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第七章 ギルドと集団暴走
254 運が良かったな
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グラムは数日前、ユースールを出発してベルセンに向かっていた。珍しく一人ではなく今回はお供を六人連れている。
六人の内、五人はベルセン出身の『雪の夜闇』のパーティ。彼らの戦闘講習の教官の依頼だ。
もう一人、教官としてついてきているのが、ユースールでできたグラムの友人だ。
「セクタが一緒にやるとは思わんかったな」
このセクタという男はBランク。誰かと一緒に組むことが苦手だと公言しており、数少ない友人のグラムとさえ、組むことがほとんどなかった。
若い頃、パーティメンバーを何度も目の前で亡くしてから、パーティを組むことが怖くてなったらしい。マリーファルニェにも相談しており、悩みながらも一人でBランクまで上がってきた。
そんな中で、グラムだけは自分を置いて死なないと信頼している強者。だから、リハビリも兼ねて時折それほど時間のかからない依頼は、グラムと組んで受けたりする。
だから、数日もかかる依頼で一緒にというのが珍しかった。
「あ、俺言ってなかった? こいつらと同郷なんだよ。おんなじスラムの出だ。パーティ名聞いてピンときた」
目の前では、途中で見つけた薬草を丁寧に摘む三人。残りの二人はそんな仲間を守るため、しっかり周りを警戒中だ。
グラムとセクタも気安く話をしながらではあるが、警戒を怠ってはいない。とはいえ、ここはもう隣の領だ。グラム達が苦戦する相手はそうそう出てこない。
「そうなのか。後輩指導したくなったってか?」
「それもなくもないが……里帰りみたいなもんかな。それにちょい気になってさ。ベルセンは特に、辺境にいい感情持ってなくてな。まあ、だから俺らとかあそこから逃げる時はこっちに向かうんだけどよ」
ユースールはガルタ辺境伯領の領都だ。だが、元伯爵領の端のベルセンとは領界線を接している。空白地帯が広いのが辺境ならではだ。
開拓中でもあるし、隣の領と近い場所に町を作るわけにもいかない。そのための空白地帯。ユースールで慣れた冒険者ならば一日でベルセンまで行くのだが、いかんせん辺境の地に棲む魔獣や魔物は強い。ベルセンから来る者は王都に行く日数よりも長くさまようことになるのだ。
そして、心が折れそうな状態でユースールにようやく辿り着く。
「だからって、こっちに来るのは命懸けだろ。ん? なんでこいつら辿り着けたんだ? それも、来て早々結構元気にコウヤに突っかかってたみたいだが」
グラムはそれを噂で聞いた。最初にコウヤに突っかかって良かったなと、顔合わせの時に褒めてやったら、照れたように、恥ずかしそうにしていたのを覚えている。
もう二十も過ぎた大人の男が、コウヤにかかれば少年のような心を取り戻す。そして、それを晒したグラムなんかの相手には、この先一切突っかかってこない。従順な後輩になるのだ。これがコウヤマジックの一つ。
「それな~。ベルセンでは噂があってな。ユースールに向かうなら、そっちに向かう商隊の後をついて行くのが一番安全だってな」
「ああ……商隊はユースールがどんな所かしっかり把握してるからな。つゆ払いさせるってことか。頭良いな」
「必死だからなあ。この生き残るための情報が拾えるかどうかが鍵だぜ。まあ、バレて返り討ちに合う奴も居るらしいが」
「そりゃそうだろ。商隊も分かってはいても、油断はしてないからな」
ついて来ているのが分かると、商隊の護衛達に斬り捨てられる場合もあるのだ。当然だろう。後をつけてくるのだ。夜盗かと思うに決まっている。
「上手く交渉して了承してもらやあ良いのにさあ」
「因みにお前は?」
問いかけられたセクタはニヤリと笑った。聞いて驚けというように胸を張る。
「泣きながら土下座してついて行かせてもらった」
「それ、上手く交渉出来たって言えるかよ」
「俺も今思った」
笑い合う。若い頃の苦い思い出だ。だが、今こうして笑えるのが不思議だった。
採取も終わり、比較的小さな魔獣との戦闘の指導をしながらベルセンに近付いていた。
既に領との境界線の外壁は見えている。そこで、余裕が出てきたのだろう。『雪の夜闇』のメンバーが話しかけてきた。
「あ、あの、グラムさん。本当に俺らなんかの訓練に付き合ってもらっていいんですか……?」
コウヤに厳しく指導されたことで、すっかり礼儀正しくなった五人だ。謙虚という言葉を覚えたらしい。
「いいもなにも、これは依頼だぞ?」
「ですけど……現役のAランクの方の時間を使うなんて……」
パーティでAランクはどのギルドにも二、三いなくもない。だが、ソロでAランクというのは珍しい。国に数人いれば安泰と考えられるほどだ。彼らが拠点としていたベルセンでは一人見たことがあるくらい。
