元邪神って本当ですか!? 万能ギルド職員の業務日誌

紫南

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第七章 ギルドと集団暴走

263 やってくれます!?

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何が何やら分からないまま、冒険者達はユースールからマンタに乗って五分とかからずベルセンの上空に辿り着いていた。

マンタの周りを囲むように、ルディエを含めた白夜部隊が数人、バイクにまたがりついてきている。

これを見てコウヤは、マンタじゃなくてジンベエザメのデザインにしたら、空を海遊してるみたいで可愛いかったかなと残念に思った。実際は物騒な光景だ。武装したのが固まって飛んでいるのだから。

そんなコウヤの考えなど知らない冒険者達は、自分たちが乗り込んだ訳の分からない物が飛んだということよりも先ず、バイクに乗った神官を大きなマンタの窓から見て興奮していた。

「なんだよアレ!! カッケー!!」
「神官様がカッコ良すぎる!」
「こっち向いてー!」
「きゃー! 見たぁぁぁ」
「マジでカッコいい……っ」

手を振る冒険者達。それに時折、神官の方も手を振り返すので、ちょっとした騒ぎだ。

「ってか、飛んでねえ!? これも飛んでねえ!?」
「いやいや! 今更でしょ!」
「オレら……飛んでる……っ」
「人って飛べんだな!!」

この事実を理解して、更に大興奮だった。

誰もが窓という窓に張り付き、子どものようにはしゃぐ。

これにコウヤは驚いた。

「みなさん、怖くないんですか? 空を飛ぶとか、あまりない経験ですよね?」

中には高所恐怖症の人も居るかもしれないと心配していたのだ。

「あまりっていうか、普通ないよな?」
「え? お前ある?」
「あるわけないじゃん。え? ある人いるの?」

変に一部が混乱した。コウヤは事例を上げていく。

「ほら、ドラゴンにさらわれたり……」
「そもそも、ドラゴンとか出会ったことねえよ!?」
「あ~、迷宮のボスにあったけど、拐われるとかはないわ……」
「近付かれたら終わりだし」
「ってか、のんびり飛んでるとか認識できんて」

Aランクの冒険者のパーティメンバーも首を横に振った。

「魔法で失敗して吹っ飛ばされたり、魔獣にかれてとかもないですか?」
「いや……その場合も飛んでるの認識できるほど冷静でいられんから」
「そういうものですか? おかしいな……俺、自分の意思で飛ぶのとか、そういうことがあったから楽しそうだと思ったんだけど」
「「「「「……」」」」」

完全に乗り物として確立させられたのは、前世の科学が発達したあの世界のお陰だ。

だが、コウルリーヤとしてこの世界を回っていた頃から憧れがあった。

ドラゴンくらいしか、この世界では人を乗せて空を飛べるものはいない。なので、昔は従魔として契約したドラゴン乗りが数人存在した。コウルリーヤもそうして乗って飛んだことがある。

だが、ドラゴンは気位が高く、主人しか乗せない。そのため、他の人に空を飛ぶ素晴らしさを教えることができなかったのだ。

避難させる時などに、こうして空で運べたらと何度思ったかしれない。それが今生で実現した形だ。

けれど、やはり本来ならばこの世界の人に考え付いて欲しかった。空に憧れる人。飛ぶ事に喜びを覚えた人がいないのは少し寂しい。

色々と考えながら、操縦席へ向かうコウヤ。

残されたのはコウヤがドラゴンに拐われたり、吹っ飛ばされたりした経験があると知って衝撃を受けている冒険者達。

これにテンキを伴ったタリスが笑いながら近付いた。

「あはは♪ やっぱりコウヤちゃんは面白いねえ。けど、ボクも何人かは空を飛ぶの怖がるかなと思ったんだよね~。大丈夫そうでビックリした」
《案外、度胸はあるのでしょうかね》

