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第二章 新生ギルドと神子編
第2巻連動SS ①続
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【著者近況】→【近況ボード】→
『第2巻発売記念SSキャラ投票』
まだまだ受付中◎
**********
【薬屋開店につき】
冒険者達は、ギルドの隣に出来上がった新しい薬屋に、恐る恐る足を踏み入れていく。
コウヤがその様をちらりと見て笑っていたというのは、冒険者達は気付かない。それは怯えて警戒しながらも進む様子にしか見えなかったのだ。
一体何に怯えて、そんな怖いと評判のお化け屋敷にでも入って行くような状態になるのだろうと、コウヤはおかしくて仕方がなかった。
「ふふ。今のゲンさんを見たら、驚くんだろうな~」
《しょうげきをうける ( ˘ω˘ ) 》
《そんなにかわったでしゅか?》
「きちんとメイドさんに整えられたっていうのもあるんだけどね」
傷が治って、コウヤと顔を合わせる前に、ゲンはメイドによって色々やられたらしい。ほとんど手を入れず、適当だった髪を整え、薬の効果もあり、肌艶の良くなったのを見て、お肌の手入れまでしたという。
領主邸のメイドさん達に敵う男は居ないというのが、ユースールの住民の認識だ。ゲンもされるがままだっただろう。その様子を是非とも見たかったというのが、コウヤの感想だ。
「メイドさん達の腕もあるけど、ゲンさんの場合は、血の影響もあるかも。薬だけじゃ、あんな別人並みに若返らないからね」
《わらってるのもいいね》
「あ、それはあるね。ゲンさん、あんまり笑わなかったから、表情筋も生き返って良かったよ。だから、きっとみんな驚くよ」
《……そこまできくと……はんのうがきになるでしゅ……》
《あとでのぞいてみる ( ̄∇ ̄) 》
そんな話をしながら、コウヤはギルドへ入っていった。
一方、薬屋に足を踏み入れた冒険者達はというと、まず、店内を見て困惑する。
「え?」
「あれ……?」
「んん?」
店内を見渡して首を傾げ、棚の中の物を見て頷いて、また首を傾げる。首の調子でも確かめているのかという様子だ。
「……え? ん? 待って、ん? 薬屋?」
「薬屋……だよな?」
「俺ら入って……いいんだよな?」
こうして混乱する理由は、冒険者達の中の薬屋のイメージとはかけ離れているためだ。
きちんと整理された棚。真っ直ぐにカウンターまで見える広い通路。そして、明るい店内。
薬は、直射日光を避けるべきものもあるため、薬屋はどうしても薄暗くなる。何より、薬を盗まれないよう、棚に置くのは低い効能しかない薬だけ。寧ろ、棚なんてないのが普通だ。だから、欲しい物しか買えないし、在庫があるかないかは、店主に聞いてみなければ分からない。
「……お貴族様の行く店じゃねえんだよな?」
「あ、ああ、だって、薬屋だって……」
「……触っていいのか?」
手に取って選べる薬屋なんて、誰も知らない。そういう、選べる店は、貴族が出入りできる店だけ。信用がなければ、それを許せないのが、この世界の常識だ。
店を開けてから、こうした入口付近で戸惑う冒険者達が続出していた。そんな様子を、ゲンはカウンターに片肘をついて見ていた。
「おもしれえなあ」
珍しい店内を見るのに必死で、冒険者達はゲンがニヤニヤ笑って見ていることにも気付いていない。ゲンも気配を消しているというのもあるのだが、それにしても愉快だと、内心笑いが止まらなかった。
そんなゲンに気付いて、製薬室から開店までに製薬が間に合っていなかった薬を持って出てきたナチが呆れた様子で声をかける。
「趣味が悪いですよ」
「いや、だってよお、お前だって、最初の奴見て笑ってたろ」
「あれは、あまりにも微笑ましくて……」
間違いなくナチは、製薬室に入る前に、思わずクスリと笑ったのだ。
「あんま、子どもみたいに見てやるなよ?」
「年齢で見れば、大抵子どもです」
「お前にとったら、俺も子どもか」
「ええ。なので、行動の伴った大人であってください」
「口うるせえ母親みたいなこと言うのな」
「それ、普通に女性に言ったら、嫌われますよ」
「ああ、違った。姉ちゃんだな」
「お姉様と呼んでもいいですよ」
「ごめんなさい」
血が近いというのは、本当なのかもしれないと、ゲンとナチは感じていた。
