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第八章 学校と研修
292 綺麗に転がしてみせますよ
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実はリクトルスがギルドに顔を出した前日。
そういえばリルファムとシンリームの教師役を頼まれていたなと、コウヤは思い出した。
集団暴走が起きたりと、延び延びになっていたので、どうするか相談しようと午後の半休を利用して、先ずは久し振りに王宮のオスロリーリェの所へ飛んだのだ。
折角なのでとお茶をしがてら、近況報告をし合った。そこでオスロリーリェが珍しく心底楽しそうに教えてくれた。
《ふふ……バイトくん達……ようやく報われた……》
オスロリーリェが言うバイトくん達とは、慣れない仮の新領主達の補佐として、国中に散らばった平民出の文官達のことだ。
思えば、彼らは上司や貴族の同僚達に恨みを募らせていた。報告書に泣きながら恨み言を書いてしまうほどに。
《あの子たちの有り難み……分かったはず……どれだけバカでも……》
オスロリーリェもかなり苛立っていたようだ。ここに逃げるように休憩を兼ねてやって来た文官達を、オスロリーリェは気に入っていた。人と係りを持とうとしなかったオスロリーリェが声をかけるほどだ。相当だろう。
「そっか。でも、今までサボってた人たちが、いきなり彼らの穴を埋めるくらい仕事ができるとは思えないんだけど? ゼフィルさんとか、普通に三人分とかこなせる人でしょ?」
時々ここで談笑しながら教えてくれた仕事量を鑑みるに、それくらいだろうと思った。何より、現在の領主補佐の仕事をいきなりで難なくこなしているのが良い証拠だ。それも、同じく全く領主どころか文官の経験もない者を相手に領主としての指導もしているのだから。
更に言えば彼らはコウヤと同類。仕事がやりたくて仕方がないという特殊な病気持ち。仕事が多いほど燃える。書類の山で萌える。ある意味変態だ。きっと、普段から押しつけられる仕事以上に勝手に仕事を見つけて、増やして、やり切っていたはずだ。
抜けた穴は絶対に一人分ではない。
《だから……回ってない……初めての経験がいっぱい……徹夜とか》
「えっ。徹夜したことない人がいるの?」
《……今残ってるやつら…….だいたい……そう……》
「へえ~」
《……》
普通、仕事で徹夜というのは良いことではないのだと、この場にリクトルスが居れば小一時間ほど説いてくれただろう。オスロリーリェには無理だった。
「でも、それなら仕事が滞ってるよね。下がそうだと……ベルナディオ宰相は大丈夫かな?」
コウヤは、自分と同じ人種で仕事人間なベルナディオが気になった。尊敬すべき年長者への配慮は大事にしている。穏やかに長生きして欲しいと願う彼が、無理をしているのではないかと心配になった。
いつもならばここにコウヤが現れれば、何かを察知して来るはずのニールも来ない。仕事が立て込んでいそうだ。
「なんか、俺のお披露目会もあるみたいだし、人数が揃ったっていっても、ゼフィルさんたちが抜けちゃったから、結局はマイナスだよね……無理して欲しくないな……棟梁も心配するだろうし……っ、そうだ!」
コウヤは名案を思いついた。
「どのみち、ユースールに研修にってニールさんも言ってたし、いっそのことこっちに派遣しちゃおう! やりがいがある方が喜んでくれるだろうし、うん! レンス様に相談してくるね!」
《……うん……?》
そうして、レンスフィートに少し文官を王都に貸し出して欲しいと頼んだ。
レンスフィートとしては願ってもないことだ。コウヤのお披露目会の準備に参加できないことが、彼は悔しかった。
それはユースールの領城に勤める領官達も同じ。
「コウヤ君のお披露目会だろう? 王都のへっぽこ共に任せておけるか!」
「王都に乗り込む口実にしては上等じゃねえか! 乗っ取ってやんぜ!」
「おいおい。乗っ取ってどうすんだよ……ユースールに帰ってこれなくなるかもしれんだろ」
「そうだぞ! お前アレだ。勉強は出来るが頭悪いってやつ。もっと仕事以外でも頭使えよ。逆えんくらい躾ければいいんだよ」
「おっ。それいい! 左遷だなんだと鼻で笑ってくれた借りは返さんとなあ」
元武官も居るため、血気盛んなのが多い。大半の領官達が暗く不気味な笑みを浮かべていた。ケタケタ笑っていた者達もおり、それはちょっと危ない様子だった。
ユースールの領官は、多くが王都や他の領地でなんらかの嫌がらせを受けてきた者達だ。なので、コウヤとしては無理はしないで欲しいと伝えた。
しかし、逆に彼らはいい機会だと笑った。
「ありがとうコウヤ。今ならあの時の奴らを見返してやれるんだ。だから、気にすんな!」
