク達の上空へやってきた。躊躇いなく何やら盛り上がっていたジンク達の後ろに降りたったのだが、まさか悲鳴を上げられるとは思わなかった。
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三日空きます。
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