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第九章
356 さっさと行くよ
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この場にルディエやベニが居たのは良かったのかもしれない。一番行動力があるため、さっさと段取りに入れる。
「どれ、わたしが先ず病人に会って来ようか。今回のは、治癒魔法で完治させられることはないようだが、コウヤ特製のドリンクもあるしねえ」
ベニの提案にコウヤは頷く。暑い時期なので、スターバブルで作ったスポーツドリンクもどきを、ベニ達には渡してあるのだ。
どうにも、暑い日には冷やしたそれが無性に飲みたくなる。今では、ベニ達にも欠かせないものになっていた。
薬として作った訳ではないが、倒れた王達は魔力に異常をきたしてしまっている状態で、そこから体の不調が来ている。
スポーツドリンクもどきの、スターバブルの精製液である『星の雫』は、それだけで魔力を安定させたり、自律神経を整えたりする作用が多少なりとあるため、楽にはなるだろう。重症化しているのは、魔力の多い王族だからという要因もありそうだった。
「本人の同意が得られたら、連れて来てもいいかねえ」
「そうだね。その場合は、騒がれても困るし、他の貴族の方達に連れ出したことが分からないようにした方がいいけど」
「ああ。教国に毒された者たちとを、選別するんだったかい。なら、目が向かんように気をつけようか」
国によっては、いつ内乱として動き出してもおかしくない状況にきているはずだ。恐らく今頃は、両陣営に入り込んでいる教会に買収された貴族達が、仕掛ける時を計っているだろう。
睨み合いを続ける者たちは、そのまま現状を維持してもらい、その間に、実質中立や傍観の姿勢でいる者たちと接触する必要がある。それはルディエが白夜部隊を動かしてくれそうだ。
何より、既に情報も持っているらしい。
「問題ないよ。それぞれの匿われてる場所に居るのは、中立の奴らだけだから。それに、そこの三つの国のだと、秘密裏にこの国に運べないかとか、面倒見てる奴らが、数日前から考えてるみたい」
「そうなの?」
「おやおや。それは都合がええわ」
同じ病であったはずのアビリス王が完治したという情報が彼らの希望になったのだろう。見守ることしか出来ないと思っていた者たちも、ようやく、重い腰を上げて動こうとしているようだ。
「うん。なんとかしようと考えてるなら、やりやすいね。ばばさま。パックンを連れて行って。転移で直接部屋とかに跳べばいいから」
「そうやね。聖域転移は使えんしね」
ばばさまや白夜部隊は、聖域から聖域へ転移することが出来る。だが、向かう場所に聖域はないし、簡単に用意出来るものでもない。しかし、人化も自由に出来るようになったパックン達なら、どこからでも、どこへでも転移可能だ。
忍び込むにも、連れ出すのも、転移が一番簡単で確実だろう。
「あと、マンタに乗って行って。病室も完備してるし、それぞれの国の上空まで行けば、転移の負担も軽くなるから」
どこへでも転移できるとはいえ、距離によって使う魔力量は違う。いくらパックンでも、この国とを何度も行き来するのは大変だ。ならば、近くまでベッドを持って行けばいい。マンタは地上から見えないようにもできるので、騒がれることもないだろう。
「それなら兄さん。ついでに、そいつらも乗せてくよ。調べさせるんでしょ?」
「うん。そうだね」
コウヤが頷いて、そいつらと呼ばれた密偵達へ目を向ける。
何をやらされるのかと、彼らはビクリと小さく震えた。ルディエの怖さも知っているようだ。
「あなた方には、国に戻ってもらって、入り込んでいる神教国と繋がりのある貴族達を特定して欲しいんです。他国を調べるより簡単ですよね」
「え、ええ……確かに、情報も集めやすいですし、ここで動くよりは遥かに容易いかと」
不安そうな顔から一転、自信満々で頷き合う。この国を基準にしたら、どの国でも容易いと思えるのだろう。簡単、簡単と笑い合っていた。