「野蛮だ脳筋だとバカにしてくれた奴らと同じ場所に立ってんだ。どっちが上か分らせてやれるぜ。ついでに訓練にもまざってもいいなあ」
ユースールと違って、武官と文官の仲は悪い。武官内でも色々あったが、文官達にも色々言われたようだ。特に、ユースールに流れ着く武官達は、報告書なども上げられる位置にいた者が多い。必然的に文官との交流も出ていた。
上司から疎まれ、下からは突き上げられ、文官からは嫌味を言われる。そうやって病んでいった者たちが大半だった。
だからこそ、今回は彼らにとっても良い機会なのだ。
「大丈夫ですよコウヤさん。昔とは違います。寧ろ、今は昔を恥じていますから。それを払拭する絶好の機会です。下に押し付けるしか能のないバカ共など、綺麗に転がしてみせますよ」
温厚な人ほど怖いというのが分かった瞬間だった。
そうして、ニールを挟みベルナディオの許可も取れたということで、三日後、文官達を引き連れてコウヤは王城へ向かった。
どれだけの期間になるか分からないが、マンタや神官達の転移を使えばユースールと王都間はすぐだ。ユースールの方も支障なく回せる手筈は整えた。
というよりも、人数が減ることによって、仕事が増える方がユースールの文官達は喜んでいた。上手く隠していたが、彼らも仕事したい病だ。よって、何の問題もなく送り出してくれた。
送り出す様は圧巻だった。出陣式かと思った。
王都へ移動した文官達は、教会に滞在する。その間の食事は国が持ってくれた。とはいえ、教会の食事は特別安いので大した金額にはならない。
ユースールの文官は毎年変動があるが百名ほど。今回の派遣は総勢三十五名。その中で純粋に文官しか経験がない者は三名だけだ。
とはいえ、そこで安心してはいけない。その文官しか経験がないという筆頭が今回の文官の代表であるセリネだ。
自分探して冒険者になったセリネだった。
「セリネさん。俺もなるべく王城に居ることになっているので、何かあったら言ってくださいね」
「は、はい! アレですね! 騎士をノシちゃった時とかですね!」
「進んで手は出しちゃダメですよ?」
「えっ!? 闇討ちとかも……」
「……鍛えたいのは分かりました。こっちで調整しますから、先ずはお仕事をお願いします」
「はい!!」
このセリネ。実は自分探しの結果、戦闘狂な面が発見されたのだ。それでも武官になる気はない。文官という立場に居る自分も自分なのだと確信している。
困った人の筆頭だった。
**********
読んでくださりありがとうございます◎
二日空きます。
よろしくお願いします◎
そういえばリルファムとシンリームの教師役を頼まれていたなと、コウヤは思い出した。
集団暴走が起きたりと、延び延びになっていたので、どうするか相談しようと午後の半休を利用して、先ずは久し振りに王宮のオスロリーリェの所へ飛んだのだ。
折角なのでとお茶をしがてら、近況報告をし合った。そこでオスロリーリェが珍しく心底楽しそうに教えてくれた。
《ふふ……バイトくん達……ようやく報われた……》
オスロリーリェが言うバイトくん達とは、慣れない仮の新領主達の補佐として、国中に散らばった平民出の文官達のことだ。
思えば、彼らは上司や貴族の同僚達に恨みを募らせていた。報告書に泣きながら恨み言を書いてしまうほどに。
《あの子たちの有り難み……分かったはず……どれだけバカでも……》
オスロリーリェもかなり苛立っていたようだ。ここに逃げるように休憩を兼ねてやって来た文官達を、オスロリーリェは気に入っていた。人と係りを持とうとしなかったオスロリーリェが声をかけるほどだ。相当だろう。
「そっか。でも、今までサボってた人たちが、いきなり彼らの穴を埋めるくらい仕事ができるとは思えないんだけど? ゼフィルさんとか、普通に三人分とかこなせる人でしょ?」
時々ここで談笑しながら教えてくれた仕事量を鑑みるに、それくらいだろうと思った。何より、現在の領主補佐の仕事をいきなりで難なくこなしているのが良い証拠だ。それも、同じく全く領主どころか文官の経験もない者を相手に領主としての指導もしているのだから。
更に言えば彼らはコウヤと同類。仕事がやりたくて仕方がないという特殊な病気持ち。仕事が多いほど燃える。書類の山で萌える。ある意味変態だ。きっと、普段から押しつけられる仕事以上に勝手に仕事を見つけて、増やして、やり切っていたはずだ。
抜けた穴は絶対に一人分ではない。
《だから……回ってない……初めての経験がいっぱい……徹夜とか》
「えっ。徹夜したことない人がいるの?」
《……今残ってるやつら…….だいたい……そう……》
「へえ~」
《……》
普通、仕事で徹夜というのは良いことではないのだと、この場にリクトルスが居れば小一時間ほど説いてくれただろう。オスロリーリェには無理だった。