ゲンにしても、ナチにしても、ほとんど初対面の、それも異性に対してこんなに気安く話せるわけがない。
だが、なぜか気心の知れた家族のように、二人は自然にいつの間にか話せるようになっていた。だから、遠慮がない。ナチも、緊張せずに普通に話せていることに、少し驚いている。
「はいはい。店長、仕事してください」
「え? してんじゃん」
「……店長に接客を求めた私がバカでした」
「いや、ここに来たら相手するぞ?」
「……コウヤ様が言っていたのはこういうことですか……よく見ててください。元メイドの力を見せてやりますよ」
「お~、ってか、お前、人が怖くないのか?」
ゲンはナチが奴隷であったことを知っている。もうしばらくしたら、足の不調も治す薬を教えるが、未だナチは少し足を引きずっている。その足は、奴隷狩りにつけられた傷が原因だ。
見目の良いエルフの若い女。どんな扱いを受けてきたかと思えば、過剰なほどに気を使いそうになる。
しかし、ナチは心の傷を見せたりはしない。忘れたわけではないだろう。けれど、今は時に笑い、しっかりと前を向いている。
ナチは店に並べる薬を抱えたまま、振り返る。一つに結ばれた艶やかな金色の髪が大きく揺れる。
「無駄に百年以上も生きてませんよ。腐った人かどうかの違いの見分け方も出来るようになりましたしね」
「あ~、なるほど……」
彼女は、過去を糧に出来る人のようだ。確かに伊達に長く生きてないなと、ゲンは後ろ頭を掻いた。
「さてと……いらっしゃいませ。どうぞ、ごゆっくり店内をご覧ください」
声をかけてきたナチに、冒険者達は一様にびくりと肩を震わせ、そのあと小さく頭を下げる。
「あ、ありがとうございます!」
「うわっ。か、かわいい……っ、え? あれ? ゲンのおやっさんの店だよな?」
「なんで!? なんで、こんな可愛い子が居んの!?」
「え!? おやっさんは!?」
「ってか、こんな可愛い子がおやっさんと!? 犯罪じゃね!?」
これを聞いていたゲンは、ちょっとイラッとした。それを察してかどうかは知らないが、ナチはクスクスと笑った。
「ありがとうございます。ですけど、これでも皆さんよりもずっと年上なんですよ? もちろん、店長よりも上です」
「「「え……」」」
「ふふふ。ナチといいます。これから、店長共々、よろしくお願いしますね」
「「「は、はい!!」」」
それから、冒険者達はようやく店の中ほどまで入ってきた。物色を開始する。
「っ、こ、これっ。あ、足の痒いやつ……治せるのか?」
「え、マジ!? ど、どれだ? マジか……薬あるんだ……」
「コレ……虫除けって、こんな種類あるの?」
「うわ、もしかして……この前の……だからいつものやつ、効かなかったんだ……もう使えないんだと思って捨てたんだけど……」
店に並べないということは、こういうことも起きる。それも、一般的に薬師になっている人たちは、口下手な者も多い。よって、聞かれなければ詳しく説明しないことも多々ある。
「あ、あの……な、ナチさん! お、おふくろが最近、頭が痛いって言うんだけど……この薬でいいかな?」
「頭痛ですか……それは一度診察した方がいいですね。奥に診察室もあるので、近いうちにいらいてください。女性の悩みなら、私も診られますし、どうですか?」
「え、あ、よ、よろしくお願いします!」
「はい」
この世界では、体調が悪くても我慢するのが普通だ。治療することを考えるより、寝ていれば治るという考え方。知り合いに薬師が居れば相談するが、たいていはそのまま過ごす。
ゲンは、それがずっともどかしかった。
自分を頼ってくれれば、薬も渡せるのにと、何度思ったか知れない。そんな思いも、コウヤは知っていたかのように、診察室まで用意してくれた。それが、ゲンはとても嬉しかった。
そんなことを考えていれば、ようやく会計をとカウンターに近付いてくる冒険者達がいた。
「あの……これをください……」
「おう。こっちの薬は、使い方の説明書きも付けとく。理解出来んかったら、いつでも聞きに来い」
「っ、あ、は、はい! ありがとうございます!」
「お、おう……」
薬を買う者に、正面からお礼を言われたことがないため、少しゲンは照れ臭かった。
「ほれ、次」
「あ、これ、お願いします!」
「おう、こっちのは、一度飲んだら、次まで六時間は空けろ。飲み過ぎんなよ。腹痛くなるぞ」
「そ、そうなんだ……だからあの時……ありがとうございます!」
「おう、次」
