元邪神って本当ですか!? 万能ギルド職員の業務日誌

紫南

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第九章

336 ばばさま達の作戦勝ちだよ

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コウヤの言葉を聞いて、平静でいられたのは宰相の第三補佐官のニールのみだった。

「領主達に特別に護衛を出す必要はないということですね?」
「ええ。各地に散らばった神官さん達で弱い所は補うので、後は正規の護衛さん達だけで事足りるということみたいです」

騎士達を派遣しなくてはならない場合は、物資の移送や滞在先の調整なども必要となる。そのための確認。通常通りで構わないということで、別段手続きなど手を割く必要がないと確認できて他の補佐官達も肩の力を抜いたのがわかった。

ベルナディオや王達と違い、ニール以外の二人の補佐官達は聖魔教の神官達との付き合いはない。これまで神官達の対応は全てニールが行ってきた。そのため、彼らの頭の中を占めたのは、そういった国が取るべき対応のことだけだったのだ。

未だ目が泳いでいるベルナディオ達は置いておいて、コウヤはニールに続けて話かける。

「冒険者の方でも、センジュリン国の一件で神教国への不信感が高まっているから、住民達のフォローに回ってくれるみたい」

冒険者達は、ある意味一番、神教国の神官達に食いものにされてきた。よって、少しでも神官達が怪しい動きをしようものなら、遠慮なく責め立てる気満々だ。彼らは町を守る兵士のように、教会の周りを巡回してくれているらしい。

それを聞いて、ニールも思い当たった。

「後からエリス様が用意された、あの国の聖女が高笑いして自白する記録映像もギルド経由で発表されたとか。その影響が出ているのですね」

映像を記録する魔導具をコウヤが作ったことで、エリスリリアはセンジュリン国の王宮に居た聖女とのやり取りを、後で世界管理者権限を利用して抜き出した。

それをコウヤが作った記録媒体に移して、冒険者ギルド統括であるシーレスに託していた。これを神教国に不信感を抱きはじめていた国の王達に見せ『こういう考えの聖女が居る国です。お気をつけください』と忠告して回ってもらった。

そして、いくつか複製し、各ギルドの前で上映会。やらかし王女のやらかし映像もついでに公開。娯楽の少ないこの世界では、大いに盛り上がった。

これに目をつけた吟遊詩人達が各地で伝え、更に拡散。ここでようやく神教国の関係者達が知って慌てた。

既にトルヴァランからは追い出したが、他国には未だ多くの神教国関係の教会がある。だが、神官達は日々ろくに外に出ることもなく、上の者たちほど自堕落に教会にこもっていたのだ。彼らにとっては、お金は勝手に集まってくるもの。あくせく働く必要はない。

治療に当たるのも、下の使い潰すために置いている治癒魔法の使い手達だけ。治療を受ける者が格段に減ったことにも上の者たちはそれまで気付かなかった。

これにより、各国に常駐する神教国の教会関係者達は見事に逃げ遅れたのだ。

「うん。この国でのことがあって、今まで疑惑を持ちながらも一歩躊躇ためらってた国も、さすがに動いたみたいだね。完全に油断してたこともあって、教会が軒並み押さえられたってばばさま達が今朝、大笑いしてたよ」
「……それは……」

なんと答えたら良いのか、ニールも困る話だった。コウヤも困惑したのだから、答えは求めていない。

今朝、久し振りにユースールの教会で三人のばばさま達が揃っていると思ったら、エリスリリアも入って四人で大きな声で笑っていたのだ。

コウヤは部屋に入ろうかどうしようかと、ドアを少し開けて中の様子を窺い見た時のことを思い出す。

『もう、ホント愉快! これほど上手くいくとはねえ。あのエセ聖女はいい仕事してくれたわ!』

ベニが机をバンバン叩いて笑う。次にセイがエリスリリアへ、グッジョブとサムズアップ。

『エリィちゃんが上手く話に乗せたからよ! 一国を意のままにとか、実験としてとか、ポロポロとよくあれだけこぼさせたものだわ』
『うっふふ~っ。もっと褒めて! まあ、あの子が単純に面白いくらい引っかかってくれたからだけどね~。アレ、あの国の王侯貴族の特徴だったのかしら。ある意味、素直? 他もあんな感じだったのよ。もっと遊べば良かった~』

