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第七章 ギルドと集団暴走
264 ここのマスターさんは?
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コウヤは独自で風魔法を展開し、速度をゆるやかにする。そうして、改めて上から様子を確認した。
ユースールの冒険者達は見事な連携を見せ、一時は外壁が突破されるのも時間の問題だと思えた状況も、今は完全に解消されていた。
「さすがだなあ」
コウヤは嬉しくなった。それは、ギルドとして取り組んで来たことが、決して無駄ではなかったと証明されたことを意味する。
実際、ユースールの冒険者達自身も、これほどスムーズに動けるとは思っていなかった。次にやるべきこと、どうすべきかが分かるため、戦いに集中することができていたのだ。
そんな中、バイクに乗った神官達も、美しく隊列を組んで降り立ち、順次、救援作業に入っていった。
「やっぱりカッコいい」
「兄さん」
見惚れていたコウヤの側に、ルディエが白いグラビティボードに乗ってやって来た。ここはまだ空中だ。今日のルディエはきちんと神官服を着ている。
「教会の奴ら、逃げ出そうとしたのは捕まえた。見栄張ってる奴らも、今回のが終われば大人しくさせられる」
このボードは形が変わる。現在の形は【遊覧・偵察型】。見た目はアレだ。子どもの頃のお正月の思い出の凧揚げ。まるで『ゲイラカイト』のような三角形。アレに乗れたらと思ったコウヤの願望が実現した形だ。もちろん、乗ることも考え、上部には腰掛けられるポールが出ている。
このポールは自動収納出来、しまうと代わりにうつ伏せで寝転がって飛べるよう、前方と後方に掴む突起が出てくる。
因みに羽をしまえば、形はサーフボードになる。これが【速度重視型】だ。他にも水中用のカプセル型にも変わるすぐれもの。ステルス機能の切り替えは標準装備だ。
「逃げたのは上の人達?」
「そう。司教とか。だから、とりあえず倒れるまで治癒魔法使わせる」
異変を感じた時点で、真っ先に逃げ出そうとしたらしいのだが、神官要請よりも先にベルセンを調べるために来ていた聖魔教の神官に捕まったというわけだ。
牢屋に入れておくくらいなら、その前に倒れるまで使おうということになったらしい。これにはコウヤも賛成だ。
「それが良いね。死者は?」
「ごめんなさい……ここの奴らに任せて、間に合わなかったのが数人出てる……それと、精神的にやられてるのがかなり……」
「それもあるよね……」
上から見ていて分かったが、ベルセンの冒険者もギルド職員さえも、ほとんど集団暴走に対応できていない。
恐らく、複数のパーティで動くことになる緊急事態に慣れていないのだろう。まったく想定できていないのが一目瞭然だった。
一度感じた恐怖は克服するのに時間がかかる。その上、今回は圧倒的な数の暴力と適正がBランク以上。下のランクの者たちにとっては絶望的だろう。心が折れても仕方がない。
「そっちには後で対策立てるから、錯乱させないように様子を見ていてくれる?」
「うん。あとコレ。一応、兄さんも目を通して、それからあのじいちゃんに渡してくれればいい。ここのギルド職員の情報」
ルディエは調査結果をまとめた紙の束を差し出してきた。
「ありがとう。助かるよ」
「ん……っ、じゃあ、行ってくる」
「お願いね」
不安定な状態ながら、ルディエの頭を撫でておく。恥ずかしそうに頷いて、ルディエは空中を滑るように飛んでいった。
コウヤはふわりと着地し、パラパラとその場でルディエにもらった資料を確認する。気になる部分はざっと覚えた。
「よし。あれ?」
確かにゆっくりと降りてきたが、タリスとパックンは既に冒険者ギルドに入っているようだ。
「せっかちだなあ」
苦笑しながらギルドの中に入ったコウヤが見たのは、タリスの前で正座する職員達だった。
「この子退場」
《いただきます ψ(`∇´)ψ 》
「ッ、いやぁぁっ……」
タリスが指差していた女性がパックンされた。
「そんじゃあ、次。規約十二項。はい君」
「ひっ、え、えっと……え~っと……」
「時間切れ~。退場」
《ふっ( ̄+ー ̄)》
「やめて……っ、いやぁぁぁぁっ……」
何やら試験をしているらしい。答えられないとパックンの刑。
コウヤは大きくため息を吐いた。
「マスター、ダメですよ。人手は足りないんですから、減らさないでください。遊ばせておく余裕はないですよ」