用法容量を守っていない者は多い。というか、薬師自体が、知らないこともある。これは経験の差ともいえるし、教えられた事でも、実体験がなければ忘れる者もいる。本来ならあってはいけないことだが、あることはあるのだ。
何人目の客だろうか。その冒険者は、皆が気になっていることを口にした。
「あの。ゲンのおやっさんの息子さんですか?」
「……は?」
そこでゲンは、まさかと目を丸くした。買い物も終わって、店から出て行こうとする冒険者達が、キョロキョロと店の奥に目を向けたりして、首を傾げながら去っていくのを何度か見た。もしかしたら、それはゲンを探していたのかもしれないと、今更気付いた。
「……俺がゲンだ」
「……」
「……」
「……」
沈黙が降りた。誰もが気にして、その質問は代表だったのだろう。それがよく分かった。
そして、次の瞬間、ナチが耳を塞いだのを目の端に捉えて、ゲンも慌てて耳を塞いだ。
「「「「「ええええええっ!!!!」」」」」
どんだけ驚くんだと、顔をしかめる。その声量は、薬瓶が無事かと心配してしまったくらいの大きさだった。
そして、何人かは気絶した。
「うっせえなあ。ちょっと傷が治っただけだろうがよ」
「ちょっ! ちょっと!? いやいや!!」
「「「別人じゃん!!」」」
とりあえず、気絶した奴らは邪魔だなと、混雑する店内を見て判断し、ゲンは未だに突き刺さる視線を気にせず、そいつらを奥へ続く通路の端に並べた。
「ちょっ、ホントにゲンさん!?」
「若返り過ぎじゃん!」
「ったく、うるせえ。ほれ、買い物済んだ奴は出てけ」
「な、仲間に知らせてくる!」
「俺も! 若返ったって、おばちゃんに教えてくる!」
「俺も、俺も、ばあちゃんに教えてくる!」
「いや……なんでだよ……」
そして、その結果。
「いやだよお。ゲンちゃんが、こんなええ男になるとはねえ」
「若返りの薬があるのかい!? 是非とも教えておくれよ!」
「あ~、私も若返りそうだわ~。今度、菓子作ってくるからね」
「ナチさん。この子はねえ、甘いのが意外にも好きでねえ」
昼過ぎに、冒険者達からゲンのことを聞きつけた近所の奥様方によって、薬屋は半ば占拠された。
「あの人にも教えてやらんとねえ」
「うちの人も、ゲンちゃんには感謝してるから」
「ついでに夕食のおかずを持たせるよ」
「あ、私も。ナチさんも是非食べて!」
これにより、夕方以降には、旦那達が奥様達に持たされたおかず片手に挨拶に来た。
「本当にゲンか?」
「こりゃあ、たまげた」
「あの傷がなけりゃ、お前も嫁さんもらえたろうに」
「いやいや、まだこれからかもしれんぞ」
「「「ナチさんはダメだぞ?」」」
「……どうでもいいが……薬屋に酒瓶ぶら下げて来んな……」
そうして、ゲンの薬屋の一日目は、大盛況の内に終わったのだった。
**********
読んでくださりありがとうございます◎
こちらも後日、第二章の部分に移動いたします。
SSキャラ投票もよろしくお願いします。
次回、三日空きます。
よろしくお願いします◎
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冒険者達は、ギルドの隣に出来上がった新しい薬屋に、恐る恐る足を踏み入れていく。
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傷が治って、コウヤと顔を合わせる前に、ゲンはメイドによって色々やられたらしい。ほとんど手を入れず、適当だった髪を整え、薬の効果もあり、肌艶の良くなったのを見て、お肌の手入れまでしたという。
領主邸のメイドさん達に敵う男は居ないというのが、ユースールの住民の認識だ。ゲンもされるがままだっただろう。その様子を是非とも見たかったというのが、コウヤの感想だ。
「メイドさん達の腕もあるけど、ゲンさんの場合は、血の影響もあるかも。薬だけじゃ、あんな別人並みに若返らないからね」
《わらってるのもいいね》
「あ、それはあるね。ゲンさん、あんまり笑わなかったから、表情筋も生き返って良かったよ。だから、きっとみんな驚くよ」
《……そこまできくと……はんのうがきになるでしゅ……》
《あとでのぞいてみる ( ̄∇ ̄) 》
そんな話をしながら、コウヤはギルドへ入っていった。
一方、薬屋に足を踏み入れた冒険者達はというと、まず、店内を見て困惑する。
「え?」
「あれ……?」
「んん?」
店内を見渡して首を傾げ、棚の中の物を見て頷いて、また首を傾げる。首の調子でも確かめているのかという様子だ。