これに、衝撃から復活した冒険者達が何を今更と、当たり前の事を口にする。

「マスター、テンキ教官……見くびっちゃいけませんて」
「そうそう。俺らにとっちゃ当たり前だし」
「寧ろこういう時に楽しめない奴は、ユースールに居ませんて」

うんうんと周りの冒険者達が頷く。

「へえ。うん。やっぱり君達ってすごいね。確かに度胸があるよ」

タリスは目を丸くして本気で褒めた。しかし、実際は微妙に会話がズレていた。

「何言ってんですか、マスター」
「ん?」
「だって、コウヤがコレ作ったってマスターが言ったんでしょ」
「そうだね?」

タリスは首を傾げた。冒険者達の表情は真剣そのものだ。

「コウヤが落ちるような物作るわけない」
「落ちて怪我するような物作らんて」
「安全対策? ってえの? してないわけないじゃんか」
「何一つ心配ないなら楽しむしかないっしょ?」
《当然ですね》
「……分かってたけど……コウヤ君への信頼度、絶大だね……」

これに、冒険者達は今更だしとか、当たり前だしとか口にする。

「寧ろ、コウヤ信用しなくて、誰を信用すんの?」
「え? ありがとうございます!」

この最後だけを聞いていたコウヤは、照れながらも嬉しそうに破顔する。

「お、おう……っ」
「やっぱ、可愛い!」
「めちゃくちゃやる気出た!」
「今ならドラゴンとか、普通に相手するわ」
「こっから飛び降りろとか言われても出来る!」
「「「「「それな!!」」」」」

この最後も聞いていたコウヤは、喜んで手をたたいた。テンキも感心しながら目を細める。

《ほお……》
「あっ、本当ですか? やってくれます!?」
「「「「「へ?」」」」」

冒険者達は動きを止めた。何をやるんだと先ほどの会話を全力で思い出す。まさかと、徐々に目を大きく開けていく。

「大丈夫ですよ! 風魔法を纏うようにしてありますから! それに!!」

ここでコウヤは目を輝かせた。まるでヒーローを夢見るように。

「空から登場するとか、絶対にカッコいいです!」
「「「「「やるぞ!!」」」」」
《……》

テンキは尻尾を一振りして、彼らから目を逸らした。ちょろ過ぎる。

元々、空挺降下を最前線のメンバーにだけでもお願いするつもりだった。無理ならば全員、ベルセンから少し離れた場所にマンタを降ろして、そこから走って移動と考えていたのだ。大幅に時間短縮ができた。

「わっ! 嬉しいです!! じゃあ、お願いします!」
「「「「「任せろ!」」」」」
《……主様。私も参ります》
「うん。よろしく」

それから、全員が降下に同意し、ハッチの開く場所へ向かう。前線に立つベテランの冒険者達が先頭だ。全員が目をギラつかせていた。テンキも呆れながらそれについていく。

そんな彼らの次に、魔法師の者達が集まっている。彼らは後方支援の者も含めて全員が、早く飛び降りたくて仕方がない様子だった。魔法バカと言われることもあるどちらかといえば根暗な者たち。その全員がソワソワと待機していた。彼らは先ほどの冒険者達よりも大興奮している。

「こ、こんな経験ないよ!」
「あいつらのを見てからやれる位置……降下時間を調整して……上空からあそこに攻撃魔法……ふふふ……ふふふふふ」
「……ぼくらの時代が来た……」
「アレ……さっきから見えるあの……アレは魔力爆弾……くくくっ、負けない」
《……》

怪しい集団だった。ここにテンキが加わる。

彼らは自分たちで風魔法も展開できる。更にいうと、魔法の実践で吹っ飛ばされてひと時の空の旅を経験した事もある。彼らは、後方に向かう場合も問題なく着地の位置を調整できるので、前線のメンバーの次に降下することになったのだ。

