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第七章 ギルドと集団暴走
238 なんか観客多くない?
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コウヤは次の訓練の準備に移る。
「すこしだけきゅうけいしててください。すぐにばをととのえますから」
「……」
もう返事すら出来なくなっている第三騎士団の面々。放心状態の者も少なくない。死ぬ気で走ったことで、逃げる気力さえ失っている。お陰で放置しても問題ない。
コウヤが少し離れると、彼らはようやく息ができるというように、強張っていた体の力を抜いていた。
そんな彼らを見て、呆れた声を出したのは、リルファムとシンリームの後にやって来たルディエだった。
「何これ……ハードが居るってことは、ちょっと走っただけでしょ? 情けない奴らだな」
これに、アルキスとジルファスが振り返る。
「相変わらず……神子の時の印象とガラリと変わるのな」
「ずっと仕事モードとか、あんたあり得るの?」
「ないわ」
「それと同じだけど」
「納得した」
アルキスはあっさり頷いた。
「あの……聞いてもいいかい?」
「なに」
ジルファスが恐る恐る尋ねる。
「前のケルベロスといい、今回のあのジャイアントハリーといい……どこから来てるか分かるかい?」
近衛騎士達もこれには興味津々だ。ずっと気になっていたらしい。
「僕も大司教達の知り合いの所からとしか聞いてないけど。パックン知ってる?」
ルディエについて、パックンがきていた。パックンはルディエの腰から外れ、ぴょんぴょんと跳ねて前に出る。
《有名な従魔術師で魔獣研究者》
ここでパックンは一度言葉を切る。そして次を表示した。
《最近は幼獣専門》
「幼獣って……あんまり見ないでしょ……それに、従魔術師?」
「へえ……それ聞くとバリエラ・マムールくらいしか思い付かんけど」
バリエラ・マムールは、この世界で子どもでも知っている人物。絶対に従属させられないと言われるような凶暴な魔獣とさえ契約を結んだ英雄。絵本でも有名だ。
アルキスは冗談でこの名前を出した。だが、それが正解だった。
《それ! d( ̄  ̄) 》
「はあ!? それって……バリエラ? おいおいっ。二百年前の偉人だぞ!」
そう。彼女が表舞台に立っていたのは二百年も前のことだ。普通の人族ならば生きていない。
《普通に生きてるけど?》
「……マジで……?」
《マジ ♪(´ε` ) 》
だが、そこでふとアルキス達はルディエを見た。彼も数百年前から噂されていた神官殺しだ。ならばあり得るかと納得する。
「なに? 言っとくけど、僕達は特殊だよ。神の加護で生き延びてるようなものだからね。その人、種族が違うんじゃない?」
「あ……いや、けど人族だって絵本で……あれ?」
「……そう思い込んでたが……違うのか?」
《エルフ族の血が半分》
「混血か……なら納得」
この国のある大陸からは、かなり人族以外の者が減っている。冒険者ギルド関係の者は自由な気質からあまり気にしないが、ここ百年ほど前から神教国が密かに人族以外を追い出しにかかっているというのが噂されていた。
「人族じゃないって知られたら、教国が絵本もなんでも、全部処分させてるよ。あえて誤魔化してあるんでしょ」
「ほんと、あの国はよ……」
余計なことしかしない。
「それにしても、なんか観客多くない?」
ルディエが気になったのは、この訓練場を半分囲むように作られている建物の中の気配。合同訓練や出立式などが出来るこの大訓練場には、アビリス王が観られる場所があるように、上から見渡せるようになっている。
「あ、ほんとだわ……いつの間に……」
「今日は、私達もですけど、仕事が早く終わっていますからね……文官も混じっていませんか?」
「……それっぽいの居るな……」
何か面白いものをやっていると、気になって覗きに来た貴族達だけでなく、訓練場には普段寄り付かない文官達や、魔法師、薬師、料理人までいる。
因みにこの時、アビリス王の所には、ベルナディオも来ていた。観戦する気満々だ。
なぜだと不思議がっていると、オスロリーリェが現れた。外で見るのは、これこそ不思議な気分になる。
《面白いこと……やってるよって……伝えたから》
「「……」」
誰にと尋ねようとしていた二人。だが、それよりも先にルディエが当たりを付けたらしい。
「文官達に? 鬱憤晴らし?」
《そう……あの第三の奴らが……ボコボコのボロボロになるの……見たいって……言ってたから》
「「……」」
文官の中に黒いのが居ると認識する二人。だが、ルディエは納得していた。
「ああ……平民出だからってバカにされるって愚痴ってたね。この前『暗殺術ってどうすれば身に付きますか』とか真面目な顔で聞かれたし」