「……え? ん? 待って、ん? 薬屋?」
「薬屋……だよな?」
「俺ら入って……いいんだよな?」
こうして混乱する理由は、冒険者達の中の薬屋のイメージとはかけ離れているためだ。
きちんと整理された棚。真っ直ぐにカウンターまで見える広い通路。そして、明るい店内。
薬は、直射日光を避けるべきものもあるため、薬屋はどうしても薄暗くなる。何より、薬を盗まれないよう、棚に置くのは低い効能しかない薬だけ。寧ろ、棚なんてないのが普通だ。だから、欲しい物しか買えないし、在庫があるかないかは、店主に聞いてみなければ分からない。
「……お貴族様の行く店じゃねえんだよな?」
「あ、ああ、だって、薬屋だって……」
「……触っていいのか?」
手に取って選べる薬屋なんて、誰も知らない。そういう、選べる店は、貴族が出入りできる店だけ。信用がなければ、それを許せないのが、この世界の常識だ。
店を開けてから、こうした入口付近で戸惑う冒険者達が続出していた。そんな様子を、ゲンはカウンターに片肘をついて見ていた。
「おもしれえなあ」
珍しい店内を見るのに必死で、冒険者達はゲンがニヤニヤ笑って見ていることにも気付いていない。ゲンも気配を消しているというのもあるのだが、それにしても愉快だと、内心笑いが止まらなかった。
そんなゲンに気付いて、製薬室から開店までに製薬が間に合っていなかった薬を持って出てきたナチが呆れた様子で声をかける。
「趣味が悪いですよ」
「いや、だってよお、お前だって、最初の奴見て笑ってたろ」
「あれは、あまりにも微笑ましくて……」
間違いなくナチは、製薬室に入る前に、思わずクスリと笑ったのだ。
「あんま、子どもみたいに見てやるなよ?」
「年齢で見れば、大抵子どもです」
「お前にとったら、俺も子どもか」
「ええ。なので、行動の伴った大人であってください」
「口うるせえ母親みたいなこと言うのな」
「それ、普通に女性に言ったら、嫌われますよ」
「ああ、違った。姉ちゃんだな」
「お姉様と呼んでもいいですよ」
「ごめんなさい」
血が近いというのは、本当なのかもしれないと、ゲンとナチは感じていた。
ゲンにしても、ナチにしても、ほとんど初対面の、それも異性に対してこんなに気安く話せるわけがない。
だが、なぜか気心の知れた家族のように、二人は自然にいつの間にか話せるようになっていた。だから、遠慮がない。ナチも、緊張せずに普通に話せていることに、少し驚いている。
「はいはい。店長、仕事してください」
「え? してんじゃん」
「……店長に接客を求めた私がバカでした」
「いや、ここに来たら相手するぞ?」
「……コウヤ様が言っていたのはこういうことですか……よく見ててください。元メイドの力を見せてやりますよ」
「お~、ってか、お前、人が怖くないのか?」
ゲンはナチが奴隷であったことを知っている。もうしばらくしたら、足の不調も治す薬を教えるが、未だナチは少し足を引きずっている。その足は、奴隷狩りにつけられた傷が原因だ。
見目の良いエルフの若い女。どんな扱いを受けてきたかと思えば、過剰なほどに気を使いそうになる。
しかし、ナチは心の傷を見せたりはしない。忘れたわけではないだろう。けれど、今は時に笑い、しっかりと前を向いている。
ナチは店に並べる薬を抱えたまま、振り返る。一つに結ばれた艶やかな金色の髪が大きく揺れる。
「無駄に百年以上も生きてませんよ。腐った人かどうかの違いの見分け方も出来るようになりましたしね」
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「さてと……いらっしゃいませ。どうぞ、ごゆっくり店内をご覧ください」
声をかけてきたナチに、冒険者達は一様にびくりと肩を震わせ、そのあと小さく頭を下げる。
「あ、ありがとうございます!」
「うわっ。か、かわいい……っ、え? あれ? ゲンのおやっさんの店だよな?」
「なんで!? なんで、こんな可愛い子が居んの!?」
「え!? おやっさんは!?」
「ってか、こんな可愛い子がおやっさんと!? 犯罪じゃね!?」
これを聞いていたゲンは、ちょっとイラッとした。それを察してかどうかは知らないが、ナチはクスクスと笑った。
「ありがとうございます。ですけど、これでも皆さんよりもずっと年上なんですよ? もちろん、店長よりも上です」
「「「え……」」」