後でコウヤはゼストラークやリクトルスと一緒に、エリスリリアが大暴れした時の記録を確認したが、女神というより悪魔的なものにしか見えなかった。

ベニ達と笑うこの時も、決して女神として世間にお見せしてはならないように思えた。

『何それ。なんで一人、二人拐っ……連れて来なかったのよ。もったいない!』
『『確かに! 惜しい!』』

キイの言葉に、ベニとセイが本気で残念そうに首を横に振っていた。これを受けて、エリスリリアが申し訳なさそうにする。

『あ~、失敗したわね……』

しかし、すぐに表情を明るくする。

『あっ! でも一人、良い子がいるわよ! あの~……コウヤちゃんについてる子……あっ、ビジェくん。その妹ちゃんなんだけど、ツンツンしてて可愛かったわよ~』
『『『今どこに!?』』』

ここでコウヤはドアからサッと手を離して一歩後退った。現在、心のケアのために保護している王女二人と共に、冒険者ギルドに居るマリーファルニェに預けたビジェの妹。ビジェに、しばらく姿も見えなくなると伝えなくてはならないようだ。

こんなことなら、最初からばばさま達に預けるべきだっただろうかと一瞬考えた。王女二人は、母親が平民ということで、聖女であった叔母に毛嫌いされていたらしい。そのため、教会というものに恐怖心があり、聖魔教の教会にも連れて行けなかったのだ。

ビジェの妹は、ビジェに思う所があるようで、彼が良く出入りするゲンの所に預けるという案も却下された。確かに、未だにツンツンしているため、ばばさま達には良いおもちゃになるだろう。

からかって遊んで、諭して、意固地な心を開いていく。百戦錬磨のばばさま達にかかれば、数日後にはビジェへ自分から声をかけるくらいになるだろう。

ただ、王女達から引き離しても大丈夫かは確認してもらわなくてはならない。そこはマリーファルニェに丸投げしてきた。

ここへ来るまでのことを改めて思い返して、難しい顔をしていたコウヤだったが、すぐに気持ちを切り替える。

「まあ、でも、笑っちゃうのも分かるんだ。悪いけど、この国に意識を向けられたことで、他国の動きを悟られずに教会を押さえ込めたからね。ばばさま達の作戦勝ちだよ」

自分たちで手を下すことなく、支部となる各国の神教会を押さえることができたのだ。これにより、他国を盾にされることも防ぐことができ、本丸である神教国だけを相手にできる。

いくら白夜部隊をはじめとする、有能な者たちが居ても、さすがに世界中に散らばった神教会の全てに手を出すことは不可能だ。数が違う。

センジュリン国でのことは、ばばさま達にとっても渡に船だった。一気に他国を味方に付けることができたのだから。

「『狩られる側に回ったことを思い知らせてやる』って息巻いてたから、ばばさま達に抜かりはないと思う」
「……心底、あの方々の敵に回るのは避けたいですね……」
「だよね~」

ここでようやく、ベルナディオ達の思考が追いついたらしく、仕切りに首を縦に振って同意を示していた。

その時、騎士が一人、困惑した様子で部屋に駆け込んで来たため、意識はそちらへと向いた。

**********
読んでくださりありがとうございます◎
次回、二日空きます。

いよいよ書籍が来週19日に出荷となります!
早い所では20日から店頭で見られると思います。
そろそろ各書店ネットの方でも書影が公開されるということで発表!
イラストはririttoさん。
表紙や挿絵だけでも癒されます!

それと、レンタル開始頃には、短いですが書籍と連動したSSも投稿予定です。
チェックよろしくお願いします◎
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