157 / 475
第七章 ギルドと集団暴走
262 バカやろう!!
しおりを挟む
ベルセンの冒険者達は何とか持ち堪えているという状態だった。
そんな中、グラムとセクタは、最前線で少しでも魔獣の数を減らすべく奔走していた。
セクタは自分よりも前で対応しているグラムに感謝しながら、後ろの様子を窺っている。さすがはBランクの迷宮だ。たった二人で捌ける数などたかが知れていた。それでも絶望しないのは、グラムの剣がまだ疲れを感じさせていないからだ。
グラムは『咆哮の迷宮』での氾濫の経験が今に生きている。あの時は絶対的な勝利を約束されたようなものだった。だから、冷静に対処できた。もし、あれがそのまま集団暴走となっていたなら、こんなものの比ではないだろう。
訓練の時などにあの時のことを思い出し、自分がコウヤやタリスの立場だったらどう動くかと考えるようになっていた。お陰で今、的確に強い個体だけは通さないようにとさばけているのだ。
「まだ数が減らないか……」
この一度目の集団暴走がこの後の基準だ。今回は後四回起きる。放出時間と個体数は同じになるのだが、一回の中でも少し弱まる時があり、それが折り返し。しかし、その兆候が未だ見られない。この中間の部分で油断してはならないと、ユースールではしっかりと教えこまされる。
体感で発生してからそろそろ三十分。陽も傾き出した。夜の戦いになるのは確実だ。その時、セクタが焦った声を出した。
「くそっ、後ろが崩れてきてやがるっ。グラム、どうする!」
チラリと後ろを確認したグラムは決意した。幸い、ボロボロではあるが、心は折れる前らしい。今ならば全員戻れる。
「前線を下げる! 外壁ギリギリまで下がれ!」
これに反論したのはロイン達パーティだった。
「なっ、バカなことを言うな! そうなれば、外壁を突破される! ここで維持するんだ!」
「「「「「おぉぉぉっ!」」」」」
ベルセンに所属する者たちは、ロイン達の意見に従うようだ。これにはさすがのグラムも冷静ではいられなかった。
「ふざけるな! まだ折り返しまでもきていないんだぞ! 避難はっ……」
「ダメだグラム! ギルドが機能してねえ! 後方支援が役に立ってねえんだ! 動いてんのは兵だけだ!」
「っ、チッ」
本来ならば今の状況を予想し、住民達を反対側の端まで避難させ、外壁の内側に何重にもバリケードを作っておく。
特にBランクの迷宮の集団暴走ならば、この用意は必須だ。外壁を信用してはならない。突破されるものとして考慮しておく。
もちろんこれに、魔法師達を集めて結界を張ることも入ってくる。
ゼフィルにより、少なくとも住民の避難まではなんとか兵達に指示を出し、半分ほど終わっているようだが、ギルドが上手く機能していないせいで防衛まで手が回らないのだ。
「ジザルス様達が怪我した冒険者の回収をしてくれてるみたいだ。けど、手当てしてねえ、なっ」
魔獣に剣を振り下ろしながら、セクタが回収された怪我人が回復して戻ってくる様子がないと、後ろを確認する。
これはある程度予想していたことだ。グラムは吐き捨てる。
「当たり前だっ。治療はここの教会がやることになる。『応援要請』が出ればやってくれるがなっ」
「クソっ、後方支援も出来んとは、恥ずかしい、奴らだぜ!」
本来ならば、戦闘に参加できなくなった怪我人を運び出すのは、後方支援に回った冒険者達のはずだ。
戦場に置いておいても邪魔になるし、確実に死ぬことになる。後ろから見極めて道を探し、問答無用で抱えて後退する。
ギルドが協力を要請した神官達によりそれらは治療され、動けるようならば戻る。そうして、回復と撤退を繰り返すことで、戦力を持続させる。しかし、そのどれもが出来ていなかった。
指示を出すべきギルド職員も戸惑っているし、冒険者達は高ランクの者も、こういった時に適応する規約を確認してはいない。
「マジで、規約とか、必要なこと、だったんだなっ」
「コウヤが始めたことに、意味がないわけねえだろ」
