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第七章 ギルドと集団暴走
239 面白い光景になりそうですね♪
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さすがに王都内でユースールでやるように、いきなり町中で追いかけっこは出来ないなと考えたコウヤは、なら擬似的なものでもいいから作るかと考えた結果がコレだ。
折角描いた四百メートルトラックもほとんど潰してしまった。ただ、トラックはまだ使いたいので、外側から三レーンは残してある。
ジオラマというには本格的ではあるが、一回りか二回りくらいは建物も小さくなっている。とはいえ、一階建ての家は高さ二メートルくらいにしてあるので、隠れるのも問題ない。
路地も人が一人通れるくらい。ただし、建物や障害物は本物より頑丈に作った。色は白に近い灰色で統一しているので、無機質な感じが強い。
「なんだか可愛らしい町ですね。触ってみてもよろしいですか?」
「うんっ」
ジザルスが触感というよりは、強度を確かめる。
「これは……鉄? 石? 領城や満服亭のある建物のような硬質な感じですね。全部でしょうか」
「うん。あくまで、まちにみえるだけのハリボテだから。マドもドアもないでしょ?」
「本当ですね」
よく見れば、家の形をしているだけ。窓の部分は四角い穴でしかないし、ドアもそうだ。コンクリートで出来た町のジオラマでしかない。
「隠れるにもそれほど問題はなさそうですし、こういうのも良いですね……こういう訓練用の施設、ユースールに作りませんか?」
「そうだね。おもしろそうだし、レンスさまにこんど、そうだんしてみるよっ」
「是非!」
新人教育用にあると便利そうだなとジザルスと共に考えるコウヤだ。隠れる部分が少なくても、気配を断つならば充分なものだし、高さも幅もそれなりだ。この大きさでも使える。
その間、第三騎士団達はといえば、茫然と座り込んでそれを見つめていた。
そんな彼らの上にコウヤは、突然リボンを降らせる。リボンの色は赤、青、黄色だ。それらがスルリと騎士達の腕に一本ずつ巻きつく。
これは飛空挺の搭乗時に使うものと同じだ。
「さあ、はじめますよー。リボンのいろべつでチームになります。そのリボンをとられたらまけですからねっ」
第三騎士団は現在、三十三人。きれいに三つのチームに分けられた。
「まってるチームは、トラックをはしっててくださいね? せっかくほぐしたからだがかたまったら、もったいないです」
これに絶望的な表情を見せる。だが、すぐに落ち着いた。
「……走る……」
「あ、でも……アレはもういない……」
「ならいいか……」
ハードちゃんが居ないなら大丈夫かと肩の力を抜く。サボり癖の付いた考えは、消えないようだ。
だが、それを許すほどコウヤは甘くない。
「ジザさんたち、いっしょにどうですか?」
「いいですね。やらせていただきます。ペースは先ほどの感じで?」
「もうすこし、ゆっくりでもいいです。ただ、おなじペースでつづけるように」
「分かりました」
頷いてから、ジザルスは神官達を集める。彼らはどちらかといえば、体を動かしたい派だ。なので、喜んで参加すると決めていた。
そんな彼らはいそいそと、どこからともなく武器を取り出す。バイクを持つ彼らには、同じ腕輪に亜空間収納が付いているので、そこに最近はきっちりしまっている。
これまでは暗器のような小さめの隠せる物が主流だった白夜部隊の面々も、これにより自身に最も適した武器を持ち歩けるようになった。もちろん、武器選びにはコウヤが関わっているので、本当にベストなものだ。
先が三又に別れた槍やトゲトゲしたグローブ。反りのある双剣にゴツゴツした鉄球。大剣はノコギリ型。一般的な武器が一つもない。
因みにノコギリ型の大剣がジザルスの愛用武器だ。一見優しげなジザルスとはアンバランスな組み合わせ。もう死神にしか見えない。
「っ……神官……???」
というのが、目を剥いた第三騎士団達の声。
「あれ? 神官様? 武装集団にしか見えない!」
