元邪神って本当ですか!? 万能ギルド職員の業務日誌

紫南

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第六章 新教会のお披露目

198 言っても魔獣だよ?

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ニールが上手く報告を上げてくれたらしい。上には、少し遅れてセイ達の所に残っていたアルキスも来ているようだ。

「それで、コウヤ様。これはどうなっているのですか?」

ベニの後ろについていたのは、ユースールにも来ていた近衛騎士の一人だった。どうやら、ジルファスが気を回したらしい。彼についてきた兵達は『コウヤ様』呼びに目を丸くしていた。だが、誰も問いかけはしないので、そのまま見なかったことにする。

「そっちの牢には、怪我人が入ってました。無意味に治癒魔法をかけ続けられていたらしくて、魔力耐性がついてしまっています。ほとんどの人が二年近くここに閉じ込められていたようですね。衰弱していて、栄養も足りません。なので、テンキに頼んでユースールのゲンさんの所へ転移させました」
「て、転移……ですか……あ、確か城の地下へも保護した神官達を運び入れていましたね。それも転移で?」

転移というお伽話で語られるような技も、コウヤの関係者ならできるかなと、騎士は自然に受け入れる。コウヤもできそうだという正解にも辿り着いていた。

「そうです。許可のない者を無断で城に入れてしまって申し訳ないです」
「いえ、オスロー様が管理しておられましたので、問題はないと王も判断されました」
「そうでしたか」

アビリス王としては、コウヤが連れて来たのならば、害がある者ではないという、少々身内贔屓びいきの入った信頼から判断したのだが、それは流石に口にしない。この場に居るのは、コウヤの出自を知らない者たちばかりなのだから。

「坊……この子らどうすんだい? 見たところ、魔獣だよ? 怪我、治したのかい?」

コウヤが騎士に報告している間、ベニは部屋に入り、牢の中で繋がれ、弱って震えている様子の魔獣達を見て回っていた。

趣味で魔獣を飼う者もいるが、本来ならば主人にも懐かないので、こうした場合は殺すのに限る。魔獣というものは、簡単に人を傷付けられる技を持っている。だから、冒険者にしか対応できないのだ。このような町中に存在していいものではない。

種類としては、狼のような姿の涙狼ティアーウルフ。黒や灰色の体毛で、目の下に涙型の白い毛の模様があるのが特徴だ。個体によって左右どちらかにあったり、大きい、小さいがある。この涙狼ティアーウルフが一番多そうだ。

その次に多いのがヒヨコをそのまま大きくしたような見た目の綿毛鳥フラッフバードだ。毛の色は黄色、白、灰色と様々だ。昔屋台にあったというカラーひよこを思い出す。とはいえ、そこまでカラフルではないのが残念だ。しかし、成体になった時の大きさはダチョウ並。調教すれば、昔は乗れていた。ここにいる綿毛鳥フラッフバードは、毛をかなり抜かれていたりするので、見ていて痛々しい。

そして、残っているのが鈴猿ベルモンキー小さな猿だ。成体になっても子猫サイズ。毛が多いので、丸い毛玉に見える。枝にくっ付いて落ち着いたら一日中でもそのままという。そのため、見つけるのは至難の技だ。遠目では花や実にしか見えない。

「多分、裏のオークションとかで手に入れたんだろうね。愛玩用のペット……にしてはかなり酷い扱いをされてたみたいだけど」
「従魔術でも使えなけりゃ、言うこと聞かんだろうからねえ。あいつらのことだ。魔獣を痛めつけて浸ってたんだろうさ」

胸糞悪いという様子で、ベニは吐き捨てた。

「で? この子らはどうするんだい?」
「とりあえず、回復させてあげたいんだ。やっぱり可哀そうだし」
「はあ……言っても魔獣だよ? まあ、いい。気を付けなね」
「うん!」