「信頼が、絶大、過ぎ、だろ!」
セクタの息も切れてきた。
「セクタ、一度下がれ! お前が……お前が後方支援を指示しろ!」
「っ、わかった。ついでに、要請が、出てるか、確認してくるぜ」
BランクとAランクの違いは大きい。セクタは、グラムと同じAランクだというロインを見る。
「やっぱ……あいつが、Aランクとか、ないな……」
ロインだけでなく、パーティメンバー達もすでにボロボロだった。実力的にはセクタと同じくらいなのかもしれない。なにより、空回っている。
連携も上手く行っておらず、パーティメンバーも気力だけで保っている状態なのが、セクタの目にも明らかだった。
「最長記録でも折り返しまで一時間だ。五回ある集団暴走ならばもうじきに半分になる。そこでこの辺の怪我人を回収して下がってくれ」
「分かった」
前線の冒険者達はロイン達が指示しないため、怪我人を下げることをしない。それでも怪我人を見捨てられないのだろう。それらを守りながら戦っていることで、足手まといが増えていく。
「セクタは顔見知りも居るな? 下げる奴を選抜してくれ」
「おう。殴り飛ばしてでも言うこと聞かせる」
「すまん……」
「いいって。俺はもう、ユースールで生きるって決めてる。ここに戻る気はねえ」
「そうか……」
このベルセンの正義はロイン達にある。そこに風穴を空けるのだ。嫌われることになる。それが嫌だで彼らに同意するベルセン所属の冒険者達。そんな彼らも敵に回すことになる。
セクタは今、完全に故郷を捨てる覚悟をした。少しでも多くの者を生かすためだ。けれど、それが今のロイン達にはわからないだろう。
しばらくすると、明らかに魔獣が減ってきた。
「っ、今だ! セクタ! 可能な限り怪我人を連れて下がれ!」
「おう!」
セクタは急いで倒れている一番酷い怪我人の元に向かう。
「薬はどうした! 何とか動けるようになれ! 下がるぞ!」
「は? あ、薬? そんなのもったいなくて……」
「バカか! こんな時に使わなくてどうする! そもそも持ってるんだろうな!」
ここで、セクタは驚愕する。ほとんどの冒険者達は一つずつさえ薬を持っていなかったのだ。あって、パーティに二つほど。
「このっ、アホどもが! さっさとこれを飲め!」
「え、く、薬? けど、もらったら……」
「いいから飲め! 時間がねえんだよ!」
動揺しながらも、冒険者達は手渡した薬を飲んでいく。
そこで、セクタとグラムはあり得ない言葉を聞いた。
「よし! みんな! もう少しだ! 明らかに数が減った! もうすぐ終わるぞ!」
「「「「「おぉぉぉっ!!」」」」」
喜ぶ冒険者達。だがほぼ同時にグラムとセクタも大きな声を上げる。
「「はあぁぁぁ!?」」
信じられない。どこまで無知なのかと、セクタとグラムは愕然とした。
こうなると、怪我人達も気を抜く。
「あ~あ、もう終わるなら薬なんて飲まなければ良かった……」
「代金せびられるんだろうな……」
「ちっ、汚いやつ」
これにセクタはキレた。
「バカやろう!! 終わるわけねえだろ!! これで折り返しだ!! 規約に載ってる注意事項も知らんバカどもが!! そんなに死にたきゃ死ね!!」
「「「「「っ……!!」」」」」
その怒声を浴びて、冒険者達は固まった。本気で怒っていることがわかり、徐々にそれが真実だと理解していく。
「……聞いたことがある……半分の時間が経つと魔獣が減るって……」
「ま、まだ半分……なの?」
「で、でも、ロインさん達が……」
迷いを見せる冒険者達。セクタは自身も回復薬を飲み、道を探す。その背中には怒りがまだ燻っている。そこにグラムが落ち着いた声をかけた。
「セクタ、落ち着け。まだ間に合う。そいつらだけでも引っ張って行ってくれ」
「ダメだ! ここで気を抜いたバカどもの中にグラムだけ置いて行けるわけねえだろ! いくらお前でも死ぬぞ!」
「……」
ロイン達はこの後、現実を知ることになる。そうなれば、彼らは耐えられない。瓦解するのは目に見えていた。