その後に前線支援のメンバー、それから後方支援の者たちがスタンバイしていた。

そして、ハッチがゆっくりと開いていく。地上までそれなりに距離があるが、誰一人として臆するものは居なかった。

ここでもコウヤの信頼は絶大だ。

コウヤが放送をかける。

「本船は、最前線の位置から徐々に後方へ移動します。第一陣より、順次降りてください。では、第一陣降下開始まで……五、四、三、ニ、一、どうぞ!!」
「「「「「おぉっ!!」」」」」

気合い充分。力強く床を蹴って出陣して行った。中には剣を抜き放ち、降下するそのままの勢いで魔獣を斬り伏せるつもりだ。

「これ以降、カウント三です。第二陣魔法師隊、降下開始まで……三、ニ、一、どうぞ!」
「「「「「ふっ!」」」」」
《……っ》

彼らは静かに、ローブをはためかせながら降下していく。すぐにその降下速度は落ちて、それぞれの求める位置へ向かう。手にした魔力増幅の媒体であるロッドが鎌の形ならば、立派に死神に見えただろう。そして、途中で前方の魔獣の群れに向かって、思い思いに攻撃魔法を放った。当然、テンキもだ。


ドォォォン!!
ドォォォン!
ババババッ!


魔獣の数が一気に減っていった。

「第三陣、降下まで……三、ニ、一、どうぞ!」
「「「「「行くぞぉぉぉ!!」」」」」

ベルセンの冒険者達が散らばる戦場の只中だ。だが、コウヤの魔法がかかった彼らは、きちんと人のいない場所に降り立てる。降り立った彼らはすぐに援護に回り、後方への道を切り開いていく。

同時に怪我人や限界を迎えた者達を瞬時に見極めてもいた。

「第四陣、後方支援部隊、降下まで……三、ニ、一、どうぞ!」
「「「「「はい!!」」」」」

両手を開きながら、綺麗に降下していった彼らは、第三陣が保護する者達の元へ急ぐ。そして、問答無用で担いでベルセンの外壁の中へ入ると、すぐに半数が取って返していく。

後方支援の魔法師達は、外壁の上に既に到着しており、結界を張っていた。第四陣の半数は外壁に登り、弓を構えて迎撃を始める。

これらの動きを見たベルセンの者たちは唖然。ほとんど使い物にならなくなっていたが、ユースール部隊には何の問題もなかった。

彼らの想像以上の働きをマンタから確認したコウヤは、いつものように腰にパックンをつけ、タリスと冒険者達が後にしたハッチへ向かう。マンタを今はこの近くに下ろせないため、コウヤとタリスもここから降下するのだ。

タリスが下を見て満面の笑みを浮かべる。ここはベルセンの町の上。降りるのはギルドの建物の正面だ。本来、きちんと門から入るべきだが、先に降りた後方支援部隊の者にここにコウヤとタリスが降り立つことを兵に伝えてもらっている。

「いいねえ! こっから降りるの楽しそう!
先に行くよ~♪」

あっさりタリスは飛び降りた。パックンが感心する。

《潔い! 負けられない!》

そして、パックンはコウヤの腰から外れた。

「ん? パックン?」
《飛びます (`_´)ゞ 》
「へ?」

パックン単独で降下していった。

「……下に誰か居ないといいけど……」

箱が落ちてきたらきっと驚く。それもミミック。タリスがフォローしてくれるのを祈る。

コウヤは頭を切り替え、降りる直前で船長であるダンゴに伝える。この場所から声が届くようにしてあった。

「ダンゴ、今の集団暴走スタンピードが終わるまで門の外の上空で待機ね。迎えに来るから」
『《分かったでしゅ!》』

船内放送で返答があった。

「それじゃあ、行ってくるね」
『《行ってらっしゃいでしゅ!》』

コウヤも躊躇ためらいなく飛び降りたのだった。

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読んでくださりありがとうございます◎
三日空きます。
よろしくお願いします◎
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