だが、ユースールでは一気にこの比率がおかしくなる。Aランクパーティは十以上。ソロのAランクは六人ほど常時いるのだ。
「本当に、今でも信じられないんです…….こんな有難い講習があるなんて……」
あれから彼らは何度も講習を受けた。採取研修もDランク冒険者用の中級を受けて、つい二日前に合格をもらったばかりだ。上級は魔物の討伐も入るため、受けられない。よって、戦闘講習を進めることになった。
半ば命令されて、ユースールの支部に嫌がらせをしようとやって来た時の彼らはEランクだった。だが、それもめでたくDランクに上がっていたのだ。
しかし、ここからは討伐依頼もある。ユースールでの底ランクの討伐依頼は他とは違う。『翔び兎』でも、生息地に向かうまでの間に普通にBランクの魔獣や魔物と鉢合わせしたりする。
ユースールでは先ず、逃げることを優先させるので、その実力を認められないと例えEランクの『翔び兎』の依頼でも受理されないことになっていた。
コウヤが最初にこの依頼を受けようとしていた彼らにやんわりと断ったのはそういった理由もあった。
因みに、彼らは『翔び兎』という言葉だけを見て依頼を選んだようだが、ユースールでの依頼のランクはEではなくCだ。ユースールの中で一番近い狩り場は三日かかる。ベルセンまで行くのにも、実力の低い者には同じくらいかかる。持ち運びのためのマジックバックくらい持てるくらいの財力がないと達成できなかった。
セクタがフッと鼻で笑いながら五人へ告げた。
「まあ、ユースールは講習ありきの場所だからなあ。途中で辞めずにきちんと全部受けろよ? 俺も昔受けたし」
「え!? セクタさんも?」
「おう。ユースールの外から来た奴らは特に必須だからな。あそこは、甘くねえだろ」
「あ、はい……行き道でも、商隊の後を追ってましたが、本当に怖くて……」
かなり危なかったらしい。ユースールによく来る商隊だったのが良かった。護衛達も慣れたもので、無情に斬り捨てることもなかった。
「運が良かったな」
「はい。本当にそう思います。俺らに運があるなんて初めて感じました」
「ははっ。生きてて良かったなあ。悪くねぇだろ」
「はい!」
そんな話をしながら歩いていると、右手の方からおかしな団体がヨタヨタと歩いてきているのが目に入った。
「なんだあいつら……ボロボロじゃねえか」
「あっちは……迷宮の方だな……あの辺ヤバいな」
かなり息をしているかギリギリのがいる。背負われる者。足を引きずっているもの。腕が動かない様子の者。誰もが必死で何かから逃げるような、そんな様子に見えた。
ただごとではなさそうだと、グラム達は彼らの方へと方向を変えた。
************
読んでくださりありがとうございます◎
二日空きます。
よろしくお願いします◎
六人の内、五人はベルセン出身の『雪の夜闇』のパーティ。彼らの戦闘講習の教官の依頼だ。
もう一人、教官としてついてきているのが、ユースールでできたグラムの友人だ。
「セクタが一緒にやるとは思わんかったな」
このセクタという男はBランク。誰かと一緒に組むことが苦手だと公言しており、数少ない友人のグラムとさえ、組むことがほとんどなかった。
若い頃、パーティメンバーを何度も目の前で亡くしてから、パーティを組むことが怖くてなったらしい。マリーファルニェにも相談しており、悩みながらも一人でBランクまで上がってきた。
そんな中で、グラムだけは自分を置いて死なないと信頼している強者。だから、リハビリも兼ねて時折それほど時間のかからない依頼は、グラムと組んで受けたりする。
だから、数日もかかる依頼で一緒にというのが珍しかった。
「あ、俺言ってなかった? こいつらと同郷なんだよ。おんなじスラムの出だ。パーティ名聞いてピンときた」
目の前では、途中で見つけた薬草を丁寧に摘む三人。残りの二人はそんな仲間を守るため、しっかり周りを警戒中だ。
グラムとセクタも気安く話をしながらではあるが、警戒を怠ってはいない。とはいえ、ここはもう隣の領だ。グラム達が苦戦する相手はそうそう出てこない。
「そうなのか。後輩指導したくなったってか?」
「それもなくもないが……里帰りみたいなもんかな。それにちょい気になってさ。ベルセンは特に、辺境にいい感情持ってなくてな。まあ、だから俺らとかあそこから逃げる時はこっちに向かうんだけどよ」
ユースールはガルタ辺境伯領の領都だ。だが、元伯爵領の端のベルセンとは領界線を接している。空白地帯が広いのが辺境ならではだ。
開拓中でもあるし、隣の領と近い場所に町を作るわけにもいかない。そのための空白地帯。ユースールで慣れた冒険者ならば一日でベルセンまで行くのだが、いかんせん辺境の地に棲む魔獣や魔物は強い。ベルセンから来る者は王都に行く日数よりも長くさまようことになるのだ。
そして、心が折れそうな状態でユースールにようやく辿り着く。
「だからって、こっちに来るのは命懸けだろ。ん? なんでこいつら辿り着けたんだ? それも、来て早々結構元気にコウヤに突っかかってたみたいだが」