グラムも分かっている。ロイン達が崩れれば、この場を一人で耐えることになる。そうなれば、無事では済まないだろう。それでも諦めるわけにはいかない。グラムが諦めたら、確実にベルセンは終わる。
「……怪我人を……戦えない奴らを集めろ。甲羅強羅で耐えてくれ。そうしたら……きっとコウヤとマスターがどうにかしてくれる」
「っ、わかった」
セクタは急いで怪我人達を集めた。そして、甲羅強羅を発動させる。セクタならば今の状態でも動かなければ一時間は維持できる。ここで半分ならば、効果範囲を無理にでも広げれば怪我人が増えても対処できるだろう。
グラムは徐々にまた増えてきた魔獣を相手にしながらロイン達に告げた。
「いいかお前ら! 無理だと思ったらセクタの張った結界の中に逃げ込め! 魔獣や魔物は絶対に通さないものだ。いいな!」
「あ、ああ……っ」
何とか返事が返ってきたが、状況を理解したのだろう。まだこれからがあるのだと感じ始めていた。
「お、おい……お、終わるんじゃなかったのか……っ」
「ねぇっ、また増えてるよ!」
「な、なんで……っ」
そうして、心が折れるまでそう時間はかからなかった。
グラムは負担が多くなっても、少しでも数を減らすことを考えていた。けれど、限界はある。
「ちっ、アレを使うかっ……」
ユースールでは、最後まで諦めないようにと、爆弾も用意している。Bランク以上で、審査に通った者にしか支給されないものだ。
赤く丸いボール。野球のボールくらいにコウヤが設定した。魔力を込めて投げ込むだけ。それでかなりの魔獣が間引ける。
「これだけ密集してれば効果は相当出るな」
そうした、グラムはそれを三つほど前方に投げた。
ドォォォン!
かなり大きな音と火花が散った。
「……使い所、後で相談しよう……」
効果的だが、怖い効果だった。
そうして、なんとか持ち堪えていたのだが、ついに爆弾も尽きた。
「っ、ここまでか……っ」
そうグラムが悔しげに奥歯を噛み締める。
その時だった。
ヒュッと側に誰かが降り立ち、魔獣を斬り払ったのだ。
「は?」
「待たせたな、グラムさん」
続いてまたヒュッと誰かが降ってきて魔獣を薙ぎ払う。
「グラム。年は考えた方がいいぞ」
「はあ!?」
ユースールの冒険者達が次々に降ってきたのだ。
************
読んでくださりありがとうございます◎
二日空きます。
よろしくお願いします◎
そんな中、グラムとセクタは、最前線で少しでも魔獣の数を減らすべく奔走していた。
セクタは自分よりも前で対応しているグラムに感謝しながら、後ろの様子を窺っている。さすがはBランクの迷宮だ。たった二人で捌ける数などたかが知れていた。それでも絶望しないのは、グラムの剣がまだ疲れを感じさせていないからだ。
グラムは『咆哮の迷宮』での氾濫の経験が今に生きている。あの時は絶対的な勝利を約束されたようなものだった。だから、冷静に対処できた。もし、あれがそのまま集団暴走となっていたなら、こんなものの比ではないだろう。
訓練の時などにあの時のことを思い出し、自分がコウヤやタリスの立場だったらどう動くかと考えるようになっていた。お陰で今、的確に強い個体だけは通さないようにとさばけているのだ。
「まだ数が減らないか……」
この一度目の集団暴走がこの後の基準だ。今回は後四回起きる。放出時間と個体数は同じになるのだが、一回の中でも少し弱まる時があり、それが折り返し。しかし、その兆候が未だ見られない。この中間の部分で油断してはならないと、ユースールではしっかりと教えこまされる。
体感で発生してからそろそろ三十分。陽も傾き出した。夜の戦いになるのは確実だ。その時、セクタが焦った声を出した。
「くそっ、後ろが崩れてきてやがるっ。グラム、どうする!」
チラリと後ろを確認したグラムは決意した。幸い、ボロボロではあるが、心は折れる前らしい。今ならば全員戻れる。
「前線を下げる! 外壁ギリギリまで下がれ!」