というのが、白夜部隊にしごかれたこともある近衛騎士達の言葉だ。
「……アレに追いかけられるんだな……」
「……怖いですね~……」
というのがアルキスとジルファス。これを第三騎士団の者達が聞いて、カタカタと震えだした。ハードちゃんの方がマシだとは口にできないほど震えていた。
「コウヤ様。負けた方はどうされるのですか?」
ワクワクが止められない様子の神官の一人が尋ねてきた。
「うふふ。しゅうりょうするまで、ほふくぜんしんで。きんにくぜんぜんですもんね」
もっと、騎士らしい体格になって欲しいものだとコウヤは第三騎士団の面々を見る。腕の太さも普通だ。剣なんて振り慣れてなさそうだった。
「まけたヒトから、レーンのそとがわをまわってもらいます」
「それは……面白い光景になりそうですね♪」
「はい♪」
ハイハイ、ムシムシ、してもらおう。きっと異様な光景だろう。そして、酷く制服は汚れるだろう。傷みもするはずだ。
「では、あかいろチームから、いきますよー」
そう宣言して、コウヤは先ず訓練で愛用している特大の砂時計を出す。それから、自分の両腕と腰に白いリボンを巻いた。少し長めに垂らしてもいる。
「にじゅっぷんけいにしました。だれかひとりでも、じかんない、にげきるか、ボクのリボンのどれかヒトツ、とればチームのかちですからね? ほら、いきますよ」
彼らの勝利条件は二つ。
『二十分、一人でもリボンを死守して逃げ切ること』
『コウヤのリボンを一つでも取ること』
このどちらかが達成されれば騎士達の勝ちだ。
「やっぱ……バカにされてる……」
「そんなの、勝てるに決まってるだろ」
「負けるなんてあり得ない」
「子どもの遊びに付き合ってられるかよ」
「さっさと終わらせるぞ」
聞こえたアルキスとジルファスは、分かってないなと呆れ顔。ルディエに至っては、完全にゴミか害虫を見る目になっている。
そしてコウヤが取り出したのは愛用のペーパーナイフ。
体の大きさとの兼ね合いを確認しようと、ちょっと地面に向けて振ってみた。
ザクっ
地面がきれいに切れた。
「「「「「……」」」」」
「あ、やっぱり、ちょっとながいか~」
残念そうにペーパーナイフをしまいこんだ。それを見て、明らかにほっとする騎士達。次に出てきたのは、小さなナイフとなぜか羽根ペン。
「う~ん」
「「「「「……」」」」」
それを見て首を傾げている様は、普通に可愛い。そんな感想を抱いてしまうほど、騎士達はだいぶ落ち着いてきていたようだ。
なので、コウヤは騎士達にその二種類を一つずつ左右の手で持って見せる。
「どっちがいいですか? あ、みなさんのぶきはそのけんでだいじょうぶです。まほうもつかえたら、つかってください」
「……そんな小さなナイフと……羽根ペン? で相手にすると?」
「はいっ、あ、いりょくですね?」
気になっているのは威力かと聞きながら、コウヤは十メートル先から五メートル間隔で石の壁を十枚出現させた。
彼らの位置から見えるように少し斜めにして最後の一枚まで確認できる配置だ。因みに、最後のはかなりの強度と厚みにしてある。
「いきますよー」
先ずはナイフ。普通の投げナイフにしか見えないが、それは軽く投げたのにも関わらず、真っ直ぐどこまでも壁を貫き、最後の壁にめり込んで止まった。
「「「「「……え……」」」」」
見間違いかと目を擦ったり揉んだりする者が続出した。観戦している者達ももれなく同じ行動を見せている。
「じゃあ、つぎがコレです! さいごのをねらいます!」
その宣言通り、羽根ペンは生きているかのようにS字を決め続け、手前の全ての壁を縫うように横切ると、最後の壁に突き刺さり、そこで雷が落ちたように放電が起きる。最後は壁が崩れ去り、ナイフと共に転がった。
「どうですか? どっちがいいですか?」
「「「「「どっちもムリです!! ごめんなさい!!」」」」」
「あれ?」
ここで土下座が入るのは予想外。まだコウヤ的には始まってもいないのだから。これ、どうしようと弱った顔でアルキスとジルファスへ目を向ける。
弱った顔が可愛いとは口にしない二人。