歩み寄りながら、タリスに調査資料を何気なく手渡した。
「だって~え。明らかに使えなさそうなんだもん。ん? 何これ……どこの諜報機関からの提供……? いや、分かるけどさ……」
珍しく分かりやすく苛ついていたタリス。それを見て、なんとか怒りも誤魔化されてくれたようだ。
「ここのマスターさんは?」
「アレ」
タリスは資料から目を離さず、指差した先。そこには、このベルセンの教会の神官が数人、泣きそうになりながら倒れているらしい人物へ治癒魔法をかけている。側には兵士二人が困った様子で立ち尽くしていた。
コウヤは近付いていく。高い所から落ちた怪我かなと推測できた。魔獣や魔物にやられたものではないらしい。毒の心配はない。
「何したんです。この人」
取り囲んでいたのは若い神官達。明らかに治癒魔法の腕は足りていない。見習いも見習いだろう。そんな彼らにコウヤは声をかけた。
「えっ、あ、さ、三階から飛び降りて……っ」
「なるほど。場所を開けてください」
「っ……」
コウヤはスッと彼らの間に入り込んで膝を突くと、痛みで呻く男性に治癒魔法をかけた。
「え……」
「な、治った?」
「奇跡だ……っ」
「これで良いですね。は~い、起きてくださ~い」
砕けていた足の骨も治ったし、打ったらしい頭も問題ない。コウヤは遠慮なくパチパチと頬を叩いた。
「っ、ん、んん……あ、わ、私はっ!」
驚きながら男性は上半身を起こす。
「ダメですよ? ギルドマスターともあろう者が、この非常事態時に指示もなく倒れては。ほら、立ってください」
「な、だ、誰だねっ、君は!」
この無駄に大声を出す感じは、とても懐かしいと思った。無能な上の者にありがちな習性だ。なので、コウヤは立ち上がり少し威圧しながら答えた。
「応援要請によって参りました。冒険者ギルド、ユースール支部所属のコウヤです。早速ですが、ここの支部の方々は、ほんの数人を除いてこの非常事態に対応できていないようです。指揮権をこちらに渡してください」
「なっ、なっ……そ、そんなことできッ」
完全に腰が引けている。立ち上がることさえできていないのがその証拠だ。
「うちのマスターが指揮を執ります。何より……こんな時に逃走を図ろうとするようなマスターなど、邪魔なだけです」
「っ……こ、子どものお前に何が分かる!」
「子どもだろうと何だろうと、ギルド職員であることは揺らぎません。そんなことより、応援要請をした時点で、あなたはこちらに権限を移すことを了承したはずでは?」
「っ……!」
知らないと思っていたのだろう。応援要請と謝罪の折に、タリスは抜かりなくここの指揮権を取り上げていたのだ。だが、彼には神官達のお陰で今タリスの姿が見えていない。それで調子に乗った。
「わ、私に何かあれば、教会からの支援はなくなるぞ! 今この時になくなればどうなるか分かるだろう!」
これで、教会と不正に繋がっていたことが証言された。コウヤは兵士へ目を向ける。
兵士達も今の言葉は聞こえた。そして、理解していく。信じられないと驚いた表情を見せたが、次に見せたのは怒りだ。
兵士の一人、壮年の男性が一歩踏み出す。これでコウヤはお役御免だろう。
「失礼。確認させていただきたい。教会とは、あくまで協力関係のはず。今口にされたことの意味を分かっておられるか?」
「っ、べ、別にっ、そ、そうだっ。し、司教とは友人で、少し便宜を図ってくれる仲という……」
「なるほど。確かに、ご友人ならばわかります。ですが、先ほどの言葉は看過できませんね。別室にて詳しくお話しいただきたい。どのみち、こちらでは邪魔にしかならないようだ」
兵士が確認するようにコウヤの方を見る。それにはっきり頷いた。
「なっ、だが! 私はここのギルドマスタ……」
「連れてっていいよ~★ 寧ろ、今回の件が完全に終わるまで、しっかり牢屋とかで監視しといてもらえる? 後で本部のを寄越すからさ」
「っ……ぐ、グラマス……!?」
「元だけどね~♪ ちゃんと話したじゃん。応援要請の時に」
「っ!! あ……」
元グランドマスターであるタリスの顔は知られていても、声だけの緊急通信ではわからなかったらしい。報告書など、全て流し読みしていた彼は『ユースールのマスターが変わった』ことは大したことではなく、誰になったかも知ろうともしなかった。
何より、ギルドも大っぴらにグランドマスターだったタリスがユースールのギルドマスターになったと広めてはいない。