そろそろ彼らが密偵だと忘れそうだ。他国の密偵達とも何度も同意し合うなど、普通はあり得ないし、何よりもこうして答えを明確にしたりしないのが普通の密偵だ。だが、既にこの場には、それがおかしいと思える者はいない。
「では、それを確定し、同時に協力者を集めてください。会談をするにしても、誰を代表にするかという問題があります。話のできる人を見つけてください」
「それは……条件とかありますか?」
「冷静に話ができる方だったら、身分も気にしなくて構わないです。もちろん、国での発言権をそれなりに持っている方がいいですけど、そこまで贅沢は言えませんね。会談の後には、それぞれの国に伝える必要がありますが、そこは後から考えましょう。とりあえず、今回の件での意思を統一することが重要ですので」
「……」
それでも、考え込む様子を見せる密偵達。難しいだろう。彼らが国の代表を決めるようなものなのだから。
「もちろん、一人に絞ることはありません。大勢では困りますが、数人選んでもらって、そこで代表をその人たちに決めてもらえばいいでしょう。それと、その場に状態が少し回復した王達にも来てもらいます。彼らも知りたいでしょうし、神教国の企みを全てきっちり打ち砕かなくてはなりませんからね」
自分達が原因で国が危うくなるのだ。王達も眠ってはいられないだろう。今の状態でも、きっと彼らは国の現状を理解している。そんな人たちだから狙われたはずだ。
いつまでも不安がる密偵達を見て、ベニが立ち上がる。
「そら、ぐずぐずするな。ここでごちゃごちゃ考えてても何も始まらん。さっさと行くよ」
「「「「っ、は、はい!!」」」」
ベニの迫力に押され、密偵達はビシリと背筋を伸ばして立ち上がった。退き際を知っている彼らは、逆らってはいけないものの判断が早い。
「それじゃあ、コウヤ。行ってくるね」
「うん。あ、薬師を連れて行ってね」
「そうだったね。行きがけにさらってくよ」
そうして、ベニは密偵達も連れて、ルディエやサーナ達と共に部屋を出て行った。
その光景はまるで、アレだ。
「大司教はアレだな……女王やれんじゃね?」
このアルキスの言葉には、ベニ達のことをよく知らない王子達までもが深く頷いていた。
**********
読んでくださりありがとうございます◎
二日空きます。
よろしくお願いします◎
「どれ、わたしが先ず病人に会って来ようか。今回のは、治癒魔法で完治させられることはないようだが、コウヤ特製のドリンクもあるしねえ」
ベニの提案にコウヤは頷く。暑い時期なので、スターバブルで作ったスポーツドリンクもどきを、ベニ達には渡してあるのだ。
どうにも、暑い日には冷やしたそれが無性に飲みたくなる。今では、ベニ達にも欠かせないものになっていた。
薬として作った訳ではないが、倒れた王達は魔力に異常をきたしてしまっている状態で、そこから体の不調が来ている。
スポーツドリンクもどきの、スターバブルの精製液である『星の雫』は、それだけで魔力を安定させたり、自律神経を整えたりする作用が多少なりとあるため、楽にはなるだろう。重症化しているのは、魔力の多い王族だからという要因もありそうだった。
「本人の同意が得られたら、連れて来てもいいかねえ」
「そうだね。その場合は、騒がれても困るし、他の貴族の方達に連れ出したことが分からないようにした方がいいけど」
「ああ。教国に毒された者たちとを、選別するんだったかい。なら、目が向かんように気をつけようか」
国によっては、いつ内乱として動き出してもおかしくない状況にきているはずだ。恐らく今頃は、両陣営に入り込んでいる教会に買収された貴族達が、仕掛ける時を計っているだろう。
睨み合いを続ける者たちは、そのまま現状を維持してもらい、その間に、実質中立や傍観の姿勢でいる者たちと接触する必要がある。それはルディエが白夜部隊を動かしてくれそうだ。
何より、既に情報も持っているらしい。
「問題ないよ。それぞれの匿われてる場所に居るのは、中立の奴らだけだから。それに、そこの三つの国のだと、秘密裏にこの国に運べないかとか、面倒見てる奴らが、数日前から考えてるみたい」
「そうなの?」
「おやおや。それは都合がええわ」
