元邪神って本当ですか!? 万能ギルド職員の業務日誌

紫南

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第七章 ギルドと集団暴走

257 このことは内密に……

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ジザルスは武器である特殊なノコギリのような大剣を地面に突き立て、向かってくる魔獣達を威圧した。

すると、混乱状態が解けたのだろう。魔獣達は散り散りになって目の前から逃げて行った。

「……え……」
「な、何が……」
「どうなってるんだ……?」

セクタ以外は唖然とするしかない。

「さすが……ジザ様……」

思わず出たそれは、セクタも意識していなかった。すると、ジザルスは武器を突き立てたままにし、振り向いて怪我人達を確認する。

「セクタさん。もう結界を解いて良いですよ」
「っ、あ、はい」

ユースールの常識の一つ。


『神官様には逆らわないこと』


逆らえば、神よりも恐ろしいと子ども達にも言い聞かせている。

強者を見抜くことのできる実力者ならば、これを知らなくても逆らったりしない。反射的に従ってしまうのだ。

『甲羅強羅』の発動を止める。

すぐにジザルスは治癒魔法で怪我人達を動けるようにしていく。正しく治癒魔法を使うことによって、解毒薬の効き目も数倍早くなるのだ。

「うそ……一瞬で?」
「こんな治癒魔法あるの……?」
「傷痕もない……」

驚愕するのも仕方がない。聖魔教以外の神官の治癒魔法は、長い時間発動し続けて治癒させていく。重傷の者に付きっきりになる。患者の治癒力を上げ続けなくてはいけないと考えられているためだ。

それが今の時代の常識だった。

ジザルスは治癒魔法をかけながら穏やかに説明する。

「我々以外の神官の治癒魔法というのは、発動させるためだけに自身の魔力を使います。治癒力はあくまで患者の魔力を使って上げているんです。だから、時間もかかります」
「あ……治療された後にすごくだるくなるのって……魔力を使ったから?」
「そうです」

魔法を使う者たちには分かり易かったようだ。

「魔力の比較的多い魔法師の方たちは、傷の治りが良かったりしませんでしたか?」
「そ、そうです。同じくらいの傷でも、私は治った……魔法師は神に愛されているからだって……」

魔力の多さは、神に愛された証拠だとまで言う神官がいる。患者の魔力を使うことを理解しているのだ。

「神はそのようなことで優劣をお付けになりませんよ。魔力を普段あまり使わない方は、完全に傷が治りきる前に魔力の枯渇を恐れて、体が『これで治った』として治癒しなくなってしまうのです。ですから、逆に魔力の枯渇状態に慣れた方々は危ないですね」
「そ、それ! お、おれの兄ちゃんが……神官様の治療を受けて眠ったままに……っ、それってまさか……」

泣きそうな様子で尋ねてくる男に、ジザルスは気の毒そうに眉を寄せながら頷いた。

「っ、そんな……」
「中には、魔力の枯渇状態を見抜いて、途中で治癒を止める神官もいるようですが、何も知らなければ、中途半端に治療を止めたように見えるでしょう。それを嫌って、あえて続行するところもあります」
「でも……っ、だって……っ、なら俺……何のために働いて……っ」

そうして、眠ったままの兄を教会に置いてもらうために、彼は必死で働いていたのだろう。そうして教会は多くの者から金を巻き上げていくのだ。

ジザルスは治癒魔法の手を休めることなく、その彼に告げた。見れば、数人同じように肩を落としている者がいる。彼らにも聞こえるように提案する。

「一度、教会から出してください。魔力枯渇による休眠状態に効く薬があります。衰弱もしているでしょう。早い方が良い。恐らくあの教会は、最低限水を与えるだけしかしていません。下手に急かせて治癒魔法など更に使われては死ぬだけです」
「っ、た、助かるのか!?」
「ユースールには素晴らしい薬師様がおられますので。薬の値段も、Bランクの回復薬程度ですよ」
「そ、それ、本当に?」

信じられないという表情が多数。それを目の端に捉えながらも、ジザルスは手を進める。

「そういえば、デントもあんなに元気になってたし……」
「デントさんですか。魔法薬中毒の方はあの教会から来た神官達にも多くて、治療法も確立されましたからね。同時に魔力操作スキルや身体強化スキルも教えますし」
「……スキルを教える……?」
「ええ。正常な状態にするのに必要なスキルは取ってもらうまでが治療です」
「……」

本気で意味が分からないという顔をする。だが、ジザルスは理解されないのも仕方ないと思っているため、構わず立ち上がる。

全員が動けるようになったのを確認した。

「これで問題ありませんね。あちらも来たようですし」
「え?」

そこに、グラムが数人の冒険者を引き連れながら駆けてきたのだ。その先頭には女性の神官が一人。

「グラム! 無事だったか!」

セクタはその姿を見てほっとした。パーティメンバーを失うことがトラウマとなっている彼にとっては、何よりも嬉しいことだった。

「セクタ。お前も無事で良かった。中で生き残ってた奴らも、リエラさんが来てくれたから何とかなったんだ」

そのリエラというのは、白夜部隊の一人。そのリエラはにこりと笑ってグラムへ告げる。

「グラムさん、私の事は呼び捨てにと何度もお願いしましたよ?」
「い、いや……さ、さすがにここでは……っ」
「何です?」
「はい。リエラ」
「ふふ。は~い」
「っ……」

ご機嫌なリエラ。そして、照れるグラム。これで事情がわからないはずがない。

「えっと……お、おめでとう?」

セクタは呆然としながらも祝福の言葉は忘れなかった。

「あら。ありがとうございます。ふふ。グラムさん。これでお友達公認ね」
「あ、ああ……っ、そ、その……セクタ。このことは内密に……」
「グラムさん?」
「っ、だ、だってよお。やっぱ、コウヤにきちんと言ってからの方がいいだろう?」

もう尻に敷かれているように見える。だが、これはある意味仕方がない。神官達は男女共にとても人気があるのだ。

もちろん、コウヤのことについては本気だ。照れ臭いが、コウヤはグラムのような冒険者たちにとって息子のようなもの。だから、結婚を決めたら絶対にユースールの外で決まっても、必ず帰ってきて報告する。

何よりも、コウヤにおめでとうと言ってもらいたいのだ。

「まあ……確かにそうですわね。私としたことが、コウヤ様の許可もなく……分かりました。今回のことが終わりましたら、二人でご報告しましょう」
「ああ。悪いな……」
「そんな。コウヤ様のことについては、私も同じ気持ちですから」
「そうか……」

見つめ合う二人。

これが集団暴走スタンピード前でなければ、全力で祝福したのだが残念だ。

「リエラ姉さん、グラムさん。そういうのは後でお願いします」

白夜部隊の者たちは全員が兄弟姉妹。ジザルスはリエラを姉と慕う。当然だがルディエは別格だ。

「あ、ごめんなさいねジザルス。ちょっと不愉快ないことがあったものだから、必要以上に癒しを求めてしまったわ」
「それは……後ろのソレですか?」
「ええ」

ソレと言われたものに目を向けるジザルスとリエラ。同じような冷たい視線だ。その先にあるのは二十近い青年と、その腰の籠に閉じ込められている茶色の塊。

青年は気絶しており、リエラが持っていた台車に乗せて引っ張ってきたのだ。台車と言ってもコウヤの作ったキャリーワゴンだ。中に丸めて放り込まれていた。

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三日空きます。
よろしくお願いします◎
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