グラムはそれを噂で聞いた。最初にコウヤに突っかかって良かったなと、顔合わせの時に褒めてやったら、照れたように、恥ずかしそうにしていたのを覚えている。
もう二十も過ぎた大人の男が、コウヤにかかれば少年のような心を取り戻す。そして、それを晒したグラムなんかの相手には、この先一切突っかかってこない。従順な後輩になるのだ。これがコウヤマジックの一つ。
「それな~。ベルセンでは噂があってな。ユースールに向かうなら、そっちに向かう商隊の後をついて行くのが一番安全だってな」
「ああ……商隊はユースールがどんな所かしっかり把握してるからな。つゆ払いさせるってことか。頭良いな」
「必死だからなあ。この生き残るための情報が拾えるかどうかが鍵だぜ。まあ、バレて返り討ちに合う奴も居るらしいが」
「そりゃそうだろ。商隊も分かってはいても、油断はしてないからな」
ついて来ているのが分かると、商隊の護衛達に斬り捨てられる場合もあるのだ。当然だろう。後をつけてくるのだ。夜盗かと思うに決まっている。
「上手く交渉して了承してもらやあ良いのにさあ」
「因みにお前は?」
問いかけられたセクタはニヤリと笑った。聞いて驚けというように胸を張る。
「泣きながら土下座してついて行かせてもらった」
「それ、上手く交渉出来たって言えるかよ」
「俺も今思った」
笑い合う。若い頃の苦い思い出だ。だが、今こうして笑えるのが不思議だった。
採取も終わり、比較的小さな魔獣との戦闘の指導をしながらベルセンに近付いていた。
既に領との境界線の外壁は見えている。そこで、余裕が出てきたのだろう。『雪の夜闇』のメンバーが話しかけてきた。
「あ、あの、グラムさん。本当に俺らなんかの訓練に付き合ってもらっていいんですか……?」
コウヤに厳しく指導されたことで、すっかり礼儀正しくなった五人だ。謙虚という言葉を覚えたらしい。
「いいもなにも、これは依頼だぞ?」
「ですけど……現役のAランクの方の時間を使うなんて……」
パーティでAランクはどのギルドにも二、三いなくもない。だが、ソロでAランクというのは珍しい。国に数人いれば安泰と考えられるほどだ。彼らが拠点としていたベルセンでは一人見たことがあるくらい。
だが、ユースールでは一気にこの比率がおかしくなる。Aランクパーティは十以上。ソロのAランクは六人ほど常時いるのだ。
「本当に、今でも信じられないんです…….こんな有難い講習があるなんて……」
あれから彼らは何度も講習を受けた。採取研修もDランク冒険者用の中級を受けて、つい二日前に合格をもらったばかりだ。上級は魔物の討伐も入るため、受けられない。よって、戦闘講習を進めることになった。
半ば命令されて、ユースールの支部に嫌がらせをしようとやって来た時の彼らはEランクだった。だが、それもめでたくDランクに上がっていたのだ。
しかし、ここからは討伐依頼もある。ユースールでの底ランクの討伐依頼は他とは違う。『翔び兎』でも、生息地に向かうまでの間に普通にBランクの魔獣や魔物と鉢合わせしたりする。
ユースールでは先ず、逃げることを優先させるので、その実力を認められないと例えEランクの『翔び兎』の依頼でも受理されないことになっていた。
コウヤが最初にこの依頼を受けようとしていた彼らにやんわりと断ったのはそういった理由もあった。
因みに、彼らは『翔び兎』という言葉だけを見て依頼を選んだようだが、ユースールでの依頼のランクはEではなくCだ。ユースールの中で一番近い狩り場は三日かかる。ベルセンまで行くのにも、実力の低い者には同じくらいかかる。持ち運びのためのマジックバックくらい持てるくらいの財力がないと達成できなかった。
セクタがフッと鼻で笑いながら五人へ告げた。
「まあ、ユースールは講習ありきの場所だからなあ。途中で辞めずにきちんと全部受けろよ? 俺も昔受けたし」
「え!? セクタさんも?」
「おう。ユースールの外から来た奴らは特に必須だからな。あそこは、甘くねえだろ」
「あ、はい……行き道でも、商隊の後を追ってましたが、本当に怖くて……」
かなり危なかったらしい。ユースールによく来る商隊だったのが良かった。護衛達も慣れたもので、無情に斬り捨てることもなかった。
「運が良かったな」
「はい。本当にそう思います。俺らに運があるなんて初めて感じました」
「ははっ。生きてて良かったなあ。悪くねぇだろ」
「はい!」
そんな話をしながら歩いていると、右手の方からおかしな団体がヨタヨタと歩いてきているのが目に入った。
「なんだあいつら……ボロボロじゃねえか」
「あっちは……迷宮の方だな……あの辺ヤバいな」
かなり息をしているかギリギリのがいる。背負われる者。足を引きずっているもの。腕が動かない様子の者。誰もが必死で何かから逃げるような、そんな様子に見えた。
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