タリスの名は大きいのだ。それを知られて、ユースールに多くの冒険者達が詰めかけることがないようにという配慮でもあった。
もう一人の若い兵士がギルドマスターを拘束する。
「はっ、離せ! いいのか!? 神官が見ているのだぞ!? 私に何かあればっ」
こんな人に付き合っている時間はもったいない。コウヤはため息を吐きながら教えてやった。
「言い忘れてましたが、こちらの教会の上の方々は皆さん、異変を感じてすぐにベルセンから逃げ出そうとなさったそうですよ?」
「なっ、なに!?」
「ご友人であるあなたに一言もなく……どうされたんでしょうねえ?」
「っ……そんな……っ、まさか……っ、でも、あの司教なら……」
ブツブツと呟きながら、目を泳がせる。
「心当たりがあるようですね」
「っ……」
「何より、あなたは先ほど、かなり危ない状況でした。この神官方がいつ頃来られたか分かりませんが……神官要請によってこちらに派遣されてくるにしては、いささか力不足かと」
「「「……っ」」」
神官達は俯いた。自分たちの治癒魔法では、彼は助からなかっただろうとわかっているようだ。それが分かるだけマシな部類だろう。
「……」
ギルドマスターは、もう声を出せなくなっていた。憔悴した様子で、兵士に促されてよろよろと立ち上がる。
「……見捨てられたのか……私は……」
「さあ。それは俺では分かりません。けれど、あなたも一人で逃げようとなさったのでしょう? なら、あちらのことをとやかく言えませんよね」
「……そうか……グラマス……後を頼みます……」
「当然だよ。君は本部の子達が来るまで、大人しくしてること。逃げたりしたら集団暴走より恐ろしい子達をけしかけるからね?」
「……はい……」
意味は分からなかっただろうが、諦めたのだろう。兵士二人に伴われ、ギルドマスターは地下牢へと連行されていった。万が一の時でも地下は安全だ。
「マスター。俺は数人連れて町の方の支援と休憩所の確保に行ってきます」
「なら僕は、後方支援の方だね。この子達にもやり方叩き込むとしようか。パックンちゃん連れてっていい?」
「はい。パックン、マスターのサポートお願いね」
《任せて! ♪(´ε` ) 》
コウヤとタリスは、先ずは選抜をと未だ正座したままの職員達の方へ向かった。
************
読んでくださりありがとうございます◎
二日空きます。
よろしくお願いします◎
ユースールの冒険者達は見事な連携を見せ、一時は外壁が突破されるのも時間の問題だと思えた状況も、今は完全に解消されていた。
「さすがだなあ」
コウヤは嬉しくなった。それは、ギルドとして取り組んで来たことが、決して無駄ではなかったと証明されたことを意味する。
実際、ユースールの冒険者達自身も、これほどスムーズに動けるとは思っていなかった。次にやるべきこと、どうすべきかが分かるため、戦いに集中することができていたのだ。
そんな中、バイクに乗った神官達も、美しく隊列を組んで降り立ち、順次、救援作業に入っていった。
「やっぱりカッコいい」
「兄さん」
見惚れていたコウヤの側に、ルディエが白いグラビティボードに乗ってやって来た。ここはまだ空中だ。今日のルディエはきちんと神官服を着ている。
「教会の奴ら、逃げ出そうとしたのは捕まえた。見栄張ってる奴らも、今回のが終われば大人しくさせられる」
このボードは形が変わる。現在の形は【遊覧・偵察型】。見た目はアレだ。子どもの頃のお正月の思い出の凧揚げ。まるで『ゲイラカイト』のような三角形。アレに乗れたらと思ったコウヤの願望が実現した形だ。もちろん、乗ることも考え、上部には腰掛けられるポールが出ている。
このポールは自動収納出来、しまうと代わりにうつ伏せで寝転がって飛べるよう、前方と後方に掴む突起が出てくる。
因みに羽をしまえば、形はサーフボードになる。これが【速度重視型】だ。他にも水中用のカプセル型にも変わるすぐれもの。ステルス機能の切り替えは標準装備だ。
「逃げたのは上の人達?」
「そう。司教とか。だから、とりあえず倒れるまで治癒魔法使わせる」
異変を感じた時点で、真っ先に逃げ出そうとしたらしいのだが、神官要請よりも先にベルセンを調べるために来ていた聖魔教の神官に捕まったというわけだ。
牢屋に入れておくくらいなら、その前に倒れるまで使おうということになったらしい。これにはコウヤも賛成だ。
「それが良いね。死者は?」