「でも、それなら仕事が滞ってるよね。下がそうだと……ベルナディオ宰相は大丈夫かな?」
コウヤは、自分と同じ人種で仕事人間なベルナディオが気になった。尊敬すべき年長者への配慮は大事にしている。穏やかに長生きして欲しいと願う彼が、無理をしているのではないかと心配になった。
いつもならばここにコウヤが現れれば、何かを察知して来るはずのニールも来ない。仕事が立て込んでいそうだ。
「なんか、俺のお披露目会もあるみたいだし、人数が揃ったっていっても、ゼフィルさんたちが抜けちゃったから、結局はマイナスだよね……無理して欲しくないな……棟梁も心配するだろうし……っ、そうだ!」
コウヤは名案を思いついた。
「どのみち、ユースールに研修にってニールさんも言ってたし、いっそのことこっちに派遣しちゃおう! やりがいがある方が喜んでくれるだろうし、うん! レンス様に相談してくるね!」
《……うん……?》
そうして、レンスフィートに少し文官を王都に貸し出して欲しいと頼んだ。
レンスフィートとしては願ってもないことだ。コウヤのお披露目会の準備に参加できないことが、彼は悔しかった。
それはユースールの領城に勤める領官達も同じ。
「コウヤ君のお披露目会だろう? 王都のへっぽこ共に任せておけるか!」
「王都に乗り込む口実にしては上等じゃねえか! 乗っ取ってやんぜ!」
「おいおい。乗っ取ってどうすんだよ……ユースールに帰ってこれなくなるかもしれんだろ」
「そうだぞ! お前アレだ。勉強は出来るが頭悪いってやつ。もっと仕事以外でも頭使えよ。逆えんくらい躾ければいいんだよ」
「おっ。それいい! 左遷だなんだと鼻で笑ってくれた借りは返さんとなあ」
元武官も居るため、血気盛んなのが多い。大半の領官達が暗く不気味な笑みを浮かべていた。ケタケタ笑っていた者達もおり、それはちょっと危ない様子だった。
ユースールの領官は、多くが王都や他の領地でなんらかの嫌がらせを受けてきた者達だ。なので、コウヤとしては無理はしないで欲しいと伝えた。
しかし、逆に彼らはいい機会だと笑った。
「ありがとうコウヤ。今ならあの時の奴らを見返してやれるんだ。だから、気にすんな!」
「野蛮だ脳筋だとバカにしてくれた奴らと同じ場所に立ってんだ。どっちが上か分らせてやれるぜ。ついでに訓練にもまざってもいいなあ」
ユースールと違って、武官と文官の仲は悪い。武官内でも色々あったが、文官達にも色々言われたようだ。特に、ユースールに流れ着く武官達は、報告書なども上げられる位置にいた者が多い。必然的に文官との交流も出ていた。
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だからこそ、今回は彼らにとっても良い機会なのだ。
「大丈夫ですよコウヤさん。昔とは違います。寧ろ、今は昔を恥じていますから。それを払拭する絶好の機会です。下に押し付けるしか能のないバカ共など、綺麗に転がしてみせますよ」
温厚な人ほど怖いというのが分かった瞬間だった。
そうして、ニールを挟みベルナディオの許可も取れたということで、三日後、文官達を引き連れてコウヤは王城へ向かった。
どれだけの期間になるか分からないが、マンタや神官達の転移を使えばユースールと王都間はすぐだ。ユースールの方も支障なく回せる手筈は整えた。
というよりも、人数が減ることによって、仕事が増える方がユースールの文官達は喜んでいた。上手く隠していたが、彼らも仕事したい病だ。よって、何の問題もなく送り出してくれた。
送り出す様は圧巻だった。出陣式かと思った。
王都へ移動した文官達は、教会に滞在する。その間の食事は国が持ってくれた。とはいえ、教会の食事は特別安いので大した金額にはならない。
ユースールの文官は毎年変動があるが百名ほど。今回の派遣は総勢三十五名。その中で純粋に文官しか経験がない者は三名だけだ。
とはいえ、そこで安心してはいけない。その文官しか経験がないという筆頭が今回の文官の代表であるセリネだ。
自分探して冒険者になったセリネだった。
「セリネさん。俺もなるべく王城に居ることになっているので、何かあったら言ってくださいね」
「は、はい! アレですね! 騎士をノシちゃった時とかですね!」
「進んで手は出しちゃダメですよ?」
「えっ!? 闇討ちとかも……」
「……鍛えたいのは分かりました。こっちで調整しますから、先ずはお仕事をお願いします」
「はい!!」
このセリネ。実は自分探しの結果、戦闘狂な面が発見されたのだ。それでも武官になる気はない。文官という立場に居る自分も自分なのだと確信している。
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