これに反論したのはロイン達パーティだった。
「なっ、バカなことを言うな! そうなれば、外壁を突破される! ここで維持するんだ!」
「「「「「おぉぉぉっ!」」」」」
ベルセンに所属する者たちは、ロイン達の意見に従うようだ。これにはさすがのグラムも冷静ではいられなかった。
「ふざけるな! まだ折り返しまでもきていないんだぞ! 避難はっ……」
「ダメだグラム! ギルドが機能してねえ! 後方支援が役に立ってねえんだ! 動いてんのは兵だけだ!」
「っ、チッ」
本来ならば今の状況を予想し、住民達を反対側の端まで避難させ、外壁の内側に何重にもバリケードを作っておく。
特にBランクの迷宮の集団暴走ならば、この用意は必須だ。外壁を信用してはならない。突破されるものとして考慮しておく。
もちろんこれに、魔法師達を集めて結界を張ることも入ってくる。
ゼフィルにより、少なくとも住民の避難まではなんとか兵達に指示を出し、半分ほど終わっているようだが、ギルドが上手く機能していないせいで防衛まで手が回らないのだ。
「ジザルス様達が怪我した冒険者の回収をしてくれてるみたいだ。けど、手当てしてねえ、なっ」
魔獣に剣を振り下ろしながら、セクタが回収された怪我人が回復して戻ってくる様子がないと、後ろを確認する。
これはある程度予想していたことだ。グラムは吐き捨てる。
「当たり前だっ。治療はここの教会がやることになる。『応援要請』が出ればやってくれるがなっ」
「クソっ、後方支援も出来んとは、恥ずかしい、奴らだぜ!」
本来ならば、戦闘に参加できなくなった怪我人を運び出すのは、後方支援に回った冒険者達のはずだ。
戦場に置いておいても邪魔になるし、確実に死ぬことになる。後ろから見極めて道を探し、問答無用で抱えて後退する。
ギルドが協力を要請した神官達によりそれらは治療され、動けるようならば戻る。そうして、回復と撤退を繰り返すことで、戦力を持続させる。しかし、そのどれもが出来ていなかった。
指示を出すべきギルド職員も戸惑っているし、冒険者達は高ランクの者も、こういった時に適応する規約を確認してはいない。
「マジで、規約とか、必要なこと、だったんだなっ」
「コウヤが始めたことに、意味がないわけねえだろ」
「信頼が、絶大、過ぎ、だろ!」
セクタの息も切れてきた。
「セクタ、一度下がれ! お前が……お前が後方支援を指示しろ!」
「っ、わかった。ついでに、要請が、出てるか、確認してくるぜ」
BランクとAランクの違いは大きい。セクタは、グラムと同じAランクだというロインを見る。
「やっぱ……あいつが、Aランクとか、ないな……」
ロインだけでなく、パーティメンバー達もすでにボロボロだった。実力的にはセクタと同じくらいなのかもしれない。なにより、空回っている。
連携も上手く行っておらず、パーティメンバーも気力だけで保っている状態なのが、セクタの目にも明らかだった。
「最長記録でも折り返しまで一時間だ。五回ある集団暴走ならばもうじきに半分になる。そこでこの辺の怪我人を回収して下がってくれ」
「分かった」
前線の冒険者達はロイン達が指示しないため、怪我人を下げることをしない。それでも怪我人を見捨てられないのだろう。それらを守りながら戦っていることで、足手まといが増えていく。
「セクタは顔見知りも居るな? 下げる奴を選抜してくれ」
「おう。殴り飛ばしてでも言うこと聞かせる」
「すまん……」
「いいって。俺はもう、ユースールで生きるって決めてる。ここに戻る気はねえ」
「そうか……」
このベルセンの正義はロイン達にある。そこに風穴を空けるのだ。嫌われることになる。それが嫌だで彼らに同意するベルセン所属の冒険者達。そんな彼らも敵に回すことになる。
セクタは今、完全に故郷を捨てる覚悟をした。少しでも多くの者を生かすためだ。けれど、それが今のロイン達にはわからないだろう。
しばらくすると、明らかに魔獣が減ってきた。
