元邪神って本当ですか!? 万能ギルド職員の業務日誌

紫南

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第七章 ギルドと集団暴走

256 絶対に結界から出るな!

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ヤンスの方が少し気まずそうに目を逸らしながら説明する。バナンは辺りを警戒中だ。

「あの三人はラグサとネラルとデントだよ。俺ら、変わったんだ」
「は? けど、あんな足速かったか? デントっていやあ、魔法薬ばっか飲んで顔色悪かった坊主だろ……」

因みに、その一番若いデントは、先導役で爆走していった奴だ。中毒症状はまだ残っているが、それを誤魔化すように身体強化で大暴れするようになってしまった。自分がこんなに動けるとは思わなかったと、嬉々として走り回るのが日課。間違いなく一番変わったのは彼だろう。

「鍛えてもらったんだ。ユースールで……俺らがバカにしてたユースールでさ……ギルドの連中や教会がなんで嫌うのか知らんけど、あそこは凄かった……俺らみたいなクズにもきちんと対応してくれるんだ」
「……そうか……」

ベルセンの冒険者達の中には、ユースールがすごいところだということを知っている者もいる。ただし、口にはしない。冒険者ギルドから睨まれたらと思うとそれができなかったのだ。

「俺らもさ、前にユースールの冒険者に助けてもらったことがあってな……ユースール側は薬草も多いから、そっちから採ってこいって職員に薦められてさ……えらい目に遭って、今見たく死にそうになってたところを助けてもらったんだ……敵対してるベルセン支部所属だって言っても、笑って手当てまでしてくれた……」

そのあと、きちんとベルセンの方へ帰れるかどうかまで気にしていたというのは彼らも知らない。

ユースールの冒険者達は、時折無茶を承知でやって来るベルセンの冒険者達がいたら、きっちり最後まで見届けるという決まりができていたのだ。途中で何かあって難癖をつけられても困るというのもあった。

別にユースール支部はベルセン支部と敵対しているわけではない。だが、コウヤが面倒に巻き込まれるのは避けたい。そんな冒険者たちの考えがまとまった結果だった。

「私たちもだよ……何度か無茶やって助けられた……なんであんないい奴らが嫌われんのか分かんないわ……」
「教会もさあ。新しい教会が王都にもできたんだろ? それってさあ、しっかり国にも認められた教会ってことだよな? はっきり言って、教会には良い印象持ってねえけど、なんかあそこの教会は信用できるって聞いた」
「神様が降りてきたって聞いたんだけど。本当?」

これはセクタにだ。全員、回復待ちだった。まだ少し危ないものが多い。

「ん? ああ。四神様な……凄かったぞ……ホンモノだって言われなくても分かったよ。あれが神々しいって言うんだろうなあ」

セクタは教会の中に入れた幸運な者だった。あの光景は一生忘れないだろう。

「「「……本当なのか……」」」
「そう言ってんだろ。本物の神様に認められた教会だからな。これからベルセン支部にも神官様が来るが、ちょっかいかけんなよ。まあ、かけても返り討ちにされっけどな」

そろそろ動くかとセクタは立ち上がる。そんなセクタを一同は見上げたが、気にせず周りを見回している。

「神官だろ? 呪いとか?」
「それ、ヤバくね?」
「支部のやつらヤバくね?」

ヤバいのは合っているとセクタだけでなくバナンとヤンスも頷いた。真実を教えてやる。だが、この時も視線は外に向いており、彼らの表情は確認できない。

「普通に武闘派でな。噂じゃ、大司教様達もメイスで戦うんだってよ。で、ユースールの外に出てくるような神官様は特に、暗殺も出来る奴らだから気を付けろ。Aランクの冒険者が普通に泣く相手だから」
「……それ、神官……?」
「神官様だ。送った奴らの治療も問題なく一瞬で治すくらいの凄腕のな」

その時、迷宮の方から紅い狼煙が上がったのが見えた。氾濫を確認した合図だ。だが、それに気付いたのはセクタだけだった。

「……本当に神官……?」
「そうだって言ってんだろうが! お前らはもう動けんだろ! さっさとこいつら担いで移動するぞ!」

一同が突然のことに驚く。そこでバナンとヤンスも狼煙に気付き、表情を引き締めて次の合図を待った。

「っ、セクタさん、白が上がりました! 段階……五……解放まで……二……時間!」

狼煙の煙を途切ることでそれを伝える。それらの情報は、迷宮の扉の柱に氾濫が起きた時に現れる魔石から読み取ることができた。精霊たちはこんな時でも親切だ。

「ちっ、Bランクの迷宮で五段階とかクソだろ! しゃあねえ、グラムが合流するまでになんとかギルドに掛け合うぞ!」
「「はい!」」

段階とは、小休止を挟んで何度魔獣が放出されるかを示す。最大十だと言われており、一度で放出される平均個体数はBランクの迷宮だと五百から八百。もちろん、平均の魔獣のランクはB。ただし、迷宮ランクが上がる関係で、最後の一度は一つランクが上がる。

「五段階だと……最後が持ち堪えられるかどうかだな……」
「セクタさん、最後って……Aランクの放出だと……最大二千でしたか……」

バナンは記憶力が良いらしい。ユースールで受けた集団暴走スタンピードの講習内容もしっかりと頭に入っているようだ。

因みに、緊急事態の狼煙の上げ方やその他知識については、Bランク昇格試験の時に試験がある。これはユースール独自のものだ。筆記試験とすると嫌がるため、面接試験のような形で行っていた。