「ふふふ。ナチといいます。これから、店長共々、よろしくお願いしますね」
「「「は、はい!!」」」
それから、冒険者達はようやく店の中ほどまで入ってきた。物色を開始する。
「っ、こ、これっ。あ、足の痒いやつ……治せるのか?」
「え、マジ!? ど、どれだ? マジか……薬あるんだ……」
「コレ……虫除けって、こんな種類あるの?」
「うわ、もしかして……この前の……だからいつものやつ、効かなかったんだ……もう使えないんだと思って捨てたんだけど……」
店に並べないということは、こういうことも起きる。それも、一般的に薬師になっている人たちは、口下手な者も多い。よって、聞かれなければ詳しく説明しないことも多々ある。
「あ、あの……な、ナチさん! お、おふくろが最近、頭が痛いって言うんだけど……この薬でいいかな?」
「頭痛ですか……それは一度診察した方がいいですね。奥に診察室もあるので、近いうちにいらいてください。女性の悩みなら、私も診られますし、どうですか?」
「え、あ、よ、よろしくお願いします!」
「はい」
この世界では、体調が悪くても我慢するのが普通だ。治療することを考えるより、寝ていれば治るという考え方。知り合いに薬師が居れば相談するが、たいていはそのまま過ごす。
ゲンは、それがずっともどかしかった。
自分を頼ってくれれば、薬も渡せるのにと、何度思ったか知れない。そんな思いも、コウヤは知っていたかのように、診察室まで用意してくれた。それが、ゲンはとても嬉しかった。
そんなことを考えていれば、ようやく会計をとカウンターに近付いてくる冒険者達がいた。
「あの……これをください……」
「おう。こっちの薬は、使い方の説明書きも付けとく。理解出来んかったら、いつでも聞きに来い」
「っ、あ、は、はい! ありがとうございます!」
「お、おう……」
薬を買う者に、正面からお礼を言われたことがないため、少しゲンは照れ臭かった。
「ほれ、次」
「あ、これ、お願いします!」
「おう、こっちのは、一度飲んだら、次まで六時間は空けろ。飲み過ぎんなよ。腹痛くなるぞ」
「そ、そうなんだ……だからあの時……ありがとうございます!」
「おう、次」
用法容量を守っていない者は多い。というか、薬師自体が、知らないこともある。これは経験の差ともいえるし、教えられた事でも、実体験がなければ忘れる者もいる。本来ならあってはいけないことだが、あることはあるのだ。
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「あの。ゲンのおやっさんの息子さんですか?」
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「……俺がゲンだ」
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「「「「「ええええええっ!!!!」」」」」
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「ちょっ、ホントにゲンさん!?」
「若返り過ぎじゃん!」
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「な、仲間に知らせてくる!」
「俺も! 若返ったって、おばちゃんに教えてくる!」
「俺も、俺も、ばあちゃんに教えてくる!」
「いや……なんでだよ……」
そして、その結果。
「いやだよお。ゲンちゃんが、こんなええ男になるとはねえ」
「若返りの薬があるのかい!? 是非とも教えておくれよ!」
「あ~、私も若返りそうだわ~。今度、菓子作ってくるからね」
「ナチさん。この子はねえ、甘いのが意外にも好きでねえ」
昼過ぎに、冒険者達からゲンのことを聞きつけた近所の奥様方によって、薬屋は半ば占拠された。
「あの人にも教えてやらんとねえ」
「うちの人も、ゲンちゃんには感謝してるから」
「ついでに夕食のおかずを持たせるよ」
「あ、私も。ナチさんも是非食べて!」
これにより、夕方以降には、旦那達が奥様達に持たされたおかず片手に挨拶に来た。
「本当にゲンか?」
「こりゃあ、たまげた」
「あの傷がなけりゃ、お前も嫁さんもらえたろうに」
「いやいや、まだこれからかもしれんぞ」
「「「ナチさんはダメだぞ?」」」
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