「っ、今だ! セクタ! 可能な限り怪我人を連れて下がれ!」
「おう!」
セクタは急いで倒れている一番酷い怪我人の元に向かう。
「薬はどうした! 何とか動けるようになれ! 下がるぞ!」
「は? あ、薬? そんなのもったいなくて……」
「バカか! こんな時に使わなくてどうする! そもそも持ってるんだろうな!」
ここで、セクタは驚愕する。ほとんどの冒険者達は一つずつさえ薬を持っていなかったのだ。あって、パーティに二つほど。
「このっ、アホどもが! さっさとこれを飲め!」
「え、く、薬? けど、もらったら……」
「いいから飲め! 時間がねえんだよ!」
動揺しながらも、冒険者達は手渡した薬を飲んでいく。
そこで、セクタとグラムはあり得ない言葉を聞いた。
「よし! みんな! もう少しだ! 明らかに数が減った! もうすぐ終わるぞ!」
「「「「「おぉぉぉっ!!」」」」」
喜ぶ冒険者達。だがほぼ同時にグラムとセクタも大きな声を上げる。
「「はあぁぁぁ!?」」
信じられない。どこまで無知なのかと、セクタとグラムは愕然とした。
こうなると、怪我人達も気を抜く。
「あ~あ、もう終わるなら薬なんて飲まなければ良かった……」
「代金せびられるんだろうな……」
「ちっ、汚いやつ」
これにセクタはキレた。
「バカやろう!! 終わるわけねえだろ!! これで折り返しだ!! 規約に載ってる注意事項も知らんバカどもが!! そんなに死にたきゃ死ね!!」
「「「「「っ……!!」」」」」
その怒声を浴びて、冒険者達は固まった。本気で怒っていることがわかり、徐々にそれが真実だと理解していく。
「……聞いたことがある……半分の時間が経つと魔獣が減るって……」
「ま、まだ半分……なの?」
「で、でも、ロインさん達が……」
迷いを見せる冒険者達。セクタは自身も回復薬を飲み、道を探す。その背中には怒りがまだ燻っている。そこにグラムが落ち着いた声をかけた。
「セクタ、落ち着け。まだ間に合う。そいつらだけでも引っ張って行ってくれ」
「ダメだ! ここで気を抜いたバカどもの中にグラムだけ置いて行けるわけねえだろ! いくらお前でも死ぬぞ!」
「……」
ロイン達はこの後、現実を知ることになる。そうなれば、彼らは耐えられない。瓦解するのは目に見えていた。
グラムも分かっている。ロイン達が崩れれば、この場を一人で耐えることになる。そうなれば、無事では済まないだろう。それでも諦めるわけにはいかない。グラムが諦めたら、確実にベルセンは終わる。
「……怪我人を……戦えない奴らを集めろ。甲羅強羅で耐えてくれ。そうしたら……きっとコウヤとマスターがどうにかしてくれる」
「っ、わかった」
セクタは急いで怪我人達を集めた。そして、甲羅強羅を発動させる。セクタならば今の状態でも動かなければ一時間は維持できる。ここで半分ならば、効果範囲を無理にでも広げれば怪我人が増えても対処できるだろう。
グラムは徐々にまた増えてきた魔獣を相手にしながらロイン達に告げた。
「いいかお前ら! 無理だと思ったらセクタの張った結界の中に逃げ込め! 魔獣や魔物は絶対に通さないものだ。いいな!」
「あ、ああ……っ」
何とか返事が返ってきたが、状況を理解したのだろう。まだこれからがあるのだと感じ始めていた。
「お、おい……お、終わるんじゃなかったのか……っ」
「ねぇっ、また増えてるよ!」
「な、なんで……っ」
そうして、心が折れるまでそう時間はかからなかった。
グラムは負担が多くなっても、少しでも数を減らすことを考えていた。けれど、限界はある。
「ちっ、アレを使うかっ……」
ユースールでは、最後まで諦めないようにと、爆弾も用意している。Bランク以上で、審査に通った者にしか支給されないものだ。
赤く丸いボール。野球のボールくらいにコウヤが設定した。魔力を込めて投げ込むだけ。それでかなりの魔獣が間引ける。
「これだけ密集してれば効果は相当出るな」
そうした、グラムはそれを三つほど前方に投げた。
ドォォォン!