危険な土地だからこそ、緊急時の対応を速やかに行えなくてはならない。そのためだと誰もが理解して日々研鑽を積み、試験に臨んでいた。

一通りの知識が身に付いて合格となるのだ。ランクが低い内から少しずつ教えていくので、まず落ちるものはいない。

「よく覚えてるな。そうだ。ベルセンのやつらだけじゃ、まず予兆になる外の魔獣達の対応と一度の放出までが限界だ。それがわかりゃ、要請も出すだろう」

セクタはこの中で一番重症な者を背負う。首には小さな亀の飾りが付いたネックレスをつけた。これが『甲羅強羅』の魔導具だ。

「なあ、こいつ……助かるか……?」
「神官様が来ればな」
「っ、それはどうすれば……っ」
「さっさと移動すんだよ。少しでもベルセンに近づけば神官様との合流も早くなる。行くぞ!」
「あ、ああ……っ」

それぞれ、動けるようになった者が未だ動けない者を背負う。ある程度進んで分かったが、身体強化を使える者はいなかった。そのため、移動速度は精々駆け足程度だ。バナンとヤンスだけは、万が一の戦闘員として手を空けてある。

すると、始まった。

「セクタさん! ウルフ系が来ます!」
「ちっ、早いな。頭は分かるか?」

バナンは言われて振り返りながら冷静に見極める。以前までならば、この場にいるベルセンの冒険者たちのように怯え、パニックを起こしていただろう。セクタの存在も大きいが、それでもかなり落ち着いていた。

「統率取ってるヤツですよね? 三匹……いえ、四匹確認しました」
「誘導できるか? 万が一の時に使う煙玉は持ってるな?」
「はい!」
「ならやれ!」
「はい!!」

バナンは駆け出した。これに、ベルセンの冒険者たちは慌てる。

「お、おい!?」
「やめろ、バナン!」

しかし、バナンは土魔法で土壁を作り、ベルセンとは違う方向へ誘導していく。四つの群れを別の方向へ分けた。

「え……あれ……どうして……」
「知らんのか。迷宮の氾濫が最終段階に入ると、周りの土地にも影響が出る。だから外の魔獣達が混乱して、少しでも生き残るために生体反応が多い人のいる町に向かって来るんだ」
「……」

ベルセンの冒険者たちは静かに聞いていた。セクタは内心は焦っている。『甲羅強羅』を発動させた場合、術者は歩くことしかできなくなるのだ。今の内に距離を稼ぎたい。

今度はウルフ達の後方を注視していたヤンスが声を上げる。

「セクタさん! 次が来ます! ビックボアとベアが!」
「っ、数が多いな……っ、仕方ねえっ」

『甲羅強羅』を発動させた。範囲は半径五メートルという所。余裕はある。これならば少し速度が落ちるくらいだ。

「バナン! 戻ってこい! あとはこの中から魔法で対応する」
「はい!!」

ウルフ系は統率が取れているので、誘導しやすいが、ボア系は先ず無理だ。あれは混乱状態だと特に直進しかできない。

「ヤンス、俺が土壁で少し足を遅らせる。攻撃は頼んだ」
「分かった」

ヤンスは風の魔法が得意だ。一撃で仕留められる獲物だけ狙う。下手に怪我を負わせると、混乱状態が解けても怒りで向かってくることになるからだ。

そんなことも、ベルセンの冒険者たちは知らなかった。

「なんで、もっと広範囲の魔法でやらないんだ」
「私なら足止めもできる」

案の定、足止めのためにと攻撃する者が出た。それをセクタが慌てて止める。

「やめろ! あいつらは迷宮の魔獣じゃねえ! 混乱してるだけだ! 中途半端に傷付ければ、仮にあいつらが混乱が解けて逃げた先から、血の匂いを嗅いでこっちまで出てくる可能性だってあるんだ! いいか? 今来てるやつは、一撃で仕留められないなら手を出すな!」
「っ……」
「わ、わかった……」
「知らなかった……っ」

こういうことがあるから、ユースールではしっかりと講習を行うのだ。それが、皮肉にもこんな状況の中でバナンやヤンスは認識した。

一際大きな個体が来た。

「せ、セクタさん! あ、あれは……ブラッドベアですっ」
「っ、絶対に結界から出るな!」

ブラッドベアは一度獲物を捕捉すると凶暴になる。Aランクの魔獣だった。

衝撃が来た。

「くっ!」

さすがのセクタもタタラを踏む。

「セクタさん!」
「大丈夫だ。絶対に出るなよ! っ……っ! あと少しだ!」
「え……」

その時だった。

ブラッドベアの頭が消えた。

「「「……!?」」」

誰も状況が分からない。そこに、穏やかな声が響いた。

「お待たせしましたセクタさん」
「っ、ジザ様!」
「ふふ。ですから、様は要らないと前から言っていますのに」

それは、大きなノコギリのような凶暴な武器を担いだ神官、ジザルスだった。

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読んでくださりありがとうございます◎
二日空きます。
よろしくお願いします◎
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