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第七章 ギルドと集団暴走

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アビリス王の居る場所では、オスロリーリェがコウヤ達の姿を映像で観られるようにしてくれていた。オスロリーリェ的には、守護妖精となったことでスキルアップを目指している。その訓練の一環だった。

だから、本来は遠い場所な上に、小さくなったコウヤの表情まで見ることのできない場所であっても、ベストポジションで映されたそれがしっかりと見えていたようだ。

「っ……これは許せん」
「わたくしもです」

第三騎士団達の悪態も、全部聞こえているし、見えている。ここまで問題のある者達だったのかと知り、何度も怒りを覚えたが、今ほどではない。

「子どもからおもちゃを取り上げるとは……っ」

アビリス王はもはや第三騎士団をコウヤのおもちゃという感覚で見ていた。

一方のベルナディオも珍しく不快だという表情をはっきりと見せている。

「あんな顔をコウヤ様にさせるとは、罪深きことです」

二人は言葉にはしないが『あの子神だよ? 何してんの? どこまでバカなの?』という思いが声にも表情にも込められている。

アルキスとジルファスのどうするのかという顔を見て、すぐにアビリス王は立ち上がった。

そして、発動する伝家の宝刀。


『国王様の言う通り~♪』


権力に弱い第三騎士団の面々が、絶対に逆らえない人物が国王だ。非常に単純なことだった。

バルコニーに立てば、気を利かせたオスロリーリェが第三騎士団の者たちに見えるように、アビリス王を空中のスクリーンに映して見せる。

「我が国の騎士ならば、この場で逃げることは許さん。これは遊びではなく訓練だ。そして、私はこの許可を出した。私が彼にお前達を鍛えるよう頼んだようなもの……これを拒否すると?」
「「「「「っ、!? 滅相もございません!!」」」」」

コウヤは普通に感心した。

絶望した表情を間違いなく見せた第三騎士団の面々は、震えながらも立ち上がる。そして、コウヤに頭を下げたのだ。

「「「「「お願いしますっ」」」」」

泣きそうな顔だ。心と体がアベコベ。この人たちは、これほどアンバランスでよく生きてきたものだ。

貴族として、幼い頃から当たり前のように本心を隠してきたのだろう。逆らうことが許されない父親らには、求められる答えを口にする。そうして、自らの立ち位置を必死で守ってきたのだろう。

格下の者に横柄な態度を取ってしまうのも不思議ではないのかもしれない。自分もそうして我慢しているのだから、お前達もしろと、そう考えることはきっと自然なこと。

誰もが、やられて嫌だったから他人にはしないと律しられるわけではない。他人に当たらず、耐えることが正しいことだ。だが、それが正しいからと彼らを責めるのは正解ではない。

コウヤはそこでふっと笑みを見せる。

「「「「「っ……」」」」」

見惚れたのは、その笑みを向けられた第三騎士団の者たちだけではなかった。

「っ……」

誰もが息を呑む。

そして、コウヤは第三騎士団の者たちにしか聞こえないだろう、小さな声で呟いた。

「あなたたちには、このすがた姿あいて相手をするべきではないですね……」
「え……?」

意味が分からなかったらしい彼らに笑みを見せてオスロリーリェを呼んだ。

「オスロー! チカラをかしてね?」
《うん? うん……》

コウヤは魔力を練り上げる。神気で満たす訳ではない。だから、出来るはずだ。わざわざオスロリーリェの名を呼んだのは、それがコウヤだけの力で成るものだとは思わせないため。

慎重に魔法を構築していく。この場には神子も居る。この体の父親が居り、血の繋がりのある者たちが居る。ならば、引っ張られることもないだろう。

場は整っていた。

足下から、沢山の光の粒子が舞い上がる。そして次の瞬間、そこには青年がいた。

「っ、にい……っ、さん?」

ルディエが目を見開いていた。

「っ……コウ……ヤ……?」

ジルファスが戸惑う。

それ以外の声は一切聞こえなかった。誰もが驚きを隠せず、ただ一点、青年の姿に成長したコウヤを見ていた。

コウルリーヤの姿ではなく、この体の母である聖女ファムリアと同じ銀の強い紫の髪は艶やかに長く背中から腰近くまで流れ、アメジスト色の瞳は慈愛に満ちた光を宿す。

ベニ達には昔から常々『将来はええ男になるなあ』と言われてきた。恐らく、期待は裏切っていないだろう。

体付きもゴツいというものではなく、よく均整のとれたもので、幼さがない分男らしく見える。丸みが取れた顔はシャープで、中性的に見えるかもしれない。

前世の顔と変わらないので、そう悪いものではないはずだと自覚している。祖母に似ていたらしい。見せてもらったファムリアがその祖母に似ているというのは、偶然かゼストラーク達の陰謀か。確かめてはいないが、今世では間違いなく母親似だ。

病で痩せていたあの頃は『女顔だ』と言われていたので、まあ仕方ないと受け入れることになるだろう。

今は鏡はないし、髪色だけ確認して、きちんとコウヤとして成長した姿だなと納得する。

「これならどうですか? 訓練、続けていいですか?」
「「「「「……はい……喜んで」」」」」
「ふふ」

ちょっと呆けてしまっているなと思いながらも、機嫌良く笑っておいた。実際は見惚れているのだが、コウヤは気付かない。

「では、始めましょう。大丈夫ですよ。きっと、ハードちゃんと走ったことの成果が感じられるはずです。これが終われば、あなたたちは、騎士として必要な力を手にできます。それを今後、どうするかはあなたたち次第」
「……私たち……次第……」

言葉は聞こえているようで安心する。だから嬉しそうに目を和らげて続ける。

「騎士とは時に心を押し殺し、弱い者たちを優先しなくてはなりません。辛いと思うことに耐え、自身を犠牲にしてでも、守ると決めたもののために立ち向かい続けることを強制されます。分かるでしょう?」
「っ……はい……」

時折、言葉を投げかけていればその内、正気に戻ってくれるかなと思いながら、返って来た応えに頷いて見せる。

「あなたたちは知っているはずです。我慢を強いられることも、突き放される怖さも。助けて欲しいと願う瞬間も」
「……っ」

彼らの瞳が揺れる。何か思い当たったのだろう。それは、幼い頃の傷かもしれない。

「騎士だからそうしろとは、俺からは言えません。でも……こういう騎士であって欲しいと願うのは……きっとあなたたちの中にある騎士の姿と変わらないはずですよ?」
「あ……っ」

いたずらっぽくクスクスと笑い、手を胸に当てて見せる。はっとした表情を見るに、彼らにもきちんと伝えたかったものは届いたはずだ。

そして今確かに、かつて憧れた『騎士』というものを思い描いている。

「ふふ。では、始めましょう。大丈夫。楽しい鬼ごっこです♪ でも……」
「……っ……?」

人差し指を口の前で立てて見せて注意を引く。

「訓練ですからね? どうしたら効率よく俺に勝てるのか。どうやったら俺に見つからずに逃げられるのか。なぜ、この訓練が必要なのか。それらをしっかり考えてみてください。何一つ、あなた方の無駄にはなりません。信じてくれます?」

首を傾げて見せれば、騎士たちはコクコクと頷いた。

「なら、行きますよ」
「「「「「はい!!」」」」」

こうして、訓練は無事再開された。

************
読んでくださりありがとうございます◎
二日空きます。
よろしくお願いします◎
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