「ごめんなさい……ここの奴らに任せて、間に合わなかったのが数人出てる……それと、精神的にやられてるのがかなり……」
「それもあるよね……」
上から見ていて分かったが、ベルセンの冒険者もギルド職員さえも、ほとんど集団暴走に対応できていない。
恐らく、複数のパーティで動くことになる緊急事態に慣れていないのだろう。まったく想定できていないのが一目瞭然だった。
一度感じた恐怖は克服するのに時間がかかる。その上、今回は圧倒的な数の暴力と適正がBランク以上。下のランクの者たちにとっては絶望的だろう。心が折れても仕方がない。
「そっちには後で対策立てるから、錯乱させないように様子を見ていてくれる?」
「うん。あとコレ。一応、兄さんも目を通して、それからあのじいちゃんに渡してくれればいい。ここのギルド職員の情報」
ルディエは調査結果をまとめた紙の束を差し出してきた。
「ありがとう。助かるよ」
「ん……っ、じゃあ、行ってくる」
「お願いね」
不安定な状態ながら、ルディエの頭を撫でておく。恥ずかしそうに頷いて、ルディエは空中を滑るように飛んでいった。
コウヤはふわりと着地し、パラパラとその場でルディエにもらった資料を確認する。気になる部分はざっと覚えた。
「よし。あれ?」
確かにゆっくりと降りてきたが、タリスとパックンは既に冒険者ギルドに入っているようだ。
「せっかちだなあ」
苦笑しながらギルドの中に入ったコウヤが見たのは、タリスの前で正座する職員達だった。
「この子退場」
《いただきます ψ(`∇´)ψ 》
「ッ、いやぁぁっ……」
タリスが指差していた女性がパックンされた。
「そんじゃあ、次。規約十二項。はい君」
「ひっ、え、えっと……え~っと……」
「時間切れ~。退場」
《ふっ( ̄+ー ̄)》
「やめて……っ、いやぁぁぁぁっ……」
何やら試験をしているらしい。答えられないとパックンの刑。
コウヤは大きくため息を吐いた。
「マスター、ダメですよ。人手は足りないんですから、減らさないでください。遊ばせておく余裕はないですよ」
歩み寄りながら、タリスに調査資料を何気なく手渡した。
「だって~え。明らかに使えなさそうなんだもん。ん? 何これ……どこの諜報機関からの提供……? いや、分かるけどさ……」
珍しく分かりやすく苛ついていたタリス。それを見て、なんとか怒りも誤魔化されてくれたようだ。
「ここのマスターさんは?」
「アレ」
タリスは資料から目を離さず、指差した先。そこには、このベルセンの教会の神官が数人、泣きそうになりながら倒れているらしい人物へ治癒魔法をかけている。側には兵士二人が困った様子で立ち尽くしていた。
コウヤは近付いていく。高い所から落ちた怪我かなと推測できた。魔獣や魔物にやられたものではないらしい。毒の心配はない。
「何したんです。この人」
取り囲んでいたのは若い神官達。明らかに治癒魔法の腕は足りていない。見習いも見習いだろう。そんな彼らにコウヤは声をかけた。
「えっ、あ、さ、三階から飛び降りて……っ」
「なるほど。場所を開けてください」
「っ……」
コウヤはスッと彼らの間に入り込んで膝を突くと、痛みで呻く男性に治癒魔法をかけた。
「え……」
「な、治った?」
「奇跡だ……っ」
「これで良いですね。は~い、起きてくださ~い」
砕けていた足の骨も治ったし、打ったらしい頭も問題ない。コウヤは遠慮なくパチパチと頬を叩いた。
「っ、ん、んん……あ、わ、私はっ!」
驚きながら男性は上半身を起こす。
「ダメですよ? ギルドマスターともあろう者が、この非常事態時に指示もなく倒れては。ほら、立ってください」
「な、だ、誰だねっ、君は!」
この無駄に大声を出す感じは、とても懐かしいと思った。無能な上の者にありがちな習性だ。なので、コウヤは立ち上がり少し威圧しながら答えた。
「応援要請によって参りました。冒険者ギルド、ユースール支部所属のコウヤです。早速ですが、ここの支部の方々は、ほんの数人を除いてこの非常事態に対応できていないようです。指揮権をこちらに渡してください」
「なっ、なっ……そ、そんなことできッ」
完全に腰が引けている。立ち上がることさえできていないのがその証拠だ。
「うちのマスターが指揮を執ります。何より……こんな時に逃走を図ろうとするようなマスターなど、邪魔なだけです」
「っ……こ、子どものお前に何が分かる!」