えっ、とルディエへ目を向けるアルキスとジルファス。だがそれよりも、目の前で始まったものが気になり、そっちを二度見していた。
《できたら……自分達の手でって……最近……体力作りしてた……》
物騒な文官がいると再認識したアルキスとジルファス。目の前ではコウヤが石材と土をどこからともなく訓練場の真ん中に山と出し、機嫌良く何かを考えていた。
「相当だよね。大人しい見た目だし、真面目そうだから、少し驚いた。サーナが気に入ったらしくて、仕込んで良いかって言うからOK出しといたけど」
「「っ!?」」
出したのかと今一度ルディエを振り返る二人。だが、その時、コウヤがゴゴゴっと音をさせながら石材や土を波打たせていくのが見えて、視線を前に戻す。
《いいよ……強くなるの……悪くないし……》
オスロリーリェが反対しなかったなら、これは決定事項だなと、もうどうにもならない所まで進んでいることを悟る。
「あのニールっていう補佐官までとはいかないだろうけど、そこそこになるんじゃない?」
《いいこと……だね》
「「……」」
ニールってそんなに強いのかと、思考を半ば放棄した二人は、出来上がったものを見た。
「こんなかんじかな!」
コウヤは腰に手を当てて、満足気にそれを見つめる。
「……町じゃん……」
「町ですね……」
「さすが、兄さん」
《本格的! ((o(^∇^)o)) 》
《うん……ボクの練習にも……なるかも》
アルキスとジルファスは、もう色々と諦めた。
因みに、少し離れた所に居たミラルファやイスリナ、リルファムとシンリームは、何が起きたのか分からず目を瞬かせている。見ものに回っていたアビリス王達も、様々な表情でもってこれを見ていた。
ただ、中でも魔法師達のテンションはすごい。
「見たかアレ!!」
「見てんじゃん! 何アレ!!」
「師匠最高!! 何なのアレ!!」
こんな感じで子どものようにはしゃいでいた。それぞれについている影騎士達は、まあまあと主人を宥めていたり、興奮して倒れそうになっているのを支えたり、飲み物を用意したりしていた。相変わらず甲斐甲斐しい。
そんな周りの反応など気にせず、休憩していたハードちゃんにバイバイと手を振って帰ってもらい、コウヤはへたり込んでいる第三騎士団へと体を向けた。
「では、このなかで、おいかけっこしましょうね♪」
「「「「「……はひ……っ」」」」」
涙目だった。
************
読んでくださりありがとうございます◎
二日空きます。
よろしくお願いします◎
「すこしだけきゅうけいしててください。すぐにばをととのえますから」
「……」
もう返事すら出来なくなっている第三騎士団の面々。放心状態の者も少なくない。死ぬ気で走ったことで、逃げる気力さえ失っている。お陰で放置しても問題ない。
コウヤが少し離れると、彼らはようやく息ができるというように、強張っていた体の力を抜いていた。
そんな彼らを見て、呆れた声を出したのは、リルファムとシンリームの後にやって来たルディエだった。
「何これ……ハードが居るってことは、ちょっと走っただけでしょ? 情けない奴らだな」
これに、アルキスとジルファスが振り返る。
「相変わらず……神子の時の印象とガラリと変わるのな」
「ずっと仕事モードとか、あんたあり得るの?」
「ないわ」
「それと同じだけど」
「納得した」
アルキスはあっさり頷いた。
「あの……聞いてもいいかい?」
「なに」
ジルファスが恐る恐る尋ねる。
「前のケルベロスといい、今回のあのジャイアントハリーといい……どこから来てるか分かるかい?」
近衛騎士達もこれには興味津々だ。ずっと気になっていたらしい。
「僕も大司教達の知り合いの所からとしか聞いてないけど。パックン知ってる?」
ルディエについて、パックンがきていた。パックンはルディエの腰から外れ、ぴょんぴょんと跳ねて前に出る。
《有名な従魔術師で魔獣研究者》
ここでパックンは一度言葉を切る。そして次を表示した。
《最近は幼獣専門》
「幼獣って……あんまり見ないでしょ……それに、従魔術師?」
「へえ……それ聞くとバリエラ・マムールくらいしか思い付かんけど」
バリエラ・マムールは、この世界で子どもでも知っている人物。絶対に従属させられないと言われるような凶暴な魔獣とさえ契約を結んだ英雄。絵本でも有名だ。
アルキスは冗談でこの名前を出した。だが、それが正解だった。
《それ! d( ̄  ̄) 》
「はあ!? それって……バリエラ? おいおいっ。二百年前の偉人だぞ!」
そう。彼女が表舞台に立っていたのは二百年も前のことだ。普通の人族ならば生きていない。
《普通に生きてるけど?》
「……マジで……?」
《マジ ♪(´ε` ) 》