すると二人はアビリス王の居る方へ目を向ける。その意図を察したらしいアビリス王がゆっくりと、バルコニーに姿を見せた。
************
読んでくださりありがとうございます◎
三日空きます。
よろしくお願いします◎
折角描いた四百メートルトラックもほとんど潰してしまった。ただ、トラックはまだ使いたいので、外側から三レーンは残してある。
ジオラマというには本格的ではあるが、一回りか二回りくらいは建物も小さくなっている。とはいえ、一階建ての家は高さ二メートルくらいにしてあるので、隠れるのも問題ない。
路地も人が一人通れるくらい。ただし、建物や障害物は本物より頑丈に作った。色は白に近い灰色で統一しているので、無機質な感じが強い。
「なんだか可愛らしい町ですね。触ってみてもよろしいですか?」
「うんっ」
ジザルスが触感というよりは、強度を確かめる。
「これは……鉄? 石? 領城や満服亭のある建物のような硬質な感じですね。全部でしょうか」
「うん。あくまで、まちにみえるだけのハリボテだから。マドもドアもないでしょ?」
「本当ですね」
よく見れば、家の形をしているだけ。窓の部分は四角い穴でしかないし、ドアもそうだ。コンクリートで出来た町のジオラマでしかない。
「隠れるにもそれほど問題はなさそうですし、こういうのも良いですね……こういう訓練用の施設、ユースールに作りませんか?」
「そうだね。おもしろそうだし、レンスさまにこんど、そうだんしてみるよっ」
「是非!」
新人教育用にあると便利そうだなとジザルスと共に考えるコウヤだ。隠れる部分が少なくても、気配を断つならば充分なものだし、高さも幅もそれなりだ。この大きさでも使える。
その間、第三騎士団達はといえば、茫然と座り込んでそれを見つめていた。
そんな彼らの上にコウヤは、突然リボンを降らせる。リボンの色は赤、青、黄色だ。それらがスルリと騎士達の腕に一本ずつ巻きつく。
これは飛空挺の搭乗時に使うものと同じだ。
「さあ、はじめますよー。リボンのいろべつでチームになります。そのリボンをとられたらまけですからねっ」
第三騎士団は現在、三十三人。きれいに三つのチームに分けられた。
「まってるチームは、トラックをはしっててくださいね? せっかくほぐしたからだがかたまったら、もったいないです」
これに絶望的な表情を見せる。だが、すぐに落ち着いた。
「……走る……」
「あ、でも……アレはもういない……」
「ならいいか……」
ハードちゃんが居ないなら大丈夫かと肩の力を抜く。サボり癖の付いた考えは、消えないようだ。
だが、それを許すほどコウヤは甘くない。
「ジザさんたち、いっしょにどうですか?」
「いいですね。やらせていただきます。ペースは先ほどの感じで?」
「もうすこし、ゆっくりでもいいです。ただ、おなじペースでつづけるように」
「分かりました」
頷いてから、ジザルスは神官達を集める。彼らはどちらかといえば、体を動かしたい派だ。なので、喜んで参加すると決めていた。
そんな彼らはいそいそと、どこからともなく武器を取り出す。バイクを持つ彼らには、同じ腕輪に亜空間収納が付いているので、そこに最近はきっちりしまっている。
これまでは暗器のような小さめの隠せる物が主流だった白夜部隊の面々も、これにより自身に最も適した武器を持ち歩けるようになった。もちろん、武器選びにはコウヤが関わっているので、本当にベストなものだ。
先が三又に別れた槍やトゲトゲしたグローブ。反りのある双剣にゴツゴツした鉄球。大剣はノコギリ型。一般的な武器が一つもない。
因みにノコギリ型の大剣がジザルスの愛用武器だ。一見優しげなジザルスとはアンバランスな組み合わせ。もう死神にしか見えない。
「っ……神官……???」
というのが、目を剥いた第三騎士団達の声。
「あれ? 神官様? 武装集団にしか見えない!」
というのが、白夜部隊にしごかれたこともある近衛騎士達の言葉だ。
「……アレに追いかけられるんだな……」
「……怖いですね~……」