「子どもだろうと何だろうと、ギルド職員であることは揺らぎません。そんなことより、応援要請をした時点で、あなたはこちらに権限を移すことを了承したはずでは?」
「っ……!」
知らないと思っていたのだろう。応援要請と謝罪の折に、タリスは抜かりなくここの指揮権を取り上げていたのだ。だが、彼には神官達のお陰で今タリスの姿が見えていない。それで調子に乗った。
「わ、私に何かあれば、教会からの支援はなくなるぞ! 今この時になくなればどうなるか分かるだろう!」
これで、教会と不正に繋がっていたことが証言された。コウヤは兵士へ目を向ける。
兵士達も今の言葉は聞こえた。そして、理解していく。信じられないと驚いた表情を見せたが、次に見せたのは怒りだ。
兵士の一人、壮年の男性が一歩踏み出す。これでコウヤはお役御免だろう。
「失礼。確認させていただきたい。教会とは、あくまで協力関係のはず。今口にされたことの意味を分かっておられるか?」
「っ、べ、別にっ、そ、そうだっ。し、司教とは友人で、少し便宜を図ってくれる仲という……」
「なるほど。確かに、ご友人ならばわかります。ですが、先ほどの言葉は看過できませんね。別室にて詳しくお話しいただきたい。どのみち、こちらでは邪魔にしかならないようだ」
兵士が確認するようにコウヤの方を見る。それにはっきり頷いた。
「なっ、だが! 私はここのギルドマスタ……」
「連れてっていいよ~★ 寧ろ、今回の件が完全に終わるまで、しっかり牢屋とかで監視しといてもらえる? 後で本部のを寄越すからさ」
「っ……ぐ、グラマス……!?」
「元だけどね~♪ ちゃんと話したじゃん。応援要請の時に」
「っ!! あ……」
元グランドマスターであるタリスの顔は知られていても、声だけの緊急通信ではわからなかったらしい。報告書など、全て流し読みしていた彼は『ユースールのマスターが変わった』ことは大したことではなく、誰になったかも知ろうともしなかった。
何より、ギルドも大っぴらにグランドマスターだったタリスがユースールのギルドマスターになったと広めてはいない。
タリスの名は大きいのだ。それを知られて、ユースールに多くの冒険者達が詰めかけることがないようにという配慮でもあった。
もう一人の若い兵士がギルドマスターを拘束する。
「はっ、離せ! いいのか!? 神官が見ているのだぞ!? 私に何かあればっ」
こんな人に付き合っている時間はもったいない。コウヤはため息を吐きながら教えてやった。
「言い忘れてましたが、こちらの教会の上の方々は皆さん、異変を感じてすぐにベルセンから逃げ出そうとなさったそうですよ?」
「なっ、なに!?」
「ご友人であるあなたに一言もなく……どうされたんでしょうねえ?」
「っ……そんな……っ、まさか……っ、でも、あの司教なら……」
ブツブツと呟きながら、目を泳がせる。
「心当たりがあるようですね」
「っ……」
「何より、あなたは先ほど、かなり危ない状況でした。この神官方がいつ頃来られたか分かりませんが……神官要請によってこちらに派遣されてくるにしては、いささか力不足かと」
「「「……っ」」」
神官達は俯いた。自分たちの治癒魔法では、彼は助からなかっただろうとわかっているようだ。それが分かるだけマシな部類だろう。
「……」
ギルドマスターは、もう声を出せなくなっていた。憔悴した様子で、兵士に促されてよろよろと立ち上がる。
「……見捨てられたのか……私は……」
「さあ。それは俺では分かりません。けれど、あなたも一人で逃げようとなさったのでしょう? なら、あちらのことをとやかく言えませんよね」
「……そうか……グラマス……後を頼みます……」
「当然だよ。君は本部の子達が来るまで、大人しくしてること。逃げたりしたら集団暴走より恐ろしい子達をけしかけるからね?」
「……はい……」
意味は分からなかっただろうが、諦めたのだろう。兵士二人に伴われ、ギルドマスターは地下牢へと連行されていった。万が一の時でも地下は安全だ。
「マスター。俺は数人連れて町の方の支援と休憩所の確保に行ってきます」
「なら僕は、後方支援の方だね。この子達にもやり方叩き込むとしようか。パックンちゃん連れてっていい?」
「はい。パックン、マスターのサポートお願いね」
《任せて! ♪(´ε` ) 》
コウヤとタリスは、先ずは選抜をと未だ正座したままの職員達の方へ向かった。
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