だが、そこでふとアルキス達はルディエを見た。彼も数百年前から噂されていた神官殺しだ。ならばあり得るかと納得する。
「なに? 言っとくけど、僕達は特殊だよ。神の加護で生き延びてるようなものだからね。その人、種族が違うんじゃない?」
「あ……いや、けど人族だって絵本で……あれ?」
「……そう思い込んでたが……違うのか?」
《エルフ族の血が半分》
「混血か……なら納得」
この国のある大陸からは、かなり人族以外の者が減っている。冒険者ギルド関係の者は自由な気質からあまり気にしないが、ここ百年ほど前から神教国が密かに人族以外を追い出しにかかっているというのが噂されていた。
「人族じゃないって知られたら、教国が絵本もなんでも、全部処分させてるよ。あえて誤魔化してあるんでしょ」
「ほんと、あの国はよ……」
余計なことしかしない。
「それにしても、なんか観客多くない?」
ルディエが気になったのは、この訓練場を半分囲むように作られている建物の中の気配。合同訓練や出立式などが出来るこの大訓練場には、アビリス王が観られる場所があるように、上から見渡せるようになっている。
「あ、ほんとだわ……いつの間に……」
「今日は、私達もですけど、仕事が早く終わっていますからね……文官も混じっていませんか?」
「……それっぽいの居るな……」
何か面白いものをやっていると、気になって覗きに来た貴族達だけでなく、訓練場には普段寄り付かない文官達や、魔法師、薬師、料理人までいる。
因みにこの時、アビリス王の所には、ベルナディオも来ていた。観戦する気満々だ。
なぜだと不思議がっていると、オスロリーリェが現れた。外で見るのは、これこそ不思議な気分になる。
《面白いこと……やってるよって……伝えたから》
「「……」」
誰にと尋ねようとしていた二人。だが、それよりも先にルディエが当たりを付けたらしい。
「文官達に? 鬱憤晴らし?」
《そう……あの第三の奴らが……ボコボコのボロボロになるの……見たいって……言ってたから》
「「……」」
文官の中に黒いのが居ると認識する二人。だが、ルディエは納得していた。
「ああ……平民出だからってバカにされるって愚痴ってたね。この前『暗殺術ってどうすれば身に付きますか』とか真面目な顔で聞かれたし」
えっ、とルディエへ目を向けるアルキスとジルファス。だがそれよりも、目の前で始まったものが気になり、そっちを二度見していた。
《できたら……自分達の手でって……最近……体力作りしてた……》
物騒な文官がいると再認識したアルキスとジルファス。目の前ではコウヤが石材と土をどこからともなく訓練場の真ん中に山と出し、機嫌良く何かを考えていた。
「相当だよね。大人しい見た目だし、真面目そうだから、少し驚いた。サーナが気に入ったらしくて、仕込んで良いかって言うからOK出しといたけど」
「「っ!?」」
出したのかと今一度ルディエを振り返る二人。だが、その時、コウヤがゴゴゴっと音をさせながら石材や土を波打たせていくのが見えて、視線を前に戻す。
《いいよ……強くなるの……悪くないし……》
オスロリーリェが反対しなかったなら、これは決定事項だなと、もうどうにもならない所まで進んでいることを悟る。
「あのニールっていう補佐官までとはいかないだろうけど、そこそこになるんじゃない?」
《いいこと……だね》
「「……」」
ニールってそんなに強いのかと、思考を半ば放棄した二人は、出来上がったものを見た。
「こんなかんじかな!」
コウヤは腰に手を当てて、満足気にそれを見つめる。
「……町じゃん……」
「町ですね……」
「さすが、兄さん」
《本格的! ((o(^∇^)o)) 》
《うん……ボクの練習にも……なるかも》
アルキスとジルファスは、もう色々と諦めた。
因みに、少し離れた所に居たミラルファやイスリナ、リルファムとシンリームは、何が起きたのか分からず目を瞬かせている。見ものに回っていたアビリス王達も、様々な表情でもってこれを見ていた。
ただ、中でも魔法師達のテンションはすごい。
「見たかアレ!!」
「見てんじゃん! 何アレ!!」
「師匠最高!! 何なのアレ!!」
こんな感じで子どものようにはしゃいでいた。それぞれについている影騎士達は、まあまあと主人を宥めていたり、興奮して倒れそうになっているのを支えたり、飲み物を用意したりしていた。相変わらず甲斐甲斐しい。
そんな周りの反応など気にせず、休憩していたハードちゃんにバイバイと手を振って帰ってもらい、コウヤはへたり込んでいる第三騎士団へと体を向けた。
「では、このなかで、おいかけっこしましょうね♪」
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