同じ病であったはずのアビリス王が完治したという情報が彼らの希望になったのだろう。見守ることしか出来ないと思っていた者たちも、ようやく、重い腰を上げて動こうとしているようだ。
「うん。なんとかしようと考えてるなら、やりやすいね。ばばさま。パックンを連れて行って。転移で直接部屋とかに跳べばいいから」
「そうやね。聖域転移は使えんしね」
ばばさまや白夜部隊は、聖域から聖域へ転移することが出来る。だが、向かう場所に聖域はないし、簡単に用意出来るものでもない。しかし、人化も自由に出来るようになったパックン達なら、どこからでも、どこへでも転移可能だ。
忍び込むにも、連れ出すのも、転移が一番簡単で確実だろう。
「あと、マンタに乗って行って。病室も完備してるし、それぞれの国の上空まで行けば、転移の負担も軽くなるから」
どこへでも転移できるとはいえ、距離によって使う魔力量は違う。いくらパックンでも、この国とを何度も行き来するのは大変だ。ならば、近くまでベッドを持って行けばいい。マンタは地上から見えないようにもできるので、騒がれることもないだろう。
「それなら兄さん。ついでに、そいつらも乗せてくよ。調べさせるんでしょ?」
「うん。そうだね」
コウヤが頷いて、そいつらと呼ばれた密偵達へ目を向ける。
何をやらされるのかと、彼らはビクリと小さく震えた。ルディエの怖さも知っているようだ。
「あなた方には、国に戻ってもらって、入り込んでいる神教国と繋がりのある貴族達を特定して欲しいんです。他国を調べるより簡単ですよね」
「え、ええ……確かに、情報も集めやすいですし、ここで動くよりは遥かに容易いかと」
不安そうな顔から一転、自信満々で頷き合う。この国を基準にしたら、どの国でも容易いと思えるのだろう。簡単、簡単と笑い合っていた。
そろそろ彼らが密偵だと忘れそうだ。他国の密偵達とも何度も同意し合うなど、普通はあり得ないし、何よりもこうして答えを明確にしたりしないのが普通の密偵だ。だが、既にこの場には、それがおかしいと思える者はいない。
「では、それを確定し、同時に協力者を集めてください。会談をするにしても、誰を代表にするかという問題があります。話のできる人を見つけてください」
「それは……条件とかありますか?」
「冷静に話ができる方だったら、身分も気にしなくて構わないです。もちろん、国での発言権をそれなりに持っている方がいいですけど、そこまで贅沢は言えませんね。会談の後には、それぞれの国に伝える必要がありますが、そこは後から考えましょう。とりあえず、今回の件での意思を統一することが重要ですので」
「……」
それでも、考え込む様子を見せる密偵達。難しいだろう。彼らが国の代表を決めるようなものなのだから。
「もちろん、一人に絞ることはありません。大勢では困りますが、数人選んでもらって、そこで代表をその人たちに決めてもらえばいいでしょう。それと、その場に状態が少し回復した王達にも来てもらいます。彼らも知りたいでしょうし、神教国の企みを全てきっちり打ち砕かなくてはなりませんからね」
自分達が原因で国が危うくなるのだ。王達も眠ってはいられないだろう。今の状態でも、きっと彼らは国の現状を理解している。そんな人たちだから狙われたはずだ。
いつまでも不安がる密偵達を見て、ベニが立ち上がる。
「そら、ぐずぐずするな。ここでごちゃごちゃ考えてても何も始まらん。さっさと行くよ」
「「「「っ、は、はい!!」」」」
ベニの迫力に押され、密偵達はビシリと背筋を伸ばして立ち上がった。退き際を知っている彼らは、逆らってはいけないものの判断が早い。
「それじゃあ、コウヤ。行ってくるね」
「うん。あ、薬師を連れて行ってね」
「そうだったね。行きがけにさらってくよ」
そうして、ベニは密偵達も連れて、ルディエやサーナ達と共に部屋を出て行った。
その光景はまるで、アレだ。
「大司教はアレだな……女王やれんじゃね?」
このアルキスの言葉には、ベニ達のことをよく知らない王子達までもが深く頷いていた。
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