かなり大きな音と火花が散った。
「……使い所、後で相談しよう……」
効果的だが、怖い効果だった。
そうして、なんとか持ち堪えていたのだが、ついに爆弾も尽きた。
「っ、ここまでか……っ」
そうグラムが悔しげに奥歯を噛み締める。
その時だった。
ヒュッと側に誰かが降り立ち、魔獣を斬り払ったのだ。
「は?」
「待たせたな、グラムさん」
続いてまたヒュッと誰かが降ってきて魔獣を薙ぎ払う。
「グラム。年は考えた方がいいぞ」
「はあ!?」
ユースールの冒険者達が次々に降ってきたのだ。
************
読んでくださりありがとうございます◎
二日空きます。
よろしくお願いします◎
282
お気に入りに追加
11,119
あなたにおすすめの小説


【完結】魔王を倒してスキルを失ったら「用済み」と国を追放された勇者、数年後に里帰りしてみると既に祖国が滅んでいた
きなこもちこ
ファンタジー
🌟某小説投稿サイトにて月間3位(異ファン)獲得しました!
「勇者カナタよ、お前はもう用済みだ。この国から追放する」
魔王討伐後一年振りに目を覚ますと、突然王にそう告げられた。
魔王を倒したことで、俺は「勇者」のスキルを失っていた。
信頼していたパーティメンバーには蔑まれ、二度と国の土を踏まないように察知魔法までかけられた。
悔しさをバネに隣国で再起すること十数年……俺は結婚して妻子を持ち、大臣にまで昇り詰めた。
かつてのパーティメンバー達に「スキルが無くても幸せになった姿」を見せるため、里帰りした俺は……祖国の惨状を目にすることになる。
※ハピエン・善人しか書いたことのない作者が、「追放」をテーマにして実験的に書いてみた作品です。普段の作風とは異なります。
※小説家になろう、カクヨムさんで同一名義にて掲載予定です
覚悟は良いですか、お父様? ―虐げられた娘はお家乗っ取りを企んだ婿の父とその愛人の娘である異母妹をまとめて追い出す―
Erin
恋愛
【完結済・全3話】伯爵令嬢のカメリアは母が死んだ直後に、父が屋敷に連れ込んだ愛人とその子に虐げられていた。その挙句、カメリアが十六歳の成人後に継ぐ予定の伯爵家から追い出し、伯爵家の血を一滴も引かない異母妹に継がせると言い出す。後を継がないカメリアには嗜虐趣味のある男に嫁がられることになった。絶対に父たちの言いなりになりたくないカメリアは家を出て復讐することにした。7/6に最終話投稿予定。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
【完結】お花畑ヒロインの義母でした〜連座はご勘弁!可愛い息子を連れて逃亡します〜+おまけSS
himahima
恋愛
夫が少女を連れ帰ってきた日、ここは前世で読んだweb小説の世界で、私はざまぁされるお花畑ヒロインの義母に転生したと気付く。
えっ?!遅くない!!せめてくそ旦那と結婚する10年前に思い出したかった…。
ざまぁされて取り潰される男爵家の泥舟に一緒に乗る気はありませんわ!
アルファポリス恋愛ランキング入りしました!
読んでくれた皆様ありがとうございます。
連載希望のコメントをいただきましたので、
連載に向け準備中です。
*他サイトでも公開中
なろう日間総合ランキング2位に入りました!

婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ!
タヌキ汁
ファンタジー
国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。
これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。

聖女の私が追放されたらお父さんも一緒についてきちゃいました。
重田いの
ファンタジー
聖女である私が追放されたらお父さんも一緒についてきちゃいました。
あのお、私はともかくお父さんがいなくなるのは国としてマズイと思うのですが……。
よくある聖女追放ものです。

「魔道具の燃料でしかない」と言われた聖女が追い出されたので、結界は消えます
七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女ミュゼの仕事は魔道具に力を注ぐだけだ。そうして国を覆う大結界が発動している。
「ルーチェは魔道具に力を注げる上、癒やしの力まで持っている、まさに聖女だ。燃料でしかない平民のおまえとは比べようもない」
そう言われて、ミュゼは城を追い出された。
しかし城から出たことのなかったミュゼが外の世界に恐怖した結果、自力で結界を張れるようになっていた。
そしてミュゼが力を注がなくなった大結界は力を失い……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。