というのがアルキスとジルファス。これを第三騎士団の者達が聞いて、カタカタと震えだした。ハードちゃんの方がマシだとは口にできないほど震えていた。
「コウヤ様。負けた方はどうされるのですか?」
ワクワクが止められない様子の神官の一人が尋ねてきた。
「うふふ。しゅうりょうするまで、ほふくぜんしんで。きんにくぜんぜんですもんね」
もっと、騎士らしい体格になって欲しいものだとコウヤは第三騎士団の面々を見る。腕の太さも普通だ。剣なんて振り慣れてなさそうだった。
「まけたヒトから、レーンのそとがわをまわってもらいます」
「それは……面白い光景になりそうですね♪」
「はい♪」
ハイハイ、ムシムシ、してもらおう。きっと異様な光景だろう。そして、酷く制服は汚れるだろう。傷みもするはずだ。
「では、あかいろチームから、いきますよー」
そう宣言して、コウヤは先ず訓練で愛用している特大の砂時計を出す。それから、自分の両腕と腰に白いリボンを巻いた。少し長めに垂らしてもいる。
「にじゅっぷんけいにしました。だれかひとりでも、じかんない、にげきるか、ボクのリボンのどれかヒトツ、とればチームのかちですからね? ほら、いきますよ」
彼らの勝利条件は二つ。
『二十分、一人でもリボンを死守して逃げ切ること』
『コウヤのリボンを一つでも取ること』
このどちらかが達成されれば騎士達の勝ちだ。
「やっぱ……バカにされてる……」
「そんなの、勝てるに決まってるだろ」
「負けるなんてあり得ない」
「子どもの遊びに付き合ってられるかよ」
「さっさと終わらせるぞ」
聞こえたアルキスとジルファスは、分かってないなと呆れ顔。ルディエに至っては、完全にゴミか害虫を見る目になっている。
そしてコウヤが取り出したのは愛用のペーパーナイフ。
体の大きさとの兼ね合いを確認しようと、ちょっと地面に向けて振ってみた。
ザクっ
地面がきれいに切れた。
「「「「「……」」」」」
「あ、やっぱり、ちょっとながいか~」
残念そうにペーパーナイフをしまいこんだ。それを見て、明らかにほっとする騎士達。次に出てきたのは、小さなナイフとなぜか羽根ペン。
「う~ん」
「「「「「……」」」」」
それを見て首を傾げている様は、普通に可愛い。そんな感想を抱いてしまうほど、騎士達はだいぶ落ち着いてきていたようだ。
なので、コウヤは騎士達にその二種類を一つずつ左右の手で持って見せる。
「どっちがいいですか? あ、みなさんのぶきはそのけんでだいじょうぶです。まほうもつかえたら、つかってください」
「……そんな小さなナイフと……羽根ペン? で相手にすると?」
「はいっ、あ、いりょくですね?」
気になっているのは威力かと聞きながら、コウヤは十メートル先から五メートル間隔で石の壁を十枚出現させた。
彼らの位置から見えるように少し斜めにして最後の一枚まで確認できる配置だ。因みに、最後のはかなりの強度と厚みにしてある。
「いきますよー」
先ずはナイフ。普通の投げナイフにしか見えないが、それは軽く投げたのにも関わらず、真っ直ぐどこまでも壁を貫き、最後の壁にめり込んで止まった。
「「「「「……え……」」」」」
見間違いかと目を擦ったり揉んだりする者が続出した。観戦している者達ももれなく同じ行動を見せている。
「じゃあ、つぎがコレです! さいごのをねらいます!」
その宣言通り、羽根ペンは生きているかのようにS字を決め続け、手前の全ての壁を縫うように横切ると、最後の壁に突き刺さり、そこで雷が落ちたように放電が起きる。最後は壁が崩れ去り、ナイフと共に転がった。
「どうですか? どっちがいいですか?」
「「「「「どっちもムリです!! ごめんなさい!!」」」」」
「あれ?」
ここで土下座が入るのは予想外。まだコウヤ的には始まってもいないのだから。これ、どうしようと弱った顔でアルキスとジルファスへ目を向ける。
弱った顔が可愛いとは口にしない二人。
すると二人はアビリス王の居る方へ目を向ける。その意図を察したらしいアビリス王がゆっくりと、バルコニーに姿を見せた。
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