コウヤには限っては大丈夫だろうとベニも納得する。一部の兵たちは不満そうだが、それらは綺麗に無視だ。

ベニは奥にあった遺体だけ兵に運び出させると、そのまま全員連れて出て行く。これから監査に入るのだろう。彼らを見送ると、コウヤは一つ一つの牢に入って魔獣達に付けられている枷を外す。

「ごめんね。もう大丈夫だからね」
《グルルルルル……っ》

警戒するのは仕方がない。飛びかかられても、コウヤは抵抗せずにまっすぐにその目を見つめた。

どの魔獣もしばらくすると体の力を抜き、静かに身を横たえる。コウヤから害意がないことに気付いたのだ。

「眠る前に、これ飲んで」

水に少しだけ回復を助ける薬を混ぜた。単体での味は砂糖水みたいなものだ。それを更に水で薄めているので、味はほとんど感じないだろう。素直に飲んだ。

弱っていてそこまで気を張っていられないのかもしれない。

「良さそうだね」

コウヤは牢の鍵は開けておく。

「結界を張っていくから、少し休んで待っててね」

この部屋から出ないように結界を張り、侵入者も防ぐ。そして、コウヤは森にある生家へ転移した。すると、ここで訓練中だった神官達に出会でくわす。

「え? あ、コウヤ様」
「こんにちは。ユストさん居ます?」
「はい。朝方は出ておられましたが、今はお部屋の方に」
「ありがと」

唯一、無魂兵でありながら最後まで白夜部隊に入るのを拒んでいた一人。それがユストという女性だ。亡き父親の後を継ぎ、魔獣の研究者になりたかったという彼女は、薬から解放されてすぐにそれを始めた。

研究といっても、解剖したりはしない。どういった環境で、どういった嗜好をもち、どうやって生きているのか。分布図や子孫の残し方なんかも調べている。

彼女は戦闘ももちろん出来る。なので、直接危険な場所に赴いて調査することも難しくない。

白夜部隊に入れば、基本的にルディエの指示に従うことになる。それでは、研究が満足に出来ない。彼女は無魂兵として生きてきて、何百年とそれを我慢していたのだ。解放された今、思う存分研究をしたい。そう願った彼女のため、コウヤはこの生家にある部屋の一つを彼女の研究室にした。

町中では落ち着かないだろうと思ったのだ。何より、彼女の愛して止まない特に強い魔獣がこの辺りにはいる。一も二もなく飛びついていた。

因みに、白夜部隊にはバイクが支給されると言ったら迷いなく入隊したらしい。

研究室のドアの横には、一本の紐が垂れている。それを二度引いた。すると、ドアが開く。

「コウヤ様!」

腐っても白夜部隊の者。ドアを挟んで立つコウヤの気配に気付いて飛び出してきた。彼女はとても背が高い。モデル並のスラリとしたプロポーション。そして、美人だ。ただし、せっかくの美人も、よれた白衣に寝ぐせのついた金の髪で台無しだ。しかし、彼女もコウヤも気にしない。それだけ気安い関係とも言える。

「少しお願いがあって来たんです。保護した魔獣を、ここで療養させてくれませんか?」
「っ、何がいます!?」

身を屈めてコウヤにズズッと顔を近付ける。とっても近い。彼女は目が悪かった。

涙狼ティアーウルフが八頭、綿毛鳥フラッフバードが成体の三羽と幼体が五羽。鈴猿ベルモンキーが六匹です」
「っ、っ、っ!? な、なんと!? す、すぐに! すぐにケージを庭に用意します! 一時間後に連れてきていただけますか!?」

近い。

「っ、はい。一時間後ですね。わかりました。よろしくお願いします」
「もちろんです! ヤッフォーーー♪」

完全に浮かれた様子で、ユストは外に飛び出して行った。後を追って外に出た時には、小屋が出来始めていたので、問題はない。

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読んでくださりありがとうございます◎
二日空きます。
よろしくお願いします◎
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